第95話 番外編:婚活アラフォーおばさん、結婚相談所に通うの巻
男女共に結婚したい者達にとって最後の砦、結婚相談所。
しかし、その実態をご存じだろうか?
今回は、結婚適齢期に差し掛かっているとある女、三条寺涼香の体験談を見ていこう。
「それでは、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
面談を担当する女性がプロフィールを確認していく。
こういった面接のような体験をするのはいつぶりだろうかと三条寺は緊張した面持ちで相手の言葉を待っていた。
資料に目を通し終わり、面談の女性がニコリと笑顔を見せると、口を開く。
「なるほど。教師をなさっているんですね。とても素敵な職業だと思います。結婚後はお仕事を続ける予定はおありですか?」
「はい。私の家は代々教師の家系でして、この仕事に誇りを持っています。なので、婚姻後も続ける予定です。もちろん、子供が生まれて産休など取ることはあるかもしれませんが、辞めるつもりはありません」
突如、ぶわっと涙を流す面談の女性。
「えぇ!? ど、どうされたんですか!? なにか悪いことを言ってしまったでしょうか!?」
「いえ、違うんです。あまりにもまともな女性すぎて……」
アタフタと女性を慰める三条寺。
「これくらいの年齢の方だと女性は結婚して家庭に入るものと思っておられる方が多く、専業主婦希望の家事手伝いとは名ばかりの身の程知らずな無職アラフォーが大量に――ゴホンゴホン。失礼しました。なんでもありません」
そういうことかと納得する三条寺。
そもそも結婚相談所とは、他の婚活とは全く異なる点がある。
それは、マッチングをする前に相手のプロフィールをすべて確認できるという点だ。
結婚相談所においては、恋愛という要素は一切介在しない。
この点は、マッチングアプリや街コンといった婚活とも大いに異なる。
すると、男女共に相手を見初める要素はプロフィールしかない。
互いに、「この相手なら」と思う異性に声をかける。
結婚相談所においても、両者のプロフィール、つまりスペックが釣り合う相手を紹介する。逆に言えば、結婚相談所が釣り合わない相手を紹介することはない。
高スペック同士、低スペック同士が結婚相談所の基本だ。
そして、これが結婚相談所最大の悲劇でもある。
スペックが釣り合うとはどういうことなのか?
それは年齢や年収が同じといったことではない。明確にマッチングする為のスペックは決まっている。
簡単に言えば、『男性=年収』、『女性=年齢』である。
「年齢に関しては……そうですね。なるべくご成婚を急がれた方がいいかと思います。まず、子供を望まれる男性の多くが34歳でラインを引かれています。ですので、共働き希望ですし、今のお客様のプロフィールなら十分理想の相手に巡り合える可能性はあるかと」
「よかった。子供のことを考えると、どうしてもここで結婚を意識してしまって――って、どうしたんですか!?」
「いえ、あまりにも現実が見えているなと……」
再び、(´;ω;`)ブワッ と涙を流す相談員。
年収と年齢。結婚相談所において異性に求める大部分を占める要素である。比重は8割から9割に達すると言っても過言ではない。
結婚相談所の原理原則は極めて単純だ。
男性なら年収1000万円で高スペック、女性なら二十代で高スペックといった具合だ。
無論、実際はもっと細かく分類される。男性の場合、年収、年齢、学歴、身長などなど細かい要素が含まれるが、それでも年収の占めるウェイトが大半であり、女性においてはほぼ年齢一点集中だ。
年齢さえ若ければ、他のマイナス点を打ち消せるほどに圧倒的な威力を持つ。
専業主婦希望の何が問題かと言えば、昨今の男性は景気や経済的な不安から共働きを望んでいることが多いが、なによりも相手の年収を妥協できないという点だ。
共働きの場合、年収が低くても、自立し自分自身の生活が成り立っている者同士なら、結婚になんら支障はない。世帯年収が増えるという利点もある。
しかし、専業主婦希望の場合、自分の生活を相手の年収に頼ることになってしまう。よって、低年収の相手を選ぶことは絶対に不可能だ。
それが許されるのは二十代の高スペック女性だけである。
故に、男性はそもそも専業主婦希望のアラフォー女性を選ばない。
更に言えば、日本が不景気な時代に生まれ両親が共働きで当たり前の若い世代ほど共働き希望であり、好景気の時代に生まれ、母親が専業主婦だったアラフォー世代ほど専業主婦を望む傾向にある。
無職、実家暮らしのアラフォー子供部屋おばさんが、相手の男性には年収800万円以上を希望といった馬鹿げた条件を望む例が後を絶たない。悪夢である。
男性への経済的依存は勿論のこと、それでいて子供もいらない、家事も折半などと聞いていて頭痛しかしないモンスターを相手に、日々、結婚相談所の職員は戦っているのだった。
これが結婚相談所最大のデカップリングであり、結婚相談所に女性が溢れる現状を作り出している。
「それでは、希望する男性の条件については如何でしょうか?」
希望する男性。はたと、三条寺は考える。
結婚。女性であるからには三条寺とて理想を持っていたりもする。
現実的な条件を提示するのはいつでもいいが、せめて希望くらい理想に沿ってみてもいいのではないか。ふと、そんな誘惑に駆られ、自然と口から零れた。
「そうですね……。まず十代で――」
「十代!?」
「甲斐性があって――」
「十代で甲斐性!?」
「優しくて――」
「まぁ、それくらいならなんとか……」
「SNSのフォロワーも多くて、人気者で――」
「絶対無理な条件きた!?」
「私のことを大切にしてくれる相手で――って、どうしました?」
「申し訳ありませんが、ご紹介できる男性がいないので、ご入会を受け付けることができません」
「はひ?」
言うまでもないが、十代が結婚相談所にいるはずもない。
年下狙いにもほどがある。
こうして、三条寺涼香の婚活は一歩目から躓くことになった。
頑張れ三条寺! 負けるな三条寺!