反芻
葉梳姫は自室のベッドに突っ伏していた。犬の散歩から帰ってきた後、母親と視線も交わすこともできなかった。そう言えば、昔そんな歌詞の曲があったなとうろ覚えだった。今なら、その気持ちが葉梳姫にもわかるような気がした。あの時のことを思い返すだけでベッドで手足がバタバタと暴れてさせてしまう。直前まであんなことをするなんて思ってもいなかった。ホントに、何と言うか、自然な流れで・・・
LINEの着信音に葉梳姫はびくっとする。一貴からだった。
『こんばんは』
『こんばんは!』
『あの・・・』
『はい?』
『キスとかして、大丈夫だった?』
その言葉を見た途端、葉梳姫の頭が爆発した。何とかリカバーし、深呼吸して平静を取り戻した。
『大丈夫』
『よかった』
『?』
『何の予告もなくしちゃったから・・・嫌われたかもと』
『嫌うなんて、ない』
『じゃあ・・・』
『じゃあ?』
『またしていい?』
スマホの向こうで葉梳姫の顔は真っ赤だった。
『は、恥ずいこと言わないで!』
葉梳姫は一貴に見えないのに一度咳払いをし、再びスマホでタイプした。
『気、気が向いたら・・・』
あ、私のセリフが恥ずい。
『期待してる』
やっぱり一貴の方が恥ずいと葉梳姫は思った。
『・・・とは言え』
『はい?』
『当面は犬の散歩友達と言うことで』
『OK!』
LINEをOFFにした後で
「犬の散歩友達・・・か」
いいフレーズだと葉梳姫は思った。
しばらくして、菜乃からLINEが入る。いつもの他愛のない話から、一貴とのことを聞かれる。一瞬躊躇った後、今までどおりと答える。キスのことはしばらく伏せておきたかった。正直な話、葉梳姫の頭の中でも整理できていないから。それと、二人だけの秘密の共有という甘美な考えは、葉梳姫にとってこの上もなく、心地よいものだった。