狩人をやってみる
【狩人をやってみる】
この国は、沢山のダンジョンの国。
隣町へと移動するだけで、僕は人ごみに紛れてしまう。
「何も、転職する必要ないんじゃないの? 皆、ノバ君の事探しているみたいよ?」
ミツカ(神)様は、開口一番にそう告げる。
既に『使徒の訪れ』で、転職の意向を告げていた。
「そうですね。多分、まだ続けられます。でも・・」
「でも・・、何かしら?」
「職員さんが、必死になってパーティを斡旋してくれると思うんです。まるで、悪いパーティはいませんって感じで・・」
「まあ、そうよね。と言う事はソロに戻ると言う事かしら?」
「はい・・。やっぱりソロでやりたいと思います」
「それで転職と言う訳ね。でも残った狩人はパーティ向けの職業なんだけど?」
「今まで多くの職業はソロでやってきました。今回も大丈夫です」
どうやらトラウマとなっていたパーティが、僕の中で強く蘇ってしまったようだ。
「そう、分かったわ。そこまで決意が固いなら何も言わない」
「すみません。我儘言って・・」
偽装の指輪を使って、狩人に転職し、狩人Hとして新たに冒険者登録する。
[ 名 前 ] 狩人H
[ 職 業 ] 狩人
[ レベル ] 1
[ 生命力 ] 50
[ 技 力 ] 40
[ 腕 力 ] 5
[ 耐久力 ] 5
[ 知 力 ] 5
[ 精神力 ] 5
[ 早 さ ] 20
[ 器用さ ] 20
[ 運 ] 20
[ スキル ] 弓術(初級)
偽装の指輪を外した実際のステータスは、こんな感じ。
[ 名 前 ] ノバ(ノバ)
[ 職 業 ] 狩人
[ レベル ] 1
[ 生命力 ] 50
[ 技 力 ] 40
[ 腕 力 ] 5
[ 耐久力 ] 5
[ 知 力 ] 10
[ 精神力 ] 10
[ 早 さ ] 999
[ 器用さ ] 999
[ 運 ] 999
[ スキル ] 弓術(神級)、隠密(神級)、罠能力(神級)、気配察知(神級)、生命力超回復(神級)、技力超回復(神級)、移動系能力群(神級)、経験値取得率(神級)、レベルアップ補正(神級)
基本ステータスは、盗賊と同じであった。
ただし早さのステータスが低く、スキル『時間制御』が無いため、死に易さはアップしてる気がする。
「なんか盗賊より、死に易そうですね・・」
「そうかしら? 弓術は凄いわよ?」
まだ細かくスキルを見ていないので、ミツカ(神)様の言葉を信じる事にする。
そしてミツカ(神)様の指示する国のある島へと移動する。
パーティを避けるために、ギルドを使わない手段を取る。
城門の衛兵にギルドの登録証を見せた際に、お勧めの宿屋を聞く。
「ん? お勧めの宿屋? これからギルドに行くんだろう? そこで聞けば良いんじゃねぇか?」
「ちょっと前に、ギルドのお勧めと、町の人のお勧めが違ってまして」
「ははぁーん。ギルドが直営の宿屋を持っていると、そうなるわなぁ」
訳知り顔で納得したと頷いてくれる。
ギルドの直営が悪い訳ではない。寧ろ良心的な所が多い。
ただし多くの場合で、夕食が付かない事がある。
勿論、依頼で得られたお金を落としてもらうためだ。
「この町のギルドは直営を持っていないから、お勧めの宿屋は同じだと思うが・・」
そう言うと、衛兵仲間ではお勧めの宿屋を教えてくれる。
宿屋に着くと、宿屋の女将にこの町の特徴などを聞いて行く。
「おや? ギルドで説明されなかったのかい?」
「いいえ、記憶力が悪いので聞きもらしがあるかと思って、色々な人から何度も聞いているんです」
「ふーん、そうかい」
時間的にも手が空いていたのか、そこまで言えば特に気にする事無く話してくれる。
「この国はダンジョンの国なのさ」
「ダンジョンの国と言うと、沢山のダンジョンの国と同じ感じですか?」
「当たらずとも遠からずってところだね」
「何が違うんですか?」
何とも人の悪そうな笑みを浮かべると、違いを説明してくれる。
「この国のダンジョンは、たった一つだけなのさ」
「一つ、ですか」
「そう。そしてその大きさは、この島全体に及ぶんだよ」
「・・えっ? ええぇぇぇ!?」
僕の驚きに気を良くしたのか、色々と教えてくれる。
「最初は沢山のダンジョンの国と同じ様に、ダンジョンの出入り口が沢山見つかったんだよ」
「ふむふむ」
「出入り口の所に町が出来ていった」
「この辺りは同じですね」
「そうそう。ダンジョンの中は迷宮となっていているんだけど、迷いに迷った冒険者が、ある時別の出入り口から出てきた」
「ああ! それで全ての出入り口が繋がっている事が分かったんですね!」
「その通り! で、今に至っているのさ」
「なる程・・」
しかし迷宮であれば、長い年月で調べられているはずである。
迷うと言う事があるのだろうか?
「迷宮とはいえ、ある程度は地図の様な物が出来ているのではありませんか?」
「このダンジョンの、大問題に行きつく訳さ」
「大問題ですか?」
「不定期に壁が、不規則に変化するんだ」
「なっ!?」
そんな事になれば、地図何か役に立たない。
「それならば、皆さんどうやって出てくるんですか?」
「出てくるのは簡単さ」
「・・えっ!? どうやってですか?」
「ダンジョンの大問題には続きがあって、このダンジョンの壁に衝撃を与えると爆発するんだ」
「・・・はぁ!? 衝撃? 爆発? 一体何が・・?」
「まあまあ。そうやって出口の方向へ進んでいくのさ」
今までのダンジョンでは聞いた事がない特性に、驚きの声を上げる。
「どう言う理屈か分からないけど覚えておきな。壁が動く、壁が衝撃で周囲を巻き込んで爆発して適当に復旧する」
「・・・」
とんでもないダンジョンである。
もし矢が外れて、壁に当たったら・・
「ちょ、ちょっと待って下さい! 近くにいる人たちは?」
「まあ、巻き込まれるねぇ」
「問題にならないんですか?」
「なんで? ダンジョンは自己責任だろう?」
「うわぁー・・」
一応ギルドでは、擦り寄せ、横やり、横取りは禁止されている。
とは言え、やはり命大事と考えれば・・、壁破壊もその一つだろう。
「僕の職業狩人なんですけど、どうですかね」
「うほぉ!? 正に流れ弾、って感じかしら。皆から恨まれるかもね」
徐々に人が入ってきて、話しは打ち切りとなる。
自分に割り当てられた部屋で、女将の話を元に作戦を考える。
「爆発する壁に対して、生命力が低すぎないか? しかも流れ弾で恨まれるなら狩人にはキツイだろうし、此処は不遇じゃなくて、嫌われるパターンだよ。でも待てよ? ミツカ様は、狩人はパーティを組む職業って言ってたけど・・」
多分、こっちからお願いしても、向こうからしたら願い下げの職業だろう。
「先ずは知らない弓術のスキルから見て行こうか・・、えっ!?」
ミツカ(神)様が言う通り、弓術はとんでもなかった。
連射:複数の矢を同時に放つ。
連弾:一本の矢を複数の矢にする。神級はとんでもない数。
魔弾:技力の矢を作る。神級はとんでもない数。
属弾:矢に色々な属性を付与したり、属性の矢を放つ。
誘導:矢を思い通りに操作できる。神級は鋭角に操作可。
必中:適当に撃っても、必ず当たる。
無明:気配で当てる。神級は無意識や寝ていても放てる。
これは普通の弓術のスキルで、大抵の人は持っているのだが・・
神弾:神級はターゲットの時間が止まる速度で弓を放てる。
追跡:神級はターゲットを何処までも追いかける。誘導の最上位
会心:神級は必ず急所に当たる。必中の最上位
貫殺:神級は物理魔法防御無効で貫く。
聖弓:神級は一本の矢で、天から対象が破壊されるまで流星の矢を放つ。
覇弓:神級は対象を完全破壊する。
※統合的に最大威力を発揮した場合、島を破壊可能。
「いやいやいやいいや! 島を破壊可能っておかしいから!?」
魔法職は確かに禁呪クラスになると、島を破滅させるレベルの魔法があるって言う話だけど、あれは呪文を詠唱する必要があったから・・って、あれ僕、無詠唱で発動できたりした?
「ミツカ様・・、弓術が凄いのは分かりましたけど・・。壁が爆発したら、死んじゃいませんか?」
ギフト『使徒の訪れ』祈るでは無く、ただ呟きとして発せられる。
どんなに強いスキルでも、モンスターが倒れた程度の衝撃で壁が爆発するかもしれない。
「・・待てよ? おかしくないか? スキルが無いと死にそうなダンジョンに、何で人は集まるんだ? もしかして対応策があるんじゃ・・」
翌朝、朝食の時に宿屋の女将にカマをかけてみる。
「爆発避けのアイテムを、安く売っている所知りませんか?」
「うん? 爆発避け? ・・ああ、守りの飴かい? うーん、どこも同じだと思うよ」
「そうですか・・、ありがとうございます」
やっぱり存在する事を確認すると、お勧めの道具屋へと向かう。
「守りの飴を欲しいんですが・・」
「ああ、ギルドじゃ最初に一つしかくれんからな」
どうやらギルドでは、守りの飴は初めての一回きりもらえる様だ。
ここでもちょっとカマをかけてみる。
「上手くドロップしますかね?」
「・・お前ちゃんとギルドの職員の話をちゃんと聞いていなかったな? 良いか良く聞け、大事な事だぞ?」
「す、すみません。ギルドでは話が長くて、分かった振りしました・・」
「むぅ・・。職員によっては大切と言って、事細かく丁寧に、めちゃくちゃ長く説明して、疲れてくるといい加減な所もあるからなぁ。いいか? 最初に爆発した壁の所に必ず、守りの飴はドロップする。ただし周囲に他の冒険者が居る場合は早い者勝ちだ」
「そ、そうでした。どうも話がゴチャゴチャになっちゃって・・」
「まあ、ギルドの職員も事務的に話す事が多いのは事実だからな。受け売りだが、もう一度ちゃんと話してやろうか?」
「お願いします」
話しを纏めると、最初に爆発した壁の傍に必ず、守りの飴はドロップする。
見た目は親指の爪程の大きさで真ん丸、身に付けるのでは無くて食べるとの事。
効果はダンジョン内だけで、衝撃を10回程度防ぐが、モンスターの攻撃も当てはまる。
常時依頼でもあり、何時でも買い取り絶賛受付中との事だ。
一通りこのダンジョンの特性を聞いた後、軽く溜息を吐く。
「なる程、そう言う仕組みか・・」
話しを聞いて、はいさようならではバツが悪いので守りの飴を、何個か購入して置く。
道具屋で結構な値段とは言え、誰でも買える価格設定で売られているが、結構な出費になったので、急いでダンジョンに入る事にする。
ダンジョンの入り口では列が出来ていた。
入ってすぐにモンスターとハチ合わせる可能性があり、一定時間をおいて入るためだ。
しかしダンジョンの洗礼をいきなり受ける事になる。
「えっ!?」
スキル『気配察知』で、すぐ傍にモンスターの反応を知ると同時に壁が爆発した。
守りの飴の効果があるとはいえ、咄嗟に身を庇う。
爆発が収まると、少し先に戦う人影・・で、爆発が起こる。
「(すぐ傍で戦闘になっていたんだ! これは堪らないぞ!?)」
そんな事を思いながら、爆発地点目指してモンスターが集まってくるのが分かる。
「(なっ!? これは不味い!)」
目立つ目立たないの話どころでは無い。
人気のない所に移動しながら、モンスターを射るが、次々に爆発が起こる。
弓の威力が一定に調整できず、モンスターごと壁に縫い付け誘爆させてしまうのだ。
後は混乱に次ぐ混乱である。
もうどれが誰のアイテム何か言っている余裕はない。
目に付くアイテムを、片っぱしから拾い集めながら移動、戦闘、爆発を繰り返す。
しばらくすると何とか状況が落ち着いて、少し冷静に考えられる。
「(・・確かにこれじゃマップの意味がないな)」
既に自分が何処に、出口がどの方向かすらわからない。
「(ただアイテムは結構拾えたな、持って帰る術がないけど・・)」
最初の頃は矢の威力の調整不十分で、壁に何度も衝撃を与えて爆発を起こしていた。
守り飴は元より、爆発に巻き込まれたモンスターのドロップ品も結構あった。
出口が分からないから、正に宝の持ち腐れである。
「(矢の威力調整は出来る様になったけど、結局モンスターが壁にぶつかれば、その衝撃で爆発するからなぁ・・)」
出費を気にして、地上で弓術の練習をしなかったことが悔やまれる。
とは言え、この分でなら戦闘になれば、どの武器や魔法でも爆発は起きるだろう。
「(矢なんかとっく尽きてるし・・、何とか出口を目指そう)」
出口を目指して、人気のない所に移動、戦闘、爆発を繰り返していく。
宿屋の女将に教えてもらった、武器屋のオヤジに矢を注文する。
「ここのダンジョンで、弓矢はかなり嫌われるだろう?」
無事にダンジョンを脱出・・、嘘です、ひたすら壁を壊して真っ直ぐ進みました。
「分かってます。ギルドにもいかず、パーティも組まずに潜ってますから・・」
「ふむ。他の町に行けば良いと思わないのか?」
「師匠に、ここでスキルを高めろって命令されてますので・・」
「嫌な師匠だのぉ」
仕方なさそうに苦笑いする。
ギルドでどれほどルールを決めようが、このダンジョンに入れば戦場である。
ルール無用の世界、相手の事よりも自分の事で精一杯・・
そこには善も悪も存在しない、ただ生き残った者が正義のダンジョン。
ただスキルのレベルアップには最適ではあろう。
「じゃあ、アイテムと同額分の矢を準備すればいいのか?」
「はい、それでお願いします」
宿代や諸経費分を引いたアイテムと矢を物々交換としたのだ。
「そう言えば、買い取り価格が随分高かったと思うのですが?」
知り合いの紹介価格とは言え、説明が付かない額であった。
「ん? 中々安定した供給が出来ないのでな。少し上乗せしても買える時に買っておくんだ」
「なる程・・」
確かに、ここのダンジョンの状況を思えば、仕方のない事なのだろう。
「あとこんなに矢を持って行けんだろうに」
「それはちゃんと考えてあります」
狩人の弾切れは致命的なため、そう言った準備は当然である。
「ふむ? マジックバック辺りか?」
「その辺は内緒です」
冒険者の切り札については、しつこく聞かないと暗黙のルールが存在する。
武器屋のオヤジの問いに、にこやかに秘密と伝える。
食糧などの準備を整えると、再びダンジョンへと潜って行く。




