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はじめましょう

昔に思いつきで考えてメモしていた話に少し手を加えて載せてみました。

 あぁ。本当にどうしようもない。

 世界が平和になったとか、私にとってどうでもいい事なのよ。

 それよりも、ぽっかりと穴が開いたみたいな心をどうにかしてほしい。


 「シアン・・・??」


 「何でしょうか・・・??王様」


 ここはベルギア大国のリディアという首都の王宮の中。今、私の前にいるのはこの国を統一している王様で普通の人ならそう滅多に会う事ができないお方。40歳前半のなかなかダンディーのおじさん。彫りの深い顔立ちが私の好みだったりするんだけどね。


 「世界が平和になったというのにお主の表情がすぐれぬが、どうしたのか??」


 これがまたハスキーでいい声なんだよねぇ。詩人で世界をまわっていても十分通用しそうね。


 「今回の旅の疲れか……」


 今回の旅というのは世界を恐慌にさらしていた魔王討伐の旅をさしているんだけれど、私はそれに参加をしていたメンバーだったのね。これでも、精霊魔法の腕には誰にも負けない自信があったしね。


 「ええ……」


 というのはもちろん嘘。だけど、お得の笑顔で一応そう答えてみる。

 こう見えても私は超美少女。サラサラとした銀髪に深みのある青い瞳、きめの細かい白い肌に薔薇色の唇。つまり、私のつくる笑顔は殺人的な凶器になる。もちろん、大国の王子様も王様だって例外ではないと思うわ。


 「ならよい。では、今宵の宴、楽しんでいってくれ」


 王様はそういうとクルリと踵をかえ、ホールの中心に向かって歩き出して行った。もちろん、私はその顔が赤らんでいるのを見逃さなかったけれどね。だけど、可憐な精霊使いと思われている私はそんな態度をおくびに出す事はしない。優雅にドレスの端をつかむとそのまま無言に頭を下げた。この一連の動作は私の中では傑作品。


 昔話に出てくる物語とかは大抵、魔王が倒されてこれで『おしまい』って感じになる。

 実際、今回の私たちの旅の記録もそれで終わりになるのだろう。宮廷人に『どんな事が起こったかどうだったのか』と詳しく何度も同じ事を繰り返し聞かれた。そして、これからも必要があればまた聞かれるのだろう。

 そうやって私たちの言葉を集め、物語はつくられ、後世に綴られていくのだろう。

 そして、真実は闇の中に葬られる。なぜなら、真実を知るものは墓場まであの事を持っていくのだろうからね。


 「シアン……」

 「レクイム……」


 赤色短髪の彼は真実を知る者の一人。


 「これでよかったのかなぁ」

 「よかったのよ」


 素っ気なく答える。あぁ、夜空が綺麗だわ。


 「ある一部の区域に魔物が増大する

 勇者にエル,サルヴィア,トープ,シアン,レクイムが選ばれ旅に出る。

 そして魔王を倒す。

 そのあまりの激しい戦いの末、エルが戦死するが他の者は無事に帰還する。

 そして、世界に平和が訪れる」


 レクイムの少し高めの声が私の耳元で響く。


 「上等じゃない。それで」


 そうよ。それで、いいのよ。

 決して彼らは真実を語られるのを望んでいないのだから。


 魔王なんていなかったと言ったとしても誰も信じてくれないのだから。

 魔王だと思われていたのは極普通の少女で笑顔が素敵な子だったとか。

 魔物が増加していったのはその少女の心に癒されたいと思った魔物が慕っていただけで、別に害をなそうとか思っていなかったとか。

 魔物によって好かれた彼女を迫害する村人に魔物が怒り出し、この悲劇が生まれたとか。

 そんなこと誰も信じるわけないんだから。




 「いいのかなぁ。本当に。歴史は繰り返されるっていうじゃん」

 「レクイム……。やっと訪れた彼らの休息を守れるのは私たちしかいないのよ」

 「そうだけどさ。……本当にシアンはエルの事、好きだったんだなぁ」

 「レクイム」

 「ごめん」


 私はエルの事好きだったけれど、ミリアの事も好きだった。

 だからこそ、エルがミルアと共に生きミルアと共に死ぬと言った時そうさせてあげたいと思ったのかもしれない。

 色んなイヂワルもしてきたしね。そんなお返しに。

 あと、彼らが私をちゃんと見てくれたそんなお礼に。



 「別に謝らなくてもいいのよ。ねぇ、レクイム」

 「なんだ?」

 「世界をつくりましょう……」


 自分でも自分の言葉に驚いた。こんな事いうつもりはなかったのにと。


 「シアン……?」


 それでも自分の口は止まらない。

 胸に疼いていた気持ちが溢れ出る。


 「正しい事は何かと自分達で考える事ができる権力がない世界をつくりましょう」


 言葉にすると現実味が出る。

 あぁ、そうだったんだと。

 ここまで言って自分が何をやりたかったのかという事を確信した。

 私はレクイムと話しながら、今まで頭の中でもやもやとしていた事が次第に整頓されていくのがわかった。


 「・・・!?」

 

 「私ね、王子様からプロポーズされてるの。この容姿でしょう??私。王子様も惚れてしまったみたい」


 込み上げてくる笑い。

 きっと今の私は傍から見て可憐に微笑んでいることだろう。


 「シアン、それは一番嫌がっていた人じゃないか!?自分の見かけだけで判断し権力を使ってくる人は最低だと」


 「そうよ。一番、嫌がっていた事よ。

 でもね。私が変えないで誰が変えるっていうの!?

 私にはチャンスがある。

 だからそのチャンスを有効に使うのよ。

 それにもう私には精霊使いとしての力はないからね。

 ――だから、もうこれしか道はないの……」


 嫌だったのになぜか完璧に『No』と言えなかった王子からのプロポーズ。

 断れなかった理由が今わかったわ。

 私は権力をなくす為に、権力を利用する立場にたちたかったのだ。


 「シアン……」

 「協力してくれる??レクイム??」


 彼は少し悲しそうな顔をしたような気がした。

 きっと気のせいではないだろう。

 でも、レクイムなら私の気持ちがわかってくれる。


 「わかったよ。俺はシアンにはかなわないしな。最後まで付き合ってやるよ」

 「ありがとう。レクイム」


 空虚だった心に光が宿る。今は小さいこの光も時を越えて大きくなるのだろう。

 

 「それなら、サルヴィアとトープも仲間にいれないとなぁ」

 レクイムはポツリと呟いた。仲間を増やす事、それはとても大切な事、戦友は何よりも信頼できる仲間だから、また一緒に戦ってくれると心強い。


 「そうね。」


 そう言うと、私はにっこり笑った。久しぶりに心から笑ったような気がした。


 世界は平和になった。

 えぇ、世界は平和になったとも。

 でも、私たちはこれからも戦いだわ。

 この世界をかえていこうというのだから。

 偽りの物語はここで終わり、新しい物語がここからはじまるのよ。



 立ちどまって嘆いたって仕方ない。


 どうしようもない事を考えたって仕方ない。


 昔を振り返って懐かしんだりしても何も変わらないのだから。


 前を見て進んでいかないと。


 これから、大変なことばかりかもしれない。


 だけど、動かなければはじまらない。


 新しい事は何も生まれない・・・。





 ねぇ、だからはじめましょう。





 えぇ、世界をつくりましょう。

読んで頂きありがとうございます。

一人称も難しいですね。

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