ある王国での出来事
【ある王国での出来事】
今から少し前の出来事・・
ある王国には、神から直接啓示を受けた。
『神を蔑にした者たちに罰を下す。
神の代理人に仇なす者たちに罰を下す。
汝らの周りから恵みを取り去る。
大地は食べ物を生まず、好ましい物は得られない。泥をすするが良い。
大地は財宝を生まない。美しい細工は得られない。ボロを舞うが良い。
民は呪われ活力を失う。怒りと憎しみは活力となり王家に向けられるだろう。
神な慈悲深い。必要な物は、民と分かち合う時のみ与えられる。
国王と王女、国の主だった者たちが、心より悔い改めるまで、この誓約は取り去られる事はない。
心よりの悔い改めとは言葉に在らず、思いと行いによってのみ示される。
聖騎士と、僧兵と、退魔師と、治療師がこの国に居る限り、光と聖の魔法は取り去られる。
光と聖の魔法は、四人が居る限り蘇る事は無い。
聖騎士と、僧兵と、退魔師と、治療師から光と聖の魔法は残される。
四人はこの国を出る時、光と聖の魔法は奪われる。
我は真の改心を求める。真に改心をせよ! 言葉ではなく行いで示せ! 我への賛美は国の繁栄が、我への侮りは、国に更なる呪いと穢れが訪れるだろう。
我が言葉の証を、この城に印を刻む』
その城は、修理する度に前と同じ様に壊れた。
しかし、決して崩れる事はなかった。
神の怒りが取り去られるまで、その証として残されているのだろう。
自分に割り当てられた執務室に、一人佇む聖騎士・・
『男爵の地位を与え、新設される女性聖騎士団の初代団長に任命する』
女性の男爵として、一代限りとはいえ、小さいながらも領土と町を与えられた。
聖騎士とはいえ、男爵が与えられる栄誉に酔い知れた。
女性が騎士団の、ましてや聖騎士たちの団長となる事は不可能だった。
不可能を可能にした、類稀なる、王国初の女性だ。
「(それがどうしてこんな事に・・)」
城がヒビが入った日から、そんな自分の立場が変わってしまった。
その日から、誰もが光系の魔法が使えなくなった。
聖騎士が一人も居なくなり、自分だけがこの国でただ一人の聖騎士・・
つまり一人っきりの騎士団、名前だけある騎士団と化した。
元聖騎士たちから、恨みがましい視線が自分に向けられる。
自分だけに残された光系魔法・・
漏れた噂で、自分が原因でこの国から光系魔法が失われたと、皆が知っている。
王がその様な事は無いと言っているため、表立って非難はしてこない。
「(それがどうしてこんな事に・・)」
平民のくせに勇者となった異世界からの男・・。
黙ってつき従って居れば、自分の望みは全て叶うはずだった。
「すべてはあのノバのせいだ!」
手に触れる物すべてを、投げちらかし、者に当たり散らす。
コンコン
突然ノックの音が響く。
「・・入れ」
「失礼します」
一人の女性が入ってくるも、騎士では無い様だ。
「何か用か?」
「国王陛下のお呼びです」
「・・分かった。すぐに行く」
使いの者が去った扉を睨みつける。
「(今更何の呼び出しだと言うのか!)」
たった一人の聖騎士団の主として、窓際として放置された自分に・・。
ただ一人鍛練場で、黙々と武技を磨く。
『男爵の地位を与える。
尚この度、教会で新設される女性僧兵団の初代団長への推薦があり承認した』
教会に属する者で爵位を得られるものは極僅かだ。
ましてや女性ともなれば、更に少ない。
僧兵は男性も女性も居るが、女性は決して上に立つことはできない。
女性僧兵だけの団が作られ、そのトップになる。
何と言う栄誉か!
「(それがどうしてこんな事に・・)」
城がヒビが入った日から、そんな自分の立場が変わってしまった。
いや、教会そのものが変わってしまった。
人々を癒して(金銭を得て成り立って)居たのに、それが一切できなくなった。
教会は門を固く閉ざして、人々の癒しを拒否している。
治療師や退魔師の護衛である僧兵の、殆どの仕事が失われてしまった。
聖系魔法を使えなくなった者は、待機と言う名の謹慎状態だ。
そして聖系魔法を使えるのは、この国では三名だけ。
ただ一人の僧兵の自分は、ただ一人の女性僧兵団の団長・・。そして残りの二人の護衛が、今の自分に与えられた仕事だ。
何と言う虚しい響きだろうか?
漏れた噂で、自分たちが原因でこの国から聖系魔法が失われたと、皆が知っている。
王がその様な事は無いと言っているため、表立って非難はしてこない。
いや非難してくる余裕なんかない。
教会の上層部は今後どうすべきか、連日連夜無駄な話し合いを続けているから。
聖系魔法が使えなくなった事に関して、神の試練として緘口令が引かれている。
「(それがどうしてこんな事に・・)」
平民のくせに勇者となった異世界からの男・・。
黙ってつき従って居れば、自分の望みは全て叶うはずだった。
「全部全部全部、あの間抜け野郎のせいだ!」
怒りにまかせて、訓練用の人形を殴り続ける。
「僧兵殿」
背後から教会の者から声が掛けられる。怒りで我を忘れていたとはいえ失態である。
「何か?」
「王宮からの使者です」
「・・えっ!? 何と?」
「至急、王宮に赴く様にと」
「分かった・・、すぐに行く」
汗をぬぐうと、身支度を整える。
「(今更、何の呼び出しだと言うのか!)」
たった一人の僧兵として、放置された自分に・・。
待機と言う名の謹慎を告げられ、自分の部屋のベッドでくるまって震えている。
「(どうして、どうして、どうして・・、どうしてこんな事に!)」
自分の目の前には、光り輝く未来が開けていたはずだった。
『男爵の地位を与える。
尚この度、教会で新設される女性退魔師団の初代団長の推薦があり承認した』
教会に属する者で爵位を得られるものは極僅かだ。
何よりも退魔師では、男女通しては初めての快挙だ。
退魔師は男性も女性も居るが、女性は決して上に立つことはできない。
女性退魔師だけの団が作られ、そのトップになる。
自分だけに与えられる特権。
「(それがどうしてこんな事に・・)」
城がヒビが入った日から、そんな自分の立場が変わってしまった。
いや、教会そのものが変わってしまった。
この国から聖系魔法が失われてしまった。
対アンデッドのスペシャリストである退魔師の仕事が失われてしまった。
聖系魔法を使えなくなった者が、アンデッドを前に何が出来ると言うのか。
そして聖系魔法を使えるのは、この国では三名だけ。
ただ一人の退魔師は、上層部の命令でひたすらアンデッド退治・・
来る日も来る日も、三人残った聖系魔法を使える者が戦わされる。
自分だけが危険な目に会わなくてはならない。
本来なら豪華な机の前から、命令するだけで良かった立場なのに・・
「くそノバ! あいつに関わったせいだ・・」
平民のくせに勇者となった異世界からの男・・。
黙ってつき従って居れば、自分の望みは全て叶うはずだった。
歯ぎしりして、枕を引きちぎる。
目先の栄光と言うエサに喰いついた自分の愚かさは棚に上げて。
コンコン
「(ビクッ)」
またアンデッド退治の仕事だろうか・・、もう疲れた・・
恐る恐るノックに答える。
「何でしょうか・・?」
「王宮からの使者の方がお見えです」
「・・えっ!? 何と?」
「至急、王宮に赴く様にと」
「分かりました・・、すぐに向かいます」
のろのろと起き上がると、身支度を整える。
危険な仕事を押し付けられなかっただけマシと思いながら・・
ぐったりと机にもたれかかる。
連日の治療に加えて、退魔の仕事のヘルプにも行かなくては行かない。
「(どうしてこんな事に・・)」
自分の目の前には、光り輝く未来が開けていたはずだった。
『治療師には、男爵の地位を与える。
尚この度、教会より聖女の称号を与える様に推薦があり承認した』
一介の治療師が男爵に? こんな名誉は教会初である。
何よりも教会の、全ての役職のトップである聖女の称号!
全ての教会に属する者たちが、自分に傅く。
全ての国民、いや世界中の人々が、自分に跪くのだ。
教会に属する全ての女性の憧れの称号であった・・
「(それがどうしてこんな事に・・)」
城がヒビが入った日から、そんな自分の立場が変わってしまった。
いや、教会そのものが変わってしまった。
この国から聖系魔法が失われてしまった。
あらゆる人々の癒すと言う仕事が失われてしまった。
聖系魔法を使えなくなった者が、人々に何が出来ると言うのか・・
そして聖系魔法を使えるのは、この国では三名だけ。
ただ一人の治療師は、上層部の命令で連日治療を続ける。
その間にもアンデッド退治のヘルプ・・
来る日も来る日も、聖系魔法を使える者に過酷な仕事が回される。
人を使う立場の私が、人に使われなくてはならない。
何という屈辱か!
「あの下種な男のせいです・・」
平民のくせに勇者となった異世界からの男・・。
黙ってつき従って居れば、自分の望みは全て叶うはずだった。
すっからかんの技力で、疲労感が半端無い・・
立ち上がるどころか、何かに当たる気力さえない。
コンコン
「はい・・」
疲れた・・、力無くノックに答える。
「王宮からの使者の方がお見えです」
「・・えっ!? 何と?」
「至急、王宮に赴く様にと」
「分かりました・・、すぐに向かいます」
のろのろと立ち上がると、身支度を整える。
聖女である私を呼びだすとは、と思いながらも・・
手渡された資料と、口頭での報告が間違いが無い事を聞いて怒鳴り散らす。
「一体どう結う事だ! 税金がまともに納められんとわ!」
「この国全域で、かなり厳しい不作となりまして・・」
「ワシにその様な事は関係あるまい! もっと厳しく取り立てよ!」
「陛下・・、これ以上無理には・・」
「黙れ! 言われた通りにすれば良いのだ!」
「・・はっ」
国王の命として、民から厳しく税を取り立てる。
働いても働いても、楽にならない生活・・、更に厳しく取り立てる税・・
民は活力を失い、働く気力を失ってしまう。
畑や村を棄て、王都へと難民として流れてしまい、治安が悪くなる。
報告してきた部下が出て行くと同時に、娘である第一王女が入ってくる。
「お父様!」
「どうしたそんなに慌てて、第一王女よ?」
「聞いて下さいませ! 私への装飾品が手に入らないと申しまして」
「どう言う事か?」
近くに居る部下に報告させる。
「先程の資料に含まれておりましたが・・」
「ぬぅ!? そうだったか」
税の事で、話の途中で追い出してしまった様だ。
「それで、どう言う事か?」
「はっ。この国の金銀の貴金属は元より、鉄でさえ枯れてしまいました」
「・・なっ!?」
「その上、宝石を産出する鉱山も・・」
「何じゃと!?」
この国を潤す貴金属や宝石、武力の源たる普通の金属でさえ失われたのだ。
驚くのも無理からぬ事。
「す、すぐに原因を究明させよ」
「はっ!」
部下が執務室を飛び出していく。
「一体何が起きているのだ、我が国に・・」
その場に居た殆どの者が理解していた、神の怒りを買ったのが原因だと。
しかし神を認めて居ない王の手前、決して口にせず神妙にしていた。
そして王が召還した者たちが、王宮に就いた事を告げられる。
聖騎士、僧兵、退魔師、治療師の四人は揃って、跪いて国王の言葉を待つ。
「良く参った」
「はっ、陛下の命あれば、何時いかなる場所におりましても馳せ参じます」
聖騎士が代表して答える。
「そなたたちを呼びだしたのは他でも無い、そなたたちの裁きが決まったからじゃ」
「えっ!? 裁き・・でございますか?」
あまりの一言に、治療師が思わず声を発する。
「うむ。この国から光と聖の魔法を失させた罪の、じゃ」
「お、お待ち下さいませ! 国王陛下!」
思わず退魔師も声を上げる。
「私たちがそのような大それた事をするはずがございません!」
「神の代理人たる勇者を蔑にしたであろう?」
「「「「なっ!?」」」」
呼び出された四人は驚きの声を上げる。
そして、全ての責任を自分たちに擦り付けるつもりである事を悟る。
「陛下! それであれば私たちだけでは無く・・」
「余のせいだと申すのか?」
「っ!?」
ここでそうだと答えれば、命が無くなる。
歯を食いしばり、言葉を飲み込む。
神を信じず、神の代理人にとんでもない仕打ちをした張本人が目の前に・・
尤もその責任の一端が自分たちにある事は認めないが。
「そなたたち四人は、勇者ノバの探索を命じる」
「・・えっ!?」
神を信じないくせに、神の啓示を達成すれば良いと考えたらしい。
体よく自分たちを国から放逐すると言う事か。
しかし神の警告を良く調べれば、四人を追い出した後、この国がどうなるか分かりそうなものである。
「謹んで・・、お受けいたします」
国王の命は絶対。怒り心頭で旅に出る事にする。
四人は思う・・、神の怒りはこの結果を踏まえての事だと。
『心よりの悔い改めとは言葉に在らず、思いと行いによってのみ示される』
『我は真の改心を求める。真に改心をせよ! 言葉ではなく行いで示せ! 我への賛美は国の繁栄が、我への侮りは、国に更なる呪いと穢れが訪れるだろう』
これが神の求める改心か? 行いか? 共に地獄へと心の中で罵る。
彼女らは国から出れば、光と聖の魔法を失ってしまう。
聖騎士は戦士として、僧兵は格闘家にはなるだろう。
しかし退魔師と治療師は単なる足枷、重荷にしかならない。
彼らの旅の先にあるのは、地獄でしかなかった・・
国王は四人が出ていた扉を見つめて独りごちる。
「これで我が国にも、光と聖の魔法が蘇るわい!」
神を蔑にしているのに、神の啓示に従ったから戻ると疑わない。
何と愚かな王であろうか・・
更なる呪いと穢れについては、全く考えもしないのだろうか。
後日、国王は部下の報告を受けて驚く。
「な、何じゃと?」
「陛下・・、大地から塩が噴き出し全ての作物が枯れており、新たな作物も育ちません。牧草も失われ、酪農も大打撃を受けています。川や湖の水は淀み、悪臭を放っており、魚は失われました」
この国の食糧自給率がゼロになった瞬間であった。
「馬鹿な・・、何故じゃ!?」
「陛下・・、ご存じないのですか?」
「原因が分かっておるのか? ならば何故行わん」
部下は内心冷めた目で、淡々と報告する。
「陛下、神からの啓示を一部、都合のいい部分を取って、行われたからに過ぎません」
「ん? どう言う事じゃ?」
「聖騎士、僧兵、退魔師、治療師を追い出せば、光と聖の魔法は蘇ると」
「その通りじゃ。神の啓示じゃからな!」
「では、陛下は神の啓示を信じられ、神を敬われるのですか?」
「んん? 何が言いたい?」
「何故、勇者を奴隷に?」
「貴様何が言いたい!」
今更昔の事を蒸し返された所で、怒りが爆発する。
「啓示では、あの四人を追い出せば、この国は更にに悪くなると仰られています」
「はぁ!?」
「神はあの四人を追い出す事を求めていません。真の改心をと。言葉ではなく、真心と行いで示す。陛下は、この事をご存じだった訳です」
「知らん、余は知らんぞ!」
「では、何故あの四人を国外追放にされたのですか?」
「それは・・、神の啓示・・」
「では国の現状は予想できたと? 勇者を蔑しにした理由は? 神を敬って・・」
「煩い! 黙れ! お主の顔など見たくない! 失せよ!」
自分で言っている事に、矛盾がある事に気付いているのか・・
自分が絶対と思っている者には、気付けない事のなのではないか・・
更に傾国は加速して行く。
国王は厳しい事を言った部下が、どこにも存在しない事を知る事は無かった。




