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第85話 番外編:嬉し恥ずかしブラックフライデーなのであった

「SNSですか……」

「えぇ。大学の友人から誘われたのですが、どうにも疎くて」


 生徒指導室で三条寺先生とまったりお茶を飲む。今日はどんな指導かとワクワクして持参したら、珍しく三条寺先生のお悩み相談だった。茶飲み仲間としては力になってあげたいところだ。


「本来、私が生徒達に使い方を指導する立場ではありますが、如何せんこれまで触れてこなかったので、迷っているのです」

「なるほど……」


 本当に教育熱心な素敵な先生だ。しかしながら、SNSといっても世代間格差があるが、流石に三条寺先生が友人から誘われたSNSが10代向けだったりしないだろう。


「なら、一緒に始めましょう! 俺も初心者ですし、徐々に使い方を覚えていけばいいじゃないですか。まぁ、俺は陰キャぼっちなので誰もフォローしてくれないと思いますけど」

「君ほど、交友関係の広い人を私は他に知りませんが……」

「え?」


 狐に包まれたような微妙な空気が支配する生徒指導を後にし、教室へと戻るのであった。



「雪兎アカウント作るの? じゃ、じゃあ私も作るね! やった! これで相互だ。へへ。後で灯織にも教えてあげなきゃ」


 灯凪ちゃん大天使。


「私も今すぐ作るから待っててユキ!」

「しばらく放置してたけど、俺も再開するか」

「九重ちゃんマジ?」

「これはビッグニュースだよビッグニュース!」


 俺がSNSのアカウントを作ることを話すと、クラスメイト全員からフォローされることになった。勿論相互だ。アカウントがないのに、わざわざ作ってフォローしてくれる人までいる。このクラス、なんて良い奴ばっかりなんだ……。グスグス


 因みに驚きだが、クラスで最もフォロワー数が多かったのは意外にも釈迦堂だった。爬虫類仲間が大勢いるらしい。際立った趣味があるとそれだけ繋がり易いのかもしれない。


「まぁ、そんなに頻繁に使うこともないと思うけど」

「そうなのか? でもなんで最初の挨拶が『それがこの俺、九重雪兎です』なんだ?」

「ぽいかなって」

「ぽいか?」



 このとき俺は、迂闊にも些細なことだと勘違いしていた。

 しかし、俺の知らぬ間に事態は予想もしない方向へ拡大していくのだった。




‡‡‡




 一方、その頃、他のクラスでは


「悠璃聞いた? 弟君アカウント作ったらしいけど」

「は? どういうこと?」

「なんか話題になってるけど」

「……ホントだ。どうしたのかしら急に」

「私もフォローしちゃったけど、なんかフォロワーが爆速で増えてて、怖いんだけど」

「こうしちゃいられないわ。すぐに母さんにも教えてあげないと……」

「そんなに大事?」

「大事になるに決まってるじゃない」


「なに? 九重雪兎がSNSを始めただと?」

「うん、さっき聞いてきたから間違いないよ。それにほら、クラスメイトからもフォローされてるし」

「まぁ、九重さんが? お父様にもお伝えしなければ」

「こうしてはいられないぞ裕美。すぐに私達も作ろう」


「えぇ、雪兎君が!? 久遠さんにも連絡しなきゃ!」


「九重雪兎が? 部活仲間に伝えておくか。ところで、どうやってSNSって使うんだ?」

「敏郎も少しは興味持ちなよ……」


 一方その頃、


「雪兎君がアカウントを? あら、それに相互は涼香先生? 抜け駆けは許さないわ!」


 大学では


「あ、ユキト君だ!」

「なんか、すごいことになってない?」


 関西では


「ほんま、面白いお人ですえ雪兎はん。またお会いしとうございます」


「カハ! おもしれぇ。おもしれぇぞ! 和毅!」

「落ち着きやケースケ。ほんま敵わんで」


 北陸では


「おいおいマジなん? セイコガニでも送る? 迷惑かな?」

「知らんけども。やめーや」


 北の大地では


「ククッ。そうですか、見つけましたよ遂に!」


 南の外れでも


「本土は遠いっちゃねぇ」




‡‡‡




「九重君!」

「どうしたんですか、そんなに慌てて?」


 いったいどうしたことだろう? 翌日、登校するなり三条寺先生に捕まり連行される。


「君はアカウントを見てないのですか?」

「アカウント? そういえば昨日一緒に作りましたけど、それがどうかしたんですか?」

「確認してみてください!」

「はぁ」


 これといって何か投稿するようなネタもなく、作ったは良いがそのままにしていたのだが――


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 フォロワーが4000人を越えていた。今もリアルタイムで増え続けている。


「こっちがなんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁあです。いったいどうしたのですか?」

「分かりません。俺は特に何もしてないのですが……」


 来ているリプライを確認する。


『先生、今後ともよろしくお願いいたします!』


「あの……これ、東城議員では?」

「これがクソリプってやつか」


 ブルーバッチ付きの認証アカウントだ。議員歴の長い東城パパがリプを送っていることもあり、ひょっとしたら重要人物なのかもしれないと、他の議員からもフォローされ始めている。何せ俺のアカウントは数十万のフォロワーを持つ氷見山事務所からもフォローされているからな!(困惑)


 それにこの不来方法律事務所? いったい誰なんだろう?

 俺の知らない間に何が起こってるの!?


「これ、母さんが勤めている会社のアカウントだ」

「案の定というか、なんというか。どうなってるんですか君の交友関係は?」


 そうこうしている間にもフォロワーが5000に到達しつつあるが、公式マークのある認証アカウントまで入り乱れるカオスなフォロワーが形成されていた。とても一介の高校生のアカウントとは到底思えない。


「あ! エッチなDMが来てる!」

「釣られてはいけませんよ九重君! そういうのは詐欺なんですから。見るのもダメです。貸してください私が削除しますから――って、美咲さん!?」

「あれ?」


 DMの主は氷見山さんだったのか。保存保存っと。


「はぁ。それにしても君と比べるとなんだか自信を無くしますね。数が多ければ良いというわけでもありませんし、あまり公にするようなアカウントでもありませんが」

「元気出してください」


 三条寺先生がちょっと落ち込んでいる。どうにかして励まさないと……そうだ!


「先生、ちょっといいですか?」

「どうしました?」

「これにしよう。『1イイネ毎に1ミリずつスカートが短くなる三条寺です』」

「ちょっと、なに投稿してるんですか!」


 イイネとリツイートしておく。

 するとあっという間にグングン伸び始める。


「待ってください! これどうしたら良いの? この短時間で300イイネ!? 三十センチってことですか? まだ増えてますけど、無理です、これ以上短くするのは無理ですから!」

「これ校長じゃ……」

「直ちに訴えてきます!」


 急に激増した三条寺先生のフォロワーだが、投稿は削除し、最終的に知り合いとだけ相互フォローの鍵垢となった。俺達はSNSの恐さを学び、こうしてまた一つ大人になったのである。


「じゃあ48センチということで」

「絶対、拡散しないでくださいね。絶対ですからね!」

(この人、本当に良い人だなぁ……)

トラ女子2巻、ブラックフライデーの本日発売です!

よろしくお願いしますですわー!


挿絵(By みてみん)

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