葉梳姫と菜乃
最近、葉梳姫に変化があったことを菜乃は感じている。一時期、男子から告白されたり、振られたり、女子から距離を置かれたりして、精神的に不安定な時期があったので、ほっとしていたのだが。
「何かあった?いつもと違うじゃん」
菜乃はまた告白絡みで思い悩んでいるのかと心配する。入学の時からその大人びたスタイルで告白されることが多かった葉梳姫は、付き合ってもすぐに別れの言葉を言われ、いつしか告白されることを敬遠するようになった。そのせいか、最近はコクられることも少なくなったが。
「菜乃ちゃん、菜乃ちゃん!犬の散歩で会う人がいて・・・」
葉梳姫は幼い声で話し出す。
「な、何!?ストーカー?」
「ううん。犬の散歩してる人・・・」
「ふうん・・・で、どんな人?」
葉梳姫の説明不足の会話を根気よく聞く。
葉梳姫は少し考えてから、
「高校生くらい?」
「イケメン?背は?」
菜乃は興味を持ったようだ。
「イケメンよくわかんない。普通の人。背は170くらい?」
(んだ、イケメンじゃないのか)
菜乃は途端に興味を失った。
その後、葉梳姫が延々とポメの魅力について語っていたが、菜乃は生返事をするばかりだった。
小学校の時、既に身長が150cmを超えていた葉梳姫はクラスでもやたら目立っていた。長身で服装も周りに似合うと言われ、ホットパンツやミニスカ、タンクトップ、ノースリーブを着ていた。モデルのように体が細く、男子に注目を浴びていた。連日告白され、何人かと付き合ったこともある。だけど、外見と内面のギャップについていけず、悉く振られてしまった。葉梳姫は内気で同学年の娘よりも心が幼かった。菜乃は気づいていたが、独り勝ちの葉梳姫に、最初は好意的だった女子も敵対するようになる。
さらに、下校途中に高校生から告白されるに至り、学校側も介入することになる。日本で一番ランドセルが似合わない小学生とも言われた。
中学生になっても、告白されることは後を絶たなかった。特に、野球部のイケメンとかサッカー部のイケメンとかバスケ部のイケメンとか自分に自信のある男子(菜乃目線です。)に告白されることが多く、逆に、あまり目立たない男子にも人気あった。容姿的には普通だったので、それなら俺もと言う自分に自信のない男子のターゲットになっていた。
「普通の人ねえ・・・」
ため息交じりに、
「あれだけイケメンに告白受けといて、よく言うわ」
と苦笑した。
「べ、別にこちらから告白頼んだわけじゃないし・・・それに、私、美人でも可愛くもないし」
「ま、、はずきの場合、手足が長くて身長も高くて・・・他同年代の娘に比べて大人びてるとこが受けてるのよ」
(それと大人びた外見と内面の幼いところのギャップがなんとも・・・ほとんどの人は気づいてないが)
「背が高いのは気にしてる」
葉梳姫は口を尖らせて言った。せっかくの長身なのに、葉梳姫にはコンプレックスに感じているようだ。
また、服装も中2を境に体のラインのわかるようなタイトなものは着なくなり、ゆるカジと言うか、ゆとりのある服を好んで着るようになった。
「大人っぽい服、好きくない」
(そうなんだよねえ)
セクシーな服や落ち着いた感じの服は彼女の体型には抜群に似合っていると思うし、正直男受けもいいのだが、本人は不本意らしい。
自分の内面に照らし合わせ、葉梳姫はイメチェンを断行してようだ。彼女の目論見通り、最近は告白されることもなくなった。
「菜乃ちゃんだって、可愛くてモテるじゃん」
菜乃はポニーテールやサイドテールが似合う可愛い顔をしている。スポーツをしていたこともあって、体のメリハリもしっかりある。葉梳姫が知っているだけでも何人かと付き合っていたはずだ。でも、性格的にあっさりしており、不仲になるとすぐ別れてしまう性向があった。
(まあ・・・はずきのおこぼれを狙ったり、それなりにコクられることもあったけどね)
菜乃は独語した。
見た目、異なる魅力のある二人はやたら目立つのだ。