第71話 夏の陽炎
長った夏休み編も終わりです。次回から新章、暗黒大陸編!?
バミューダトライアングル、ナスカの地上絵、地獄の門、犬鳴峠、ピンク・レイク……etc
古今東西、世界各国に数多存在するミステリースポット。
エリア51には本当に宇宙人がいるのか、シュメール人とは何者なのか、レムリア大陸の実在とは。時に危険でロマンに満ちた人知及ばぬ超常現象は何年経っても人を惹きつけて止まない。
そんなわけで、今俺がいるのは都内有数のミステリースポット『例のプール』である。
いや、『霊』じゃない『例』だ。確かに霊は水場を好むというが、『霊のプール』とか言われても困る。除霊とかできないし。
俺は霊媒師でもなく霊能者でもなく陰陽師でもなく払魔師でもなく精霊術師でもなく屍術師でもなく退魔師でもなく、ましてや対魔忍でもない一介の高校生。潜入捜査に過剰な期待を抱かない男、九重雪兎である。
どうしてこんなことになってしまったのか。一人プールサイドで膝を抱え座りながら世界平和を祈っていると、やってきたのは日夜俺の平和を破壊しまくることを生き甲斐としているフシがある悪徳家族、元凶の母さんと姉さんだった。
「待たせてごめんね」
「こういうとき、男子は着替えが早いから良いわよね」
俺の心境など知るはずもなく、のほほんとニコニコ笑顔を浮かべている。母さんはラインの綺麗なピッタリとした競泳水着、姉さんは……姉さんは――んんっ!?
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「どう? 嬉しいでしょ」
「ちょっと衝撃的すぎて感想を言おうと思ったら文字化けしちゃったみたい」
「なにそれ?」
「世界の強制力じゃないかな」
危ない危ない。今の俺には誤魔化すことしかできないが、もし文字化けを直せるなら伝わるかもしれない。ギリギリセーフなはずだ。
「アンタ好きだもんねこういうの」
「俺の好みを捏造するんじゃない!」
「は? 好きって言ったじゃん」
「……そんなデマ誰から聞いたんでしょうか?」
「霊から」
「霊から!?」
見えないけど守護霊っぽい人、そういうことは黙っといてくれる? なんだかんだでこの場所は霊的波動が強いのかもしれない。姉さんには霊感があったのか……。
「分かった分かった。本当のこと言うよ、言えばいんだろ! ぶっちゃけ好きかな」
「ふっ。後で良いことしてあげる」
「わーい」
プライドを捨て、姉さんに迎合している俺達の様子を母さんが困り顔で見ていた。
「貴女はそんなはしたない格好でもう。今日は泳ぎに来たのよ?」
「騙されては駄目。こんなこと言いながら自分だって普段より際どい水着を選んでるんだから。とんでもないふしだらな母親よね。尤も、こんな年甲斐もなくはしゃいでるオバサンより私の方が良いでしょう? なんたって若いし」
「残念だわ……。小娘の分際でいつからこんな反抗的になってしまったのかしら」
何故か醜くdisり合っている二人を放置してストレッチを始める。泳ぐ前に入念に準備運動をしておくことは重要だ。水中で足が攣ったりすると危ないからさ。それと極力関わりたくないっていうもあるよね。俺の残機だって無限じゃないわけだし。
だがしかし、残酷にもそんなことは許されないらしい。
「これを見なさい」
ドンッっと自慢げに姉さんが取り出したのは、数学の授業でたまに使う見慣れた文房具だった。
「分度器?」
どうしてプールに泳ぎにきて分度器が必要なのか、皆目意味が分からない。推察すら不可能だ。とうとう日常におけるコミュニケーションすら難しくなりつつあるのかもしれない。俺達不仲姉弟さ。
「何故それを?」
「分度器なんだから角度を測るに決まってるじゃない」
「ほうほう」
「どれくらい興奮したかっていう角度を――」
「バカか?」
「母さんと雌雄を決するときが来たというわけね」
「どっちもバカか?」
「これでも数学と物理は得意科目よ」
「流石は私の子ね」
「理知的なバカか?」
「まぁまぁ。折角貸し切りなんだから、思う存分泳ぎましょう」
姉の凶行をサラッと受け流す母さんは流石、大人の貫禄だ。
「とはいえ、なんでもまぁまぁで流して良いのだろうか……」
「ほら、早くこっちのストレッチを手伝いなさい」
「私もお願いね?」
「チクショウ……チクショウ」
怒涛のように押し寄せてくる理不尽に心が折れそうになりながらも、なんとか耐え忍ぶ。どういうわけかこの人達には遺憾の意を表明しても全く効果がない。所詮、遺憾砲とはこの程度の威力しかないのか、現実とはかくも非情であった。
「おやおや、母さんちょっと余分な肉が付いてるんじゃない?」
「貴女の方こそちゃんと運動しないと、肥満になるわよ」
「オバサン」
「小娘」
『フフフ』
二人とも楽しそうだなぁ……。
九重家は今日も俺の犠牲により平和なのだった。
‡‡‡
「――ということがあったわけでして」
「あの馬鹿姉共はぁぁぁぁぁあ!」
ワナワナと雪華さんが憤っていた。あ、母さんも姉さんもどっちも含まれてる。雪華さんにしてみれば母さんは姉だし、悠璃さんは俺の姉さんなので馬鹿姉共で微塵も間違っていない。
夏休みの最終日、宿題に追われるということもなく暇を持て余していた俺は、お誘いに乗り母さんの妹でもある雪華さんの家にお呼ばれしていた。相変わらず超VIP待遇のような歓待を受けてしまう。至れり尽くせりだ。
押しが強くなく控え目な雪華さんの家は、さながら俺にとってはミステリースポットではなく、癒しのヒーリングスポットと化していた。魂が溶け落ち、ソファーから立ち上がれなくなるほど堕落する。俺の分析では、固有フィールド効果が発生してるね。アロマ的な何かだよ。
「何かあったらちゃんと教えてね? 姉さんをシバキにいくから」
「身が持たないので是非、お願いします!」
二つ返事で頭を下げた。死活問題なのでかなり必死だ。
「もう。雪ちゃんを困らせるんだから。いっそ家においでよ」
「その提案は非常に魅力的なのですが、気づいたら10年くらい経ってそうな気がします」
「なんならもっといても良いんだよ?」
「なんて蠱惑的な響きなんだぁ……!」
気を抜いたが最後、あまりの居心地の良さに甘やかされすぎていつの間にか数年どころか数十年くらい経っていそうだ。現代の浦島太郎になってしまう。とはいえ俺のロンズデーライトもビックリな最強メンタルなら玉手箱を最後まで開けることはないだろう。
「それにしても夏休み、色々あったんだね」
「そうですね、なんだか大変でした」
俺は雪華さんにこの夏のことを話していた。雪華さんは昔から聞き上手なんだよね。隠し事もなく、ついついなんでも話ちゃう。
例年にない疲労感。今年の夏休みはイベントが盛り沢山だった。何よりこれだけ多くの人達と関わったのはこれまでになかったような気がする。それが良いのか悪いのかは分からないが……。
「雪ちゃん、夏休みは――楽しかった?」
「楽しい……。どうなんだろ? でも、いつもよりなんだか違った気がします」
「そっかそっか。今はまだそれで良いのかもね」
「そんなものですか」
「そんなものだよ。これからまだまだ沢山時間はあるんだから」
思えば、高校に入学してから沢山の出会いがあった。再会もあった。知らない人も、知っている人もいて、道を違えたはずの人も、違いそうになった人もいた。家でも一人でいることが少なくなって、今もこうして雪華さんと一緒にいる。
「……何か変わったのかな」
「雪ちゃんのペースで良いんだよ。ゆっくりで良いから、もっと周りのことを信じてあげて。そしたらきっと、もっと楽しい日々が待ってると思うから」
煩わしいと相手を切り捨てることは簡単だが、そうできないから悩んでいる。硯川のことも、神代のことも、どうやって結論を出せば良いのか分からない。なんなら母さんや姉さん、氷見山さんや痴女会長だって悩みの種だし、三雲先輩のことは単純に心配だ。まぁ、爽やかイケメンはイケメン補正でなんとかなるだろ。なんにしても一向に悩みは尽きない。
「皆自分勝手だよね。好き勝手自分の気持ちを押し付けて、答えを求めて相手を困らせる。でもね、それが分かっていても伝えたい気持ちもあると思うの。そして雪ちゃんから気持ちを押し付けてもらえる日を待っている」
「我儘じゃないですかそれ?」
「我儘で良いんだよ。自分勝手で自己中になって。それでもまだ雪ちゃんには足りないくらい。自分の心に素直に従って。雪ちゃんなら、『俺について来い!』くらい強引で良いんじゃないかな? それがきっとプラスになる一歩だと思うから」
他人を必要とすることは、とても難しい。相手は人形でもAIでもない。同じ時間を生きていて、意志があり感情を持っている。一人ならどれほど楽だろうか。何も気にする必要なんてない。それはとても孤独だが、甘美で、とても自由だ。
それでも、誰かと一緒に歩みたいと望むなら、人と関わって生きていきたいと誰しも当たり前のような夢を見るなら――。
「俺について来い!」
「うん! 分かった。もう離さないからね! それと姉さん達とばっかり泳ぎに行くのはズルいと思うんだよ雪ちゃん。私だって行きたいし、実はちゃんと水着だって用意してあるのだよ。ふはは」
「ごめんなさい、ちょっと調子に乗って言ってみただけなんです! あの引っ張らないで! 力強いな! そういうところ母さんソックリですよね。――だからなんなんですかその水着、水着ちゃうやん。また文字化けしそうなやつきた! でも内心喜んでいる俺のバカバカバカ!」
賑やかな夏休みも、そろそろ終わりを迎える。
長らくお待たせしましたが、4/25にオーバーラップ文庫様より書籍が発売されます!
イラストは緜先生です。
とても美麗で素晴らしく仕上がっていますので、是非ご期待ください!
今後、順次情報などが発表されていくと思うので、もう少しだけお待ち頂けると幸いです。
★★書籍版の変更点★★
①物語構造の変更
・Webと書籍では求められているものが違うのでは? ということもあり、主人公の物語を、より主人公とヒロインの物語になるよう大きく修正しています。ラブコメ比重の増加
②改稿、新規エピソードの追加
・Web版は、Webというフォーマットに合わせてなるべくサクサク進む1話1エピソード(1展開)という形になるようにしていましたが、書籍版では長尺エピソードや、改稿と共に描き下ろしなど新展開も増えています
③一部設定の変更・齟齬の修正
・ちょっとしたことです
④主人公の真人間度を調整
⑤硯川の出番を上方修正
⑥神代の出番を上方修正
⑦隠し設定として、もし続刊すると悠璃さんのバストサイズが1サイズごと大きくなっていきます(成長期)
色々とWeb版から変更点も多いので、お楽しみください!
■キャラデザも公開です!