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第86話 えげつない体育祭②

 かつて教科書で猛威を奮っていた聖徳太子も、その功績を改竄された挙句、今では存在すらも抹消されつつあるが、歴史の真相はどんどん闇の中へと葬られつつある。


 世代間における歴史認識の差は拡大するばかりだが、坂本龍馬も実は大したことはしていなかったなどと、そんなロマンが次々と否定されていく中、それでも過去はなかったことにならないし、当事者の間では、事実は事実として残っている。


 後世でどのように描かれようとも、今を生きる俺達には、忘れられない、忘れてはいけないことが沢山ある。それが人として生きること、人生なのだろうと悟るのが、九重雪兎16歳なのであった。


「いいですか先生。誠意は言葉ではなく態度でみせてもらわないと。というわけで、ミスコンのオープニングアクトにミニスカ猫耳メイドで参加してくださいね」

「待ってください! 現状ですら限界なんです! 私にだって教師の威厳があります。そんな恰好でステージに立つなんてしたら、今後生徒達からどんな目で見られるか……」


 ミスコンを盛り上げるのにこれ以上ない人選だ。会場を温めたところで、最終兵器夏目を投入して一気に優勝を掻っ攫うプランだ。


「親しみをもたれていいんじゃないでしょうか」

「なにが親しみですか! 私を何歳だと思ってるんですか!? お正月に親戚同士で集まると、姪っ子や甥っ子におばちゃんと呼ばれてお年玉をあげなくてはならない、そんな年齢なんですよ!? 肌だってスキンケアしないとすぐに荒れますし、憎い、若さと角質が憎い!」

「分かりましたよ。じゃあ片脚だけニーソックス履いていいですから。アシンメトリーで度肝を抜いてやりましょう!」

「君は、なんの話をしているの!?」


 年齢を盾にイヤイヤ期に突入している三条寺先生を優しく励ます。


「氷見山さんなら喜んで着てくれるのに」

「もちろんよ」


 氷見山さんはニコニコと即答してくれる。


「美咲さんはまだ若いから……」

「母さんならノリノリで着てくれるのに」

「もちろんよ」


 母さんがノリノリで肯定してくれる。

 俺はゴネ得を許さない男、九重雪兎である。母さんが納得している以上、年齢を言い訳には使えまい。


「雪華さんなら最初から着てるのに」

「もちろんよ」

 

 雪華さんが自慢げに首肯してくれる。

 雪華さんの家に行って玄関を開けると、毎回予想外の恰好で出迎えてくれる。その度に、逃げ出したくなるのだが、巧みな足さばきで退路を塞がれる。レベル差がありすぎると逃げられないというが、いったい何レベルなんだ……。カンストしてそう。


「姉さんならむしろ何も着ないのに」

「もちろんよ」

「それはそれでおかしいのではありませんか!?」


 姉さんがアッサリと衝撃の暴露をしてくれる。

 完全論破だ。でも、最近論破って流行ってるけど、あれって全然論破してないよね。そもそもする意味もないし議論にもなってないし当事者でもないしどういう立場なのかも分からない。それで論破って言われても正直馬鹿らしいっていうかさ……。


 体育祭も午前の部が終わり、昼食時間になる。応援席で母さん達と一緒に食べることにした。授業参観で意気投合したのが、B組の保護者席は活況だった。


 中間発表では予想通りB組が圧勝していた。あまりにも差が付きすぎて盛大などよめきに包まれたほどだ。


 B組躍進の原動力は男子なら爽やかイケメン無双、女子なら汐里無双だが、クラスメイトを満遍なく強化し続けた結果、意外なところにも波及していた。サッカー部の高橋(兄)はとうとう一年生初のレギュラーを奪取したらしい。フィジカルが強化され体格に優れる三年生相手でも当たり負けしなくなったらしい。


 午前中だけで勝敗の見えてしまった体育祭に白けた空気が蔓延しかけたが、熱血先輩や他クラスの運動部が「このままB組に好き放題やらせていいのか!」と煽りまくった結果、打倒B組を掲げた変則的体育祭に移行しつつある。


「じゃあ、お願いしますね?」

「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!」


 ハンカチを噛んで悔し気な三条寺先生の説得を終え、母さんを作ってくれたお弁当を食べる。この体育祭、殆ど働いていない俺からすれば申し訳ないが、美味しく食べたよ。


「俺達、すっかりヒールだな」

「今から敵だと認識しても遅いのだよ。勝敗は始まる前についている」


 爽やか顔面ベビーフェイスが困惑顔だが、俺達は体育祭で優勝する為に、夏休み明けから今日の本番まで猛特訓を繰り返していた。この結果は、努力の量に比例しているにすぎない。誇るべきことであり、恨まれるなどお門違いも甚だしい。


「これからどうするの雪兎?」

「次の騎馬戦を獲れば点数的にそれで終わりだが、やりすぎた所為で最後のリレーをポイント十倍とかに変更してくる可能性もある」

「それってズルくない?」

「正々堂々なんてまやかしだぞ。スポーツの国際大会だって誘致するには賄賂が必須だし、いざ始まればドーピングするし、スーツ違反もしょっちゅうだし、性別まで偽ったりするからな。このまま体育祭が盛り上がらずに終わるようなら、幾らでもルール変更しかねない」

「……なんか納得いかないかも」


 灯凪ちゃんがプクーッと頬を膨らませているので、指でつついて潰す。


「君だって頑張ったんだ。勝つさ」

「そうだね……。あんなに皆で頑張ったんだもん。これも私達の新しい思い出の一つ。こうやって少しずつ歴史を積み重ねて、信頼を取り戻して、今は幼馴染だけど、いつかは――」


 その先を言葉にしなければ分からないほど、俺は鈍感じゃない。

 屈託なく笑う灯凪にもう陰りはない。一度は途切れてしまった関係、捨ててしまったはずの歴史。この幼馴染は、それを再び積み上げようとしている。昔よりも強固に、決して崩れてしまわないように。


「あ、このタコさんウインナー美味しい」

 

 ピリピリとうなじがひりつく。こうも目立てばよく思わない人達もいるのだろう。こちらに集まる視線の中に微かな敵意が混ざっている。灯凪と会話しながら、俺は何処となく波乱の予兆を感じ取っていた。

2/14からオーバーラップ文庫さんの公式ストアで期間限定バレンタイングッズの予約が始まります!


トラ女子からは緜先生描き下ろしの灯凪ちゃんです♪

幼馴染らしい正統派のメインヒロインオーラ溢れる魅力が全開!


・B2タペストリー

・アクリルスタンド

・クリアファイル&キーホルダー


全3種となっており、B2タペストリーには限定SSもつくので、興味ある方は是非!


今回はちゃんと幸せな内容となっているので安心です♪

もうそろそろまた色々と告知できることも増えてくると思うので、今後とも応援よろしくお願いします!

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