風系の魔法使い 後編
【風系の魔法使い 後編】
世界の最も危険なモンスターと言えばなんだろうか?
今いる荒れ地で危険なモンスターの代表格として、頂点はアースドラゴンであろうか。
その下には、スフィンクスやロックバード、ロックジャイアントなどが存在する。
ちゃんと準備をしてさえ、討伐出来るかどうかと言う天災クラスとなる。
他にも一匹一匹が強力なモンスターも居れば、群で行動するなど、危険を上げれば切りがない。
しかし最も厄介なモンスターと言えば、『油断』と言う己に住まうモンスターである。
その日の狩りの途中で、その最たる物たちを見つけてしまう。
モンスターの習性と言うのは、ほぼ決まっている。
ほぼと言う事は、当たり前だが例外もあると言う事だ。
それが油断へと繋がって行く。
二十匹近い犬系の固そうなモンスターに囲まれた、四人組のパーティを見つける。
一匹一匹は弱い部類に入るが、そのためか常に群で行動する。
稀に一匹で現れる場合が二通りあり、一つは群から追い出されて一匹になる事。
もう一つに群からの斥候であり、獲物を見つけて仲間を呼ぶ事ためである。
パーティは、一匹だったモンスターを、斥候ではなくハグレとでも勘違いしたか。
周囲の警戒を怠って、モンスターの群の中に入り込んでしまったのか。
そもそも自分たちの実力を見誤って、奥深くまで入り込んでしまったのか。
少しずつ積み重ねた経験が自信となり、慢心して僅かな油断に繋がったのだろうか。
「あれは不味いんじゃない・・かな?」
単純に四対二十、一対五として考える事は出来ない。
半分程度で四人のうち三人の動きを抑え、残りで一人を襲う。
一人が脱落するごとに、全滅への道は加速されて行く。
「獲物の横取り、とか言っていられない・・よね?」
一人ごちるが、自分を納得させるためである。
冒険者の中には、狩り場に関する暗黙のルールがいくつか存在する。
パーティが近くの冒険者に助けを求めた場合、助力がなければ全滅したと考えて、モンスターを倒せた場合、アイテムなどはヘルプをした冒険者の物となる。
これを悪用したやり方が、横取りである。
弱ったモンスターの止めを刺して自分の物と主張する。
言い訳は助けを求められたと、お互いの意見が食い違わせるのだ。
戦いを始めたパーティは疲弊しており、後で参加したパーティを相手にするのは厳しいものがある。
その場で脅されて、仕方なく獲物を奪われてしまうのだ。
証人も証拠も無い。町へ戻ってギルドに訴えても泣き寝入り。
しかし生活がかかっており、恨みは大きく、奪ったパーティを常に付けねらい、モンスターとの戦闘中に後ろから襲う事件も発生している。
最悪の場合、犯罪者になることを辞さず、街中で襲う事もあると言う。
事の重大さからギルドも、訴えがあった場合、密偵をパーティに潜り込ませる措置をしているらしい。
僕は一人狙われ、より多くのモンスターに囲まれた者から支援する。
「先ずはこの距離から狙撃して・・と。エアギムレット!」
一体のモンスターが、中級の風の錐に刺し貫かれる。
モンスターの群が動揺する間に、更に一体が刺し貫かれる。
三体目が倒れる時には、流石に僕の存在が認識されてしまう。
危険と判断されたのか、残りのモンスターが一斉に、僕の方へと襲い掛かってくる。
「やっぱり風耐性を考慮して・・、エアバースト!」
ウインドカッターの強化全方位版で、モンスターを一瞬で倒す。
「大丈夫ですか?」
モンスターの死骸を乗り越えて、パーティに声をかける。
「あ、ああ、助かった」
「そうですか」
モンスターの数が多く、パーティの面々の状況も厳しそうだったので、声をかけずに助けに入った。
横取り云々と言う争いを避けるため、僕はそのまま立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれ」
「えっ!? まだ何か?」
「今使ったの、魔法だろう? 何故使えるんだ?」
「使える? おかしな事を言いますね」
「どう言う事だ」
質問した男が、僕の言葉にいぶかしむ。
「弱くなるだけで、使えない事はありませんよ?」
「そりゃそうなんだが・・、この魔法阻害領域であれだけの魔法となると・・」
パーティの面々は、目の前に居る僕の実力を探ろうとしているようだ。
ギルドを使っていなし、魔法阻害領域では魔法使いが居るなど聞いた事は無いのだろう。
「偉そうなことを言いましたけど、此処までが限界なんですよ。ギルドで言えば、中堅ぐらいと言ったところでしょうか?」
僕は肩を竦めると、もう話す事は無いとばかりに今度こそ立ち去る。
「ギルドで言えば、って言っていたな。あいつ冒険者じゃないのか?」
冒険者たちは立ち去るノバの後姿に問いかけるが、そこに応えられる人物はいなかった。
助けられたパーティは、町に戻ると自分たちに起きた出来事を包み隠さず報告する。
「ギルドを利用している魔法職は現在いませんね」
「そうか・・、礼を言いたかったのだが」
「そもそも、この魔法阻害領域に魔法使いが来ること自体珍しいですよ。本当に魔法使いだったのですか?」
まるでパーティの話が作り話だったかのような、疑いの目を向けてくる。
パーティは二十個近い、ほぼ同じの魔石を職員の前に置く。
「これは・・、同じモンスター。と言う事は群を・・?」
「俺たちのランクで、しかも物理職が可能だと思うか?」
この言葉に職員も黙る。確かにランクと成果に食い違いを感じるから。
このやり取りを見ていた、あるパーティが仲間に耳打ちする。
「なあ、聞いたか?」
「ああ。その魔法使いを、俺たちのパーティに入れようぜ」
「俺たちのために、粉骨砕身して働いてもらおう」
仲間たちもノバをこき使うと言う意見に賛同して、町に居るだろう魔法使いを探し始める。
フラッと表れ、自分の前に立ち塞がる冒険者たちを見て困惑していた。
「お前か? この間、冒険者を助けた魔法使いって言うのは?」
「確かに、少し前に、パーティを助けた事は事実ですが・・、それが何か?」
「そうか。じゃあ、今日からお前は俺たちのパーティに入れてやる。取り分は九対一で良いな。
勿論、お前の取り分が一だ」
突然現れて、一方的に条件を突き付けられる事に、流石に怒りを覚える。
「いきなりな挨拶ですね。お断りします」
「ああ? 親切で言っているんだぜ?」
「親切の意味が違うようですが? 条件が九対一? 望んでいる訳でもないのに?」
「魔法職って言うのは不遇でボッチなんだろう? だから俺たちが・・」
「お断りします。あなたがたのような人々と係わり合いになりたくないので」
きっぱりと言い切る僕に、パーティの面々から怒気が溢れてくる。
「てめぇ・・」
「僕がギルドを利用しない理由はただ一つ。ソロでやって行くためです。そして十分にソロでやっていけていますので、パーティは不要です」
「黙って大人しく、俺たちのパーティに入っとけ」
「九対一? あなた方のパーティに入って、僕に何のメリットがあるのですか? メリットがあるのは、あなた達だけでしょう」
強引に勧誘するパーティの全員が武器を抜く。
「いいから、俺たちのために働け」
「今度は脅しですか・・。尚の事、お断りです」
溜息を吐きながら再度断ると、一人が切りかかってくる。
勿論、重傷を与えるつもりでは無く、かすり傷程度で済ますつもりだろう。
ガキッ!
「えっ・・!?」
「あなた達から攻撃してきたんですからね?」
「ま、まさか、対物理攻撃障壁の魔法・・か? そ、そんな馬鹿な・・」
「ウインドバースト!」
特定方向にかなり威力を弱める様にコントロールする。
「ちゅ、中級だと? し、しかも無詠唱な上に、は、速えぇ」
浅くとは言え数か所を切られ、敵対した人物の実力を思い知る。
「まだやりますか?」
「い、いや・・」
「これに懲りたら、誰かれ構わず喧嘩を売るのは止めて下さいね」
地面に転がる冒険者たちを、冷めた目で見下し立ち去る。
「ち、ちっくしょう・・、覚えておけ」
冒険者たちの捨て台詞は、ノバの耳に届く事はなかった。
翌日、ギルドの職員と名乗る男の訪問を受けギルドへと出向く。
そこには昨日、僕にお仕置きをされたパーティと、ギルドマスターを名乗る男が待ち受けていた。
「今日は、何の呼び出しでしょうか?」
「こいつらがな、お前にいきなり襲われたと訴えて来てな」
ギルドマスターの言葉に、パーティの面々はニヤついていた。
「違います。この人たちに無理やりパーティに入れと脅された上に、武器で切り付けられたため反撃しただけです」
「ギルドマスター。こいつからだ! パーティに入れろって煩かったんだ。無視してたら後ろから魔法攻撃してきやがった」
「ふむ、言い分がお互い違うようだが」
両者の意見を聞いていたギルドマスターも、正直判断に迷っている様子。
「僕がギルドを使わなかったのは、ソロでやるためです。まあ、魔法職は不遇ですから当てにされるとは思っていません。パーティを組みたいのなら、最初からギルドに行っていますよ」
「言っている事は嘘です。私が町で確認した所、後ろから魔法を使ったと証言がありました」
自分を呼びに来た職員が、パーティの言い分が正しい事を伝える。
流石に自分のギルドの職員まで嘘はつかないと、ギルドマスターは思ってしまった。
「風使いC。悪いがお前の言い分が、嘘だと判断する」
「では、どうしろと?」
「怪我が癒えるまでパーティで働くか、治療費を払え。それが嫌なら・・、ギルドを抜けろ」
ギルドマスターは、冒険者にとって死の宣告をする。
パーティはこれで、魔法使いが自分たちの物になると内心喜んでいるのだろう。
ギルドマスターの言葉を受けて、冒険者登録証を取り出す。
「辞めるか・・」
「おいおい、そこまで深刻に・・」
「ちょっとの間、俺たちのために働けば・・」
流石に職員とパーティのメンバーは動揺する。
まさか冒険者を辞める選択をするとは考えもしなかったのだ。
僕は冒険者登録証を、ギルドマスターへと放り投げる。
キンッ!
ギルドマスターの手に収まる前に、登録証が真っ二つとなって床に落ちる。
「なっ!? 完全無詠唱だと!? しかもこの精度と発動速度は尋常じゃないぞ!」
「ちなみに、対物理攻撃障壁も使えます。これはそちらの方々がご存じですよ」
「なっ!?」
ギルドマスターが、パーティに視線を向ける間に、僕は出口の方に向かう。
そんな僕にギルドマスターは、パーティたちへの尋問は後回しにして、聞くべき事を聞く事にする。
「一つ聞きたい」
「何でしょうか?」
「以前、荒れ地で群れに襲われたパーティを助けた事があるか?」
「一度だけ」
首だけ少し後ろに向けて答えると、そのまま部屋を出て行く。
ギルドマスターは、その場に居た全員に強烈な視線を向ける。
「出来るだけギルドの職員を集めろ」
「えっ!?」
「すぐに! 全員だ!」
ボーっとしていた職員に、ギルドマスターが命令する。
「今回の件、徹底的に調べる。もしあいつの言い分が正しければ・・」
職員とパーティを睨みつける。
「有能な冒険者を失わせた責任を、キッチリと取らせてやるからな」
ギルドマスターの視線を受けた者たちは、真っ青になって俯いてしまう。
僕は自分の定宿に戻ると、部屋でまんじりともせず考え込んでいた。
「(また・・、パーティに裏切られた・・)」
実際にパーティを組んでいた訳ではない。
しかしパーティと言う言葉は、胸の奥底に棘として突き刺さり抉ってくる。
自分の思考の海から、扉が激しく叩かれる音で戻ってくる。
「・・はい?」
訝しみながらも、扉を開けず答える。
「風使いCさん! ギルドの者です」
「まだ何か御用ですか?」
扉を開けて、前とは別のギルドの女性職員が立っている。
「風使いCさん。すみませんが緊急事態です。ご協力を!」
「・・えっ!? 協力!? どう言う事ですか?」
「この町にモンスターの群が向かっています」
職員の言葉に眉を潜め、ノバは少し考え答える。
「・・すみません。僕はもう冒険者じゃないんです」
「えっ!? さ、先程の件ですね。今、再調査していますから・・」
「いえ、僕は冒険者を辞めたんです」
「ちょ、ちょっと待って下さい。この町にモンスターが・・」
「僕はもう一般人です。どうか僕を守って下さい」
呆然とする女性職員と、目を合わせない様にしながら扉を閉める。
仕方なく女性職員は、ノバとのやり取りをギルドマスターへと報告する。
「そうか断られたか・・、まあ当然と言えば当然だな」
「しかし町の危機を目の前にして・・」
「今の状況は、冤罪をかけた上で、許して欲しけりゃ手伝えって聞こえるんだよ」
「そ、そんなつもりは・・」
「冤罪を晴らし、謝罪した上で、協力を希うのが筋だ。奴の信頼を裏切ったのはギルドの方なんだぞ?」
集まった冒険者たちは静まりかえる。
どんなに弱くても魔法使い。その戦力があれば例え一%でも勝率が上がったはず。
「おい、お前ら! 緊急依頼だ、準備をしろ。モンスターはヒースアント。どうやら巣別れした、旧女王の群と思われる」
「ヒースアントの・・群? じゃあ百匹を越えるんじゃあ・・」
ヒースアントは、大体百匹程度の群を作っているモンスターである。
女王蟻の寿命が尽きかけると巣別れをする。
その際に、殆どの蟻を連れて、命尽きるまで行軍する習性がある。
それを衛兵や自警団、そして冒険者たちで迎え撃つのだ。
準備をしっかりすれば、勝てはするが、被害は甚大であろう。
町は峡谷の上にあり、ヒースアントは峡谷の下を通る。
気付かなければ素通りされ、監視し死ぬのを待つのが第一の安全策。
もし気付かれれば、町を背にして戦う事になる。
最悪なのが、こちらから攻撃できないと言う事。
攻撃すれば町に気付かれる可能性があり、直前まで待機するしかない。
祈る気持ちで蟻の行軍を見守る中、素通りした行軍にホッとする。
これで少なくとも、自分たちの町は守られたのだから・・
しかし蟻の行軍の少し先に人影が見える。
「お、おい。あんな所に居たら喰われるぞ!?」
「いや、下手したら町に気付かれる!」
最悪の事態である。
あっという間に蟻が、人影に群がる。
ズザザザァァァン!
群がる傍から、ヒースアントが切り裂かれ、吹き飛ばされて行く。
「・・えっ!?」
「な、何が!?」
呆然とする町の全兵力の前で、逆巻く風が天へと立ち昇る。
「・・ま、まさか、風系魔法の最上級の一つ、トルネードか?」
「この魔法阻害領域で最上級だと? あ、あの大きさを・・一人でか?」
無限の風の刃と強力な風の捻りを持った竜巻がトルネードである。
最上級魔法ではあるが、術者の能力によっては威力はまちまちの魔法でもある。
そして目の前に現れた竜巻は、一つの町を呑み込むのに十分な大きさであった。
やがて風が収まり静かになると、ただ一人立つ人影。
人影はぐるりと見回すと、港町の方向へ歩き始める。
しばらくの間、誰からも言葉を発せられなかった。
「ね、念のため、生き残りが居ないか確かめるぞ」
「「「おぅ・・」」」
ギルドマスターが何とか声を絞り出すと、人形のように返事をして峡谷を降りて行く。
ただ其処にあるのは死屍累々、百戦錬磨の猛者も嘔吐く地獄絵図。
何のモンスターかすら判別できない程、細切れや引きちぎられた破片がばら撒かれているだけ・・




