4人の邂逅
ある休日-
一貴と辻村は懸吏駅前の歩道を歩いていた。ボーリングで野郎だけのガチバトルを展開し、3対2で一貴が辛勝した。腕前はほぼ互角だった。
「クソッ!あそこでボールが曲がりすぎなければストライクだったのに」
「基晴はテクニックに頼り過ぎなんだよ」
なんて他愛のない会話をしていた。
前を見たとき、一貴は思わず足を止めた。
「あっ・・・」
「どうしたイッキ?」
横を歩いていた辻村は一貴を見た。
「あの娘だ」
一貴は呟いた。
「あの娘って?」
「いつも犬の散歩で会う娘!」
前を見ると、二人組の女の子が同じく二人組の高校生ぐらいの野郎にしつこくつきまとわれていた。
「ナンパか・・・っておい!」
辻村の言葉を待たずに一貴が動いていた。
「永嶺さん!」
近くを歩く人が振り返るくらいの大声を出していた。葉梳姫が一貴に気づき、すすっと一貴に近づいた。その後を友達らしい女の子が追った。
「どうしたの?はずき」
急に走り出した葉梳姫に菜乃は慌てた。
「大丈夫?ナンパか?」
一貴は葉梳姫に声を掛けた。
「う、うん」
葉梳姫は困ったような顔をしていた。
「おい」
見ると、ナンパしていた二人組が一貴に近寄ってきた。その一人が一貴に突っかかってきた。
「こっちが先に声掛けてるだろ。邪魔すんな」
もう一人が相手が一人と見るや上から目線で相方に追随した。
(こんな往来で騒ぐなよ)
一貴は辟易したような顔をした。しかし、1対2では分が悪い。
「紳士じゃねえな」
そこに辻村が割り込んできた。そういや基晴もいたな。一人で対応するつもりだった一貴は少し安堵した。。
「悪いな。俺たち、その娘たちの知り合いなんだ。ちなみに、おたくら、この娘たちの知り合いか?見かけない面だが」
辻村がさして悪いとも思っていない顔で野郎二人を見比べた。
「ああ、そうだよ」
相手もすかさず言い返した。
(さっきの様子じゃ、どう見ても知り合いじゃないだろう)
一貴は内心苦笑した。
「違います。初対面です。」
葉梳姫の友達が反論した。
「自分たちで初対面だって言ってたじゃない」
葉梳姫の友達・菜乃は野郎二人を睨みながら言った。野郎二人はムッとした顔をした。
「おいおい、ナンパならもっとスマートにやれや。なあ、街子ちゃん」
辻村が野郎二人を牽制しながら菜乃に言った。菜乃はきょとんとした。
(話、合わせろや)
辻村が目で訴えた。菜乃は理解したように頷いた。
「ホントですよね、|鬼瓦《おにがわら》さん」
一貴は思わず笑いを堪えるように後ろを向いた。葉梳姫が不思議そうな顔をしている。一貴は大丈夫だからと頷いた。
辻村のこめかみが一瞬ピクリとした。菜乃はニコニコとしていた。
(いい度胸じゃん、この娘)
辻村と菜乃、一貴と葉梳姫。完全に蚊帳の外に置かれた野郎二人は急に意欲をなくしたようだ。顔を見合わせ、最初に突っかかってきた男が首を横に振った。もう一人はチッと舌打ちをし、二人は人混みに消えて行った。他のターゲットを探しに行ったのだろう。
「いつも口説かれているねえ」
一貴は苦笑いしながら、葉梳姫を見た。
「お、お見苦しいところを・・・」
葉梳姫は恐縮したように俯いた。
「この娘、大人っぽいからよくあるんです」
もう一人の娘・菜乃が補足した。菜乃は葉梳姫が無意識に一貴のシャツの袖を握っているのに気付いた。
「やあ・・・君だって可愛いじゃん。タイプの違う娘が二人連れだと、男には相乗効果ですげえ魅力的に見えるんだよ」
イケメンが気障な台詞をしれっと言ってるよと一貴は苦笑した。二人は満更でもないらしい。よくあることなのかもしれない。今日の葉梳姫は、黒系のベロアキャップ、ゆる系のクリーム色のタートルニット、シックなラクダ色系のプリーツスカート、スニーカーという如何にも外着という出で立ちだった。一方の菜乃はちょっと弛めのトレーナーに七分丈のパンツ、葉梳姫とは色違いのスニーカーを穿いていた。可愛さを強調しているらしい。
「それで?」
菜乃は葉梳姫に向き直った。
「どちら様なのか紹介してくれるかな?」
「えっと・・・」
「永嶺さんと犬の散歩で会う白石一貴です。こっちのイケメンは俺の友達で辻村基晴」
一貴がすかさず葉梳姫のフォローをした。
「私は逸原菜乃、この娘が永嶺葉梳姫。よろしく」
菜乃は返すように紹介した。
「菜乃ちゃんに葉梳姫ちゃんか。可愛い名前じゃない」
辻村がさり気なく二人を褒めた。流石にに女性にはそつがないと一貴は感心した。
「立ち話も何だし、予定がつけば、そこの・・・ファーストフードでお茶しない?」
辻村は主に菜乃を見て、誘った。一貴に聞いてたより若そうに見えたので、あまりお金の掛からない方を選択したのだ。
「助けてもらった訳だし構わないけど。はずきいい?」
「う、うん」
今だに一貴のシャツの袖を掴んでいる葉梳姫が断る訳はなかった。
4人は近くのファーストフードフードに入り、それぞれ飲み物を注文し、奥の席に座った。外から丸見えの窓際に座ってのまたのナンパ騒動は勘弁願いたいとの配慮だった。
4人は改めて自己紹介した。
辻村は思わぬところで女の子と知り合え、少しテンションが高かった。口説きモードに入りかけている辻村を制御するのに一貴は苦労した。
話の流れの中で、LINEのIDを交換しないとかという話になった。辻村の常套手段だった。
「LINEねえ」
菜乃は言葉を濁した。一貴は辻村を肘で突いた。
「初対面でLINEはまずくないか?」
「大丈夫だって。それに、電話より葉梳姫ちゃんに連絡しやすくなるじゃん」
「・・・・・」
辻村に小声で言われ、一貴は確かにと思った。通話だとすぐ出れない場面でもLINEでの遣り取りだけならできるケースはよくある。
「初めてで個人情報教えるのよくないんじゃ・・・」
葉梳姫は菜乃にぼそりと囁いた。
「や・・・あたしと辻村さんはともかく、はずきと白石さんは初対面じゃないじゃない。なんなら、白石さんにだけ教えたら?あたしは二人に教えるけど」
菜乃は意地悪そうに言った。葉梳姫はちょっとムッとした。
「それに、犬の散歩のことで用事がある時、電話より、LINEのメールの方が白石さんにも連絡取りやすいよ」
「・・・・・」
一理あると葉梳姫は思った。テーブル越しに座る一貴を葉梳姫は見た。ちょうど視線が合った。
(いいんじゃない?)
一貴が頷いた。
(わかった)
葉梳姫ははにかんだ。
(こいつら、目で意思疎通してんぞ)
菜乃と辻村は気づいた。
「じゃあ、いいかな?」
四人をスマホを取り出し、LINEのIDを交換した。
4人はファーストフードの前で別れた。
別々の方向に歩き出す二人組。
葉梳姫は一分も経たないうちに菜乃に問いかけた。
「ね、どうだった?」
「そうだねえ・・・白石さんは普通の人だねえ・・・高校生だと思うな」
「そ、そっか」
葉梳姫はちょっと不満そうな顔をした。
(それよりイケメン・・・もとい、辻村さんは遊び慣れてる感じだったな・・・)
葉梳姫と菜乃と別れてからしばらくして、一貴が辻村に尋ねた。
「永嶺さん、どうだった?」
「うん・・・顔はま、普通だねえ。身長170cmくらい?身長高いし大人びた体つきだし、確かに高校生ぽかったな。最も、オレ的には友達の菜乃ちゃんの方が好みかな」
辻村は服のせいでわかり難かったが、葉梳姫のプロポーションが抜群であることを直感的に気づいていた。
(ありゃ、色んな意味で色んなタイプの男にモテるな)
今日のナンパの時も、一方の野郎は明らかに葉梳姫狙いだった。それと・・・
「イッキ。おまえ、あの娘と随分仲良くなかった?」
「そうかあ・・・今日はあんまり喋れなかったじゃん」
一貴は首を傾げた。
その日の夜-
一貴は風呂の後、自室でスマホを手に取った。アドレスを開き、葉梳姫にメッセージを送信した。
『LINE、初めまして!』
すぐに既読がつき、一貴は嬉しくなった。