土系の魔法使い
【土系の魔法使い】
自分の生活スタイルを探しに、就活神殿にやってきた。
大概の大きなこの町には神殿があるらしく、幸運にもこの町にもあった。
「ちょっと、その前に指輪の効果を確認しておこうかな」
自分のステータスを頭に思い浮かべる。
[ 名 前 ] ノバ
[ 職 業 ] 勇者
[ レベル ] 99(+999)
[ 生命力 ] 9999(+999999)
[ 技 力 ] 9999(+999999)
[ 腕 力 ] 999(+9999)
[ 耐久力 ] 999(+9999)
[ 知 力 ] 999(+9999)
[ 精神力 ] 999(+9999)
[ 早 さ ] 999(+9999)
[ 器用さ ] 999(+9999)
[ 運 ] 999(+9999)
[ スキル ] (多すぎて省略)
「色々おかしいけど、あくまでも指輪の検証だから目を瞑ろうかな・・うん、そうしよう」
怪しすぎる自分のステータスを本気で隠すため、指輪を付け再びステータス。
[ 名 前 ] ノバ(ノバ)
[ 職 業 ] 勇者見習い
[ レベル ] 1
[ 生命力 ] 999
[ 技 力 ] 999
[ 腕 力 ] 99
[ 耐久力 ] 99
[ 知 力 ] 99
[ 精神力 ] 99
[ 早 さ ] 99
[ 器用さ ] 99
[ 運 ] 99
[ スキル ] 無し
「おぉ!? 凄い!」
ステータスとしては、とても高いが勇者の見習いとは言え、この位必要なのだろう。
「これは期待できるかも」
急いでギフト『無職の助け』で無職になり、就活神殿へと入って行く。
神殿に入った瞬間、意外な言葉がかけられる。
「ようこそ。導きの神殿へ」
「・・えっ!?」
「み・ち・び・き・の神殿へ、ようこそ」
「あっ・・、はい・・」
「不埒な言葉が聞こえ、大切な事なので二度言いました」
就活神殿じゃなかったんだ・・。そりゃそうだよね・・
「本日のご用件は?」
「自分に合った職業を見つけに来ました」
「畏まりました。ではこちらへ」
以前、勇者になる時に使用したのと、同じアイテムが置いてある部屋に通される。
「では先ず、あなたの適性を確認しましょうか」
「お願いします」
「ではこちらの板に手を置いて下さい」
「はい」
神官の言葉通りに、前回と同じ様に板の上に手を置く。
「そのままじっとしていて下さい。何があっても手を離さない様に」
「はい」
「大いなる神よ。この迷える子羊に道をお示し下さい」
自分の周りの幾何学模様が、光り輝きながら点滅を繰り返しすぐに収まる。
「終わりました。手を除けて下さい」
「はい」
神官が板を確認すると、今の自分の適性を教えてくれる。
「土が強く輝いています。土属性の魔法使いになると良いでしょう」
「では、その職業でお願いします」
「うむ、承った。ではもう一度、板の上に手を着なさい。大いなる神よ、この迷える子羊に、新たなる道、土系の魔法使いに」
先程と同じ様に、幾何学模様が、光り輝きながら点滅を繰り返す。
「これで、あなたは土系の魔法使いとなった」
「ありがとうございます」
新しい職業の自分のステータスを見てみる
[ 名 前 ] ????(ノバ)
[ 職 業 ] 土系魔法使い
[ レベル ] 1
[ 生命力 ] 50
[ 技 力 ] 40(+100)
[ 腕 力 ] 5
[ 耐久力 ] 5
[ 知 力 ] 20
[ 精神力 ] 20
[ 早 さ ] 5
[ 器用さ ] 10
[ 運 ] 10
[ スキル ] 土系魔法(初級)
「ステータスは平均的だが、最初からスキルがあると言うのは素晴らしい。精進すれば、きっと優れた土系魔法使いになるだろう」
「努力します」
お礼と礼金を納め、導き・・就活神殿を後にする。あっ、逆だ。
ちなみに偽装の指輪を外すと、こんな感じだった。
[ 名 前 ] ノバ(ノバ)
[ 職 業 ] 土系魔法使い
[ レベル ] 1
[ 生命力 ] 50
[ 技 力 ] 9999
[ 腕 力 ] 5
[ 耐久力 ] 5
[ 知 力 ] 999
[ 精神力 ] 999
[ 早 さ ] 5
[ 器用さ ] 10
[ 運 ] 10
[ スキル ] 土系魔法(神級)、無属性魔法(神級)、技力回復量・速度(神級)、魔法効果補正(神級)、魔法制御(神級)、無詠唱技能(神級)、複数魔法同時起動技能(神級)、同一魔法複数発動技能(神級)、移動系能力群(神級)、経験値取得率(神級)、レベルアップ補正(神級)
「まあ、何と言うか・・、魔法使いに特化しているステータスとスキル・・だよね?」
やっぱりという数値だったので、指輪のありがたみが身に沁みて分かる。
再び偽装の指輪を着けて、身分証明書を得るために冒険者ギルドへと向かう。
名前はどうせ仮なので、土使いAみたいな感じで登録した。
新しい世界なので、冒険者ギルドでの説明をしっかり聞くと、ランクが存在し、依頼を受け報酬を受ける、罰則など、殆どシステムは同じだった。
武器屋や防具屋で一番安い装備を揃えて、道具屋で簡単に旅の準備を整える。
真新しい冒険者ギルド証を胸に、新天地の空を目指して飛んで行く。
神様に言われ、最初に目指すはこの世界の右下の三つの島の一つ。
「えーっと・・、砂漠のある島か・・。あれかな? 真ん中辺にオアシス・・と。うん、間違いないね」
この島は砂漠と荒地のに分かれていて、それぞれで国が存在する。
生活に厳しい環境だけど、それぞれにダンジョンがあり成り立っているらしい。
出来るだけ目立たない様に、町の近くへと降り立つ。
空を飛んでいる時点で目立つなって言うのは無理なので、無属性魔法で、姿隠しの魔法をかけておいた。
オアシスの町は、他の町と違ってあるべき物、城壁と城門が無かった。
「何でこの町には城壁が無いんだろう?」
不思議に思いながら、冒険者ギルドに入って行く。
冒険者ギルドの受付に座っていた職員に、冒険者登録証を渡しながら声をかける。
「先程この町に着いたのですが、少しお伺いしてもよろしいですか?」
「砂漠の国、冒険者ギルドオアシスの町支部へようこそ。どの様なご用件でしょうか?」
冒険者登録証を一目見た職員の目が、クワッと見開かれる。
「土使いAさん。職業は・・土系魔法使い、ですか・・」
職員がとても、とっても残念そうな、憐れむような表情を浮かべる。
「え、えーっと、何か・・問題でも?」
「土使いAさん、何故この町に?」
「えっ、えっ!? えーっとですね、師匠に修行に行って来いと放り出されまして・・」
「・・そうですか」
職員はどうすべきかと、悩ましい表情を浮かべた後、意を決して話してくれる。
「何故オアシスの町に、城壁が無いかご存知ですか?」
「いいえ、分かりません。不思議だなーとは思いましたが」
非常にざっくりとした、この世界の地図を開いて見せてくれる。
「これが世界全体です。右下の三つの島にはある特徴があります。ご存知ですか?」
「いいえ、知りません」
「城壁が無い事とに、この島の特徴が大きく関係しています」
「そうなんですか!?」
職員の口から、衝撃的な事実が明かされる。
「この世界の右下は、魔法阻害地域です」
「魔法・・阻害?」
「同じ魔法を使うのに、普通の場所に比べ技力が二倍、発動時間が二倍です。反面、射程距離は半分、威力も半分、命中精度も半分ほどとなります」
「・・・えっ!?」
魔法阻害領域と言う言葉の意味を知って、頭が真っ白になる。
「当然、そんな場所で城壁を造り上げる様な魔法を、行使する事は困難です。そして常に砂で埋まるのを防ぐように、継続的なメンテナンスが必要です」
「それが城壁を造らない、造れない理由・・」
「更にもう一つ、砂漠の国のモンスターの特徴は、砂の中を移動します」
「そ、それじゃ・・」
「土系のモンスターは総じて、土の耐性が非常に高いです。土系の魔法で、砂の中のモンスターを攻撃しても倒せないでしょう。索敵能力が弱い魔法使いが、砂の中から突然現れるモンスターに対抗できますか?」
「ぼ、僕には無理かも知れません・・」
ついこの間、転職したばかりの自分が、土系魔法のスキルを使いこなすのは難しいだろう。
「他にダンジョンとか、稼げる場所はありませんか?」
「砂漠の国にある、唯一のダンジョンであるピラミッドは地上部が、土系魔法に耐性や打撃系攻撃の耐性の高いサンドゴーレムやサンドスライムと言ったモンスターがいます」
「・・・・」
「地下部はアンデッドで、ゴーストやファントム、レイスと言った物理攻撃無効化モンスターが存在します。土系の魔法で倒せますか?」
「今の僕の実力では・・、無理かと」
「ご自分の能力と実力を把握できる事は、大変素晴らしい事です」
ここは自分の土系魔法使いが、正に不遇職となる場所であった。
「ど、どうしたら良いのでしょうか?」
「土使いAさんとお師匠様の問題ですから、私からは何とも。ただ言える事はただ一つ、無謀の極みですね」
「ですよねぇー」
確かに絶望的な状況であり、生活の基盤を築けるだろうか・・
不遇職で生活をすると言うのは、想像以上に大変である事を理解した瞬間だった。
しかし全く冒険者として生活できない訳ではない。
地中を移動するモンスターに対して、城壁も無く町の人はどうやって安全を保っているのか、職員に聞いてみた。
「モンスターも水は必要です。なのに、この湖の周辺には現れません。調査をしていますが理由は分かりません。今の時点では、この湖の水をモンスターが嫌っているのではないかと言われています」
他の町との往復も、このオアシスの水を持っていると寄って来ないらしい。
依頼の幾つかを見てみると、薬草や珍しい草の採集が存在する。
奇跡のオアシスの周辺では薬草が自生しているとの事だ。
「うーん、これからどうしようかなぁ・・」
日が沈み始める時間の少し前から、砂漠を歩いてみる。
この砂漠の環境は、日中は灼熱で、夜間は極寒となる。
活動に適した時間は、日の出と日の入りの時間だ。
僅かな草が見えなくなると、すぐに砂の中から何かが飛び出して襲ってくる。
「おわっ!?」
無属性魔法(神級)で、自動的に物理障壁と魔法障壁がかかっていたおかげで事無きを得る。
しばらくすると別の所から再び襲われる。
砂の中を移動した同じ個体なのか、別の個体や種なのか判別できない。
何とか反撃に転じようと試みるが、しかし・・
「えっ!? 魔法の発動が遅い!」
魔法が発動する際に、何か引っかかりを感じてスムーズに流れない感じだ。
「ストーンバレット、・・えっ、小さい!」
術の説明を読む限りでは、二の腕ほどの大きさが基準なのに、その半分ぐらいだ。
「なっ!? 全然届かない!」
下手をしたら、石を手で投げた方が効果が高い感じがする飛距離だった。
「・・なる程、魔法職に取って不遇の地なんだ・・」
何とか逃げ帰り、安全地帯で薬草の採取をして町へと戻る。
冒険者ギルドへノバが顔を出したので、敢えてニコニコした表情で声をかける。
「如何でしたか?」
「いやー、全く歯が立ちませんでした」
ノバは空笑いで答えながら、採取した薬草を渡す。
「薬草採取は常時依頼ですが、安全地帯ですので殆どお金にはなりません」
「通常依頼だったら失敗していたと思います。困りました」
しかし不思議にも、あまり困った様には見えない。
「これで土使いAさんも、懲りるでしょう。まあ、お師匠様との約束の件は、かわいそうではありますが」
宿代にも程遠い依頼料を受け取り、ギルドを出るノバを見送る。
簡単に食事を済ませ、宿で今後の事を考える。
「薬草採取だけでは、宿代にもならず生活は無理だと。オアシスの水を持っていれば、最低限の旅程の安全は確保される」
オアシスの水と言っても水筒程度ではダメなようで、最低でも樽程は必要らしい。
飲み水は持つ必要があるので、商隊として動く分には問題が少ないのだろう。
「珍しい草を採取するなら、お金にはなるけど、ソロで樽の水を抱えてはなぁ」
オアシス周辺にない、肉の柔らかくしたり、臭みを消す草の採取は高額の依頼だ。
オアシスの町は、どの町よりも離れており、砂漠を歩き、オアシスの水を持ち歩くと言う負担で、食糧品の物価は高めである。
そのためオアシスの町の周辺のモンスターも食べるのだが、臭くて固い。
何故かその肉の臭みと固さを取る草と言うのが、砂漠に自生している。
「何とも上手く出来ているよな、砂漠の国って」
そして土系魔法を一つ一つ確認して行く。
実は無属性魔法であれば、地中を調べる魔法もある。
しかしそれでは折角、土系の魔法使いとなった意味がない。
あくまでも身を守る手段に留めて、追々は土系魔法で何とかしたいと考えている。
神級ともなると、没ネタの様な魔法まで現れてくる。
例えばサンドアートである。その名の通り土に絵を描く魔法である。
この魔法を開発した魔法使いは、地面に魔方陣を描く訓練用に開発したらしい。
しかし絵に目覚めてしまい、より繊細な絵がかける様に、踏んでも消えない様に、徐々に絵が変わって行くようにと、凝りに凝ってしまった。
後に他の魔法使いが、魔方陣を描くサークルクリエイトと言う魔法を開発している。
そしてサンドアートは、土系魔法使いの上級にならないと覚えられない初級魔法であり、しかも絵心やストリー性が必要と言う、初級魔法の癖に、微妙に高い難易度の魔法となっていた。
ちなみにサークルクリエイトは中級魔法である。
そして僕が目を付けた魔法がある。
「アースコントロール。土を操作するための訓練魔法か」
魔法の真の力を発揮するためには、その属性をより詳細に知る必要がある。
ストーンバレットと言う魔法を、単純に習った通りに発動するのと、石を実際に触って、よりイメージを強めてからとでは、後者の方が威力が高い事が分かっている。
砂遊びを、技力を使って行うのがアースコントロールである。
「その応用版が、アースセンサーと言う魔法なのか」
アースコントロールの強化と言うか、応用と言うか、実際には固い柔らかい程度であるが、周りとの違いを調べると、どの様な形の物があるか分かるのである。
更に動いていれば、自分の掌を押し返してくる感覚が得られる。
「それでこれをこう組み合わせてれば・・」
土系魔法使いの不遇を攻略すべく、僕の夜は更けて行く。
朝早く砂漠へ、リベンジに出かける。
襲われた場所に近づくと、アースセンサーを発動し地下を調べ始める。
オアシスの効果が切れた辺りで、不意に何かが動くのを感じる。
少しずつ少しずつ近づいて来る。
「さてと、やってみますか」
アースウォールは土系の防御魔法の代表的な一つである。
石の様に固くした土の壁を目の間に作り出す。
ではこのアースウォールにスキルの『魔法効果補正』と『魔法制御』を加えるとどうなるか?
モンスターが割と纏まっている場所に向かって魔法を発動する。
「アースウォール!」
出来る限り高く速く、目の前に作り出し、途中で解除する。
「アースウォール 強制リリース!」
当然の如く、空中にモンスターは放り出される。
「同一魔法複数発動技能発動! ストーンバレット!」
落ちてくるモンスターにカウンターで、モンスターに合わせた魔法を発動する。
ストーンバレット一発では、当然複数のモンスターを倒す事は不可能である。
同一魔法複数発動技能は本来、詠唱して発動した魔法を、無詠唱で連発したり、強力な上級魔法を複数発動させる場合に有効である。
無論、それを発動できるだけの技力は必要になるが。
無詠唱で初級魔法を、同一魔法複数発動技能で連発するより、似たような中級のストーンショットガンや、ロックマシンガンの方が技力は使わない。
後になって、何て間抜けな使い方をしたんだろうと強く反省する事になる。
「ふぅー。これで何とかやっていけるかな?」
砂の上には、何体かのモンスターの死骸が落ちている。
オアシスの水を持っていれば、モンスターが砂漠で人間を害する状況が少ない。
またその近くにある町も、殆どモンスターの侵入がない。
とは言え城壁を作れない分、危険度も増すとモンスターの討伐依頼も多い。
つまり簡単に肉は手に入るのだ。
前にも言ったが、砂漠のモンスターの肉と言うのは、臭みが強く、固くて食べ難い。
この砂漠の国に自生する、臭みを取り、柔らかくする草とセットでないと引き取ってもらえない。引き取ってもらえるとしても、かなり買い叩かれてしまう。
それらの草はオアシス周辺では見つからず、希少で貴重となっている。
何日も砂漠をさまよって、入手するしかない。
保存食など買い込み、日中や夜間は無属性魔法に頼って探し求める。
「全く見つからない・・」
当たり前である。砂漠に来て日も浅い人間が、貴重希少な草を見つけられるはずがない。
しかし多少なりとも街中に出回る以上、全く手に入らないわけではない。
独自の採取場所や、見つけ方と言うのを、他の冒険者たちは持っているのだろう。
モンスターは次々に現れ、肉は幾らでも手に入るが意味がない。
仕方なく他のモンスターの餌にと、魔石だけ取って砂漠に捨てれば阿鼻叫喚である。
魔石は普通の動植物とモンスターの違いの一つで、モンスターの体内に出来る物だ。
色々な性能や性質があり、色々な場面で使われる割と必需品である。
「これじゃ生活の基盤は築けないなぁー。後はピラミッドダンジョンだけど、土系魔法じゃ厳しそうだよね・・」
ダンジョンから得られるアイテムや財宝が、砂漠の国の冒険者の大切な稼ぎの一つである。
餌となった死骸に集まるモンスターを見ながら、これからの生活の事を考え答えを出す。
「うん、無理。神様に他の場所を紹介してもらおう」
僕はあっさりと、砂漠の国での生活を諦めた。