発覚
その日、辻村は珍しく一人で懸吏駅前をブラついていた。彼女と映画を見に行く予定であったが、ドタキャンになってのだ。仕方なく、スマホで女の子の位置情報を確認していた。
(なんだ、皆遠くだな)
今日は天気がいいので遠出しているようだ。
「おっ」
懸吏駅前の表示が一つあった。
「これは・・・」
逸原菜乃。最近知り合ったばかりの娘だった。
LINEでトークする。友達と別れたばかりで一人らしい。
『今、東口のベンチにいるけど、落ち合わない?』
菜乃の姿を認めると辻村はベンチから手を挙げた。その仕種だけで近くの女の子の何人かが辻村を見た。イケメンは凄い。
「今日は一人なんですか?」
菜乃はベンチに座った。今日の菜乃は薄手の淡色系のパーカーにジーンズ地のミニスカと、清潔感があってスポーティなファッションだった。この前のダブルデートの時も似たような服装だったので、きっとこれが彼女のデフォなんだろうと辻村は思った。
「今日は彼女さんと一緒じゃないんですか?」
「ドタキャン食らった」
辻村が苦々しい顔をすると、菜乃は笑った。
「あら、それは残念」
菜乃は辻村を見、
「じゃあ、あたしは彼女の代役?」
といたずらっぽく尋ねた。
「あ、わり・・・そんなつもりで呼び出したつもりじゃないけど・・・気分害したなら付き合わなくていいぜ」
辻村は困った顔をした。
「いや、そんなことは・・・いいですよ付き合ってあげる」
(イケメン嫌いじゃないし)
彼女持ちだ、いきなりイロっぽい展開にはならないだろうし。
二人で近くの喫茶店に入った。
辻村も菜乃も一人でどうしようかと思っていたので、いい暇つぶしになった。数時間後、夕方近くになり、二人は解散することになった。奢ると言った辻村を断り、ワリカンにした。菜乃がポケットから財布を取り出した。その拍子にポケットから別の物が床に落ちた。辻村はすぐに気づき、床から拾った。
「何か落としたぞ」
「あ、ありがとう」
辻村は菜乃に渡そうとした時、何気にパスケースの情報が目に入り、手が止まった。
「大薙中学生徒手帳・・・」
辻村はぼそりと呟いていた。
「あちゃー」
菜乃は不覚とばかりに天を仰いだ。
「やっぱ、中学生だったん?」
辻村はパスケースを菜乃に返しながら確認した。
「別に隠す気はなかったんですけどね」
菜乃は居心地悪そうに言った。
「いや・・・もしやと思ってたから。気にすんな」
辻村の第一印象は間違っていなかったと証明になった訳だ。
「まあ、そっちも勘違いしてるか気づいて知らない振りしてるかはわからんが、俺もイッキも大学1年だから」
辻村はカミングアウトした。
「ああ、やっぱり」
菜乃は頷いた。
「白石さんだけだったら、高校生かと思ったけど、辻村さんはどう見ても・・・それ以上かなと」
「あのな・・・一応俺も3月まで高校生だったんだぜ」
辻村は苦笑した。
二人は喫茶店の席に落ち着いた。
「逸原的には二人を応援ってとこか?」
「葉梳姫の気持ち次第だけど・・・うまくいって欲しいとは思ってる。葉梳姫の事はいつも心配に思ってる。だけど、私もいつまでも葉梳姫のフォローできるわけじゃない。支えになってくれる人になってくれれば。・・・ところで、私も二度くらいしか会ったことないですけど、ぶっちゃけどんな人なんですか?」
「友達のオレが言うのも何なんだが・・・ホントに普通なんだ。人間誰だって、変わったところや特徴があるもんだが、あいつはそれがない。普通の人間て、なかなかいないんだよな」
そして、今度はこちらが質問側だと言わんばかりに、
「答え辛いようだったら言わなくてもいいけど、彼女ってどんな人とつきあってたんだ?」
辻村は好奇心から聞く。
「そうですねえ・・・野球部のイケメンとか、サッカー部のイケメンとか、バスケ部のイケメンとか、逆にあまり目立たない男子にも人気あったなあ。葉梳姫、小学校の時から背が150cm超えてたし、手足長いし、モデル体型だったからねえ。モデルでスカウトされたこともあったよ。」
「何そのカオス状態・・・無茶苦茶難易度高いじゃん。無理ゲーだわ。ゲームバランス崩壊してんじゃん。クリアできんのか」苦笑い。
「ま、その当時は葉梳姫も服装とかに無頓着で、周りに言われるままタイトな服やミニスカとか履いていて注目の的になってたけど、さすがに自覚したのか、中2以降は服装ががらっと変わって告白されることも少なくなったね。それにあの娘、外見はアレだけど、性格は内向的で人見知りだったから。男子って、葉梳姫の外見だけ見て、勝手に夢見て、思ったとおりじゃないとすぐ別れる。そんなこと繰り返されたらトラウマよね。だから、葉梳姫、告白されても全て断るようになったの。」
(それでも難易度たけーじゃん。救いは犬の散歩で知り合ったことだな。イッキ、大丈夫かなあ)
辻村は心配になった。
「ま、とりあえず、今日の話は内緒にしてくれ」
「そうですね。二人に茶々いれたくありませんからね」
(でも、いずれバレるだろうな)
二人は思った。
「中学生はどう思います?」
「うーん・・・微妙。オレ的には対象外だな」
「みずきと白石さんは?」
「あの二人はそう言うカテゴリーで付き合い始めた訳じゃないし、いいんじゃね?」
菜乃は合点がいったように、
「ああ・・・犬の散歩が縁だもんね」
「そう言うこと」
辻村は菜乃の聡明さを感じた。