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怖がられているみたい

 

 彼女の末路は知っている。

 俺達の国では、幼い頃は家で教育を受け、十四歳から王立学園に通うことになっている。

 スノウベルは魔女の血を引いており、ひたすらその力を隠しているのだが、とあることをきっかけに、それが露呈しまう。


 俺が十七になる頃、学園にヒロインが現れるのだ。物語はそこから動き出す。

 スノウベルはいつからか、この国の王子に恋をするようになるのだが、王子はヒロインを愛してしまう。

 その結果、スノウベルは嫉妬のあまり、魔女の本性を現し、ヒロインを殺そうとする。かばった王子や騎士達を敵に回し、ついには学園を抜け出して、この国を滅ぼそうとするのだ。

 最終的にはヒロイン率いる王子一団に追い詰められ、殺されてしまう。


 その王子一団に入っているのが、俺だ。

 いくつかのルートでは、俺が直接彼女を殺すらしい。

 なんだか面倒な予感しかしない。


 こうして記憶を取り戻したからには、俺は自分の好きなように生きたいのだ。

 前世で他人の代わりに死んでしまったのだから、今回ぐらいは、自分のために生きてもいいはずだ。


 王宮に入らなくたって騎士にはなれるし、本当のことをいえば、前世でできなかった華のある学園生活を送りたかった。

 馬鹿なことだと思われるかもしれないが、俺は高校生活の途中で死んでしまったのだ。一人の女の子とも手を繋ぐことすらなく、生涯を終えてしまった。由々しき事態だ。


 もしあの本の通りに成長すれば、俺は将来イケメンになるはずだ。……たぶん。

 前世では童顔で、同級生の女の子たちには可愛いと言われていたが、かっこいいとは一度も言われなかった。つまりは恋愛対象に見てもらえなかった。

 せっかくいい感じに転生したのだから、自分を磨き、将来の学生生活でモテ期を送りたい。


 俺が前世で助けた子は、こちらを顧みることはないだろう。俺は花の男子高校生(?)だったというのに、童貞のまま恋も知らずに死んでしまった。これぐらい許されると信じたい。




「カイン君。よろしいかな?」

 俺が一人で決意を新たにしていると、スノウベルの父親が声を掛けて来た。

 ちなみに俺の父親は、会場に着くなりさっさとどこかへ行ってしまった。父はたくさんの知り合いがいて、挨拶周りにいかなければならないのだ。


「なんでしょうか」

 慌てて背筋を正し、顔を上げる。俺は目つきが鋭いと言われるのだが、これは昔からなのだ。

「見ての通り、これが娘、スノウベルだ。私は挨拶周りに行かねばならないからね、今日一日、この子の話し相手になってやってくれ」

 小さなスノウベルは、それを聞くと目を見開く。

 男爵の服の裾をぎゅっと握りしめ、どこか泣きそうな瞳で首を振った。

「い、いやです、お父様」


 んん?

 彼女の反応に疑問を覚える。俺、何かしたっけ? 


「すまないねカイン君。うちの娘は人見知りなんだ。友達を作った方がいいとここへ連れて来たんだが、」

「お父様の嘘つきっ、友達じゃなくて――」

「黙りなさい!」

 男爵が強く怒鳴りつける。

 その剣幕に、スノウベルは肩を揺らし、俺も小さく息を呑んだ。

 こんな小さな女の子に、そこまで怒鳴らなくても。


「……ごほん、失礼した。――とにかく、うちの娘と仲良くしてやってくれ。いいだろう? カイン君」

「……分かりました」

 そう告げると、男爵はさっさと広間の中央へ向かってしまった。

 残されたスノウベルは、父親に縋り付くような視線を向けていたが、やがて諦めたのか俯いてしまった。ぎゅっとドレスの裾を握りしめている。

 白いドレスは彼女に良く似合っていて可愛らしいのだが、いかんせん状況がよろしくない。

 初対面で俺は嫌われているようだ。


「こんにちは。……はじめまして、の方がいいかな」

 俺は無意識に鋭い視線を向けてしまうらしいので、できるだけにこやかな笑みを浮かべて言う。しかし実際のところ、若干引きつっているかもしれない。

 スノウベルは顔を上げたが、恐々と瞳を揺らすだけだ。俺より一つ年下のはずだが、ずいぶんと幼く見える。


「怖がらなくていいよ。別に君をとって食べたりしないし。俺はカイン・エーベルト。よろしくね」

 ご婦人には例え年下でも、礼節を守って接しろと、父から口酸っぱく言われている。

 俺は出来る限り丁寧に声を掛けるが、スノウベルは困ったようにこちらを見るだけだ。


「……ええと、ここは話し辛いと思うし、良ければ外に行かない? 今の時期だと、花が咲いているはずだよ」

 女の子は花が好きらしいので、そう言ってみる。

 どうやら効果はあったようで、スノウベルはわずかに瞳を輝かせると、やっと口を開いた。

「お庭にお花が?」

「うん」

「行く!」

 俺がゆっくり歩き出すと、スノウベルはたたっと後をついてくる。

 かわいい――と、いけないいけない。

 この子は将来、王子を愛するあまり、ヒロインや国を滅ぼそうとするのだ。

 ヤンデレ予備軍と言えるかもしれない。

 昔、同級生のチャラ男が、ヤンデレを引き当てるとヤバイと言っていた。

 俺は詳しく分からないが、スノウベルとの距離感には気をつけようと思う。



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