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犬の散歩友達  作者: MOCHA
4/24

頭突き

 帰宅後、いつものようにこむぎが散歩を期待して一貴(かずき)にじゃれついて来る。いつにも増してこむぎのテンションが高かった。

 胴輪を装着し、リードをつければ、戦闘態勢終了(笑)。外に出ると、鍵を掛けるのも待ち切れないようにこむぎが走り出す。いつもの光景だ。

 自宅から5分歩けば「犬の散歩道」に辿り着く。一貴は少し緊張の面持ちで散歩を続ける。

(あっ・・・)

 一貴は向かいからやって来る「彼女」に気がつく。ベージュのボリュームのあるニットに、デニムのワイドパンツという出で立ちだ。いつもより服装に気合い(?)が入っていた。二人は見る見るうちに近づく。

(よし!)

 一貴は意を決し、会話ができる間合いに近づき話しかけようとした。


 一瞬の出来事だった。

 いつもより先行していたこむぎが相手のパグに向かって走り出し、あろうことかその勢いのままパグに頭突きをかましたのだ。

「!」

「!」

 二匹はその場で引っ繰り返った。

 二人は唖然として、しばらく身動きができなかった。


 先に我に返った一貴が慌ててこむぎに近づく。

「だ、大丈夫かこむぎ」

 一貴はこむぎを抱き上げる。特に外傷はない。失神しているだけのようだ。

「そらちゃん!、そらちゃん!!」

 ワンテンポ遅れて女の子が飼い犬に近寄る。そらちゃんと呼ばれたパグは、道路で大の字になってやはり伸びていた。ちょっと間抜け面だった。


「ぷっ・・・」

 女の子が変な声を発したので、一貴は女の子の方を思わず見てしまった。

「すいません。犬、大丈夫ですか?」

 女の子は下を向いたまま肩を震わせていた。

(やべっ!)

 こむぎの突飛な行動が女の子を怒らせたと思い、一貴は蒼褪めた。・・・と思ったのも束の間、

「ぷっ・・・くっくっくっ・・・あはは!」

 怒ってるのかと思いきや、女の子は肩を震わせて大笑いしていた。

「間抜け面?」

 一貴が思わず突っ込みを入れると、女の子はパグの頭を撫でながら爆笑していた。

(意外に子供っぽだな)

 一貴は冷や汗を掻きながらも、彼女の外見と声との違和感を感じた。


 女の子の笑いが落ち着いてから、一貴は再度謝罪した。

「ホント、すいませんでした。犬、大丈夫ですか?」

「いえ・・・事故ですので」

 女の子はパグを介抱しながら首を横に振った。一貴は申し訳なさそうに、

「何と言うか・・・ウチのこむぎが頭突きするとは」

 女の子が再び顔を背けた。笑っているらしい。一貴の言葉が女の子の笑いのツボに嵌まったらしい。一貴は苦笑するしかなかった。

「こむぎちゃんって言うんですか?」

 笑いをおさめた女の子が問う。

「うん。ひらがなで『こむぎ』。ポメラニアン系の雑種」

「ポメのミックス・・・純血種かと」

 よく言われる。こむぎは無駄に顔が整っているため、純血種とよく間違えられる。よくよく見ると、顔に柴犬か豆柴の風貌が見受けられる。

 一貴はちらっとパグを見た。その視線に気づいた女の子が、

「ひらがなで『そら』、パグの純血種」

 と説明した。

「そらちゃんか。可愛い名前だね」

 一貴がそう言うと、女の子はちょっと嬉しそうな顔をした。

 二匹はしばらくして目を覚ました。


「もしそらちゃんに何かあったら、ここに連絡して。すぐに応対するから」

 一貴はスマホを取り出し、電話番号を女の子のスマホに送る。女の子も電話番号を一貴のスマホに送った。

「し、しらいしかずき・・・さん?」

「そう、みんなからはイッキ(音読み)って呼ばれてる」

 一貴は補足しながら、スマホを見た。『永嶺 葉梳姫』と表示されていた。

「えっと、ながみねは・・・」

「はずきです。ながみねはずき」

 女の子は補足した。

 二人は少し犬の話をした。ポメやパグのこととか、飼い始めてからどのくらいなのかとか。お互い、犬好きだった。

「えっと・・・」

 一貴は聞こうかどうか躊躇った。

「はい?」

 葉梳姫(はずき)は一貴を見た。一貴はやっぱり聞いてみることにした。

「今日・・・いつもの服装と違うね」

「あ・・・今日帰りが遅くて、散歩着に着替える暇がなくて学校の服装のままで来たから・・・」

 葉梳姫(はずき)は恥ずかしそうに俯いた。

「その・・・いつもの服もいいけど、その服も似合ってる、と思う」

 自分で言いながら、照れくさくて一貴はそっぽを向いた。

「お世辞なんていいですよ」

 空の事があって、一貴が気を遣ったと思われたらしい。

(ま、いいか) 

 一貴はもう一度そらの事を念押しした。

「うん、わかった」

 二人は別れの挨拶をして、その場を離れた。数歩歩いてから、 葉梳姫(はずき)は立ち止まって振り返った。こむぎが尻尾をフリフリしながら歩いているのが見えた。

(こむぎちゃん・・・か)

 葉梳姫(はずき)は薄く微笑した。


(そらちゃんと、永嶺葉梳姫(ながみねはずき)ちゃん・・・か)

 一貴は 葉梳姫(はずき)の名前を心の中で反芻していた。その横で、こむぎが何故かドヤ顔をしていた。

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