ダンジョンの狩人
【ダンジョンの狩人】
ダンジョンに潜って、地下二階への階段の前で一人佇む。
「さあーてっと、どうするかな・・」
この国のダンジョンの特徴は、入り易いが出にくいと言う事である。
深く潜れば潜る程、帰ってくる事は容易ではない。
そして広さ故か、このダンジョンをクリアした者はいない。
正確には、十階層以降の情報がない。
一階から三階層は、不定期に不規則で位置が変わる、衝撃を与えると爆発する壁。
四階から六階層は、不定期に不規則で位置が変わる、爆発しない壁。
七階から九階層は、不定期に不規則で位置が変わり、勝手に爆発する壁。
ダンジョンが見つかってから、今まで十階層への階段が見つかっていないのだ。
「ま、まあ、三階層までなら、帰り方確立されているし・・」
ちょっと弱めの覚悟を決めて階段を下りてみる。
二階層、三階層は、一階層を越える戦場だった・・
「どけ!!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?」
どどーんと爆発に巻き込まれたかと思うと、必死の形相で冒険者たちが向かってくる。
転がり込むように階段を駆け登るが、後ろからモンスターが現れる。
「そ、そっか、爆発にモンスターが集まるから、逃げる方向に・・」
言うや否や弓を射る。スキルを組み合わせ、通路の中央で倒す様に調整する。
こちらが誘爆させない様に戦っても、逃げ帰る様に階段に殺到する冒険者はそうでは無い。
「か、勘弁してくれ・・」
次々と集まるモンスターを、スキルの特性と、ダンジョンの特性をコントロールして倒しながら進んでいく。
このダンジョンには、二つ特性がある。
一つ目は、移動し爆発する壁のため、マップは作成できない。
しかし変わるのは壁だけで、階段の位置は変化しないのだ。
自分の大体の位置を把握できていれば、階段に辿り着くのは難しくない。
「問題はここからか・・」
四階層への階段を目にして呟く。
壁を破壊しながらの移動はできない、不定期不規則に通路が変わる真の迷宮。
そして二つ目は、各層の出現するモンスターは、他のダンジョンと同レベルである。
しかし、ドロップするアイテムの質が違う。
一階は、帰還し易い事もあるせいか、モンスターに見合ったドロップ品。
二階から三階層は、他のダンジョンで言う所の十階層程度までがドロップする。
それ以降は、四階層が二十階、五階層が三十階、六階層が四十階と質が上がる。
モンスターは弱いのにである。
「四階層のアイテムがあれば、この国での生活が保証されるよな」
なかなか冒険者が帰って来ないから、アイテムは高値での買い取りではある。
勿論、持って帰れればと言う前提条件は着くが・・
「良し! 行くか!」
意を決して階段を下りる。
階段を下りた先に広がるのは十字路。
「初っ端から方向感覚を狂わせるつもりか・・?」
そんな事を言っている傍から、三方向が先の方で通路が変わる。そして・・
「えっ!? このダンジョン本気か?」
三方向からモンスターが現れる。
逃げるなら今のうちに残る一方向に、戦うならどれか一方向に集中せざろう得ない。
「こ、これ繰り返されたら、自分の位置が分からなくなるって!」
三方向に続けざまに矢を放ち、殲滅させる。
一方向のアイテムを取りに向かうと、元来た道には壁が立ち塞がっていた。
「・・えっ!? ア、アイテムは?」
そんな事を思っている間に、別の壁が動く。
スキル『気配探知』で分かっていた、壁の向こう側のモンスターとかち合う。
「なっ!? このダンジョン殺す気満々か!?」
確かにモンスターは弱いが、いきなり目の前に現れるのだから堪った物では無い。
「も、もしかして・・、移動させるように通路が変わるのか?」
こんな凶悪なダンジョンでは、誰も生きて戻る事は出来ないと考える。
「じゃ、じゃあ他の冒険者たちは・・、そうか! パーティでマッパー役を持つんだ!」
パーティであれば一人ないし、複数がマッパー役をしながら戦闘する。
そして全員が、全ての壁は必ず消えると周囲を警戒しているはずだ。
「こ、これはソロにはキツ・・」
殆どの冒険者は、自分が道具屋で手に入れた様に、階段の位置をギルドで入手しており、マッパーがほぼ一直線に向かう様にパーティをコントロールしているのだろう。
厳しいダンジョンながら脱出できる理由は、それしか考えられない。
既に向かうべき方角が分からず、元来た道も既に分からなくなっていた。
仕方なくスキル『気配探知』で冒険者たちを見つける。
彼らの向かう方向に付いて行ったのである。
「五階層への階段か・・」
彼らは上に戻るのではなく、下に向かうパーティだった。
「下への階段は幾つかあるから、そのうちのどれか何だろうけど・・」
仕方なく更に下に向かい、『気配探知』で彼らの行き先を確認する。
「彼らがこちらの方向に向かっていると言う事は、多分この階段はこれか・・」
大体の位置が把握できれば、彼らはお役御免である。
と言うよりも、あまりパーティを追跡すれば気付かれる可能性もあった。
これは誰かの跡を安全に付いて帰ると言う手法は、結構嫌がられるのだ。
「戻るか進むか・・、どうするかなあ・・」
現在地が分かれば、少々遠くても彼らとは別の階段に向かう事は出来る。
「念のため、現在地に間違いがないかだけ確認するか・・」
追跡させてもらったパーティとは、別の階段の方へと向かう。
場所は既に六階層で、目の前には七階層への階段が、ひっそりと佇んでいる。
現在位置の確認が取れ、モンスターは決して強くない。
スキル『魔弾』を中心に攻撃していたから、矢の弾切れには程遠い。
ただ帰りの事を考えると、若干守りの飴が心もとない。
七階層以降も、自動爆発とは言え守りの飴がドロップする。
「(何とか守りの飴を確保して帰ろう)」
七階層に到着すると、所々から爆発音が響く。
かなり頻繁に壁が、不規則で不定期に自動爆発している様だ。
流石にノーモーションで爆発する事は無く、壁にひびが入り爆発する。
ヒビが入る音も聞こえるのだが、周囲に戦闘音があると消されてしまう。
「ふうー、結構な数の守りの飴が手に入ったな」
モンスターは通常の七階層と同レベル、余程の事がなければ壁の爆破の予兆は見逃さない。
結構入手できたと言う事は、結構な数の爆発があったと言う事であるが・・
「先人たちのお陰で、階段の方向が分かるし、攻略難しくないと思うんだけどな・・」
通路は変わるがマッピングは出来なくても、階段の位置は分かる。
何故、未だに十階層目をクリアできていないのかが不思議だ。
そんなこんだで八階層、九階層を越えて、十階層に足を踏み入れる。
「えっ!? しまった! こう言う事か!」
降りてきた階段が消えた。
十階層は、だだっ広ーい石畳が何処までも続いている。
「一方通行・・、でもどうやって上に? えっ!?」
一歩踏み出した所、トラップに引っ掛かる。
「はるか先まで見通せるような広さで、一歩踏み出すとトラップって、このダンジョン異常だろう・・何だ?」
少し先にキャンプをしているパーティが居り、手招きをしている。
さっきまで居なかった事を考えると、転移系のトラップを踏んだのだろう。
周囲を警戒しながら、パーティに近づく。
「よぉ! 新入り。十階層へようこそ!」
「なんで新入りと分かったんですか?」
「ん? だって転移系のトラップに引っ掛かったの初めてだろう?」
「転移系トラップ・・、そっか」
九階層までになかった状況に慌てふためく姿を見れば、一目瞭然だったのだろう。
「お前さんがやるかどうかは別だが、一応十階層のルールを教えてやる」
「えっ!? はい、お願いします」
「この階層から出られた奴は未だにいねぇ。だからお互い助け合う。もし出られたら、この情報をギルドに流して、何とか救助の方法を探ってもらう」
「なる程、分かりました。出来る限り協力します」
帰るに帰れない十階層で、自分だけ孤高を気取っていても良い事は無い。
「この階層の特徴は、壁は無く転移式のトラップが至る所にある。踏めば発動するが、何処かに転移されるだけ」
「では上や、地上へは?」
「多分、それもトラップとして紛れていると思うんだが、この広さの上、トラップの位置が不定期に変わるんでどうにもならん」
「そ、それじゃあ、このダンジョンをクリアできない理由は・・」
「脱出方法は分かっているんだが、どれかが特定できない」
島と同じ広さの石畳から、不定期に変わるトラップの中から脱出の物を探す。
しかもあるかどうかすら疑わしいと言えば、不可能だろう。
「ちなみにモンスターは?」
「こちらから攻撃しない限り、動かないから問題ない。しかも生活必需品をかなり豊富にドロップしてくれるから、生きて行くには困らん」
出られなくなった人たちは、ここを第二の故郷として生活している様だ。
「色々教えていただきありがとうございます」
「気にするな。脱出できたらその時は頼む」
「はい、必ず!」
パーティに礼を言って別れを告げ、少し進むと再び転移系トラップを踏んでしまう。
「これは・・、盗賊のスキル『罠能力』が神級がないと無理じゃないか?」
『罠能力』の神級であれば、何処にどんな罠があるか分かる。
転移か、上の階段か、地上へか見極められるはずである。
「最悪は、スキル『移動能力群』の迷宮脱出を使えば良いか・・。その前にできる事がないか、やるだけやってみよう」
何か役に立つスキルは無いかと、もう一度見直しをしていた時に、殆ど忘れ去っていたスキル『移動能力群』に迷宮脱出がある事を発見する。
脱出の方法が分かれば、あとは皆の期待にどれだけ応えられるかである。
あちらこちらを彷徨い歩いて、時折トラップで飛ばされる。
「今までの経験談から、転移系トラップには、死に至る場所へ転移は無いんだよな」
劣悪なダンジョンであれば、壁の中や凶悪なモンスターのまん前、溶岩や毒の沼など、即死系の転移トラップがある。
「一歩目からトラップがあったり、しばらく無かったり・・。何処に飛ばされたか分からない事もあれば、目の前だったり・・。これは分からないよな・・」
先住の冒険者が、長い期間かけて見つけられなかった物が、一日二日で分かったら立つ瀬がないだろう。
「となると、やった事がない事、出来なかった事を聞きだすしかないか・・」
移動先で人が居れば、どんな事をやって来たのか確認してみる。
「やっぱり、皆が考える事はやっているよなぁ・・。これはダメだなぁ・・、スキル『移動系能力群』の迷宮脱出で・・」
スキル『移動系能力群』の中を、チョロチョロっと調べて気付いた事がある。
「あれ? この方法を試したって話を聞かないぞ?」
思わずもう一度人々の間を巡って、情報をかき集める。その情報は・・
「ああっ!? 飛行魔法だぁ? あのな・・、そんな魔法使いは国が召し抱えて、冒険者になんかならんよ」
「つまりこの迷宮を上から見た事は無い、と?」
「そんなの当然・・、だよなぁ?」
「はしごを作った奴は居たが、天井まで高すぎて、途中で諦めてたっけ?」
傍にいた冒険者同士が顔を見合わせて、まだやっていない事に気付く。他の人々にも聞いて回ったが、結果は同じくやった事がないと言う物だった。
「天井の高さ制限があるから、この十階層全体を見れないけどやってみよう」
飛行魔法で出来るだけ高い所から見下ろし、何か違いがないかを調べて回る。
「くっそーぉ。広さに対して高さが足りないぞ・・。全体を見てみたいなぁ」
考えたのはかなり大きい魔方陣で、その通りに歩くと脱出できると言う物だ。
まあ上から見えるなら、下からでも違いが分かるとは思いつつも、ほんの僅かなズレが、光の当たり方などで、線が見える事があるのだ。
ただダンジョンの最大の広さは、島とほぼ同じ大きさ。
それを上から見るには、天井の高さが足りない。
自分に気付いた冒険者たちが、興味深そうにこちらを見守っている。
「もう少し上の方、ギリギリまで上がってっと」
もう少し、もう少しと天井ギリギリまであがるが、近づきすぎて思わず天井に手を触れる。
『地上に転送しますか? / 九階層に転送しますか?』
頭の中に突然声が響いて来る。
「えっ!? 地上に転送って?」
『地上への転送を受諾』
「えっ!? ちょ、待って!? ち、違う!違う・・」
思わず呟いた一言が、選択したと捉えられる。
走馬灯のように、この世界に巻き込まれた魔法陣とのやり取りを、否が応でも思い出して今う。
心からの叫びも虚しく、地上へと転送されて行く。
『十階層がクリアされましたので、二十階層まで解放されます』
「えっ!? 二十階層?」
『十階層までは通常のダンジョンとなります』
「な、何? 通常のダンジョンって!?」
『ダンジョンの変更に伴い、ダンジョン内の人間は一旦強制排出されます』
「はぁ!? 強制排出って何? 何なの?」
ノバの疑問は全く答えられる事無く、ダンジョンの入り口の脇に、魔方陣と一緒に出る。
魔方陣と一緒に現れた人物に、周囲の人々は驚きながら声をかける。
「・・も、もしかして、十階層からか?」
大騒ぎとなり、僕はそのまま人々にギルドへと連れされてしまう。
「十階層は転移系トラップの山で天井に触ると脱出できた? 二十階層までが解放され、十階層が普通のダンジョンになる? ダンジョンの階層で、中にいるの冒険者たちは強制的に追い出される? い、一体何が起きてるんだ!?」
一番混乱している当事者たる僕が、体験してきた事を、その町のギルドマスターに伝える他は無かった。
その間にも、ダンジョンから次々に冒険者たちが出てきている様で、全ての町で一大センセーションとなっている。
結局この大騒ぎの中、何時ぞやの魔法使いの時の様に、姿を消さざろう得なかった。




