一貴と辻村
休日-
一貴は中学以来の親友である辻村基晴と大薙駅前をぶらついていた。
一貴が住む大薙市は首都圏に程近い人口30万人が住む県内の地方都市である。隣接する人口70万の懸吏市に大型ショッピングモールがあるため、大薙駅前はこれといった大型店舗もなく、個人商店が多いくらいである。ぶらつくぐらいであれば、人混みの多い懸吏駅前より地元でもある大薙駅前の方が近くて気安いのだ。とは言え、休日ともなれば、それなりに人も溢れている。
いくつかの店を冷やかした後、疲れたのでベンチに腰掛け、休憩していた。
4月の初めに比べ、幾分陽射しが強くなったように感じられた。一貴が横を見ると、基晴がスマホと格闘していた。画面には女の子らしき名前が羅列されていた。
「相変わらずもてんな」
一貴は苦笑する
「・・・まあな・」
基晴は画面から目を離さずに生返事をした。
「そのうち、彼女に刺されるぞ」
ようやく基晴が画面から目を離す。
「ま、その時はその時だ。・・・ってか、こんくらいで騒ぎ立てるようじゃ、俺の彼女なんかやってられないさ」
基晴はイケメンである。その上、チャラい。ちゃんとした彼女がいるにも関わらず、普段から女の影が見え隠れしている。恐らく、浮気も一度や二度ではないはず。基晴の今の彼女は寛容と包容力があり、とても同学年とは思えなかった。それが諦念から来ているものなのか、元々の彼女の性格なのかは判断しかねた。一貴は彼女の背後に後光のようなものを感じていた。仏様なのかと疑ったこともある。南無南無・・・
「イッキの方だって、高1の時、クラスの女の子と仲良かったじゃん。」
基晴が一貴に話を振った。
「女子だけじゃなくて、高1の時は・・・ホント、クラス全員が仲良しって感じで恋人ができる雰囲気じゃなかったなあ」
一貴は懐かしそうに語る。
「楽しかったぜ。クラスの皆で遊びに行ったり、クラス全員で同じ服着て登校したり」
ちなみに、大薙市にある中学校・高校・大学は自由服装の登校が認められている。要は私服登校が可能である。指定の制服もあるが、制服派はどちらかというとカスタマイズするアイテムの一つとして使われていたようだ。スカートの丈が違ったり、オリジナルのお気に入りのタイを使っていたり、ワッペンが貼ってあったり・・・使用するネクタイやリボンも人それぞれで、要するにファッションの一部として取り入れられていた。
「小学校じゃあるまいし・・・」
基晴は揶揄した。
「いや、ホント。和気藹々としてて、クラスが一つの家族みたいな感覚だった。」
一貴は遠い目をした。
(ま、そういうのもありなのかな)
基晴は思った。
「で、最近は?」
「実は・・・気になっている娘がいる。」
「え・・・誰々?大学の女か?」
基晴はスマホを閉じた。随分食いつきいいなと一貴は苦笑した。
「違う。・・・たぶん近所の娘かな。外見からして、高校生くらい」
一貴は犬の散歩ですれ違うことを話す。
「声かけりゃあいいじゃん」
「なかなかきっかけがねえ・・・」
「犬の散歩してんなら、犬をダシにすればいいじゃん」
基晴は不思議そうに言った。
「実は俺もそれ考えてる」
実際、それしか方法がないことを一貴も気づいていた。




