二人の距離
最近、二人は葉梳樹の家の近くの十字路で待ち合わせ、一緒に犬の散歩をし、時にはベンチや木陰(「犬の散歩道」にあるベンチは3つで、競争率が高いのだ)で談笑したりしている。会話の内容から、葉梳樹が中学生ではないかと一貴は思い始めていた。一貴も地元で育ち、大薙市の小学校・中学校・高校に通っていた。葉梳樹が学校の様子を語る時、ぼかしていることが多いが、中学の時の施設と一致しているような気がしたのだ。最も、小学校・中学校・高校が隣接しているため、一貴の記憶も曖昧だ。ただ、二人ともその方面の会話は意識的に避けていた。
二人で散歩するようになって、最近近所の人の視線が気になるようになる。
まあ、若い男女(どう見ても家族には見えないだろう)が二人で並んで散歩しているのだから、目立つだろう。特に葉梳樹は目立つ。近所のおばさんだけでなく、たまたま通りかかった男の視線も感じられた。
葉梳樹の母親には感づかれている可能性はある。何せ、葉梳樹の自宅近くで待ち合わせているのだから・・・
(まあ、バレているだろうな)
一貴はある程度覚悟していた。そのうち、葉梳樹の親に声を掛けられるかもしれない。
近頃の葉梳樹の服装は、出逢ったばかりの時に比べグレードアップ(?)しているように一貴には感じられる。相変わらずゆる系の服装は変わらないが、もうちょっと大人っぽいコーディネートだったり、スカートの丈が少し短かったり、葉梳樹が言うところの学校着に近いように見受けられる。ただ、学校であまり目立ちたくない葉梳樹が丈の短めのスカートを穿くのは矛盾しているように思うが・・・
犬の散歩の時は、途中のベンチで談笑するのがデフォになっている。「犬の散歩道」にあるベンチは3つで、競争率が高いため、歩きながらの談笑もあった。犬の散歩しながらだと、犬に気を取られ会話も途切れがちになる。やはりベンチ座ってゆっくり談笑するのが一貴は好きだった。
「この前はね、そらが・・・」
葉梳樹との会話は相変わらず犬の話が多い。でも、出会った頃に比べ笑顔も多くなったような気がする。犬の話に夢中になっている葉梳樹は無防備になっている。肩がくっついたり、指が触れあったりすることがある。でも、気づかないことが多い。一貴的にはちょっとドギドキするのだが・・・
いつものようにベンチで談笑していると、話に夢中になった葉梳樹が身を捩った時、振れ合っていたお互いの肩がずれ、支えを失なって前のめりになった葉梳樹が一貴の身体に倒れかかった。
「ご、ごめんなさい」
葉梳樹が慌てて上体を戻した。
「い、いや・・・」
一貴は何でもないという素振りを見せる。
しばらくの沈黙。
同じタイミングでお互いを見る。見つめ合う形になる。数瞬後、二人は慌てて視線を逸らした。
二人は何とも言えない気持ちになる。
(なんか、波長が合ってる)
しばらくして、二人が同時に見つめ合ったのは必然だったのかもしれない。
二人は顔を近づけ、自然にキスを交わしていた。
数分のキスの後、二人は照れ隠しに笑い合った。
こむぎとそらが不思議そうな顔でお互いの飼い主の顔を窺っていた。