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水系の魔法使い 前編

【水系の魔法使い 前編】


僕は島の玄関口となる港町の食堂で、平然と食事をしていた。


森の国の中央の町での服装は、魔法使い然とした杖とローブと言う姿だった。

しかし今は、平民と同じ恰好をしている。


僕の顔をはっきりと知っている町民たちは、既に捕まっている。

監査官だった職員も事後処理で、自分を探している余裕はないだろう。


「今回はお手柄だったわね、ノバ君」

「ミ、ミツカ様!?」


今回はまだ『使徒の訪れ』に話しかけては無かったのだが、フラッと目の前に現れ驚く。


「邪教徒集団の壊滅。正に英雄的な活躍よ!」

「いやいやいや・・、目立ちたくないですってば・・」

「そう言えば・・そうだったわね」


手と首を横に思いっきり振る姿を見て、『使徒の訪れ』は苦笑いする。


あの町のギルドマスターと町長が行おうとしていた事を聞いてみる。


「ミツカ様・・。魔王って、本当に召喚できるのですか?」

「私が許可すればね。ノバ君の時みたいに」

「じゃあ何で、お手柄とか英雄とかの話になるんですか?」

「犠牲者を、これ以上出さずに済んだんだからね」

「ああ、なる程」


町ぐるみでの生贄事件として考えれば、罪のない人々の犠牲など無い方が良い。


ふと疑問に感じた事を聞いてみる。


「じゃあ、僕が倒した魔王はミツカ(神)様が呼ばれたのですか?」

「ノバ君。魔王を生み出すのは私じゃないの。人間によって生み出されるものなのよ?」

「・・・・」


ミツカ(神)様の言葉に、思わず黙り込んでしまう。


怒り、憎しみ、狂気、恨み、哀しみ・・と言った物が魔王を生み出すと言う。

どれほどの負の感情で塗り固めれば、魔王に至るのだろうか・・


「もしかしたら彼らに殺された冒険者たちの怨念が、魔王となったかもね」

「召喚した彼らに、罰を下す存在が生まれると言う事ですか」

「まあ、そうなるかしら」


僕は深く溜息を吐き、ミツカ(神)様の肯定を聞く。


「もしかして、英雄になっちゃったから転職を希望する?」

「はい、申し訳ありませんが・・。今回は流石に不味いですし」

「うーん、僧侶は上級職になるから、有名になり易くなるわね。もう一度魔法使いに戻るか、全く別の物理職に就くかになるけど・・、どうする?」

「有名には、なりたくないです」


ミツカ(神)様の、最初の提案には即決である。


「此処まで来たら残りの、水系の魔法を使ってみたいと思うのですが?」

「ふむ、水使いね・・」

「ミツカ様、何か問題でも?」

「うーん、水系魔法ってトリッキーだけど、オールラウンダーでもあるのよ」

「と言う事は、不遇にはなり難いと?」


旅には水は必要だし、攻撃、防御、支援が可能である。

ただ強力だったり、大規模の場合は水辺以外は効率が悪く、使い勝手が良くない。


器用貧乏な魔法と言う事なのだろう。

ただ自分の中では、一番不遇職な響きを感じるのだが・・


「あと水系魔法が不得手の水属性モンスターって、割と生息地域限られるのよ」


水属性と言うぐらいだから、主に湖や沼、川、湿地やその周辺に生息する。

水辺なら未だしも、水中では戦いのしようがない。

船からの攻撃であっても転覆させられれば、後は装備の重さで沈むだけだ。


そんな理由で、漁師などからの依頼がなければ、放っておかれる事が多い。


「じゃあ、水系の魔法使いはスキップ・・」

「不遇中の不遇になるけど・・良い?」

「・・今まで大変じゃないパターンはありませんでしたが? 詳細に話を聞かせていただいても良いですか?」

「しょうがないじゃない、不遇を希望しているんだし」

「まあ、そうなんですが・・」


不遇は不遇で良いのだが、ちょっと頑張らなくてはいけない。

でも、ちょっと頑張ると、すぐに有名になるのは困り物だ。


「場所なんだけど、魔法阻害領域、この世界の右下のほぼ中央、森の国のある島の半島の先っちょよ」

「へぇー」

「半島と言っても、人一人通れるかどうかの陸地で辛うじて繋がっている島と言った方が良いかしら」

「面白いですね」


今まで見てきた場所の中には、半島と言う物が無かった。


「その島の部分が、水のダンジョン」

「水のダンジョン? それは?」

「火山の島にあった、火山のような自然型ダンジョンってことね。正確には島が丸ごとダンジョンと言う仕組みになっているわ」

「ふむふむ」


パッと見は分からないが、モンスターを倒す事で違いがはっきりと分かる。

アイテムをドロップしてモンスターが消えればダンジョンである。


「橋の様な陸地を挟んで反対側に町が出来ているわ」

「そこで準備をして、ダンジョンに向かうと言う形になるのですね」

「その通りよ」


やはりダンジョンの傍には、監視を含めて町が出来る様だ。


「水のダンジョンは、僅か三階層」

「えっ!? たった?」

「そうよ。一階が地上部で水陸両用のモンスターが出るわ。二階が膝から首位までの深さで、水陸両用と水中のモンスターが現れる。三階は完全に水没していて、水中モンスターのみが現れる」

「水属性モンスターと言う事は、水系魔法との相性は・・?」

「もちろん最悪よ。水耐性はかなり強いから、物理攻撃の方が効果的。但し水中になれば、水の抵抗で物理攻撃も厳しい上に、水中活動のアイテムやスキルが必要になるわ」

「そ、それは・・」


たった三階層ではあるが、三階層に進めるのは限られた人だけになる。


「そうなると、そのダンジョンに人々は集まるのですか?」

「真珠や珊瑚って言うレアアイテムや、非常に美味な食材がドロップするのよ。そうそう、同じくレアドロップで、雷の魔石があるわ」

「へぇー」

「反面、武器や防具の素材と言うのは少ないかもね」

「なる程」


ミツカ(神)様から、一通り情報を貰う。


「それでどうする? 水系の魔法使いになる? それとも?」

「折角教えていただいたのですから、水のダンジョンへ行ってみます」

「分かったわ。今度こそ上手くいくと良いわね」


食事を済ませると、就活神殿で転職を行い、冒険者登録する。


名前が水使いEで、使える魔法が水系魔法(神級)になったぐらいで、後はいつも通りであった。






その後、森の国の水の町へと移動する。


「ダンジョンがメインの町か・・。風系の魔法使いの時みたいに、ギルドを使わない方法でやってみよう」


一度経験しているので、宿屋を起点に独自のルートを開発して行く事にする。


ともあれ、水系の魔法使いで、やっていけなくては意味がない。

自分にあった宿屋を探しながら情報を集め、水系魔法の練習をしつつ、モンスターと戦ってみる。




町の城壁には門が二つある。

一つは森の方角に向いており、もう一つは水のダンジョンへと向いている。


ダンジョンに入るためには、冒険者ギルドのメンバーである事が条件の様で、身分証明書では無く、ギルドの登録証の提示を求められる。


衛兵に登録証を見せて、初めて門をくぐる事が出来る。


門の先には、先日ミツカ(神)様から聞いていた通り、人が一人通れるよりちょっと広い道があり、ひたすら真っ直ぐダンジョンである島へと続いていた。


まずはカエル、サンショウウオ、カニなどのモンスターと戦ってみる。


「ウォーターカッター!」


つるんっ


「ウォータースピア!」


にゅるんっ


「ウォーターハンマー!」


ぽよんっ


水系魔法で、斬撃、刺突、打撃と攻撃して行く。


爬虫類や両生類系は、粘膜があるせいか水を受け流してしまう。

甲殻類系も水耐性が高い上に、固い殻で効果が殆ど得られない。


ちゃんと『魔法効果補正』や『魔法制御』で調整した上での結果に驚く。


「こ、これは、不味い!? 全く勝てる気がしない!」


自分だって冒険者。モンスターを引き連れて逃げる行為の擦り寄せ厳禁を意識する。

何とか中級魔法まで使って、倒す事には成功した。


水のダンジョンのモンスターは、水属性の耐性は高いが、物理攻撃そのものは有効なので、物理職が狩りまくっている。

しかし武器や防具の素材として適する物は限られてくるので、下手をすると冒険者同士の取り合いに発展しやすだろう。

食材に関しては、このダンジョンからしかドロップしない物もあるので高価である。


「素材や食材を得られるモンスターは限られる・・。故に取り合いか・・。人間関係が悪くなりそうだなぁ・・」


拠点として決めた宿から派生した売買ルートで、アイテムを売った結果である。

他の冒険者たちが見向きもしないモンスターを倒しても、殆どお金にならないアイテムしかドロップしてくれないする。


今回ギルドを使用していなかった影響もあるが、依頼の多くは水中モンスターの物である。

特に三階層のは、水中活動アイテムが必要になり、非常に買い取り金額が高い。


ミツカ(神)様からいただいた能力の中の、『移動の盛り合わせ』の中に、水中呼吸や水中活動があるけど、これを使ったら間違いなく有名になってしまう。


「何とか二階のモンスターを、相手にできる手段を考えないと」


ちなみに地上では、ガイザーと言う水を下から打ち上げる魔法で、天高く舞い上がらせ、トドメとしてウォータープレスと言う魔法で、尖った地面に叩きつける荒業の繰り返しである。


正直な所、水系魔法で勝てたとは思っていない。


調整済みの上級魔法まで使えば、倒せる事は分かって入るのだが・・


「ソロだし、ギルドを使って居ないし、正直贅沢も言って居られないか」


有名にはなりたくないのだが、溜息をついて覚悟をする。






先ずは一階層から。


「ウォーターチェーン、ウォーターブレード、ウォーターランス同時発動」


『複数魔法同時起動技能』で、三つの魔法を同時に起動する。


ウォーターチェーンにウォーターブレードを付与してモンスターを束縛。

但し逃げやすい方向を1か所開けておく。


その1か所から水耐性で抜け出そうとする力を利用して、ウォーターランスを『同一魔法複数発動技能』で少しずつ位置や角度を変えて攻撃する。


流石の爬虫類や両生類系のモンスターも、これには堪った物では無かった。


甲殻類系のモンスターは、この方法ではダメージを与えられない。


「アクアレーザー!」


水の塊に超高圧力をかけ、極細の穴から噴射する魔法であり、水属性のモンスターでも簡単に切り刻める、ウォータージェットと言う魔法の上級魔法である。


大概はこれで問題なく進める。




続いて二階層では、地上に出てくるモンスターの対処は基本一階層と同じ。


では水中のモンスターにはどうするのか?


「ぬあ!? 速!」


無属性魔法の防御で何とか、水中モンスターの攻撃を防ぐ。

水の中の魚の速さから、速いとは思っていたが想像以上である。


「ドレナージ!」


かなりニッチな魔法を使う。


土系魔法の中のアースコントロールと似た、訓練用の魔法、ウォーターコントロールの派生の一つである。


川や湖などの一定区間を水の壁で塞ぎ、そこの水を全て強制排水する。


ガチンコ業法と並んで、漁師たちから嫌われる魔法でもあったりする。


「アクアレーザー!」


陸の上でジタバタしてもがいている魚系モンスターは、正にまな板の上の鯉状態である。


「はぁー。もう少し慣れたら、少しずつ魔法のランクを下げる手段を探そう」


誰に言うでも無く独りごちると、人のいなそうなエリアを目指して移動する。






上級魔法でしか止めをさせない日々に、ヤキモキしながら過ごす。


「ほぉ! これはこれは」


カニのモンスターが落とした、巨大な甲羅に武器屋のオヤジは目を綻ばせる。


「魚鱗も結構まとまった数を持って来てくれたし、これでどうじゃ?」


買い取り金額を提示される。


「うん、それで良いよ」

「お主は欲が無いのぉ。もう少し粘らんと損をするぞ?」


即答する僕に、武器屋のオヤジが苦笑いする。


「オヤジさんの所は、この金額でやっていけるの?」

「勿論じゃ」


ニヤリと答えるが、宿屋のオヤジさん経由で紹介された武器屋だ。

買い取りもギリギリの価格は百も承知、これ以上吊り上げるつもりは全くなかった。


「で、ちょーっとばっかし、物を尋ねたいんじゃが?」


ホレホレ寄こせと言わんばかりに、手招きする。


「はぁー、奥さんに怒られるよ?」


『空間倉庫』からカニ類のモンスターからドロップする、カニミソなるアイテムを出す。


「うひょひょぉ! あるのか! 持つべき物は友じゃなぁ」


さっき表情を綻ばせたのは、こっちの事かも知れない。

買い取り価格は、先の素材の数倍の値段が付いている。


以前に巨大ガニのモンスターのアイテムを持ちこんだ時に教えられたのだ。

ウニ系モンスターと並んで、超高級食材らしい。


後日、再ドロップした物を『鑑定』で確認しても、高級食材と出ていた。


「滅多にで流通しないって話は嘘じゃない?」

「アホ言え。あの巨大ガニを倒せるのが、そうそうにおらんと言う事じゃ」


地上階で出るカニ系モンスターは最低でも子供ほどの大きさがあり、二階層では大人の二倍はありそうな大きさである。


確かにカニミソをドロップしたのは、それよりも巨大なカニであった。


「ふむー。宿代の代わりにすると、どの位の期間・・」

「止めとけ! そんな高級品を宿屋に卸されても、向こうが困るわい」


武器屋のオヤジが話の途中で被せてくる。


「でも、スープ位なら・・」

「い・い・か。要らん事するなよ!」


凄んでくるのは、少し前にあった宿屋での出来事のせいだと思う。

宿屋のオヤジさんが、誰かにカニミソを見せびらかされて、悔しい思いをしていると聞かされているから。


「一応友達なんだよね?」

「無論!」


思わず武器屋のオヤジに確認を取ってしまった。






何とか上級魔法まで使ってではあるが、生活の基盤が作られつつある。

自分のスキルや能力、素性を気にする事のない関係が築かれ始めている。


このままならやっていける。


そう思ったのも束の間、人助けと言う言葉が、脳裏にちらつき始める。


自分の事で手一杯だったから・・

少し自分の成果につ余裕が出来たから・・


周りの人々や、環境が少しずつ見え始めてくる。





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