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犬の散歩友達  作者: MOCHA
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二人の出逢い

本来は短編小説ですが、連載小説の設定を覚えるため、種別を変更しています。

 4月も10日を過ぎると、満開だった桜の花も散り、葉桜の季節になっていた。桜の花に特別思い入れはないが、葉桜になってしまうと、それなりの寂寥感のようなものを感じてしまう。


 白石一貴(しらいしかずき)は、4月から日課になった犬の散歩をしている。飼い犬の名前は「こむぎ」。ポメラニアン系の雑種で、その風貌から見るに、柴犬系も入っているらしい。4.5㎏の小型犬で、純血のポメより少し大きめのようだ。御年3歳。メスだがヤンチャで、すぐ興奮して吠えまくるのが難点だ。それでも、親戚からもらってきた時より大人しくなったと思う。3年前に初めて飼った(マメ)(柴犬系雑種)が天に召され、家族がペットレス気味になった時にこむぎは白石家に迎えられた。その暴れん坊ぶりに豆のことも忘れるくらい面倒が大変だったことを考えると、家族にとっては良かったのかも知れない。


 今年の3月までは主に一貴の姉である三陽(みよ)が散歩を受け持っていたが、4月から三陽(みよ)が就職したことにより散歩ができなくなったため、一貴(かずき)が犬の散歩を受け持つことになったのだ。一貴の母親も散歩をすることもあるが、買い物の時間と被るため、8、9割方は一貴が散歩をしている。そんな訳で、一貴が学校から帰って来ると、こむぎが散歩に連れてけと騒ぐ。そんなこむぎを軽くあしらいながら、胴輪とリードを付け、一貴は散歩に出掛ける。雨の日も風の日も犬は散歩を所望するため(さすがに台風の日とかは無理だが)、意外に犬の散歩は負担が大きいものである。だが、その負担が苦にならないくらい今の一貴には楽しみがあった。


 一貴が使う犬の散歩コースは、一貴の自宅から5分くらいのところにある。ホントは〇〇小路という名称があるが、幹線から外れ沿線の住民の車しか乗り入れず、公園に隣接していて、空き地や植樹帯、ベンチが多いことから、近くの人は「犬の散歩道」と呼ばれている。「犬の散歩道」はほぼ直線で全長800m、徒歩10分くらいで大薙南公園に繋がるところで終わる。犬の散歩だと徒歩20分から30分くらいというところか。名前のとおり犬の散歩をする沢山の人と行き交う。


(!)

 一貴は嬉しさが顔にこみ上げるのを咄嗟に抑えた。前方から同じように散歩をしている女の子の姿に気づいたからだ。パグ(3歳くらいか?)を連れてゆっくりと近づいて来る。特に際立つような美貌ではない。普通の顔立ちだと思う。でも、女の子にしては背が高く(170cmくらい?)、服から覗いた手足はすらりと長く、大人びた外見であった。

(高校生くらいかな)

 それが女の子に対する一貴の第一印象だった。

 3月までは一度も会ったことはなかった。最も、3月までは週に1回ぐらいしか犬の散歩はしていなかったし、時間もまちまちだったので、たまたま出会わなかっただけかもしれないが・・・

 4月になって一貴がこむぎの散歩を初めてからは、ほぼ毎回のように見掛けるようになった。

 一貴はポメも好きだが、パグも一度飼ってみたいと思っていたので、パグを見掛けるとつい目が行ってしまう。こむぎとパグは互いに警戒してるのか、必要以上に近づいたりしない。でも、向こうの飼い主もこむぎが気になるのか視線を感じることがある。そして何より一貴は、パグの飼い主の女の子の容姿や仕種に好感を持ち始めていた。ゆったりめの白系のトレーナーにボリュームのあるパンツ(ガウチョと言うらしい)。犬の散歩ルックを上手に着こなしていた。何となくアンバランスな印象を感じることもあるが、一貴好みの服装だった。

 最も、出会うと言っても、気づいてからすれ違うまでの数分だけども・・・

 一貴とて、恋の一つや二つもしており、付き合ったこともあった。中学の時は1年近く続いていたが、別々の高校だったので、中学卒業とともに自然消滅してしまった。

 そんな一貴が犬の散歩も楽しみになるほどの女の子・・・パグとの出会いだった。

 犬の散歩が終わり自宅に帰ると、珍しく姉の三陽(みよ)が帰っていた。就職以来、平日はほぼ残業が続き、ブラック企業だと悪態を吐いていた。

 背が高く、容姿もプロポーションも悪くない三陽(みよ)だが、現在彼氏募集中らしい。恋愛下手とも言われていた。


 こむぎの手足を風呂場で洗い、餌を与えながら、一貴はさりげなく聞く。

「そういや、三陽姉(みよねえ)。この辺にパグ飼っている家ってある?」

「パグ?」

 三陽はビールを旨そうに飲み干した後言った。

「1丁目の田中さんとウチと同じ2丁目の永嶺さんくらいかな。どちらも奥さんが散歩してるような記憶がする」

 記憶を辿るように視線を遠くにやりながら答えた。さすがに今年の4月まで、こむぎを貰ってきた時から散歩しているだけあって詳しかった。

 いや、高校生くらいの()・・・と言いかけて一貴は口を噤んだ。勘のいい姉に詮索されるのは勘弁だった。

「それがどうしたの?」

 三陽(みよ)は何気に聞いた。

「パグとすれ違ったんだよ。・・結構可愛かった」

「ああ・・・あんた、パグも好きだものね」

 三陽(みよ)は納得したように笑った。 


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