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知己との遊戯

作者: にゆんとや

「このゲーム、浅いな」

僕の周りにはキーボードを叩く音とくぐもった電子音だけが聞こえている。

隣の椅子が、くるりと周った。

「ガイン、いきなりヘッドセット切ってなにぃ?まだ途中よ?」

相棒のハイブは髭を触り不機嫌そうにこちらを見る。

「いや、このゲーム浅いって話」

「浅ぇ?まじ?俺は嫌いじゃあないよぉこの手のゲーム。むしろ好きだわ。奥が深いぜぇー?」

相棒のハイブは気楽なタイプだ。いっちゃあなんだが、ゲームは全般下手。でも、こいつのトーク力と編集能力の高さは侮れない。俺がゲームの腕は伸びてもなかなか数字に伸び悩んでたときにこいつに声かけられて、二人で実況動画を出した。

 今じゃクソ雑魚担当ハイブと実力担当ガインの二人組で大ウケって訳だ。

「奥が深い?うーんまぁそういうコンセプトで売り出し中なのはわかるんだけどさ、これエリア辺りに攻略法決まってるぜ、広いエリアで自由度無限大!つってもさ、攻略法が決まってたらツマんないわけよ」

 いわゆるワンパターン戦法で一つのエリアが攻略できてしまうのだ。

「おいおい、そりゃあリセマラしたら俺でもワンパターンで出来ちまうよ。このゲームは最初のランダム要素さえよけりゃ確かに簡単だけど、なにも勝ちにこだわらなくてもいいじゃあねーか」

「んーじゃあ今回の動画のコンセプトはエンジョイプレイか……オーケー。撮影再開しよう、ハイブ。」

「ああ、他の配信者もこぞってやってるからな、気合入れていくぞ」

 いまいち、気が乗らない。ハイブにはああ言ったが僕が気にしている最大のポイントはその「他の配信者がこぞってプレイしている」というこの状況下にあった。

 僕は再び最初からプレイし直す。

 ボップアップした。性別は男か、この性別システムも興味深いポイントだったかでプレイスタイルがだいぶ違う……らしい。そう、今回も僕のやることは変わらない。まずは何より知性ポイントだ。周りの物からデータを取り込みそれを自分の糧とする。こうすることでできることが増えるのだ。

このゲームは知性ポイントがないと何もできない。自分の思い通りにいかないし、何かと不便だ。中には知性ポイントを振らないプレイもあるが僕はゲームオーバーしてしまった。思い通りにいかないゲームというのは中々窮屈だった。

 結論から言うと、リセマラしてないからか、思い通りに知性は伸びなかった。ああ、うまくいかない。実力派の僕がここまで苦戦しては視聴者から落胆されてしまうな…いや、これはエンジョイ。割り切ろうじゃあないか。せめてこのプレイヤーだけでも無事クリアしてみせる。

 こうして僕は、とにかく頑張った。NPCと知性を競いあったり、男女のカップルを爆破したりクリア優先でなくあらゆるテクニックで多くの他プレイヤーとのプレイングの差を見せつけた。ここまでやったら配信分も撮れただろう、そういった頃には不思議とこのアバターにも愛着がわいてきた。なる程、リセマラでうまくいくだけじゃつまんないって事か。リセマラはいわゆるEASYモードだった訳だ。

「あー結構いいかもな、エンジョイプレイ」

元々そういうゲームだったか。数字と勝ちにこだわって「ゲームを楽しむ」っていう大切なことを忘れちまってたぜ……なんてクサい事を思っていたら。


 自分のプレイヤーがトラックにひかれて死んでしまっていた。


 言葉が見つからなかった。自分の育てた、愛したプレイヤーが死んでしまった。理不尽に嘆く暇もなく、メッセージウィンドウが出る。そして次の瞬間、僕はあろうことか、「にやついていた」。


僕が操作するキャラが、炎を纏い、華麗に敵を倒していく。

「おいなんだよ、そのアバター。バチバチにかっこいいじゃん」

「お、ハイブ。いいだろこのキャラ。僕も気に入ってんだ」

数日後、そこには元気に動くトラックにひかれたあのキャラが別のゲームで動いていた。

 そう、あのゲームの最大の魅力こそがこの育てたキャラが他のゲームに移植できるという他では体験できないシステムだったのだ!あの日のポップアップには「おめでとうございます。このシステムを知らずに特殊死亡条件を満たしたのでこのキャラを好きにできます」と書いてあった。

 このゲームがやたら配信されているのはこの画期的なシステムをシェアするためのものだったのだ。後で知ったが、知らないという条件がなかなかにシビアで、運営も必死になってネタバレを削除して回っていたとか。

 このシステム出身のキャラは基本的にチートなので、今他のゲームは未知の強さに驚き荒れている。もちろん炎上は怖いのでこのキャラで配信はしない。これは予想だが、そのうち隔離サーバーが出来るか、弱体化されるだろう。それまでの間、僕は存分にゲームを楽しむとしよう。

「ガイン、そういえばあのゲームの配信だが、あんまり数字伸びなかったよ。やっぱ俺らのコンビはお前が調子よくなきゃな!」

「そうだな」

ハイブは気付いてないようだ。まぁ、ハイブらしい。

「今日も張り切っていくぜ!全宇宙の視聴神の皆さんおはこんばんにちわ!ハイブと」

「ガインでーす」

俺達は、いつもの配信へ戻る。

ガインの横のゲームには、青々とした惑星だけが描かれていた。

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