盗賊をやってみる
【盗賊をやってみる】
物理職になるとは言っても、勇者だった頃に居た世界の左の島と、魔法職だった世界の右下の島々は、心情的に避けたい。
「ミツカ様。出来れば今まで行ってない場所が良いかと思うのですが?」
「分かったわ。ならば右上の九つの島から選びましょう」
そうミツカ(神)様に伝えると、あっさり了承してくれた。
ギフト『職業選択の自由』で一旦無職になり、偽装の指輪で転職する。
[ 名 前 ] ????(ノバ)
[ 職 業 ] 盗賊
[ レベル ] 1
[ 生命力 ] 50
[ 技 力 ] 40
[ 腕 力 ] 5
[ 耐久力 ] 5
[ 知 力 ] 5
[ 精神力 ] 5
[ 早 さ ] 20
[ 器用さ ] 20
[ 運 ] 20
[ スキル ] 短剣術(初級)、鍵開け(初級)、罠解除(初級)
偽装の指輪を外した実際のステータスは、こんな感じだ。
[ 名 前 ] ノバ(ノバ)
[ 職 業 ] 盗賊
[ レベル ] 1
[ 生命力 ] 50
[ 技 力 ] 40
[ 腕 力 ] 5
[ 耐久力 ] 5
[ 知 力 ] 10
[ 精神力 ] 10
[ 早 さ ] 999
[ 器用さ ] 999
[ 運 ] 999
[ スキル ] 短剣術(神級)、隠密(神級)、罠能力(神級)、気配察知(神級)、時間制御(神級)、クリティカル率アップ(神級)、生命力超回復(神級)、移動系能力群(神級)、経験値取得率(神級)、レベルアップ補正(神級)
同じスキルもあるけど、やはり魔法職とは違ったステータスや、スキル群に感心する。
ただ気になったのが、生命力や技力が今までより極端に少ない。
いや盗賊だから当然だろうけど、これじゃ一瞬で死んじゃうかもしれない。
「ん? どうかしたのノバ君?」
ステータスを見て落ち込んでいるのに気づいた、ミツカ(神)様が声をかけてくる。
「いいえ。無職以外の方が死に易いって本当だったんですね」
「えーっと・・、どれどれ? あー、本当だ」
ミツカ(神)様もステータスが見れるのだろう。
「気を付けないと危険ですね」
「そうね『気配察知』と『時間制御』があっても油断しちゃだめよ?」
「えっ? この二つがあると生存率が上がるのですか?」
「後でスキルはゆっくり『鑑定』してもらうとして、『気配察知』の神級は、自分への攻撃が分かるのよ」
「攻撃? どう言う事ですか?」
「暗殺のプロなんかは、気配なく攻撃できるから、不意打ちとか可能になるわ。でも『気配察知』の神級ともなると、自分へのダメージ量が分かるのよ」
「自分に向けられた気配では無く、自分を傷つける何かを察知できると?」
「そう言う事ね」
とんでもないスキルがあった物である。
「ダメージを察知できれば、あとは『時間制御』の神級で何とかなるわ」
「『時間制御』って言うのは?」
「詳細は省くけど、反射、反応、回避、加速などの、時間に関わる能力ね」
「・・・えっ!?」
「ぶっちゃけ言えば、ダメージを察知した時点で、その攻撃は当たらないって言う感じ」
「・・・はぁ!?」
「どちらのスキルも常に発動しているから、寝てても問題ないわね」
死に易いと思ったけど、生存率大幅アップではないだろうか。
「ただデメリットがあって・・」
「どの様な事でしょうか?」
「あなたの事を思っての、真摯な気持ちの平手打ちとかを、気付いたまま受けなくちゃいけないの」
「・・さ、避けられる物を、敢えて受けると言う勇気ですね」
「その通りよ」
とってもありがたい・・デメリット?である。
簡単なスキルの説明、生きるために必要な部分だけ聞いた後、冒険者ギルドに登録する。
「先ずはスキルをきちんと調べておこう」
今までの魔法職とは全くと言って良い程違うのだから、スキルを知る事は重要だ。
短剣術はその名の通り、短剣を使うためのスキルだ。
両利き、多連撃、刀身の鋭利化や硬化といった物が含まれている。
隠密は気配を消すスキルだが、音や匂い、気配だけでなく、完全に空間と同化したり、偽の気配で混乱させる事が出来る。
罠能力は、罠の探知や解除、設置が出来、鍵開けも含まれるスキルである。
クリティカル率アップに関しては注意が必要だった。
大ダメージを与える率がアップするのだが、即死または致命的ダメージでは無いと言う事。
一通り確認し終わると、ミツカ(神)様の指示の元、九つある島の一つへと向かう。
その島・・王国は、正直今までの国とは違い、大変のどかだった・・
本当に王都か?と思わせる王都の門番に身分証を見せる。
「盗賊職かあ。いやー、よくもまあこんな辺鄙な国へ来たもんだな」
「・・・はぁ」
盗賊と言う職業より、冒険者が来た事に驚いている様子だ。
「きっとすごい職業なんだろうな」
「うーん、どうでしょうか?」
「謙遜するなよ。何にもない国だがゆっくりして行ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
ギルドを使うかどうか決めかねるので、お勧めの宿屋を聞いてみる。
「お勧めの宿屋? わっはっはっはぁ・・、一軒しかないんだな、これが」
「・・そうですか」
非常に素朴な疑問をしてみる。
「あのー失礼ですが、何でこんなにのどかなのでしょうか?」
「ん? 昔はこの島を取り合って戦争があったらしいんだが、なーんにもない土地なもんで、自治権を与えてたら独立されたけど、何時でも取り返せると放置さたらしい」
「・・・そうですか」
昔はどうだったか分からないが、何とものどかな話しである。
この島は酪農が主な産業であり、聞けば他の島との玄関口である港町と、島の中央にある名ばかりの王都と言う町の他は村しかないらしい。
その王都に宿屋が一つのみ・・、ある意味なんと素晴らしい国であろう。
一軒しかないお勧めの宿屋?に行って、ふと冒険者が居ない事に気づく。
何故、冒険者はいないのかと、宿屋の主人に尋ねてみる。
「ん? ギルドには寮があるからそっちに行くんだ」
「・・・りょ、寮?」
冒険者ギルドが、冒険者のために寮とは前代未聞の珍事である。
「どうして寮をギルドが用意するんですか?」
「冒険者に来てもらうためだろう」
なーんにもない国とは言え、モンスターは出るので自警団みたいな軍はあるらしい。
しかし戦闘のプロフェッショナルとして冒険者も必要であり、少ない依頼でも定着して欲しいから色々と優遇しているとの事だ。
何とものどかな話である・・
自分に割り当てられた部屋で独りごちる。
「ギルドに行ったら・・、即パーティに入れられないか?」
一抹の不安を抱えながら、これからの事を考える。
しかし初めての物理職・・ 悩みに悩んだ挙句、冒険者ギルドの門をたたく事にする。
冒険者ギルドは、共通した建物の仕様があるのだろうか?
そう思わせる様な、何処とも同じようなギルドのスイングドアを開いて中に入る。
良く言えばのんびりとした・・、悪く言えば暇そうなギルドの職員に声をかける。
「すみません。少しよろしいですか?」
「ようこそ草原の国、王都の冒険者ギルドへ」
笑顔で答えるギルドの職員に悪いが、この国は草原の国と言うのを初めて知った・・
「先日この国に就いたばかりなので、この国の事をお聞きしたいと思いまして」
冒険者ギルドの登録証を、職員に手渡す。
「盗賊Fさんですね。しょくぎょう・・は・・、盗賊職?」
親しげな雰囲気が、一変する・・。久々と言うか、懐かしいと言うか・・
「あ、あのぉー、盗賊が何か?」
凍りついた職員に、意を決して声をかけてみる。
「盗賊Fさん? この国のギルドは、冒険者を優遇していると言う噂を聞いてきたのですか?」
「いいえ、その話はこの島に着いて知りました」
魔法職の時の対応を思い出させる感じが、ひしひしと職員から伝わってくる。
「では、回れ右をしてとっとと別の島へ行きやがれです」
「ええぇぇっ!? ど、どう言う事でしょうか?」
「この国のギルドは、盗賊如きなんざお呼びじゃねぇって事です」
「ち、ちなみにですが、もし優遇を知って来たと言ったら?」
「縄でぐるぐる巻きの簀巻きにして、海まで蹴りながら運んで、そのまま別の島に流れてもらいますです」
危なかった・・。
「さ、参考までに、どうして盗賊がダメか教えていただけませんか?」
「・・良いでしょうです。懇切丁寧に教えてやるので、一度で理解するです」
「は、はい・・」
怖い・・、本当に久しぶりに不遇職さを感じさせてくれる。
「この国の主な産業は、酪農で、全大陸の殆どが草原です」
「その話は聞いています」
「そしてこの国には、ダンジョンはありませんです」
「そうですか・・・、えっ!?」
ダ、ダンジョンがない・・って、盗賊に取ってよろしくない感じがぷんぷんする。
「殆どの残りは、川や湖、沼、森などです。特に森からモンスターが現れますです」
「は、はい・・」」
「モンスターのタイプは大まかに二通りで、草をものすごい勢いで食い荒らすモンスターと、家畜を襲う足の速いモンスターです」
「なる程・・」
「草食系モンスターは、外皮が非常に固く、通常の武器でさえなかなかダメージが通りません。盗賊の短剣など論外です」
「・・・なっ!?」
「足の速いモンスターは、攻撃が当たらず、狩人職などによる罠で捉えてから倒しています。いくら盗賊の足が早くても、多分追いつけないでしょうねです」
「そ、それは・・」
「盗賊のスキルが輝くダンジョンは、この国には存在しませんです」
「先程、拝聴しました・・」
「国民はギルドに期待しておりますので、失敗は極力避けねばなりませんです」
「当然かと・・」
「役立たずの盗賊が、引っ掻き回してギルドの質を下げられては非常に迷惑です」
「で、ですよねー」
充分に理解できたか? 納得したか?と目で語ってくる。
「ご理解できたようですので・・」
「あのー、一つお願いがあるのですが」
「ああん?」
てめー、まだ分かってねぇのか?と言う雰囲気が滲み出る。
「せ、せめてこの島、国に来た記念にモンスターと、討伐している所を見せていただけませんか?」
「ふむ・・、そうですね・・」
ギルドの職員とて鬼では無い。
手を出さずに大人しく出てってもらえるなら、この程度の協力はすべきかと考える。
「分かりました。ちょっと行ってみましょうです」
「お、お願いします」
急なお願いだったにも拘らず、快く引き受けてもらえる。
ギルドの職員に付き添われて、草原へ出てしばらく進むと、モンスターとの戦闘が見えてくる。
・・あれ? サイズが何か変な気がする。
「職員さん・・、あれは?」
「グレートライノセラスです。犀のモンスターで、体高は大人の背丈の有に三倍ありますです」
物理職と魔法職の混合パーティが、ひたすら攻撃しているが決定的なダメージに至っていない様子だ。
「あのパーティでも、かなり長い時間かかります。あれだけダメージを与えると、暴走して周囲に甚大なダメージを与えるでしょうです」
「つまり逃がせないと?」
「はい、ギルドの信頼問題にもなりますです」
見る限り、確かに盗賊ではダメージは与えられず、ソロなんかではもっての外だろう。
「お分かりになりましたか? キッチリ仕事をこなせる人達が必要なんです」
「そうみたいですね・・」
「では、次の場所へ向かいましょうです」
「・・はい」
次は足の速いモンスターの対応についての見学である。
「ここで待っていて下さいです」
「大丈夫なんですか?」
目の前には、親子の家畜がのどかに草を食んでいる。
「既に罠は仕掛けられていますです」
「つまりこのまま待っていれば良いと?」
「いいえ・・。仕掛けられた罠に百%かかる事などあり得ませんです」
「ちなみに確率は?」
「酪農家の方々には、五分五分と。実際には二割程度でしょうねです」
そんな話の最中、砂煙をあげて猛スピードで突っ込んでくる何かを見つける。
「あれが?」
「そうです。ブースターライオンと言います」
あのスピードに対応できる人間は、ごく限られるだろう。
そう思った瞬間、罠が発動しブースターライオンの動きが取られる。
隠れていた冒険者たちが一斉に襲い掛かる。
「こうやってモンスターを討伐していますです」
「しかし効率が悪いですね・・」
「この国のモンスターの習性なのか、一度上手くいった所に再び現れますです」
「後手に回るしかないと・・?」
「その通りです。しかし他に方法がないのが現状です」
「森の方には?」
「定期的な討伐を仕掛けていますです」
定期的な討伐から漏れたモンスターが、問題となっているのだろう。
「もうよろしいですか?」
「ありがとうございます。お手数をおかけしました」
礼を言うと、二人で王都と言う名の町へと帰って行く。
ギルドでノバは職員と別れると、宿屋で今後について考える。
「流石はミツカ様・・。とんでもない場所に、盗賊職で送ってくれたなぁ」
盗賊職にダンジョンがないと言うのは、不遇以外の何物でもない。
「草食系のモンスターの多くが、グレートライノセラスばっかりだったら、ソロじゃなくても盗賊は難しいかな・・」
この島に暮らす人々の生活を脅かしてまで、冒険者をやろうとは思わない。
「となると・・、足の速いモンスター・・か」
短剣とスキル『短剣術』でダメージを与えられるだろう。
スキル『隠密』『気配察知』『時間制御』があれば取られられるだろう。
スキル『クリティカル率アップ』で大ダメージも可だろう。
ただしギルドは使えない。あくまでも自己責任である。
「まあパーティは避けたかったし、独自のルートを作った方が良いな」
そのまま町を回って、交渉を行う事にする。
宿屋が一件しかない王都に、武器屋に防具屋、道具屋がそんなにあるはずがない。
件数が少なければ、ギルドから卸される素材で十分になる。
単純な話であるが、この草原のモンスターからの素材では、大した収入にならない事が判明する。
欲しているのは鉄などの金属で、他の島から輸入しているらしい。
盗賊寄りのスキルや、ギフトの『移動系能力群』とギフトの『空間倉庫』で、商人をやった方が、遥かにもうかるだろう。
依頼を受けられず、依頼料が貰えない。
素材を引き取ってもらう事が出来ない。
寮に泊まる事が出来ない。
この国では冒険者ギルドが使えない事が、とても痛手と言う事が分かる。
「これはどうやって生計を立てればいいんだろう?」
手を付ける前から、ヤバい状況がひしひしと迫っていた。




