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騒がしい昼休み

 

 *


 ヒロインが出て来たことで、俺は再び、情報を整理することにした。

 この国の内情について、俺はずいぶん前から調べていた。

 スノウベルが魔女である以上、きちんと把握しておかねばならないからだ。



 まず、この国クランの勢力は大きく、三つに分けることができる。

 王族と魔女、そして聖ドルムト協会だ。

 王族は言葉通り、この国の国王や、息子の王子アルフレッドなどを指す。


 魔女ははっきり言って、無いものに等しい。昔は血縁を重んじて生き延びた一族だったそうだが、王族と対立し、ずいぶん前に討伐されてほとんど滅びてしまった。


 理由は王族を呪っただとか、その息子や娘を殺しただとか色々あるそうだが、同じように王族も魔女をたくさん殺している。

 醜い争いとしか言えないけれど、それはもう百年以上も前に終わった出来事だ。


 今は生き残りがいるかどうかも分かっていない。まあ、俺の知る限り、スノウベルがいるのだが。

 つまりは魔女という勢力があるとしても、それはスノウベルただ一人ということだ。他に生き残りがいたとしても、もう表には出てこないだろう。魔女は悪と決めつけられ、存在しているだけでさんざん苛められて来たのだ。


 たぶん、スノウベルの母親は魔女ということを隠していたのだと思う。スノウベルを産んだ後、すぐに病で亡くなったそうだが、男爵は彼女の正体を知らなかったのだ。

 彼は結晶を見て知る事になったけれど、娘にあんな冷たい仕打ちをした。

 結局男爵も馬車の事故で亡くなってしまったが、正直俺は同情する気になれない。スノウベルには言えないけれど。


 そして、この王族と魔女の間にあるのが、聖ドルムト協会だ。

 クランは城を中心に大きな町が広がっていて、その先に畑や農場がある。そこから先には森が広がっており、別の国に続いている。

 そのうち主要な建物のほとんどは、活気に満ちた中央の地区に立っている。

 大きな中央地区の、東南に王立学園、西に聖ドルムト協会があるのだ。

 この協会は城から少し離れたところに大きな聖堂を構えており、そこには専門の人々が働いている。


 彼らは王族と魔女、二つの間を取り持っている。争いが起こった時、事態を冷静に判断し、適切な対処を行うのだ。

 そうは言っても、聖ドルムト協会は歴史上、ほとんど王族の手助けをしていた。名目上は均衡を保ち、平和を守ると謡っているが、俺はあまりあの組織を信用していない。


 どちらにせよ、ここまで来てしまった俺は、きっと何があろうとスノウベルにつくのだ。

 例え彼女が、間違った方向に進んでしまったとしても。




 翌日の昼休み、訓練場に行くと、そこは人で賑わっていた。

 集まっているのは同じ武術科の生徒と、他の科の女の子たちだ。

 俺とノーティスがやり合うと聞くと、そのたびにこうした観客が二十人ほど集まるのだ。

 正直、悪い気はしない。

 勝てば女の子にキャーキャー言ってもらえる。俺も男だし、少しぐらい女の子にもてはやされたいのだ。まあ負けると同情した目で見られるので、なんとも言えない気分になるけど。


 本命のスノウベルはと言うと――ああいた。

 人混みの後ろの方から、じっとこちらを見ている。胸に抱いているのは魔法科のノートだろうか。彼女は勤勉だし、昼休みは魔法の自主練をしていることも多い。それよりもこちらを優先してくれたのかと思うと、俄然やる気が湧いて来る。


「おお、来たなカイン。それにしても、なかなかの観客の数だな」

 俺が訓練場に入ると、真っ先に王子アルフレッドが声を掛けて来た。

 彼は食えない笑みを浮かべ、観客たちを見まわしている。この男は気まぐれで、試合を見に来るのも気が向いた時だけだ。

 いつもより観客の数が多い気がするのは、そのせいもあるだろう。


「試合を見に来てる人もいますけど、あなた目的で来ている人も多いですよ」

 俺がそう言うとアルフレッドは、ほう、と面白そうな顔をした。


 俺はそっと、端の方にいる女の子の集団を、目で示してやる。

 彼女達はこっちを見ては何かすさまじくおしゃべりをしているのだ。

「ほらあの辺とか。間違いなくそうですね」

「ふむ、暇そうな奴らだな。まあ悪い気はしないが」


 俺達が見ていることに気づき、女の子たちがぱっと笑顔を浮かべる。

「見て、アルフレッド様よ!」

「カイン様も! こっち見てるわ!」

「あの二人もいいけど、私は白騎士派だわ」

 甲高い声で言うので、こちらまで聞こえてくる。

 俺の隣にいた王子が何を思ったか、爽やかな笑みを浮かべて手を振った。


 きゃーっと歓声が上がる。

 白騎士派とか言ってた子まで、顔を赤くさせている。

「現金な奴め」

 隣で王子が、ぼそりとつまらなそうに呟くのが聞こえた。

 現金かどうかは置いておいて、俺もちょっと騒がれてみたくなった。

 片手を上げようとしたところで、鋭い視線が突き刺さる。


 ふとそちらを見れば、反対側から、スノウベルがむっとしたようにこちらを見ているのだった。

 なんだよ、俺が近づくと素っ気なくするくせに。

 俺が片手を下げると、隣で笑う声がした。

 見れば、アルフレッドが耐え切れないらしく、笑みをこぼしている。


「いや、悪いな。やっぱりお前達を見ている方が面白い。まあ頑張れ。今日のノーティスは調子がいいようだからな。お前が負けたら慰めてやるさ」


 アルフレッドは俺が勝つのは難しいと、決めつけているようである。

 確かにノーティスは最近腕を上げているが、俺だって真面目に練習をしているのだ。

 そうそう簡単に負けてたまるか。


 訓練場を取り巻く男子生徒の中からは、俺と白騎士、どっちが勝つか賭けようと言う声も聞こえてくる。

 白騎士に賭けた後輩は、あとでしめてやらないと。まあ冗談だけど。



 俺は気を引き締め、訓練場の中央へと足を踏み入れた。

 まもなく反対側にノーティスが現れ、俺に向かって声を張り上げる。

「カイン殿、今日はありがとうございます。このような機会を頂いたからには、全力でお相手させて頂きます」

「いつものことだろ、難しい話は抜きにしようぜ。まあ全力でやるって言うのは、俺も賛成だけど」

 俺は定位置につくと、すらりと剣を抜き放った。



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