表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/63

白騎士はちょっと真面目すぎる

 

「そういえばノーティス、なにか用か?」

 俺が声を掛ければ、白騎士は真面目な顔で言った。

「ああそうでした。実はカイン殿に、手合せをお願いしたくて来たのですよ。私も鍛錬を重ね、少々実力があがったのではないかと自負しています。お暇な時で構いませんから、是非手合せを」

 またこれだ。この学園に入ってから、俺達は何度も手合せをしている。

 いや別に、嫌ではないのだけど、俺がこいつを苦手な原因はここにもあるのだ。


 入学当初、こいつと会った時のことを、俺は忘れない。

 ノーティスはあの日、他の生徒に紛れて生真面目な顔で立っていたが、俺を見た途端に顔色を変えたのだ。

 澄んだ瞳をきらきらさせ、端整な顔を破顔させてこう告げた。


「あなたが噂の黒騎士殿ですか! お若い時に、王子を暴漢から救ったのだとか。お噂はかねがね聞いています! お会い出来て光栄です!」

 気圧(けお)される俺に向かって、彼は剣術について色々と尋ねて来て、果てには相手をして欲しいと続けて来たのだ。


 ノーティスは王宮騎士団に入ることを夢見る、一介の情熱的な青年だった。

 いつか王子に仕え、その身を捧げるのだという麗しい目標を掲げている。

 だがしかし、こちらを見る目のあまりの真面目さと尊敬ぶりに、俺は正直引いてしまったのだった。



 そうは言っても、彼はちゃんと、こちらの事情をわきまえている。迷惑にならないよう、剣の手合せはたまにしか願って来ない。

 その上きちんと、自分が成長したと感じてから、俺に声を掛けてくるのだ。

 少し生真面目すぎるところはあるけど、彼の根底にあるのは、剣がうまくなりたいという純粋な思いだった。それは俺も同じだし、いい練習相手であることは間違いない。



「分かった、じゃあ明日の昼休みはどうかな」

「ありがとうございます。それでは是非」

 麗しく微笑む白騎士を横目に、アルフレッドはスープの残りを平らげると、こう告げた。

「ご苦労なこった。それじゃ、俺は先に失礼するよ」

 そのまま、皿の乗った盆を持って立ち上がった。

「昼休みも剣を振るなんて、物好きな連中だ。まあ、好きにするといい」

 そのまま食堂の出口へ向かってしまう。


 ここでは身分の差は関係なく、自分の食べたものは自分で運ぶのだ。まあ規則を守る律義さはいいとして、その素っ気ない態度はどうにかならないのだろうか。

 俺やこの騎士は良くても、気難しい人間の場合は、誤解を生むかもしれないだろう。


 そんなことを考えていると、王子がふと立ち止まり、振り返った。

「ああそうだ。俺、この後スノウベルと同じ授業があるんだ。彼女に試合のこと、伝えておいてやるよ」

 去り際に放たれた言葉に、俺はハッとする。

「彼女、きっと見に来るぞ。そこでいいところを見せてやるといい」

 にやにやしながら、彼はひらひらと手を振った。

「俺も見に行ってやるよ。まあどっちに転んでも面白いから、俺はどっちも応援しないけど」

 そう言って、さっさと食堂を出て行ってしまう。


 この男、完全に面白がっている。

 まあそれは昔からなので、今更どうとも思わないけれど。

 それより、俺も会う機会が少ないスノウベルと同じ授業だということが、ちょっとだけ気になってしまう。


 元々の流れだと、スノウベルはこいつに惚れることになるのだ。

 今のところそんな素振りは見せていないけれど、女の子って本音は口にしないって言うから、俺は少しだけ心配になってしまう。

 彼女が恋心を隠しているんじゃないかとか、そんなことを悩む時もあるのだ。


 でも今のところ、彼女と一番心の距離が近いのは、俺だと信じている。

 この食えない男よりは、俺に心を許してくれていると思いたい。最近はなぜか素っ気ないけど、気にしたら負けだ。うん、気にしては駄目なのだ。




 俺はちらりと、残された白騎士を見る。

 彼は不思議そうな顔をしていたが、俺は一人、決意を新たにした。

 入学当初は、俺の方が少しだけ実力が上だったのだが、こいつは少しずつ、腕を上げてきている。

 もちろん俺も厳しい鍛錬を続けている。

 しかし最近では、こいつに負けることもあり、五分五分といった感じなのだ。

 明日の試合、負けられない。

 俺は放課後も残って練習をすることに決めた。まあ隣の白騎士も、同じことを考えているんだろうけど。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ