ファーストデート
郊外にある店。学校とも反対側であまり学生は来ない。
デート当日-
いつも犬の散歩で落ち合う十字路で午後1時に待ち合わせをした。
一貴は待ち合わせより10分前に来て、そわそわしていた。でも、1分も経たないないうちに葉梳姫が走ってくるのが見えた。どうやら自室から十字路が見え、一貴が来るのを待っていたようだ。トップスはいつもよりゆる度の少ないトレーナー、トレーナーの下にも汚れても脱げるようにもう一枚着こんでいるようだ。下もスポーティなジャージっぽいパンツだった。いつもより体のラインがわかるので一貴はちょっと目のやり場に困った。
「お、お待たせ」
「まだ時間前だから、走って来なくていいのに」
一貴は苦笑した。
「だ、だって・・・」
葉梳姫は息を弾ませながら、それ以上は恥ずかしくて言えないようだ。
葉梳姫が落ち着くのを待って、
「行こうか?」
と促した。
「うん」
葉梳姫は頷いた。二人がペットショップに向かって歩き出した。
ペットショップは十字路から徒歩で10分くらいのところにあった。
日曜の午後のせいか、家族連れや若い夫婦で混んでいた。
ここは他のペットショップとは違い、店の中全てが大きな柵で囲まれ、室内ミニ(?)ドックランの様相を呈していた。超小型犬から大型犬までおり、サイズ毎に仕切りが作られていた。同じくらいのサイズでも相性があるらしく、さらに細分化されて仕切りが区切られていた。
「何か、面白い」
店に入った瞬間から葉梳姫は目を輝かせていた。
既に午後1時を過ぎており、遊び疲れて寝ている犬のも何匹かいた。そういう犬は店員が抱き上げて店の奥に連れて行った。休憩用のゲージがあるのだろう。しばらくすると、同じ店員が別の犬を抱えながら、店の奥から出てきた。3歳くらいのチワワのミックスのようだった。その犬を見た途端、子供や若い夫婦から歓声が上がった。
(瞬売されそうだな)
2㎏ぐらいで、ミックスながら顔立ちが整っていた。目が覚めたばかりなのか、少しぼーっとしている。店員が柵の中に入れた途端、客の何人かがすすっと近寄り、撫で始めた。
「あんな可愛い子(犬)を捨てるなんて!」
葉梳姫は別の意味で興奮していた。
「いや、捨てたとは限らないし」
一貴は小声で葉梳姫を宥めた。
店員の数が意外に多いのも、柵の中で粗相をしたり、興奮して吠え出す犬を宥めたり、喧嘩を始めた犬の仲裁に入ったりするためのようだ。
(こんな仕事、犬が本当に好きじゃないとやってられないよな)
マメに動き回る店員に感心していた。
葉梳姫もマメに(笑)動き回っていた。運痴と言ってた割には動きが機敏だった。もしかすると、球技が苦手なタイプなのかもしれないと一貴は思った。学校の体育の授業って意外と球技や団体競技ばかりで、運動神経が悪くなくてもなかなか活かせない場合が多々あるのだ。
一貴そっちのけで葉梳姫は色々な犬種と戯れていた。一貴も念願のパグ(やっぱりミックス)を独り占めできてご満悦だった。
ドックランも併設されていた。しかし、飼い犬を連れて来なかった二人は仲には入らず柵の外から見るだけに留めた。
「サイズ毎に分かれてるんだな」
「向こうはフリーみたい。いろんなサイズの犬が混在している」
少しカオス状態だった。駐車場が広くないので、近隣の犬が多いのだろう。
「大薙市って犬の飼い率高いな」
二人は笑い合った。例の「犬の散歩道」でも十数匹とすれ違うのだから、妥当な線かもしれない。
「あれ・・・」
見たこともない店が出来ていて、一貴は足を止めて看板を見た。
「へえ・・・ドックカフェなんか出来たんだ」
一貴が何気なく呟いた。その途端、Tシャツの裾を引っ張られた。見ると、葉梳姫が目を輝かせていた。
「ん・・・入ろうか?」
「うん!」
入口の柵(犬の脱走防止用)の扉を開け閉めし、自動ドアから中に入る。中は思ったより犬臭くなかった。大きな換気扇が幾つも周り、今日は暖かいせいか、大きめの窓も網戸越しに開かれていた。ある程度しつけがされているのか、ペットシートや休憩する毛布以外は粗相しない犬ばかりのようだ。店員に案内されて、奥のテーブルに案内された。テラスに出られる窓際の席は一杯だった。テラスにも柵が設けられていて、柵に設けられた扉は施錠され、外からテラスには出入りできないようになっていた。
犬が所々に配置されていて(笑)、程々に騒がしく、気兼ねなく話せる状態だった。
テーブル・ソファは固定式(犬を挟まないための配慮)、もしくはクッションを立法体にしたような軽い椅子(?)も常備されていた。
二人はテーブル付きの椅子に座り、蓋付き(犬対策)のカップで、一貴はブラックコーヒーを、葉梳姫はミルクティーを飲んでいた。
何故かカフェにいる最中、一貴の足にブルドッグが突撃してきて、葉梳姫が腹を抱えて笑っていた。
ドックカフェではまったりとした時間が流れていた。
「楽しい?」
「うん。こんなに楽しい場所があるなんて」
葉梳姫がご満悦で一貴は何よりだった。