第二話「僕の相棒が女の子になっちゃった件」④
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第二話「僕の相棒が女の子になっちゃった件」④
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黙って、二人へ敬礼を送ると非常階段を駆け上がる赤マフさん、僕の役目はまだ残ってるので、二人に弾薬を補充しその後を追う。
ビルの屋上、射撃ポイントを確保。
赤マフさんが屋上の縁から、伏射姿勢でKSVKを構えて狙撃体勢を取り、こちらは周辺監視…スポッターに徹する。
「屋上クリア、敵影無し…周辺空域は…2時方向にドローン、距離300…狙える?」
「よゆー! 目をつぶっても当たる距離…ファイア!」
2時方向にいたドローンが落ちる。
「ヒット、クリア…次、10時にもいる。数は2機…距離700と750。
それと風向き変わった…北西5m。」
測距、風向、風速はどれも勘だけど、手慣れたもんだから、問題ない。
「了解、そっちも落とす!」
赤マフさんがKSVKの射角を変えるとさらに二発!
ど真ん中を射抜かれ、制御装置を失ったドローンがパラパラと墜落していく。
「クリア、現時点で上空敵影なし…建物からこちらを狙ってる気配もない…けど、ビルの下はもうお祭り騒ぎだなこりゃ…キサラギ…ドロコマは見つかった?」
…ビルの下の入口前には敵の歩兵やドローンがこれでもかってくらいに群がってた…上から見ると蟻の大群みたいで気持ち悪いことこの上ない…手榴弾でも投げ込めば面白そうだけど、ここでそんな無駄な事はできない。
ちなみに、このビルは20階建て…下までは60mってとこ。
まぁ、落ちたら即死だわな。
「…全員ストライカーに乗ってるみたい…確かに建物に篭ってるよりは安全だよね。そっちから見える?」
「キサラギのマーカーのとこだよね? ちょっとそこは位置が悪いな…ここからだとビルの影に入ってる。 もう5m程ばかり前進させられない? その条件なら赤マフさん、やれそう?」
「5m前に出てくれるなら、ビルの隙間を縫ってギリギリ射線通る…一発当てれば、なんとかなる。ストライカーの装甲ならKSVKで抜ける。
KSVK…これ火力の数値がおかしい…火力補正込みだけど、火力がRPG並ある…5000円突っ込んだ甲斐はあったね。」
「わっ、なにそのチート武器…確かにアンチ・マテリアルの威力じゃないと思ったけど、すんごいね。
キサラギ、了解…車両に手榴弾でもかましてみるね。けど、そうなると絶対見つかるし、敵の護衛兵がいっぱいだから、その後は…先逝く不幸を許せってなるけどね。」
「じゃあ、悪いけどそうしてくれ…逝ってらっしゃい!
…それと赤マフさん、僕もそろそろ行くよ…あと頼んだ。伝之助さんとこじろうが落ちた…一階が突破された。
たぶん、ここにドローンや敵兵が押し寄せてくる…僕が時間を稼ぐから…その間に仕留めてくれ…。」
そう言って、赤マフさんの傍らに膝をつくと、軽くその肩を叩く。
「ごめんね…出来るだけ踏ん張ってくれると助かる。モンドくん突破されたら、ちょっと抵抗してこっからダイブでもするよ…オウンデスだから、まともにやられるよりはマシ。
あと、せっかくだから、私のAK47と手榴弾でも持ってって、餞別ってとこ。」
赤マフさん愛用のAKと手榴弾を受け取る…手榴弾の意味は…最後の自爆用ってとこ。
本物の戦場だったら、今生のお別れってとこだけど、どうせすぐに戻ってこれる。
まぁ、これもいつものこと。
「ありがたく受けとっとく。じゃあ、行ってくる!」
ちらりと振り返ると一瞬だけ目が合う…なんとも悲しそうな顔だった。
この人は、死地に向かう仲間を見送る時いつも、どことなく悲しそうにする…さっきだって、安い命の僕なんかをかばったりするし…。
もっとクールでも構いやしないし…僕らなんか捨て駒扱いで構わない…いちいち気にしなくてもいいんだ。
階段の踊場に出ると、下の階から上がってくる敵兵が見える。
ダンゴは、階段や段差を素早く上がれないので、まずは普通の一般兵が続々とやってくる。
手すりから身体を乗り出して、それを頭上から容赦なく薙ぎ払う。
2-3人ほど仕留めたようだが、当然反撃される。
隠れたつもりだったけど、跳弾した銃弾が左足のももに当たり食い込む。
「くそっ! のっけから、ツイてないなっ!」
左足が使用不可…感覚がなくなる…これで移動不可。
治療なんてやってる暇はない…このままやるしかない!
HPゲージが出血ダメージでゴリゴリ減っていく。
このHPゲージ、基本は満タン、もしくはゼロとか言われる程度には意味のないもの。
HP増加スキル取ったり、ランクが上がると、少しは増えるんだけど…。
即死が瀕死に留まりましたとかなってもあまり意味がない。
瀕死を重症に回復出来るメディックも自分が瀕死じゃどうにもならない。
更に階下へ弾幕、AKの弾倉は30発…バーストだと、あっという間に弾切れになる。
AK47の弾倉交換しようとして、左足の負傷を忘れていて力が入らず座り込む。
座り込みながらも、ステアーTMPで階下へ制圧射撃…敵兵も壁に隠れて、弾幕をやり過ごす。
出血ダメージで視界が霞む…ああ、こりゃ正直、もう一分も持たないな…我ながらうっすい盾だこと。
キサラギのマーカーが消失。
これで味方は僕ら二人以外全滅…皆、いい散り際だった…もうすぐ、僕も後を追うだろう。
けど、その直後にこちらのキルポイントが1500Pと大幅増加。
「よしっ! ストライカーのブチ装甲抜いた! 中に居た一人落としたよっ! きっとあの中は跳弾で地獄絵図! もう一発御見舞してやるっ!」
赤マフさんの歓声が聞こえる。
けど、こちらも腹に被弾、腹部貫通銃創ってとこか、ステータスは瀕死…もうダメだなこりゃ。
「お見事っ! 悪いね…僕はこれまでみたいだ…お先っ!」
言いながら、手榴弾のピンを咥えて抜く。
直後、銃撃! 頭部被弾でブラックアウト。
…死亡。
いつもながら、呆気ないものだった。
かくして、僕はデスペナルーム送りになった。
1-2分程度は稼げたと思うけど、あの状況でその時間は値千金だったと思いたい。
最後に手榴弾を置き土産にしてやったから、もう少し稼げたかもしれないが…いきなり跳弾でラッキーヒットを食らったのは痛かった。
アサルトメディックは、火力補正も防御補正も微々たるもんだからなぁ…まぁ、支援職だからしょうがない。
視界の隅のカウントは3分…真っ暗で音もなく、無線もチャットも何もなしの…言わば死後の世界。
正直、カウントを眺めるしかやることはない。
赤マフさんは上手くやったようだった…今頃、最後のひと暴れでもやってるか、笑いながらなんか厨二っぽいセリフ決めてダイブってとこか。
あの人、そんな厨ニっぽい演出とか大好きなんだよな…。
そして、デスペナタイム終了後、僕は再び戦場に舞い戻る。
キルポイントはなんか3000Pも入っていた。
赤マフさんがうまくやってくれたようだったけど…赤マフさんもステータスDEADになってた。
向こうのポイントは750Pしか増えてないから、オウンデス…自決の道を選んだような感じ…有言実行ってとこか。
あの状況じゃ多勢に無勢…ただ赤マフさんもこのポイントの増え方からすると敵兵20人位を道連れに落されたらしい。
きっと物凄い暴れっぷりだったんだろうな…Sクラスともなると、拳銃一丁とかでも半端じゃないからなぁ…。
「お、モンドくんも戻ってきたようだね…早いとこ、合流しちゃおう! 赤マフさんがやってくれたから、ポイントは勝ってる! 後は皆集まって全力で逃げて、迎撃に徹しよう!」
戻ってくるなり、伝之助さんのコールが入る。
デスペナ戻りは自軍陣地内のどこかにランダム転送される。
単独じゃ、割とどうしょうもない僕なんかは、仲間との合流が最優先だ。
その後の展開はまぁ、特筆すべくものはなかった。
最後に赤マフさんの戻りを待って、全員無事合流。
建物の一つに立てこもって、ドローンを迎撃しながら、ヤバくなったら逃げてを繰り返し、タイムアップ待ち。
やがて、タイムアップ。
視界にデカデカと「Congratulations!」の文字が表示される。
VRモードも解除され、戦績表示…レザルト画面に切り替わる。
キルポイントは5000Pってとこか…結構敵兵やドローンを落としたんだけど。
雑魚やっても一体10Pとかだから不味いんだよなぁ…これはポイント的には文句無しで赤マフさんがMVPかな。
向こうのキルポイントは2400P…まぁ、こっちも一回全滅してる上に、逃げ切り迎撃戦で、赤マフさん以外、パタパタと皆、仲良く討ち死にしてるので、結構取られた。
キサラギはC-4抱えてデコイとなって、華々しく散ったので一回余計…彼女の役目のひとつだ…許せ。
ちなみに、彼女は爆発オチで脱げても、気にも留めない…やっぱり、漢らしい。
赤マフさんは、結局本当にビルからダイブしたようで、戻ってきた時はぐったりしてた。
別にそこまでしなくていいのにとか思ってたら、自分が投げた手榴弾の爆風に吹っ飛ばされて、ナチュラルにそうなったらしい。
ただ…60mの垂直ダイブはスリル満点どころじゃない体験だったとの事。
紐なしバンジー60m…死なないと解っててもそんなの絶対やりたくない…。
さすがになんかもう、足腰立たないっぽい感じだったので、僕が拾いに行って肩を貸しながら、拠点まで連行…。
途中めんどくさくなったんで、抱きかかえてお姫様だっこにしてあげたら、すんごい照れてた…。
お尻とか太ももとか触っちゃったけど、やましい気持ちで触った訳でも無いから、セフセフだと思う。
本人、なんかすごーく嬉しそうだったし…。
まぁ、その後、なんとも上の空って調子で、戦闘は無理っぽい感じだったので、赤マフさんには観戦モードに徹してもらった。
とにかく、今回のイベント戦の初戦は無事クリア出来た。
このあとはマラソンでもやって、評価アップと報奨アイテム狙いやステージ内に隠されたレアアイテム探しってのが常なんだけど…。
赤マフさんもこんな夜の0時過ぎのログインは結構無理したらしく、マラソンやりたいけど、後日ゆっくりと言う事で…いったん解散とした。
赤マフ「それでは…今日はもう落ちますね。
ごめんね…慌ただしくて…また明日よろっ! ヤバっ! 見回りが来たっ! こんなの見付かったら、怒られるぅっ!」
そんな感じで、赤マフさんがドタバタとログアウト。
親バレでも、しそうになったのかな。
モンド「みんな、どうする? 僕は軽く通常マップでも回ろうかなってとこなんだけど。」
伝之助「ボクは明日も仕事だから落ちるね。
元々本日0時実装のイベント体験程度だったし、本格的な攻略は明日以降かな。
今日は、評価Bとパッとしなかったしね…。犠牲を押さえて、上手くやらないとS評価はキツそうだね。」
伝之助さんは落ちるらしかった…まぁ、この人社長さんだしね…夜遅くまで、お疲れ様でした!
こじろう「と言うか、これ…複数チームで最低10人以上集めた上で挑むバランスじゃねぇかな…?
一階ロビーに雑魚兵とドローンで100位は来てたぜ…あんなん、もう二人じゃどうしょうもないっての。
まったく「コッラーの戦い」以来だったぜ…あの無理ゲー感。」
こじろうがボヤく…ビルの下なんて、凄いことになってたからなぁ…。
あれは…200くらいいたんじゃないかな…敵増援コールも何回もあったし…。
…相変わらず、この運営…バランス感覚おかしい。
モンド「そうだね…チート武器持った赤マフさんいて、なんとかクリアだもんなぁ…知り合いのチームやギルドにも声掛けて合同でやってみるか…他も事情は似たり寄ったりでしょ。」
キサラギ「あ、でもそうなると…赤マフ先生…またあのアンちゃんで来ちゃうのか…あれ可愛かったのに残念だなぁ。
と言うか、モンドくんお手柄! 前々から私もあのコの女の子アバター姿見たかったからさ…すんごい可愛かったわぁ。モンドくんなんて、最後お姫様だっこなんかしちゃって、この色男っ!」
キサラギがそんな事を言う。
まぁ…前に一緒にタウンマップをうろついてた時に、可愛い女の子アバター見て、羨ましそうにしてたりしててさ。
やっぱあれ…好き好んでやってる訳じゃなくて、不本位だったみたいなんだよなぁ…。
実際、赤メイドアバターあげた時もむしろ嬉々として、ノリノリだったし。
こじろう「そうそうっ! あのバク転ショットとか、すっげぇカッコ可愛かった! 確かにあんな感じのスーパープレイしょっちゅう見せてくれてたけど…。
可愛い女の子のカッコでやられるとスタイリッシュさが違って、もう感動した! あれスクショ撮りたかったぜ!
と言うか…今更って感じなんだが…なんで、彼女、素直に女の子アバターにしないんだろな。」
こじろうの感想…何と言うか同感だった…。
モンド「やっぱ、そう思うよね? …赤マフさん、あれ普通に女の子だったよね…どう見ても。
けどまぁ、向こうも事情あるんだろうね…このゲーム、リアル女子プレイヤーって激レアだし…変なのに目をつけられたら災難だろうし…気持ちは解るんだけどね…。」
キサラギ「ええっ? 私もリアル女子なんですが? なんか、扱いちがくね?
前にも言ったけど私、リアルナースさんよ? しかも独身フリー! 顔もスタイルもリアルと一緒!
なんなら、リアルでデートでもしてみる? モンドくんなら、考えなくもないわよ!」
そう言ってなんかエモーションでも打ち込んだらしく、彼女のアバターがシナを作って、腕を組んで胸の下に持っていくおっぱいアピールのポーズを取る。
確かに、彼女スタイルとか悪くないんだよなぁ…。
けど、その雑な漢らし過ぎる性格はちょっと…部屋とか汚部屋になってるタイプだろ。
モンド「僕は遠慮させていただきますよ。そう言う対象として扱ってほしいなら、少しは赤マフさんを見習いなさい。キサラギさんは、お淑やかさが圧倒的に不足してます。部屋とか片付け無いタイプでしょ?」
そう言って笑うとこじろうと伝之助さんも同意して、キサラギがなんでじゃーとかキレる。
ちなみに部屋はやっぱり乱雑らしかった。
そして、いつも通りって感じで残ったメンツで野良勧誘して、軽くマップ巡回と辻対戦数戦こなして、やがて、時刻は夜中の3時過ぎ。今度こそ本当に解散っ!
全員「「「おつかれ~! ノシ」」」
「ノシ」は手を振るの意のテキストチャットのお別れの挨拶。
「のし」とは読まない…そこんとこ、よろしく。
のっけから、最終回のノリです。
けど、これがガンフロ。
主人公蜂の巣になって自爆。
ヒロイン爆風にぶっ飛ばされて、60mナチュラルダイブ死。
なんかもう壮絶です。
けど、その直後に「お姫様抱っこなんて、きゃーっ!」とかやってる辺り、やっぱこれラブでコメディなのですよ。
とりあえず、キリがいいので、本日のまとめアップは終了。
次回は、明日かも知んないし、明後日かもしれません。




