ダブルデート
突然の話だった。
電話で辻村から4人で遊びに行かないかと言われたのだ。
「唐突だな」
一貴は辻村の真意を測りかねた。
「葉梳姫ちゃんは菜乃ちゃんが誘ってるから、それ次第だけど」
もう菜乃にも話ついてんのかと、一貴は辻村の行動力に感心した。
「一応、ダブルデートって感じ?で」
「ダブルデートは永嶺さんには敷居が高いよ」
一貴は否定的だった。
「なら、イッキも誘ったら?」
「・・・そうだなあ」
辻村と電話を切り、ワンテンポ置いてからLINEに切り替えた。
辻村はスマホを置きかけ、菜乃からの通話履歴があることに気づく。
辻村は通話ボタンを押す。
「よっ!どうだった?」
「態度保留されたわ」
菜乃は苦笑した。
「そっかあ。ま、イッキ嗾けて、連絡させてるけど」
「ああ・・・それではずき、一度電話切ったのね」
菜乃は納得したように言った。
「まさか、イッキから同じ内容の話が行くとは思っていまい」
辻村はいたずらっぽく言った。
「はずきをうまく行く気にさせてほしいけど」
「何?逸原的にはイッキとあの娘をくっつけたい訳?」
「それは二人次第でしょ?ただ、機会を作るくらいはね」
ああそういうことねと辻村は頷いた。
隣接する懸吏市郊外の懸吏遊園地-
休日とあって園内は人で溢れていた。
いつもとは勝手が違うのか、葉梳姫はあまり男子には近寄らなかった。事前に葉梳姫があまりダブルデートには積極的ではなかったので、自然と女2人、男2人となることが多かった。
そんな様子を見て、
「はずきちゃん、よく来る気になったな。イッキ、どうやって誘ったんだ?」
「ま、いろいろと・・・」
一貴は言葉を濁した。
(こむぎ抱っこ券10枚とは言えない)
二人の間でしかわからないコミュニケーションの方法があるのだと辻村は悟った。
(意外とうまくいってるっぽいな)
昼食後、トイレに行ったり飲み物も買いに行ったりで4人は一度バラバラになった。
一貴がトイレから戻ってくると菜乃が一人でベンチに座っていた。菜乃は一貴に気づくと手を挙げて微笑んだ。フレンドリーな娘だと一貴は思った。辻村は自販機、葉梳姫は電話らしい。
「また口説かれてないだろうか・・・」
一貴は思わず呟いてしまった。菜乃が目ざとく反応した。
「よく知ってるわね」
一貴は、葉梳姫が犬の散歩途中に見知らぬ高校生風の男に口説かれていたことを話す。例の服装のことも。
「きっと見たんでしょうね。それで次の機会に口説いたと。あの娘、プロポーションいいから」
今日は空色のゆるトレーナーに、チェックのワイドパンツ(葉梳姫デフォ?)にスニーカーだから、それほどプロポーションの良さは目立たない。
「それは・・・ところでなんだけど」
「はい?」
「永嶺さんって、彼氏とかいないよね?」
「本人は何て?」
菜乃は質問返しした。
「はっきりは聞いてない。ただ、告白を断り続けてることは聞かされた。まあ、それから推測すると、特定の彼氏はいないのかなと」
一貴は自信なさげに菜乃を見た。
(ま、いずれわかることだしね)
菜乃は自分を納得させるように呟いた。
「うん、付き合っている人はいないよ。あの娘、学校では男子とも殆ど話さないから」
「それとなく聞いている」
一貴は同調した。
「今あなたに言えるのは・・・あの娘の外見に惑わされないで。あと、焦らせる訳じゃいなけど、あの娘、外見が大人びてるから、結構もてるよ?」
「ああ・・・2回もそういう場面に出食わしたし、痛感しているよ」
一貴は真っ直ぐに菜乃を見た。
(お、意外と本気だなこの人)
菜乃はそう思った。
電話を切り、皆の元に戻ろうとしたとき、ベンチで一貴と菜乃が話し込んでいるのを見て、葉梳姫は軽いショックを受けた。無意識に二人に近づいていた。
一貴はいきなりシャツの袖を引っ張られ、びっくりしたように振り返る。葉梳姫だった。
「何か、乗ろ?」
「あ、ああ」
一貴は戸惑いながらも、立ち上がり葉梳姫に向き返る。
菜乃はびっくりしたように主人公から離れる。葉梳姫の表情は前髪に隠れてはっきり見えなかったけど、怒りのオーラが感じられたからだ。
(何か、はずきって・・・)
「おお、悪い、待たせたな」
トイレから戻ってきた辻村が暢気に声を掛けてきた。菜乃の思考はうやむやになった。