第90話 不穏なループ・ザ・ループ
『おぉぉぉぉぉぉぉぉおお!』
パチパチパチと拍手が飛んでくる。やんややんやと飛び交う歓声。無論、その歓声は騎馬戦に向けられているわけだが、実はひっそりと俺達の方にも向けられていた。
騎馬戦が支障なく順調に勝ち進んでいることもあり、俺はオタクグループが一人、全国中学生ヨーヨー大会ベスト16の経験を持つヨーヨーマスター藤森君とヨーヨーで遊んでいた。
だって暇なんだもん。俺、参加する競技ないしさ。応援しろよと思うかもしれないが、応援なら女子の黄色い歓声の方が嬉しいじゃん? そういうのはエリザベスや灯凪ちゃんに任せておけばよいのだ。
「九重君、そのヨーヨー恰好いいね!」
「だろ? オリジナルのユウリレイダーGだ」
(`・ω・´)シャキーン! と、ユウリレイダーGを披露する。
流石はヨーヨーマスター藤森君、お目が高い。なんとこのヨーヨーは悠璃師匠デザインの特注品だ。
ある日、俺がヨーヨーで遊んでいると、悠璃さんが「G難度のトリックを見せてあげる」と言ったかと思うと、ヨーヨーの回転を胸で挟んで止めるという芸術的な技を披露してくれた。
G難度の衝撃は凄まじかった。まさしくGを持つ選ばられし者にしかできないスゴ技だ。愕然とする俺。感動、そして衝動。すぐさま俺は悠璃師匠に弟子入りした。
尊敬の念と共に悠璃師匠の魂を込めた逸品がこの『ユウリレイダーG』である。当然、ユウリレイダーGの『G』とはGカップのことだよ?
その後、なんやかんやあって『オウカレイダーH』、『セツカレイダーF』など俺の手持ちヨーヨーは増えていった。どうして張り合う必要があるのか俺には分からなかった。
そんな中、ベルトのヨーヨーホルダーを目ざとく発見して尋ねてくる氷見山さんに、ヨーヨーを使ったトリックを披露すると、「どうして私の分はないのかしら?」と逆上し、予算30万円を掛けて開発に乗り出しているのが、現在開発中の『ハイパーミサキレイダーI』である。
なんとこの『ハイパーミサキレイダーI』には、ヨーヨー内にチップが搭載されており、内臓のCPUにより回転数を制御。各種トリックによって最適な回転を実現する次世代のハイパーヨーヨーである。
画期的なのは、ヨーヨーの回転自体がファンとなり、CPUの熱を冷ます構造となっている。ヨーヨーの特性を活かした実に考えられたシステムだ。世界初、電子制御された空冷式ハイパーヨーヨー爆誕だった。
俺は思った。もう、玩具じゃなくない?
そんな説明を懇々とされても、最早ただの暴挙と言っても過言ではない。相変わらず氷見山さんの金銭感覚はガバガバのユルユルだったし、そんなヨーヨーの開発に乗り出す方もどうかしていると思う。
そんなことを思いながら藤森君とヨーヨーで遊んでいたら、俺達と同じように手持ち無沙汰な生徒達がこっそり集まり、騎馬戦の裏で大ヨーヨー大会が開かれていた。
白熱するヨーヨーバトル。盛り上がりが最高潮に達したとき、それは起こった。
「大丈夫か一成!」
ざわざわと広がっていく喧騒。爽やかイケメンの焦ったような声に視線を向けると、騎馬が崩れていた。その場に高橋兄が蹲っている。騎馬が崩れること自体はさして珍しいことでもないが、不穏な空気に包まれ、周囲には一触即発の空気が蔓延っていた。
「どうしたんだ?」
ヨーヨーで犬の散歩をしながら、騎馬に近づき事情を聞く。苦虫を嚙み潰したような表情で爽やかイケメンが履き捨てる。全然爽やかじゃなかった。
「アイツがわざと足を掛けて騎馬に攻撃してきたんだ。ふざけんなよ! 大怪我でもしたらアンタ責任持てるのか?」
爽やかイケメンが上級生に食ってかかる。B組は二年生と対戦していた。どうやらその中の騎馬の一つが危険な行動したらしい。
熱血漢の爽やかイケメンに詰め寄られている二年の男子生徒。しでかした事態に怖気づいたのか顔面蒼白だった。爽やかイケメンの圧に押されたというよりも、これだけの大騒動になってしまい今更ながら後悔しているのかもしれない。
ちょいちょいと釈迦堂を手招きする。気づいた釈迦堂がトコトコ存在感を消してやってくる。相変わらずステルス性能が高すぎる。
(いいか釈迦堂。この混乱に乗じて今のうちにこそっと相手の帽子を全部回収しておくんだ。それで再開と共にB組の勝ちだ)
(き、鬼畜……!)
(高橋兄の尊い犠牲を決して無駄にするな。釈迦堂だけが頼りだ!)
(ひひ……人生最大の……プレッシャーなんですけどぉぉぉぉおおおおお!)
(もうちょっと人生経験積んだ方がいいぞ)
(急に正論言われた……)
ヘイトゼロのままフラフラと相手の方に向かう釈迦堂を尻目に、続々と教師陣も集まってくる。担任の小百合先生や生徒指導の三条寺先生も一様に険しい表情をしていた。
事故ならばともかく、故意に引き起こされた過失だとすれば、お咎めなしというわけにはいかないだろう。相手の生徒にはなんらかの厳しい処分が科せられてもおかしくはない。
ユウリレイダーGを仕舞い、高橋兄に声を掛ける。
「大丈夫か? 何処か痛むか?」
「悪い九重。ヘマした」
「安心しろ。こんなこともあろうかと、ちゃんと交代要員も万全だ」
「いやな想定するなよ」
「万が一ってことがあるからな」
「そりゃそうだけどさぁ……」
足首を押さえている高橋兄。靴を脱がせ慎重に触れてみるが、軽く捻挫しているものの大事には至っていない。だが、後半のリレーに参加するのは難しいだろう。もしものときの代替要員を確保しているとはいえ、サッカー部の時期エースであり、足の速い高橋兄の離脱はB組にとってダメージだ。
「お、おい九重!」
「暴れるな。保健室に行くだけだ。とりあえず湿布だな」
高橋兄を背負う。遠巻きに心配そうな様子でこちらを伺っている夏目にも声を掛ける。
「ほら、夏目行くぞ」
「えっと……は、はい!」
夏目が駆け寄ってくる。高橋兄が申し訳なさそうに頭を下げる。
「心配かけてごめん」
「大丈夫ですか?」
「これくらいサッカーでもよくあるからさ。すぐ直るとは思うけど……」
夏目は眼鏡に三つ編みロング。この暑い中、長袖のジャージという地味を極めた恰好をしている。特に保健委員というわけではないが、高橋兄と二人三脚ダイエットで関係を深めていた夏目も気が気がじゃないだろう。
因みに夏目はミスコンでお披露目するまで、極力その姿を人目に晒したくない為、あえて地味な恰好で目立たないようにしてもらっているのだが、このまま落ち込んでいる高橋兄と一緒にいてもらうのが良いかもしれない。メンタルケアにもキチンを気を配っておく。
「なぁ、九重。後で話したいことがある」
「ん?」
深刻そうな高橋兄の言葉が俺の耳元で響いた。
3巻が今月5月25日に発売となります!
性癖をズタズタに破壊していく問題作。一部設定を改変し、ほぼ書き下ろしの内容となっているので、是非お楽しみください!
★★★大お姉ちゃん回です!★★★
ジャングルジムにほえるロリ悠璃さん「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁああ!」
■3巻では緜先生に、あのキャラクター達も新しくデザインして頂きました!
海外からの刺客トリスティさんは色んなものが規格外なので、デカいです(重要)
■ゲーマーズさんの特典SSは、『超武装幼馴染ヒナギリオン』。
ヒナギリォォォォォォォォォォオン!
■本日からコミックガルドでコミカライズの連載が始まっています。担当してくれるのは、いちたか先生です。是非、お楽しみください!