水系の魔法使い 後編
【水系の魔法使い 後編】
魔石とは、モンスター化した動植物の中に存在する。
良く分かってはいないのだが、動植物に魔石が出来るとモンスター化するとも言われる。
どちらが先か、どちらも正しいのかは分からないが、この世界の常識とされている。
そしてこの魔石は、色々なアイテムとして使用できる。
更に属性を持つモンスターの魔石は、その属性が魔石に宿る。
動物の中には身を守る手段として、獲物を狩る手段として、不思議な能力を秘めた物が存在する。
発電器官
体内に電気を作り出す臓器や器官を持っている物がそれに当たる。
モンスター化すると、雷系属性と言う非常にレアな属性の魔石が出来るのだ。
このモンスターは、二階層から下でしか現れず、一攫千金を狙う冒険者はこの魔石を求め、この種のモンスターを倒そうとする。
その日も日銭を稼ぐため、二階層に来ていた。
少し先から戦闘音が聞こえてくる。
「(やっぱりこの先で、誰かが戦っているみたいだけど・・、変な音がするな)」
邪魔にならない様に、コッソリと覗きこむ。
五人組のパーティが、電気エイがモンスター化した、トロピダーと戦っている。
「(へぇー! 変な音がすると思ったら、あれが雷系魔法か・・)」
ただ傍から見ると、かなり無理な戦いをしている様であった。
雷系魔法に何の対応も手段もしていない様子で、腰までの水で動きが鈍い上に、もろに雷系魔法を喰らって、満身創痍の状況である。
遅かれ早かれ、パーティは全滅して、モンスターの餌になるのは間違いないだろう。
荒地との場合とは違い、近くのモンスターは一体のみ。
気付かれても問題ないと判断して、パーティに声をかける。
「助けが必要ですか?」
「えっ!? た、頼む!」
了承を取り付けると、横やりや横取りでは無い事を、お互いに認めて参戦する。
「ドレナージ!」
モンスターや冒険者たちの周辺の水を、一気に排出する。
「「なっ!?」」
いきなり水が無くなり、地面が現れ、モンスターはもがくだけの状況。
「よっしゃあ!」
思わぬ幸運に冒険者たちが襲いかかるが、雷系攻撃の餌食になる。
「(・・・少しは学習しましょうよ)」
自分たちが負ける原因は、水だけでは無い事を忘れているかのようだった。
「アクアレーザー!」
内心溜息を吐きつつ、トロピダーに止めを刺せば、アイテムをドロップする。
「へぇー、これが雷の魔石ですか。初めて・・」
アイテムを取ろうとすると、直前で転がりながらアイテムをかっさらう姿。
「へっへぇー! やったぜ! 俺たちが倒したんだ!」
「先程、ヘルプを確認して、了承・・」
「お前、横やりするんじゃねぇよ!」
ノバの言葉に被せつつ、パーティが殺気立つ。
「もう一度言います・・」
「ギルドでも、横やりや横取りはご法度・・」
ノバの言葉を遮って、あくまでも自分たちの正当性を一方的に突き付けるので、ドレナージを黙って解除する。
先程の戦闘のダメージから回復して居ないパーティの面々は、まだ立ち上がれず、腰の深さでも溺れてしまう。
「もう一度聞きます。先程ヘルプの了承がありましたか? 横やりや横取りは倒れる寸前で止めを刺して、自分たちが倒したと主張する事です。トラブルが起きない様に、助けに入らなければ、全滅したと考えて、アイテムはヘルプした人たちの物と決まっています」
「わ、分かった! 悪かった、俺たちが悪かった!」
ドロップ品を全部差し出され受け取ると、ドレナージを使い回復を待つ。
「次は、あなた達を助けない。信頼も信用もしない」
きっぱりと言い切ると、元来た道を戻りながら考える。
「(はぁー、パーティって言うのは、僕にとって良くないみたいだ・・)」
首を振りながら、自分のための狩り場を探す。
宿屋でその日の夕食を突っつきながら、今日の出来事を考えていると、目の前に人影が出来る。
「・・えっ!?」
思わず顔を上げると、見知らぬ女性が立っていた。
「冒険者ギルドです。あなたにお聞きしたい事があります。ご同行願います」
「えっ?」
訳が分からず戸惑っていると、職員が理由を告げる。
「あなたに獲物を横取りされたと、あるパーティから訴えがあります」
「横やり・・ですか? 分かりました、すぐに」
そう言うと、ギルドの職員に先導され、ギルドの一室に案内される。
思った通り、つい先ほど助けたパーティが居た。
「こ、こいつだ! こいつに間違いねぇ! 横やりした上に、アイテムを横取りしたんだ!」
話し合いの開始の合図の前に、勝手に我鳴り始める。
これにはギルド職員も、もう一人いた男性も顔を顰める。
「だまれ! 好き勝手に話を始めるな!」
もう一人の男の方が、パーティを一喝すれば黙りこむ。
「おれはこの町の冒険者ギルドのギルドマスターをやっている者だ」
「初めましてギルドマスター。僕は水使いEと言います」
冒険者ギルドの登録証を差し出す。
「こいつらの騒ぎで、大体の話は分かると思うが・・」
ノバは黙って、雷の魔石とそれと一緒に出たアイテムを出す。
それを見たパーティが色めきだす。
「お聞きしたいのですが?」
「ん? 何だ?」
「彼らのランク、装備で、トロピダーに勝てたと思いますか?」
「それは・・」
一目見て無理と判断するが、戦闘に常と言う言葉が無い以上、ギルドマスターも口籠る。
「一つ提案がありのですが?」
「提案? どんな?」
「皆で一緒にトロピダーを狩りに行きませんか?」
「「えぇっ!?」」
その場に居た誰もが、僕の提案に驚く。
「当然、僕も切り札を見せる訳ですから、それ相応の条件を付けさせて欲しいのですが」
「どんな条件だ?」
「今後、ギルドから僕に一切、協力の要請をしないと」
「何だと!?」
ギルドマスターや職員の前で、強力な力を見せれば、ギルドは僕の力を当てにする。
そう思っての牽制であった。
「切り札と言うのは、そう言う物ですからね」
「・・なる程」
ギルドマスターは、目の前の水使いEの実力は測りかねる。
が、たかが冒険者一人である。
「良いだろう。後はお前たち次第だ」
今まで沈黙していたパーティに水を向ける。
「そんな事言われてもな・・、本当にギリッぎりの戦いで、もう一度やれと言われても・・」
「何なら少しぐらいは手伝ってやるぞ?」
ギルドマスターの言葉に、お互い顔を見合わせるが、自分たちの実力は自分たちが良く知っている。
「じゃあ、お話が纏まりましたらご連絡下さい。もっとも信頼できない冒険者が居る町には長く居ませんけどね」
僕はこれ以上の話し合いは時間の無駄と思い、さっさと帰ってしまう。
宿への帰る道で、誰かが殺意を持って後を付け感じ取っていた。
彼らは再びトロピダーと戦う意欲は無いだろう・・
ギルドマスターも、彼らの実力に疑いの目を向けていた・・
しかし彼ら自身は、僕の実力を見ている・・
しかし僕の提案に乗らなければ、自分たちの立場が悪くなる事も知っている。
彼らが選ぶであろう最悪の結末を。
予想通り、人気のない通りで、顔を隠した五人組が囲んでくる。
「あなた達はどなたですか? 何の御用ですか?」
闇打ち・・
そんな言葉が脳裏に浮かぶと同時に、彼らは武器を抜いて襲い掛かってくる。
ガキッン!
「「なっ!?」」
不審者たちは、思いがけない手応えに驚き、跳び離れる。
「ほぉ、対物理障壁か・・。魔法阻害領域でしかも無詠唱ときた」
別の方角から声がする。
姿を見せるは先程別れたばかりの、衛兵を引き連れたギルドマスターであった。
「な、何で・・」
不審者たちから驚きの声が漏れる。
「ああん? 下種の考える事なんざ、割と決まっているもんなんだよ」
五人組はあっという間に、衛兵たちに縛り上げられる。
顔の覆いを剥がせば、やはり先程のパーティの顔が現れる。
「あいつらじゃあ、手も足も出なかったんだろうな」
「・・囮にした、と言う事ですか?」
「ん? そんな顔するな。実力差は分かっているつもりだったがな」
「この国で魔法使いに対して、持つべき感想では無いと思いますがね」
魔法阻害領域で魔法使いが、囮にされたらどうなるかも考えられないのか?
何にしても、囮にされた方は気持ちのいいものではない。
「まあ、そう言うな。明日、ギルドの方に顔を出してくれ」
「・・気が向いたら」
その場ではその様に応えて置く。
既に僕の中では、このギルドに顔を出すつもりは無かったが。
二日、三日した後で、ギルドマスターは執務室で愚痴る。
「おいおい。本当に来ないつもりかよ・・。何て器の小さい野郎だ!」
ギルドマスターの言葉を、誰もが聞くと思っていただけに、苦々しげな顔をする。
宿の自分に割り当てられた部屋に戻ると、ベッドに『使徒の訪れ』が寝ていた。
「・・えっ!? ミツカ様!? 何で・・寝てる?、ええっ!?」
普通に待って居てくれれば、此処まで慌てなかったかもしれない。
「驚いた? 吃驚した?」
「お、驚きましたよ、まさか寝て居るなんて・・」
ガバッと起き上がると、茶目っ気にも両手でピースサイン。
そんなのどかな雰囲気を壊しながら、ミツカ(神)様が切り出してくる。
「お気に召さなかったのかしら?」
「・・えっ!? ええ、まあ・・」
最初何を言われたのか分からなかったが、ここでの生活の終止符を確認してくる。
「実力差? 魔法阻害領域の魔法使いが、どれほど不遇か理解して居ないんですかね」
「上に立つ物としては、時には非情になる必要はあるけれど・・。彼らの攻撃の前に、止める事はできたはずよね・・」
僕の溜息に、ミツカ(神)様も同意する。
あの場は、僕自身の実力を測るために用意されたと思われても仕方が無い。
並みの冒険者なら仕方ないと割り切るかもしれないが、実力者に同じ事をすれば反感を買うのは当たり前だ。
それが分からないギルドマスターに付いて行くのに、危険を感じるのである。
「じゃあ、転職ね!」
「はい・・、ご迷惑をおかけしますが・・」
「何時も言っているけど、こちらの責任なのよ?」
転職の度に謝る僕に、ミツカ(神)様は言葉を遮る。
「いいえ、そうではなくて。パーティを組む事に・・ちょっと」
「ああ、そう言う事ね」
ミツカ(神)様は、こっちに呼ばれて、酷い王に仕えさせた責任と勘違いしたみたいだ。
でもその後の生活は、僕自身が乗り越えなくてはならない部分が大きい。
乗り越えなくても良い、ヒモと言う生活も用意されているのに、僕は拒否している。
「パーティに人助け、有名なる・・、ここはあなたに乗り越えてもらいたい」
「分かっています」
「そのために機会と場は、出来る限りも受けるわ」
「・・ありがとうございます」
ミツカ(神)様は、これから先の支援を約束してくれる。
「ゆっくりと考えなさい。心の傷を癒せる方法を」
「・・はい」
しかし心の問題は自分の問題・・。ミツカ(神)様でも何ともできない。
二人の沈黙を破るかのように、ミツカ(神)様が口を開く。
「差し当たり、次の職業をどうするかだけど・・」
「そうですね・・、どうしましょうか」
「魔法を使う基本職は、全て終わったから・・」
「はい・・」
身分証明書を作るため、各職業で冒険者登録してしまっている。
そして多かれ少なかれ有名になってしまっているのだ。
「別の場所は良いとしても、同じ職業に戻るとなると、優れた魔法使いが居る可能性というのを示してしまっているから・・」
「あちらこちらから、色々な手が回ってきますよね?」
すぐにあの王国が、自分と結び付ける事は無いだろうが、他の所から何かしらアプローチがある事は予想できる。
「となると・・、魔法職をすっぱり諦めて・・」
「物理職か生産職となりますかね・・」
「そうなるわね・・」
「物理職って、あまり不遇職を聞かないんですけど、あるんですか?」
「勿論あるわよ?」
物理系の基本職を説明してくれる。
「物理職は、戦士、盗賊、狩人が基本なんだけど、パーティには生産職の薬師も含まれるわ」
「薬師? 生産職が戦闘に加わるのですか?」
「回復の出来る僧侶が少ないから。聖系魔法使いなんて殆ど見ないしね」
「なる程、回復役としてですね」
薬師は意外になり易い職業の一つである。
村で暮らすには、最低限の薬草や、薬の知識は必要とされるためだ。
逆に僧侶は教会に勤めているが故に、教会の外に出る事はあまりない。
僧侶を仲間にするには、稀に教会の外に出てきた者をパーティに入れるか、教会関係者とコネを持って、紹介してもらうぐらいしか方法が無い。
得にくい僧侶よりも、なり易い薬師をパーティにとなるのだ。
尤も他の物理職だって薬の知識はあるが、本職にはやはり叶わない。
「話が脱線したけど、物理職の不遇はザラにあるから選り取り見取りよ?」
「そ、そうなんですか・・」
今までの魔法職の不遇を考えれば、かなり不安を覚える。
不遇と言うよりは、嫌われ者と言う感じであったから・・
物理職の不遇は、魔法職と違って、「ああ、そうか」と人にはなかなか理解してもらえない不遇である事を知らされる。
「但し・・」
「何でしょう?」
「物理職は不遇と言っても、人に理解されない不遇だから・・、ソロは少数派よ」
「それは、つまり・・?」
パーティについて考えなくてはいけないと言う事だ。
「多分、パーティに誘われる機会が多くなると思うわよ?」
「そ、そうですね・・」
「さっきも言ったけど、物理職の不遇は、人に理解されない不遇と言う王道なの」
「不遇の王道ってすごいですね・・」
あまりの言葉に、唖然としてしまう。
「良い? 魔法阻害領域と言う特別な環境でなければ、魔法職は総じて花形職よ」
「そうですね」
「物理職だって、そんなに不遇と言う話を聞いた事がないでしょう?」
「はい、不遇と聞いて驚いたぐらいですから」
「しかし不遇が存在するのは何故か?」
「どうしてでしょうか?」
「そ・れ・は、百聞は一見にしかず。基本職の三つで体験してもらいましょう」
「そ、そうですか・・」
この場では教えてもらえない様だ。
「つまり、いきなり実地で不遇の王道について学ぶと?」
「そうなりまーす! じゃあ、レッツ転職!」
妙にテンションが高いけど・・、何か裏があるんじゃないだろうか?




