第二話「僕の相棒が女の子になっちゃった件」①
----------------------------------------------
第二話「僕の相棒が女の子になっちゃった件」①
----------------------------------------------
さぁっ! リアル戦場の世界へ突入!!
待機ロビーからリーダーメニューを開いて、イベント戦マップを選択。
常設イベントのバナーもあるけど、一番上の『迎撃! ドローンコマンダーズ!』のバナーをクリック。
初回なんでOPムービーが流れて、状況説明や背景ストーリーが説明される。
まぁ、せっかくなんで皆で観賞…概要を三行で説明すると。
X国の無人兵器軍団が実戦テストの為に、某都市へ来襲。
防衛隊は壊滅…目には目を歯には歯を! 奴らを無事に国に返してはいけない…皆殺しにするのだっ!
あ、二行で終わった。
そんな感じでムービーが終了し、VRモードが起動しバトルフィールドへ転送。
全身の感覚がリアルからVR世界のそれと移り変わる。
…戦場に吹く風、硝煙の臭いが香る…戦場独特のピリピリとした空気を肌で感じ取る。
環境音のリアリティが嫌が応にも現実感を与える…。
それは現実とまるで区別がつかないもう一つの現実だった。
「うにゃっ! なんか足元がスースーするっ!」
バトルフィールドへ転送されるなり赤マフさんが騒いでる…リアルじゃスカート履かない人なのかな? とか思ったりする。
って言うか、VR第一声が「うにゃ」ってなんだ? のっけから可愛いんですけどっ!
…いつもの男アバターだと、割と荒々しい雰囲気で話してるんだけど…案外、これが地なのかも。
声もなんだかやたら可愛らしいし…まぁ、色々斬新だった。
改めて見ると、アニメから飛び出してきたと言うよりも、コスプレって感じで、背もすらっと高くてなんとなく大人っぽい雰囲気…ロシア製の最新鋭アンチマテリアルライフル「KSVK」が何とも無骨で対照的だった。
「メイスナ」…キワモノっぽい感じだけど、今度見てみるかな…。
「とりあえず、作戦はどんな感じでいこうかな? 赤マフさん、今回のイベント戦、事前情報とかなんかある?」
伝之助さんが赤マフさんへ振る。
赤マフさん…作戦指揮能力も高い上に、割と調べもの魔人らしく、この手のイベント情報を事前に入手してたりする。
イベント戦も実際に一般プレイヤーが参加できるようになる前に、事前にベータテスターがランダム抽選で指名されて、先行プレイしてるので、実装前に大抵ある程度の情報が出回っているのだ。
ちなみに、このイベントは本日11月16日午前0時実装。
皆のコアログインタイムは夜7時から11時くらいなので、今日は少し遅めなんだけど、皆この手のお祭りは大好きなんで、二つ返事で集まった。
赤マフさんは、ちょっと早めのおやすみらしく、午後10時にはログアウトってのが基本なので、今日はちょっと無理して来てくれたらしい。
「そうだね…あんま有用な情報はまだ上がってなかったけど…。ベータテスター情報だと、ドロコマ相手のセオリー通りでなんとかなるって話。そうなると、まずは上空の敵の目を真っ先に潰したい所だね。」
「ドロコマの嫌なとこはそこだよね…索敵能力が高い上に、それに伴って、戦力集中までしてくるからねぇ…。」
「うん…だから、敵の数が尋常じゃないってさ…電撃戦で行かないと物量に押し潰されるって…おまけにドロコマも5人位いるって話、ただベータ情報だし、この運営だから数は当てにならないと思う。」
「ここの運営のバランス感覚って、どっかおかしいから…いつもの事だけど。」
「ホント、毎度だよね。けどまぁ、どうせドロコマなんて、後方でコソコソやってるだけだろうから…そうなると、このマップだと中央のD3エリアの高層ビルあたりに狙撃ポイントを確保したい…。
ここからなら狙撃でほぼ全域をカバーできるようになるから、そこから一人か二人落とせれば、勝ちが見えて来る。
とにかく、ゴリ押しでもなんでも一人でも落とせば、一気に優位になる…大体こんな感じっぽいんだけど、伝之助さん…どうかな?」
凛とした表情と声でハキハキと説明する赤マフさん。
いつもはなんともわざとらしい男口調なんだけど、今はその辺意識して無いようで、普通に女の子が喋ってるような感じで、全然違和感がない。
声自体はアバター固有のデフォルトボイスっぽいんだけど、やっぱり色々と本人の地ってものが入るから、その辺何となく解る。
ちなみに、このエリアは横6マスA-F、縦8マス1-8の48のエリアで構成されている。
一マス辺り200メートル四方のスケールとなってるので、縦1.2km 横1.6kmの比較的大型のフィールド。
D3エリアの高層ビルは、横マスCDにまたがるメインストリート右の敵陣よりの位置にあたる。
確かにこのビルを占拠して、スナイピングでドロコマを狙撃ってのは敵陣へ切り込むより、勝算高い…いい作戦だった。
「うん、情報ありがと…相変わらずキモを押さえたいい情報集めてくるね…要は、ドロコマオンリーチーム相手にする感じだね。そうなると目標は赤マフさんの言うように、D3エリアのこの高層ビルの制圧だね。
敵もそれくらい警戒してるし、ドロコマ相手だと戦力差がヤバイことになるのは毎度の事だから、けっこう激戦になるかも。」
「激戦上等っ! かぁーっ! 熱そうなステージじゃねぇか! けど、さすがに全員、落ちる羽目になるんだろうな…まぁ、しゃあねぇか。」
「そうだねぇ…赤マフさんも含めて全員最低一回は落ちる事になるかな…だから、命の捨て所がキモになるね。
モンドくん、赤マフさんのボディーガードきっちりやってね。特に序盤戦、君は何回落とされてもいいから、赤マフさんを守り抜くんだよ?
赤マフさんが早いうちに落されたら、さすがに勝つのは厳しい。」
ちなみに「落ちる」ってのは戦死する事を指す。
死ぬだの殺されるだのと言う表現は殺伐とし過ぎてるのも確かなわけで…。
なんとなく真綿に包んだこんな表現でやりとりするのが、ガンフロ界隈では一般的になってる。
「要はいつも通りってことでしょ? 赤マフさんの護衛役なら、任せといて。」
まぁ、実際のところ、やることはいつもどおりなんだけど。
敵を見つけて、足止めやって、盾代わりになって散ると。
「うん…わたし、責任重大だね…。けど、わたしがエースだってのは言われるまでもなく自覚してるから…きっちり仕事はこなすつもり。」
ありゃ、この人…一人称まで変わっちゃってるよ…いつもは自分の事、俺とか言ってるんだけど…。
もうすっかり、素になっちゃってるとか、そんななのかなぁ…まぁ、むしろこの方がいいんだけど。
「前衛二人はいつもどおり、ガンガン前へ行っちゃって…ボクは二人の支援に回ることにするよ。
それと最初に、正面大通りにいるストライカー装甲車を攻略しないとね。
これは赤マフさん達が前に出て、路地裏から待ち伏せして、進んでくる装甲車の側面からKSVKで狙撃。
少なくとも足は止まるだろうから、注意がそっち向いたら、反対方向からキサラギが奇襲、C-4仕掛けてドンっ! ストライカー程度なら、それで終わるさ。
それとこのマップ、デスペナ時間が5分と長め設定だから、なるべく命を大事に…。
キサラギもいつものように何も考えず突っ込んじゃ駄目だよ! 今回は特攻はここぞと言う時まで自重っ! じゃあ、お互いがんばろうねっ!」
「まかせな!」
こじろうがドンと胸を叩く。
「うし、こじろう…いつも通り、前衛コンビ気合い入れっぞっ! うっしゃあッ!」
キサラギさんが相変わらず男らしいセリフと共にこじろうの背中を叩く。
この二人は前衛だから、よくバディを組んでる。
勝手知ったるって感じなんだろう。
「よっし! 皆、勝ちに行くぞーっ! モンドくん、わたしの背中は預けたっ!」
赤マフさんが気合の入った掛け声を上げると、僕の方を振り返って、気安そうにポンッと肩を叩く。
「了解、今日の赤マフさんには、怪我とかさせたくないからね…任せろって!」
そう言って、赤マフさんへ笑いかけるとなんで? みたいな顔をされたけど、あっ…て感じの顔になって自分の姿を改めて見てる。
「そ、そうだね…そう言えば、そうだった…。うん、あれはさすがに勘弁だね。」
…実はこのゲーム、女の子アバターでダメージ受けると…。
色々と…その…脱げる。
通称「爆発脱げ」。
具体的には、某旧日本海軍の戦艦の名前の女の子の出て来るソシャゲの中破シーンとかあんな感じになる。
爆風ダメージ受けた時とか、色々と条件はあるんだけど…。
これも女子人気が低い理由のひとつ…VRとは言え、自分が脱がされて喜ぶ女子はあんまりいない。
そもそもこのゲーム、瀕死になったら自爆と言うのがある種のセオリーで「爆発オチ」なんて言われてる。
その爆発オチでもしっかり脱げるので、その機会は意外に多い。
おまけに死に戻ってもそのまんま。
何と言うか…自重しろ運営。
けど…一応対策としてレーティング下げてR12あたりにしとくと、その辺は下着がチラ見えする程度でだいぶマイルドな表現になる。
全年齢仕様にしとくとそもそも脱げないし、デスペナ送りになった時にでも着替えるって手もある。
もちろん、これは相手から見ても同じなんで、リアル女子はR18設定なんかにはしないらしい。
まぁ、被弾エフェクトとかもグロくなるらしいし…。
僕は17歳なんでR12設定になってるんだけど、別にこれでいいじゃんって思ってる。
そういや、赤マフさんって年いくつなんだろうな…?
今まで気にしてなかったのに、つい気になってしまう。
この歴戦の強者が放つ独特の頼もしさ…側にいるだけで安心出来るお姉さんって感じがして、やっぱ年上かなって思うんだけど…。
やっぱ、これまでゴッツイ兄ちゃんだったのが、可愛い女の子になってしまうと、相棒として付き合い長いだけに、色々意識するなと言う方が無理な感じ…。
戦闘開始カウントダウン…視界の端のタイマーがあと30秒を切ろうとしていた…。
「あと30秒だね…この瞬間…いつもドキドキするっ!」
楽しそうな赤マフさん。
その場でパタパタと足踏みする仕草がなんとも可愛い。
「Combat Start 10 Seconds Before Get Set Ready?」
「Count Down In…9…8…7…6…」
戦闘開始カウントダウンの英語アナウンスが流れる…なんで英語なのか? 多分カッコいいから。
「…5…4…3…2…1」
「00:00 Letts GO! Letts GO! Good Luck!」
さぁて、いきなりの戦闘回です。
ちなみに、この赤マフさんは各スキルレベルカンスト最強キャラ状態です。
爆発オチなんてサイテー!