それから・・・(エピソード)
最終回です。
梅雨が終わり、季節は夏。一貴と葉梳樹の学校は夏休みに入っていた。
一貴は、夏までのバイト代で購入した軽の中古車で葉梳樹を迎えに永嶺家の玄関前に来ていた。車を停車させてドアを開けると同時に葉梳樹が大きめのバッグを持って玄関から飛び出してきた。
「おはよう」
「うん、おはよう」
葉梳樹は既に後ろのドアを開け、バッグを押し込んでいる。今日の葉梳樹は、麦わら帽子を被り、トップは緩めのパーカ、ボトムは珍しく膝丈ぐらいのふんわりとしたスカートを穿いていた。もしかすると、中は水着を着こんでいるのかもしれない。
急くように車に乗り込もうとする葉梳樹を玄関から出てきた母親が呼び止めた。
「待って待って、葉梳樹ちゃん。タオル多めに持って行きなさい」
葉梳樹はめんどくさそうに母親からタオルを受け取る。
「お早うございます」
一貴は葉梳樹の母親に挨拶をした。
「今日は葉梳樹の事よろしくね」
葉梳樹の母親は笑いながら何気にプレッシャーを掛けてきた。
「夕方までには帰ってきますので」
一貴は丁寧に受け答えした。
「普段から葉梳樹の家庭教師やってくれているのに、車で海まで連れてってくれるなんて申し訳ないわ」
実は夏休みから、中学3年生で受験を控える葉梳樹の家庭教師をやっている。例の三陽の埋め合わせだがフォローの内容がこれだった。ひと悶着はあったらしい。葉梳樹の父親が、娘の家庭教師に男の大学生はと難色を示したのだ。だが、
「葉梳樹ちゃんと白石さんの息子さん、4月から男女交際的に付き合っているのよ。つまり、葉梳樹ちゃんの恋人よ」
父親はその事を初めて知り、絶句したという。
「それに、向こうは別にバイトするから、家庭教師代はいらないそうよ。こんな好条件、滅多にないわよ」
懐も痛まないし、葉梳樹の恋人と言うことは、それなりにしっかり葉梳樹に勉強も教えてくれることは想像できた。別の勉強を教えられては困るが・・・。結局、反対する理由が見つからず、母親に押し切られた。
葉梳樹の家庭教師はだいたい週3日のペースでこなしている。もっとも、葉梳樹の受験先は大薙高校であり、試験はあってもよほどのことがない限り不合格になることはない。それに、葉梳樹は学業に関しては意外と優秀だ。試験でも上から50番ぐらいである。家庭教師、いらないんじゃないかと言う意見もあるが、葉梳樹に黙殺されたらしい。
「かず、早く」
先に車に乗り込んでいた葉梳樹が自動ドアを開け、一貴を急かした。
「ああ悪い、はず」
一貴は挨拶もそこそこに車に戻った。車のドアを閉めるとき、玄関のドア越しにちらっと人影が見えた。葉梳樹の父親かも知れない。家庭教師を始めたので、何度か挨拶は交わしたことはあるが、ほとんど会話らしい会話はしていない。お互い距離を置いているところがある。
(いずれ、ちゃんと挨拶しないとな)
一貴は車のエンジンを掛けながら思った。
「あ、海見えたよ、かず」
葉梳樹が気持ちが高揚したようにはしゃいだ。
「ああ・・・そうだね、はず」
夏前から二人の呼び名は変わっていた。白石一貴は「かず」、永嶺葉梳樹は「はず」、たぶんこれからも二人はお互いに呼び合うのだろう。てか、これ以上の省略はムリ。菜乃と辻村はその呼び名を聞いて少しびっくりしていた。何せ、親友である二人にも使っていない呼び名なのだから・・・
「えっと・・・はず、水着は着てるの?」
一貴は車を運転しながら訪ねた。
「う、うん・・・向こうで着替えるの、大変だし」
葉梳樹の声がとたんに歯切れが悪くなった。
「えっと、どんなの?」
一貴は内心ドキドキしていたが、顔には出さずに聞いた。
「・・・着いてからのお楽しみ」
葉梳樹は水着の種類について教えてくれなかった。一貴的にはちょっと残念。
午前の早い時間に大薙海岸に到着したが、既に砂浜にはいくつかのパラソルが開いていた。
葉梳樹は脱衣所で着替えてくると言い、一貴はこの辺にパラソルを借りて設置しておく言い伝えた。海の家でパラソルを借り、荷物からブルーシートを砂浜の上に敷き、パラソルを砂浜に突きたてた。結構力がいった。パラソルを完全に固定し、一仕事終えたように一貴は日陰になったブルーシートにどっかりと座り、しばし休憩とした。数分後、
「お待たせ」
と背後から言われ、一貴は振り返った。タンキニの水着を着た葉梳樹が恥ずかしそうにもじもじしていた。タンキニ系の水着なので太腿の上部はホットパンツもどきで隠れていたが太腿の下部から下は露わになっている。葉梳樹の白くて長い足が夏の陽の下で映えていた。トップスもキャミソール風で普通の水着より露出度は低めだったが、腕は肩先から肌が露出し、首回りも肩甲骨が見え、葉梳樹的にはかなりの露出度だと思う。現に近くを通った人(女性も含めて)がチラチラと葉梳樹を見ていた。
「ど、どう?」
「うん、とっても似合ってる」
「えへへ」
葉梳樹は照れたように笑った。葉梳樹と菜乃が水着売り場で、葉梳樹と菜乃の妥協点を模索した上で選んだ逸品らしい。
「彼氏にアピールしたいけど、他の人にあまり見られるのはイヤ。そんな超難度の条件をクリアした」らしい。普段はセレクトしない赤を基調とした水着は、葉梳樹の胸の大きさと細身が強調され、一貴も目のやり場に困った。
「あんまり見ないで」
葉梳樹は恥ずかしそうに胸元を押さえた。でも、こっそりと耳元でささやかれた。
「セパレート部分は露出度低いけど、キャミソールとホットパンツとかを脱いだらビキニだから」
説明しなくていい、説明しなくていいと一貴は念じた。そんなこと言われたら、想像するじゃないか。ま、いずれにしても海に入る時はホットパンツとかを脱がざるを得ないのだろう。ちなみにビキニは空色らしい。
二人は軽く屈伸運動をした。
「行こうか?」
「うん!」
二人は手を繋いで夏の海に向かって砂浜の上を歩いていく。夏の焼けつくような陽射しが二人の姿を覆い隠した・・・




