盾職の暮らし
【盾職の暮らし】
僕によって持ち込まれたドロップ品を見て、職員は溜息を吐く。
「盾使いGさん? そろそろパーティが必要では?」
「そうですよね、確かにだんだんソロでは厳しくなってきました」
僕は既に二十階層のボスを倒している。
今回のドロップ品は、二十七階層までのモンスターがドロップしたものだ。
二十五階層を過ぎたあたりから、ソロでは厳しいと感じていた。
とんでもないステータスに、スキルの『盾術』『物理防御』『魔法防御』『身体強化』『生命力超回復』の神級では、モンスターが傷つける事は不可能である。
では何か厳しいのか?
盾使いと言う職業は、攻撃スキルが非常に限られている。
防御能力は絶対だが、圧倒的に殲滅力が足りないのだ。
例えば普通の物理職が一撃で倒せるモンスターも、二度三度、それ以上盾で殴らなければならない。
『装備強化』のお陰で、どんな攻撃をしても盾は壊れないが。
時間をかければ倒せるのだが、効率が悪い上に、他のモンスターを呼び寄せる事になる。
モンスターに囲まれ、永遠と戦い続ける事になりかねないのだ。
「ではパーティ募集をおかけになりますか?」
「それは・・」
実はこの階層までの常時依頼や通常依頼で、何とか日々の暮らしをやっていける。
ここで無理してパーティを組む必要はない・・が。
「・・・分かりました。募集をお願いできますか?」
「はい、お任せ下さい。二十階層への移動アイテムを持っていると言う事でよろしいですか?」
「それで結構です。ただパーティを組んでいませんでしたので、しばらくは十階層位まででお願いできますか?」
「確かに。では臨時パーティ募集としますね」
「臨時パーティですか?」
「そうです。パーティ募集には二通りありまして、長期のパーティを求める場合が一つ」
「普通の募集方法ですよね」
「もう一つが、本来のパーティの仲間が怪我や病気で一時離れたり、初めての階層やボス戦の戦力不足を補う場合など一時的なパーティの事です」
「それは良いですね、その方法でお願いします」
臨時パーティの募集をお願いし、ダンジョンに潜る日々を過ごす。
そんなある日、ダンジョンから戻ると、ギルドの職員から声をかけられる。
「盾使いGさん、ちょっとよろしいですか?」
「何でしょうか?」
別室に案内されると、そこには四人組のパーティが居た。
「こちらのパーティですが、十階層ボスを倒されたのですが、お一人が怪我をしまして休養されていたんです。怪我も治り、リハビリを兼ねてダンジョンをと言う事で相談されました」
「どう言うお手伝いをすれば?」
「念のためですが、連携のサポートをしていただければ助かると」
「分かりました、よろしくお願いします」
職員から一通り話を聞くと、パーティに挨拶をすると、向こうも返してくる。
「先ず僕が壁役をやりますので、皆さんの戦闘スタイルを思い出しましょう」
パーティの先陣を切り、モンスターの動きを食い止める。
少しずつ戦闘の勘を取り戻させ、連携を元の状態へと戻して良く。
十階層ボスの手前まで行く頃には、僕の支援はほとんど必要なくなっていた。
また別の機会には、初ダンジョンのパーティを紹介される。
「始めてダンジョンに入るパーティなのですが」
「どの様な支援が必要ですか?」
「何分初めてですから、色々と教えてあげて下さい」
「出来る限りやってみます」
初ダンジョンパーティを引き連れて、ダンジョンを案内する。
「十階層までは初心者向けと言われていますが、地上で言う中級クラスのモンスターが出ます」
基本はパーティに任せる形で進んでいく。
「一階二階層は、単体でしか現れませんので、皆さんでも問題ないでしょう」
初ダンジョンもあり、パーティは緊張した面持ちで頷いている。
「三階から五階層も基本単体なのですが、仲間を呼びます。短時間で倒せないと、次々に呼ばれますので注意して下さい」
三体目以降が呼ばれたら、ヘルプに入ると言う形で進んでいく。
「六階層目以降は、単体、仲間呼び、群など色々入り混じってきます」
あくまでも体験と言う事で、六階層の三体程の群を、僕が壁となって戦って貰う。
「後は皆さんで話し合って、どの階層から始めるか決めて下さい。地上に戻るための魔方陣は、ボスの居る部屋の奥の部屋にしかありませんので、戻るタイミングと言うのも重要になってきます」
彼らにレクチャーが終わると、地上へと戻ってくる。
先にも述べたが基本的にパーティは、ギルド職員の了承が必要である。
しかしパーティを組まなくとも、偶然一緒に行動したと言う建前は通ってしまう。
勿論、ギルド職員に知られたくない場合が多いのだが。
「お前だろう? 臨時パーティを募集している盾使いGって言うのは?」
「はい? いきなり何でしょうか?」
唐突な話しかけで、まともな反応が出来なかった。
「二十階層に行けるんだよな?」
「ええ、確かにそうですが?」
「俺たちのパーティに入れてやるから、すぐに行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい。あなた方は何階層までですか? 職員に話しは?」
「ああ? 十六階層だよ。職員? 知った事か!」
「ならばちゃんとご自分たちで、鍵を手に入れてから・・」
「俺たちは先に進みたいんだ! お前もだろう? だから入れてやるって言ってんだ!」
「そもそもパーティに入れて欲しい訳じゃありませんよ? だから臨時パーティです」
「うるせぇ! お前は黙って付いて来い!」
パーティの面々は喧嘩腰だが、僕は終始丁寧に対応する。
ギルドでの揉め事を見ていた職員が割って入る。
「皆さん、何をやっているのですか?」
「ちっ・・」
悪態をついて、パーティは立ち去って行く。
僕は一応、今あった出来事を職員に説明する。
「盾使いGさん。今の対応でOKですよ」
「OKとかじゃなくて、自分も相手も命の保証は大切と思っただけですから」
「それで良いんです」
職員がニコニコと拍手をしてくれる。
そして盾使いとして、運命のパーティに出会う。
「盾使いGで、間違えないか?」
「そうですが? あなた方は?」
「突然失礼した。俺たちは・・」
三人組のパーティが自己紹介する。
「二十階層に行けると書いてあるのだが、本当か?」
「ええ、本当ですが・・、どう言った御用ですか?」
彼らも二十階層への転送アイテムをチラリと見せる。
「二十六階層にあるドロップアイテムの依頼を受けたい。うちらはその前までしか行った事が無くて、ヘルプを頼みたい」
「いや、僕も其処までは・・」
「でも二十二階か二十三階層位まで行っているんじゃないか?」
「ええ、まあ・・」
「何も三十階層のボスを倒すと言う話じゃない」
正確には二十七階層までは到達しているので、パーティが居れば問題ないと考える。
「職員に話しは通していますか?」
「ああ、すまない。この目で確かめてからと思ってな。盾使いGがよければ、職員の所に行こうと思っている」
「分かりました、よろしくお願いします」
何時もの職員が居ないので、そのパーティを良く知る職員が対応してくれる。
「何時からダンジョンに?」
「今から、と言いたい所だが、君の準備もあるだろうから、明日ダンジョンの入り口で待ち合わせとしよう」
「了解です」
少々ぶっきら棒ではあるが、相手の事を考えられる態度に感心した。
だから知らなかった、僕が悪いとは言えないのだが・・
何時もの職員が居れば、決して組む事のないパーティである事を。
先程の職員から、彼らは二十階層への転移アイテムを借りていただけと言う事を。
冒険者とは自己責任が求められる。
二十一階層に入ってからすぐに、彼らを疑い始めていた。
「(何で二十階層の転送魔方陣のある部屋に、あんなに興味を示すのだろう?)」
二十一階層のモンスターと戦って、その疑念が確かなものに変わる。
「(この人たちの実力じゃ、二十階層のボスなんて遠く及ばない! となると、彼らの転移アイテムは・・買った物!?)」
事ここに至っては時遅しではあるが、確認しなくては気が気では無い。
「待って下さい。皆さんは、本当にこの階層まで来た事があるのですか?」
「当たり前だろう。転送アイテムだって・・」
「それは購入する事が可能です」
「ふん! どっちにしても証拠がないだろう」
「それはそうですが・・」
「ならば、依頼を果たすぞ!」
「しかしあなた方の実力では、この先危険に・・っ!?」
周囲にモンスターが集まり始めているのを、スキル『気配察知』で感じ取る。
「不味いです。モンスターが集まってきています」
「何だと!?」
僕の失態である。ダンジョンで長々と大声で話しこんでいれば、モンスターに襲って下さいと言っている様な物である。
「スキル『咆哮』!」
挑発の上位にして、不特定多数を呼び寄せる『咆哮』で、モンスターを自分に引き寄せる。
「お、おい。に、逃げるぞ!」
「・・・」
パーティが逃げるのを、目の隅で捉える。
彼らは上手く僕を生贄にして逃げられると思っただろう。
彼らが居るよりも、一人の方が確実に倒せるため、敢えて何も言わなかった。
「いっちょ頑張ってみるか!」
冒険者たちの事など忘れたかの様にモンスターに立ち向かっていく。
僕を担当している職員の怒鳴り声が、ギルド中に響き渡る。
「一体どう言う事ですか! 何故盾使いGさんをあのパーティと組ませたのですか!?」
「んんー? 仕方ないだろう、あいつがどうしてもあのパーティと組ませろって煩かったんだから・・」
「そんな事はありません!」
「はぁ!? 何でそんな事が分かるんだ?」
「彼の募集は臨時パーティです。この意味が分からないはずありませんよね?」
「ああ!? 分かんねぇよ・・、どう言う意味だ?」
こいつは職員のくせに、本気で言っているのだろうか?
「あのパーティの受けた依頼って、あなたが承認していますよね?」
「ああ、そうだが・・、それが何だって言うんだ?」
「確か彼らは、二十階層の転送アイテム持っていませんよね?」
「だけど、盾使いGが持ってるって・・」
「彼がパーティを組む時は、パーティのいける階層までしか行きませんよ?」
「・・・そんなの分からないじゃないか」
「盾使いGさんは、二十階層の転送アイテムを目にしたはずです」
「ふん、それが如何した?」
「ギルドの売買記録で、一つ不足がありますが?」
「・・・・」
「ギルドマスターに報告を」
職員の沈黙を肯定と受け取ると、すぐに行動に移そうとすると手を掴まれる。
「うちらだって、少しは美味しい思いをしても良いと思わないか?」
「程度の問題ですね」
「ん?」
ギルド職員だって人間である。多少のわいろで目を瞑る事はあるだろう。
「人の生死がかかっていなければ」
「・・・・」
「あのパーティには、黒いうわさがある事はご存知ですよね?」
「まあ・・な」
「故にギルドマスターが、パーティを組む事を禁じています。気付かない様に、ギルドの職員が手引きしているとも噂があるくらいです」
僕の担当の職員の腕が、前にも増して強く握られる。
「どうしてもギルドマスターに告げると?」
「・・・当然でしょう」
「どうしても?」
その時ギルドのスイングドアが開かれる。
「っ!? あなた達は! 盾使いGさんは!?」
「ああん!? あいつは余計な事をして、こっちを危険な目に合わせようとするから、隙見て逃げてきた」
「あ、あなた達と言う人は・・」
「あいつは死んだ。あいつの財産を寄こせ!」
「出来る訳ないでしょう!?」
「待ってろ、すぐに用意する」
「あなた達! 待ちなさいと言っているんです!」
「こっちは、正当な理由を行使しているにすぎねぇんだよ!」
パーティの誰かが死亡した場合、財産はパーティに権利があると言うルールになっている。
その様な取り決めを行うために、第三者、つまりギルド職員がパーティを組む際の仲立ちになる。
「ならば、あなた達は依頼を受けていましたね!? 失敗ですか?」
「まだ分かんねぇだろうが!」
「ならば今回の件も踏まえて、ギルドマスターの判断を仰ぎます!」
「てめぇ・・」
職員と問題のパーティの争いの中に、別の声が入ってくる。
「煩いぞ、お前たち」
「「「ギルドマスター・・」」」
突然と言っても、あれだけの騒ぎを起こしていれば出てきて当然だろう。
「全員こっちへ来い」
執務室の方を顎で指し示すと、苦々しい顔で従う。
粗方の話が済むと、それまで黙って聞いていたギルドマスターが口を開く。
「お互いの言い分は分かった」
問題のパーティと職員に向かって話しを始める。
「ギルドの禁止事項を破った事。ギルドの物を勝手に私物化した事。お前たちのやった事は、お前たちが十分理解しているな?」
ギルドマスターの厳しい視線から逃れる様に、顔を背ける。
「それ相応の処罰を受けてもらう。但し、盾使いGの資産を受け取ると良い」
「そんな!? ギルドマスター・・、それじゃ盾使いGさんが浮かばれません」
「あくまでもギルドの規定に従うべきだ」
彼らのした事を許せる訳ではないが、トップとしてルールを歪める訳にはいかない。
とは言え、彼らのした事はギルド追放や犯罪者として奴隷落ちと言った重い処分であろう。
「じゃあギルドマスター! あいつ、盾使いGの処分はねぇのかよぉ!」
自分たちの行いを棚に上げて、彼のせいにしようとして減免を得ようとする。
「死んでチャラじゃねぇのか? ああん?」
「ぐっ・・」
ギルドマスターがそう言うと、扉がノックされ入って来た職員に耳打ちされる。
「・・そうか、すぐに連れてこい」
そう言うと、問題のパーティと職員の方に振り向く。
「お前たち朗報だぞ」
「「「えっ!?」」」
扉が開いて、彼が入ってくる。
「「「なっ!?」」」
「盾使いGさん!?」
全員が驚きの声を上げる。
「あれで・・、生きていただと?」
「良くぞご無事で・・」
「さあ、お前たち。取り成しをして貰え」
ギルドマスターの言葉に、ガックリと項垂れる。
「一つ一つ片付けて行くか? 命令違反に、偽証罪、背任罪、横領罪か?」
「あと依頼の失敗が付くかと思います」
「んん? そう言えば、そんな事で騒いでたなぁ。お前たちだけで依頼こなせるか?」
「あっ! 依頼!」
ギルドマスター達の話の中に、彼が割り込んでいく。
「どうしましたか?」
「これこれ!」
背負い袋から取り出す振りをして、『空間倉庫』から依頼の品を渡す。
「ああ、そうでしたね。盾使いGさんは、この階層は行っていましたものね」
「な、なんだとぉ・・」
パーティの面々が驚いて顔を上げる。
「それから、彼らのお陰で頑張れたんですよ」
懐から三十階層の転送アイテムを取り出す。
「なっ!? 盾使いが・・・ソロで? 三十階層のボスに勝った? あり得ない」
流石に職員は呆然とし、ギルドマスターも目を見開いている。
「これで自身の身の潔白になった訳だ。盾使いGは、お前たちを必要としない実力を示したな」
一番最初に復活したギルドマスターが、その場の全員に宣言をしてお開きとなる。
その時以来、盾使いGとしてのノバの活躍はぱったりと止んでしまう。




