二人の関係
二人はいつものベンチに座り、話していた。
キスがきっかけになったのかどうかはわからないが、最近は犬よりも自分たちのことの話が多くなってきた気が一貴はしていた。ただ、違和感もお互いに感じ始めていた。話せば、今の関係が壊れてしまうのではないかという懼れもあったのかも知れない。
二人は話に夢中になり過ぎて、そらがお家に帰ろうよと葉梳姫に催促するようになった。
「こむぎもお腹空かしてきたみたいだから、そろそろ帰ろうか」
まだ話し足りなさそうな葉梳姫に一貴はそう言い立ち上がった。犬を言い訳にするのは一貴としては不本意であったが、そうでもしないと、葉梳姫は帰りたがらない。意外に我が儘なところがある。
(ちょっと、犬に良くないな)
葉梳姫との会話は楽しいけれど、犬の負担になることは避けたかった。一貴も犬バカなのだ。会話を切り上げた時、葉梳姫が少し不満そうだ。
(そのうち、デートにでも誘えたらな)
一貴は思った。
ちょうどその時人通りが絶えた。一貴はキョロキョロと周りを見回した。一貴が横を見ると、葉梳姫が何故か澄まし顔だった。そっと近づくと、葉梳姫は目を閉じた。二人はチュッとキスをして、人目を憚るようにそそくさとベンチを後にした。
(しばらくは基晴には言えないなあ)
(菜乃には黙っとこ)
二人は思いもよらぬ急展開に戸惑っていた。