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第78話 文化祭エンジョイ勢vsガチ勢②

 裁縫が得意な岩蔵友美(いわくらともみ)をリーダーに据えた衣装制作班は、待ち合わせ場所のファミレスへと向かっていた。


 女子の着る衣装は全部で三着作ることに決定したらしい。Sサイズ、Mサイズ、Lサイズの一着ずつだ。因みにLサイズは身長170センチを超える汐里と164センチの京極専用となっている。


 文化祭のときしか着ないだけに、流石にメイド服を女子全員分作るには予算が足りない。文化祭期間中は、ローテーションで出し物を見て回る組と店番組とで別れることもあり、全員分は必要ないとはいえ、流石に三着では寂しいものだが、そこはマルっと解決済みだ。


 同じように過去、メイド喫茶を開催した上級生から譲ってもらった。思いがけずクオリティの高い衣装に驚いたが、女子には良い刺激になったようで、やる気に満ち溢れている。男子も男子で仕事は山積みな為、「ちょっと男子ー」みたいなことにはならない。


 新規に作る三着は豪華にしようとフリルを増やしたりと、アレコレ話し合ってデザインなどを決めていった結果、デザイン画を持参して今日のこの日を迎えたというわけだ。


「おそらきれい」


 そんな女子のグループ、通称<岩蔵使節団>に連行されてファミレスに向かっているのが、この俺、九重雪兎である。


「虚ろな眼差しで空を見上げてないで早く行くぞ」

「俺、要る?」


 隣を歩く爽やかイケメンがサッと目を逸らす。幾ら俺が疾風怒濤の問題児と言っても、常に原因が俺にあるとは限らない。今日の元凶はこの男である。


「……姉さんがどうしても連れてこいって言うから」


 教えを乞うのは爽やかイケメンのお姉さんだ。責任重大な岩蔵だが、あくまでもクラス内で相対的に裁縫が得意というレベルにすぎない。服を一から仕立てるなど、やったことがない。そこで白羽の矢が立ったのが爽やかイケメンのお姉さんだった。


 なんかそういうの、めちゃくちゃ得意らしいよ。それは別に良いのだが、何故かその場に俺まで呼ばれていることが理解できない。爽やかイケメンのお姉さんとは面識ないし、それに何故だろう、姉というだけで胸騒ぎでざわざわしてくるのはいったい!?


 雨が降って散歩に行くのを嫌そうにしている犬の如く、重たい脚を引きずられるように目的地に向かうと、人数を伝えて大きめの席に座る。注文する間もなく、すぐに目的の人物がやってきた。


「皆、ごめんね。待たせたかな?」

「あ、いえ! 私達も今来たところなので。今日はよろしくお願いします!」


 岩蔵使節団が立ち上がり頭を下げる。爽やかイケメンのお姉さんらしく、美人だったが、それにしては岩蔵使節団の反応は大げさだ。キャーキャーと黄色い声が上がっている。


「あのHIKARIさんですよね! SNSもフォローしてて、ずっとファンだったんです。今日、楽しみにしていました。会えて嬉しいです!」

「そうなの? ふふっ、ありがと。ほら、なにボサッとしてるのコウ。ドリンク取ってきて」

「はいはい」


 渋々と言った様子で爽やかイケメンがドリンクを取りに行く。あ、俺、コーラね。恨みがましい視線をこちらに向ける爽やかイケメンを無視して、岩蔵使節団の一員でこう見えて女子力の高い峯田に聞いてみる。


「良く分からんが、顔面電光石火のお姉さんは有名人なのか?」

「九重ちゃん、巳芳っちと仲良いのに知らないの!? HIKARIさんってレイヤーでモデルとかもしてるから、雑誌にも載ったり有名だよ。私も巳芳っちから聞いてビックリしちゃった」

「レイヤー?」


 そんな俺達の様子に気づいたのか、レイヤーのHIKARIさんがこちらに向き直る。


「そっかそっか。君がコウの言ってた雪兎君ね。私は姉の光莉。この前、ありがとね。母さんも喜んでたよ」

「はじめまして、九重雪兎です」

「これでも衣装作ったりとかは得意なの。引き受けたからには任せておいて!」

「世情には疎くて知らないのですが、有名なんですか?」

「自分でそれを言うのは恥ずかしいわね。でもほら、見たことない? 一応コスプレとかやってるから」

「えぇ!? コスプレイヤーってあのプロダクション化して週刊誌のグラビアを無料で請けまくっていることからグラビアアイドル界隈から嫌われに嫌われているというあの!?」

「私はそういう仕事はしてないし、コメントに困ること言わないで!」

「えぇ!? じゃあコスプレイヤーって、同じROMを複数枚買わせることで個撮の特典を付けるというあの!?」

「君、偏見が激しすぎるのよっ! 皆楽しんでやってるだけだし、それにあんまり人のことをとやかく言いたくないから否定もできないし」

「えぇ!? コスプレイヤーが集まるハロウィンは衣装のレベルが違いすぎてパリピが寄り付かないからむしろ健全でマナーも良いと評判のあの!?」

「褒めてくれてありがと! ここまで来ると逆に君、詳しすぎない!?」

「すみません、つい警戒してしまって。レイヤーを名乗る人物は写真と実物が違い過ぎるから気を付けなさいと常々姉さんに言われていて」

「それはレイヤーに限らないような……。最近のアプリって性能良いし。それより、いよいよもって、返す言葉もないこと言わないでよ。まぁ、それくらいメイクが凄いってことかな。……それにしても、コウから聞いていた通り、君って面白いね」

「おかしいな。何処にそんな要素が?」


 はて? 至って真面目なこの九重雪兎君に面白い要素なんてあった?

 初対面で何故かその手のことを言われがちな俺だが、一向にどうしてか分からない。


 そうこうしているうちに爽やかイケメンが戻ってくる。


「なんか姉さん、疲れてない?」

「ウォーミングアップは充分って感じかな。コウはこっちね」


 早速、岩蔵使節団との打ち合わせが始まる。こうなると俺と爽やかイケメンに出る幕はない。借りてきた猫のように大人しくしているだけだが、現実問題、借りてきた猫は大人しくしてないよね。むしろ大暴れで大変なんじゃないかと思う。


「デザイン画は……あるのね。素材は決まってるの? じゃあ型紙を起こして……うん、そうそう」


 そんな岩蔵使節団を尻目に爽やかイケメンにかねてからの疑問をぶつける。


「何で俺、呼ばれたの?」

「知らん」

「知らんのか―い」

「なんか会ってみたいからとか言ってたけど……」

「そうそう、そうなの。雪兎君って良いカメラ持ってるんでしょ。今度撮影手伝ってよ」


 光莉さんが会話に割り込んでくる。一通り打ち合わせは終わったのか、岩蔵達もメモを片付け会話に混ざる。


「俺のカメラというわけではないのですが……」


 昔、母さんが買ったものの、すっかり埃を被って死蔵されている一眼レフがあることもあり、俺は撮影班を承った。折角こういう機会だし、使わないと損だよね。


 現在、俺はポートレート撮影の練習中だ。AF(オートフォーカス)に頼りたいが、それだけだと上手くならないらしい。奥が深い。家でやたらウキウキの母さんや姉さん相手に撮影しまくっている。


 そのうち成果をお披露目するときがくるかもしれないが、家族の悪ノリにより、とてもお披露目できない写真ばかりになっている。とてもじゃないが、現像はムリ。……奴等め!


「良いじゃん九重ちゃん! HIKARIさんの撮影手伝えるなんて、こんな機会滅多にないんだよ!」

「スタジオ借りて撮影するから、良かったら見に来る? それなら皆もコスプレしてみるのはどう? 私も仲間が増えるのは嬉しいし」

「良いんですか!? してみたいです!」

「わ、私は恥ずかしいかな……」

「今更恥ずかしがることなんてないじゃない。このデザインの衣装、貴女も着るんでしょう?」

「やった! HIKARIさんの撮影見れるなんて、このクラスで良かった」


 反応は三者三様だが、概ね好評のようだ。俺の意見が反映されていないということを除けば。


「ところで、それって決定事項なんでしょうか?」

「あれ? コウから聞かなかった? 君が私を手伝うことが協力する条件だったんだけど」


 グルンと、爽やかイケメンに視線を向けると、下手クソな口笛を拭いて誤魔化そうとしている頭を鷲掴みにする。


「貴様、謀ったな!」

「すまん! 姉さんに逆らえなかった」

「それもそうか」

「あぁ」


 悲しき弟達の悲哀が零れるのであった。

『好きラノ』さんに投票して頂いた方、ありがとうございました!


2巻の情報はもう少々お待ちください。

より面白くなるよう頑張ります!


狩り生活を楽しんでいる人も多いかと思いますが、イカ3の発売も近くこの時期、何かと誘惑が多くて大変ですね……。

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