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第32話 大学にも騒動を起こす男①

「滅びろパリピめ!」


 などと、握り拳を作ってみたはいいが、俺は今、大学に来ている。渋谷のハロウィンに参加するなら、池袋のハロウィンの参加するのが、この俺、九重雪兎なのであった。そんなわけですっかり大学生になったわけだが、俺は高校一年生である。じゃあ、大学生じゃなくね? というツッコミはさておき、俺は家に帰って着替えると、大学の指定された場所へと向かっていた。初見も初見なので、せめて案内して欲しい。キャンパス広すぎなんですけど。


「あ、雪兎君。こっちよ」

「二宮さん? お久しぶりです」


 目的の人物は存外あっさり見つかった。二宮澪さん。俺を痴漢の冤罪被害から助けてくれたメシアである。二宮さんがいなかったら、俺も祁堂先輩達も面倒なことになっていただろう。それ以来、たまに連絡を取り合うようになっていたのだが、そんな二宮さんから学校が終わった来て欲しいと連絡があったのだった。ちょっとした交流はこれまでにもあったが、今回は頼み事があるとのことでお声が掛かった。高校生の俺に出来ることなどたかが知れているのだが……。


「澪で良いよ。私と雪兎君の仲でしょ?」

「はて、俺達どんな仲なんでしょう?」

「主人と奴隷?」

「現代日本に奴隷制度が復活していたのか……」

「嘘だよ。恋人だよね?」

「は?」


 彼女いない歴以下略の俺に恋人? それも相手は女子大生である。同学年の女子達と違って、ファッションも化粧も大人っぽい。こうしてみると、やはりそこには大学生と高校生では差があるのを実感する。言うまでもなく、とても俺と釣り合うようには思えなかった。


「今日は来てくれてありがとう。実はお願いがあるの」



「――私と恋人になってくれない?」




 話をまとめるとこうだ。澪さんは今日、合コンに誘われているらしい。澪さん曰く、興味ないので参加したくないが、人数合わせとして、どうしても来て欲しいと友達に懇願され参加することになったそうだ。合コンの相手はバスケサークルだが、その実態は良くあるアレなんだって。


 ここまでで分かる通り、俺が関与する余地が一切ない。無関係にも程がある。俺にとっては予期せぬトラブルの前兆ともいえる流れである。だいたいそれで何故、高校生の俺が呼ばれるのか、イミフすぎるでしょ。


「だってヤリサーだよ? 泥酔させられた挙句、私がお持ち帰りされて、アへ顔Wピースしてる寝取られビデオレターが雪兎君のところに届いても良いの?」

「なに言ってんだアンタ」

「もう雪兎君のじゃ我慢出来ないのとか言われたいの?」

「澪さん、変なビデオを見過ぎですよ」

「そしてそれを元に脅された私は、いつしか誰ともしれない男の子供を孕むんだわ」

「やべぇ。まったく言葉が通じない人種だ。この人こんなんだっけ?」

「だからね雪兎君、私を助けてくれるわよね?」

「いやあの……」

「胸にピアスとか付けられた私を見たいの?」

「大学生ってすげぇや。脳内的な意味で」

「嫌よね?」

「この一方通行をコミュニケーションと言うのだろうか?」

「い・や・よ・ね?」

「はい」


 頷くしかなかった。要するに男避けである。合コンの間、俺に仮の恋人として振舞って欲しいという話だが、そこに疑問がないわけでもない。


「どうして俺なんですか? 幾ら何でも高校生は不自然では?」

「こんなことを頼めるのが雪兎君しかいないからよ。私の知り合いに男性なんて殆どいないし、ましてや内容が内容だから信頼出来る人しか無理でしょう?」

「でも、合コンに彼氏同伴って、それは合コンなんでしょうか?」

「そうじゃないと行かないって言っておいたわ。良いじゃない。私達は私達でイチャイチャしてましょうよ?」

「だからそんな関係では……」

「恋人なんだから良いでしょ」

 

 いつの間にか澪さんからの信頼度が高まっていたらしい。不思議なものである。そもそも俺は参加したことがないので知らないが、合コンとは彼氏彼女を作るためのイベントではないのだろうか? そこに彼氏持ちで参加することに違和感を憶えるが、澪さんや他のメンバーが納得しているのなら良いか。俺もそんなことになって後から後悔する澪さんは見たくない。助けられた恩もあるし、ここは協力しよう。


「分かりました。やりましょう!」

「その言葉が聞きたかったわ」


 そこはかとなく闇医者風のやり取りをしながら、俺達は目的地へと向かったのだった。




‡‡‡




「こんなことしてる場合じゃないのに……!」


 私、紫蘭(みらん)・ハイトラ・トリスティは憂鬱だった。ピンクゴールドの髪をクルクルと指に巻き付ける。昔から考え込んでいるときの癖だ。自分で言うのもなんだが、私は明るい性格をしていると思う。これまでこんなに落ち込んだことはなかったから。


 その原因は私にある。少し前、私は事故を起こしてしまった。

 自転車事故。ちょっとした慢心だった。現実に対する認識の甘さ。そういったものが引き越した重大な過失。私はヘッドフォンを付けて自転車に乗っていた。それ自体も問題だが、そのとき、スマホが鳴った。相手を確認し、出る必要があれば自転車を止め応対すれば良い。そう思って私は自転車に乗ったままスマホを手に取ってしまった。些細な油断。それが事故に繋がってしまった。


 一瞬、スマホを確認しようと目を離した瞬間、私はぶつかってしまった。相手は高校生の男の子だった。鍛えているのだろうか、物凄く固いものにぶつかったような衝撃が私を襲うが、相手の男の子がぶつかった勢いで飛ばされてしまう。私は真っ青になった。すぐさま近くにいた人が男の子に駆け寄り、110番を掛ける。私も慌てて自転車から降りて、男の子の下へ向かう。


 幸い目立った外傷はないが安心出来ない。これまでには、自転車にぶつかられて脳に損傷を受けた人が、数日後に亡くなるケースなども発生している。もし、ぶつかった衝撃で頭を強く打っていれば、外傷の有無は関係ない。どうしよう! 私、なんてことを! これまでに味わった事のない恐怖。


 目の前のまったく何の罪もない男の子の未来を奪ってしまったかもしれない。私自身も犯罪者として逮捕されることになるだろう。両親を裏切って悲しませるようなことをしてしまった。一番大変で辛い思いをしているのは目の前の男の子なのに、そんな自己保身にまみれた自分にも腹が立って悲しくなった。涙が零れる。どうか、どうかこの子が無事でいてくれますようにと、私には願う事しか出来なかった。


 結論から言えば、示談が成立した。相手には目立った外傷はなく、精密検査の結果も異常はなかった。私とパパとママの3人で必死に謝罪した。その頃には、私は訴訟も覚悟していた。幾ら大きな怪我がないからといって、私がやったことは社会通念上許されない。ヘッドフォンをしながらスマホを手に持ち事故を起こした。到底許されるものではなかった。


 しかし、その男の子は許してくれた。訴訟は免れたし、示談金も私達の話し合いで決まった。高額になることも覚悟していたが、男の子はそれも望まなかった。それどころか「慣れているので気にしないでください」と、謝罪しに向かった私達を気遣うようなことを言ってくれた。男の子の優しさにますます胸が苦しくなった。こんな子を傷つけてしまった自分が許せなかった。


 あれから、私はいつも通りの生活を送っている。でも、決して気が晴れることはなかった。あの子の顔が思い浮ぶ。事故の加害者というのは、こうして一生、罪の意識に苛まれていくのだろう。もし、あのとき、少しでも打ちどころが悪ければ、私は今、ここにいられない。


 落ち込む私を、友達がコンパに誘ってくれた。私はあまりそうしたものが好きではないし、これまで参加は断ってきた。私はハーフということもあり、昔から発育が良かった。その所為か、ただでさえ身体目当てで告白してくる男性も多く、大学内でも常にそうした視線が突き刺さるのを感じている。


 今回も断ろうと思ったが、私を励ましてくれるようとしているだけに無下にするのも憚られた。でも、両親を心配させ、何よりあの子をあんな目に遭わせた私が、どうして楽しめると言うのだろうか。


 憂鬱な気分が晴れないまま、私はトボトボと目的地へと向かう。


「ごめんね、遅れちゃった!」


 私以外のメンバーは揃っていた。既にワイワイと盛り上がっている。私の姿に男性陣のテンションが上がるのが分かった。嫌な視線が胸や脚を舐め回す。


「トリスティさんが来てくれて嬉しいよ!」

「トリスティさん、なに飲む?」


 矢継ぎ早にアルコールを勧めてくる。私はアルコールにあまり強くない。こんな場所で酔い潰れるようなことがあれば、それが何を意味するのかくらいは理解していた。


(気持ち悪い……!)


 今すぐにでも帰りたかった。どうしてこんなことをしているんだろう? どうしてこんなところにいるんだろう? もともとこういった場は好きではない。暗い気分で席を見渡す。と、少し離れた位置に既にカップルが出来上がっていた。2人で仲良さそうに何かを話し合っている。


 え? あれって――


 見覚えのある男の子が座っていた。あれからずっとその子のことばかり考えてきた。とても優しい男の子。謝罪したからといって、それで全てが終わったと考えられるほど、私は図太くない。もっと色々と話してみたかった。もっとちゃんと謝りたかった。


 どうしてこんな場所に?

 そんな疑問は浮かぶが、気付いたときには私は彼に向かって飛び込んでいた。



「ユキト君、ごめん、ごめんね!」

「ぐげぇ! 急な視界不良と謎の圧迫感ががががg」

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