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犬の散歩友達  作者: MOCHA
18/24

姉の|悪戯《いたずら》

 これで何回目なのだろうかと一貴(かずき)は思った。4月に出逢ってから、二人で犬の散歩をする回数も重ねてきた。最初は挨拶すらままならなかったのに、今日の日を思うと、一貴は深い感慨に浸っていた。 


 今日も二人で並んでこむぎとそらの散歩をしていた。ちょうど住宅街から「犬の散歩道」に入るところだった。一貴はいきなり後ろから抱きつかれた。

「一貴、捕まえた!」

 無邪気な声に一貴はびっくりした。姉の三陽(みよ)だった。

「危ねえな!」

 一瞬固まったこむぎが三陽(みよ)に気づき大はしゃぎし始めた。


 三陽(みよ)をもう一度注意しようとした時、一貴は今までに感じたことのない悪寒が走った。一貴は恐る恐る振り返った。

(恐っ)

 表情のない葉梳姫(はずき)が立ちはだかっていた。

「・・・誰?」

 声にすら感情がなかった。元々、高音でない葉梳姫(はずき)の声が重低音になっていた。そらがその場で尻餅をついていた。

「い、いや、これは・・・あね」

 葉梳姫(はずき)の目から一粒の涙が零れ落ちた。一貴は思わず言葉を失った。

 修羅場を感じ取った三陽(みよ)が、一貴からリードを奪い取ってこむぎを連れてとんずらをこいた。

 

「あ、逃げんな・・・」

 一貴は三陽(みよ)を追おうとしたが、泣き始めた葉梳姫(はずき)を放っておけなかった。

「はずき、あれは俺の実の姉だって」

 一貴は葉梳姫(はずき)に必死に弁明し始めた。葉梳姫(はずき)を宥めている間、そらに足を何度か噛まれた気がする。一貴としてはそれどころでなかったが・・・。

 昔の写真をスマホから引っ張り出し、何とか誤解を解き、葉梳姫(はずき)を家まで送る。さすがに葉梳姫(はずき)も悪いと思ったのか謝る。そらも地面で平たくなってる。

「何かあったら連絡して」

 一貴は葉梳姫(はずき)が家に入るまで見守っていた。ドアが閉まった瞬間、今までの疲れがどっと出た。足を引き摺るように自宅に帰るすがら、そう言えば葉梳姫(はずき)を自宅まで送ったのは初めてだったなと思った。


 自宅に帰った葉梳姫(はずき)はそらの世話をした後、食事も取らず自分の部屋に引き籠ってしまう。服も着替えずベッドにダイブした。一貴の姉を年上の恋人(?)と勘違いした自分が恥ずかしかった。

「恋人でもないのに」

 葉梳姫(はずき)は呟いた。じゃあ、仲のいい友達?違う気がした。気がつかないうちに、自分の心の中で一貴の占める割合が大きくなっていることに気づいてしまった。

「・・・どうしよう」


 足を棒のようにしてようやく自宅に帰り着いた一貴は、リビングでこむぎに餌をやっている三陽(みよ)を見る。三陽(みよ)は一貴に気づくと視線を逸らした。

「やらかしてくれたね、三陽(みよ)姉」

 一貴はドスの利いた声で言った。

「わ、悪かったって。まさか、あんな修羅場・・・もとい、泣いちゃうなんて思ってなかったんだって」

 三陽(みよ)は言い訳した。一貴は葉梳姫(はずき)を宥めるのにどれだけ苦労したかを懇々と説明した。その間小さくなっていた三陽(みよ)だったが、気が付いたように一貴の言葉を遮った。

「って、あの()、確か永嶺(ながみね)さんの一人娘だよね?」

「そ、それが?」

 一貴は急に狼狽えたように問い返した。

「あんたとあの()、どういう関係?」

 三陽(みよ)が悪そうな笑みを浮かべた。

「た、ただの犬の散歩友達だよ」

 一貴は平静を装い手を洗い、冷蔵庫から作り置きの麦茶を出し、コップに注ぎ、一気に飲み干そうとする。

「あの()、あんたにベタ惚れじゃん」

 一貴は麦茶を吹き出しそうなる。何とか堪え、そっぽを向く。

「まだ、付きあってないよ」

(キスはしたけど)

 と心の中で呟いた。


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