外伝②「篠崎さんと杜若さんの休日」③
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外伝②「篠崎さんと杜若さんの休日」②
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それから、二人は「ウロボロス」のギルドフィールドにやってきていた。
「先輩…改めまして、ご挨拶申し上げます。
わたくし…こちらではカーヤと名乗っております。
葵先輩…こちらでは「R.E.D」…レッドさんとでも呼べばよろしいので?」
そう言って、伽倻ちゃんが手を差し出す。
「うん、そんな感じでいいよっ!
ゲーセンのエントリー名なんかで使ってた名前なんだけどね!」
そう言って笑い返して、葵もその手を握り返す。
殺風景な軍事基地みたいな所の一角に、テーブルと椅子が用意されており、二人の傍らに燕尾服を着た執事風の青い長髪の男性がやってくる。
「先輩…どうぞ、お座りくださいな…ラビリンス…あなたもお久しぶりね…。
ただいま、戻りました…ここに来るのも半年振りですわ…。
早速で申し訳ないのですが、お茶のご用意をお願い致します。」
「お帰りなさいませ…カーヤ様…また戻ってこられると…信じておりました…。
ご連絡いただいた時、このラビリンス…感動のあまり、涙が止まらなくなりました。
…他の者にもカーヤ様がお戻りになるとすでに伝えております。
そろそろ、集まる頃合いかと…そちらのお方は? リアルのご友人をお連れになると言うお話でしたが…。」
「ふふっ…この方はわたくしのお友達…レッドさんです。
わたくしの先輩に当たる方なので、失礼のないように…。」
「レッド様ですか…私、ラビリンスと申します。
「ウロボロス」の副長を務めさせていただいております…。
カーヤ様共々よろしくお願いいたします。」
そう言って、ラビリンスは丁寧にお辞儀をする。
葵もつられて、「ど、どうも…」なんて言いながら、ペコリとお辞儀。
「ところで、ラビリンス…わたくしのMG3Eとアラスカンは?
好きに使うように言い残しましたけど、まだあるようなら、お持ちいただけないかしら?」
「はい、カーヤ様の装備一式は、我々「ウロボロス」の象徴たる宝とさせていただきました…。
ですので、誰も手を触れることもなく…ギルド倉庫に大切に保管しておりました。
ご所望とあれば、直ちにご用意致します。」
そう言いながら、優雅な仕草で紅茶を入れるラビリンス。
何処からかともなくお茶菓子も用意され、そのまま直立不動で気を付けの姿勢を取る。
(この人…ラビリンスって言うんだ…本物の執事みたいな感じ…けど、伽耶ちゃんと言い…顔の変なバイザーはなんなんだろ?)
ラビリンスという青年も、バイザーで目の部分を覆っていて、顔立ちがよく解らなかったけど、鼻筋の通った美形と言うのはひと目で解った。
「そういや、伽耶ちゃんの事は…カーヤさんって呼べばいいのかな?
こう言うのって、本名とかで呼んじゃ駄目なんだよね?」
「二人きりの時は、いつも通りで構いませんよ…どうせこのゲーム全部VRって訳でもないですからね。
それに…わたくしの方が年下なので、カーヤと呼び捨てでもいいですよ?
ここで、そんな風にわたくしを呼ぶ方はいませんけどね。」
そんな事を話してると、少し離れた所に続々と兵隊みたいな人達が集まって整列を始める。
共通してるのは…皆、覆面やサングラス、バイザーなどで顔を隠している事と、黒っぽい軍服を着て、ウロボロスの紋章を身体の何処かに着けてるって事だった。
「んっと、カーヤちゃん…この人達はなに? と言うか…このゲームってどんななのよ?
VRの格闘ゲームみたいなのを想像してたんだけど…ちょっと違った?」
「この人達は…わたくしの仲間…このギルド「ウロボロス」のメンバーです。
昔は10人程度だったんですけど…わたくしのプレイスタイルに共感された方々が集まり、今では100人以上のメンバーがいるみたいです。
わたくし…半年くらい前にこのゲーム引退しちゃってたんですけどね。
レッドさんと一緒なら戻ってもいいかなって事で出戻ってきちゃいました。
このゲームは…言ってみれば、仮想戦争ゲームってとこですね…だから、本格的な格闘なんかも出来るんですよ。
これはもう、実際やってみせたほうが早そうですね…。」
そう言って、伽倻ちゃんが集団に向かって手招きをすると、10人程がゾロゾロと向かって来る。
葵も、伽倻ちゃんどうするのかなとか思ってたら、伽耶ちゃんが手を差し出すとラビリンスは恭しい態度で、銃身を切り詰めたリボルバー拳銃を差し出す。
スタームルガー レッドホークアラスカン…例の熊殺しの化け物拳銃であるのだけど…葵はよく知らないので、不思議そうにしている。
「さて…皆様、お待たせしました…スタームルガーレッドホークアラスカン!
そして、ラインメタルのMG3E! 久々に撃ちまくらせてもらいますわ!」
そう言うなり、伽倻ちゃんはやおら立ち上がると、その寸詰まりの拳銃をドカドカ撃ち始める!
あっと言う間に、近づきつつあった兵隊がバタバタとぶっ倒れる。
全員、額に赤い弾痕みたいなマーク付き。
「ちょっ! 伽倻ちゃん! いきなり何してんのっ!」
この人達って仲間とか言ってたのにいきなり射つなんて…ヒドく無い?
なんて思ってると、向こうの集団が雄叫びを上げだす。
さすがに…問答無用で仲間を射殺とか理不尽過ぎる…怒ってるに決まってる! と葵が思ってたら、何か口々に変なこと言ってる。
「うぉおおおっ! 半年ぶりのカーヤ様の洗礼が始まったぞ! 皆、順番に並べっ!
この日をっ! この日をっ! どれだけ待ち望んたことか! カーヤ様! おかえりなさいっ!」
「ああっ! ついにこの日がやってきた! ずっと待ってた甲斐があったなぁ…。
メンバー続々集まってるぞ! 今日はもう、リアルのことなんて知らん!
カーヤ様復帰のPK祭りだ! 他のPKギルド連中にも伝えろ!」
「いやっほぉおおお! 盛り上がってきましたぁっ! プレイヤー100人狩れるかな?」
「100人で狩りたいぜ! 阿鼻叫喚で地獄絵図~! ドッカンドッカン、バッタバタ!
カーヤ様! オレを最初に逝かせてくれっ!」
「と、隣の…紅麗ちゃんコスの娘、新入りなのかな? 俺、挨拶してみよ!」
「馬鹿…ラビリンスの奴が言ってたろ! カーヤ様がリア友連れで戻って来るって…。
なんか強者オーラ漂ってね? ぜってーつえぇよ!」
怒っているとか言うよりも、アレだった…アイドルに群がるファンとかそんな感じ。
そして…まさに熱狂的な男達が一斉にドドドドドと地響きを立てて向かって来る。
その数、すでに100人以上!
そのなんとも言えぬ迫力に、葵も思わず危険を感じて立ち上がる。
けど、伽倻ちゃんは、涼しい顔で微笑むとラビリンス氏が手に持っていた機関銃…ラインメタルMG3E…戦中ドイツ軍が開発したグロスフスMG42機関銃を7.62x51mm NATO弾仕様に改良し、軽量化を加えた汎用機関銃…。
それをガシャっと両手で構えると、すかさず乱射し始める!
「さぁ…皆様! ダンスのお時間ですわっ! 踊りなさーい!」
「ヒィヤッホォオオオ!」
歓喜の雄叫びとともにバタバタと倒れる男たち…その誰もが満足げな笑みを浮かべていた。
たちまち、何十人もの男達が倒れ伏し、死屍累々と言った様相を呈する。
この光景に葵もさすがに、ドン引きなのだけど…。
ラビリンスさんは「いつもの光景です…ギルドフィールドだと、しばしスタン状態になるだけで復活しますので、撃ち放題、撃たれ放題なのですよ。」なんて言って、平然としてる。
それに、伽耶ちゃんの艶っぽい笑顔と撃たれていく彼らのやたら爽やかな笑顔に、これも需要と供給なのかなーって、納得してたりもする。
まさに狂宴…実はウロボロス、このカーヤ様に射殺されると言うのが定例行事となっており、彼らはこの半年ぶりとなる銃弾による洗礼を待ち望んでいたのだった。
PK界のカリスマ「カーヤ」。
一般的なPKと呼ばれるプレイヤー達と違い匿名機能も使わず、堂々と名を晒し、そのアバターも非常に特徴的なので、「白い虐殺者」とか「金銀妖瞳の魔女」とか、数々の異名を持つ。
おまけに、何人ものSランクプレイヤーを撃破した経歴もあり、表のランキング戦に出てこないだけで、事実上の最強プレイヤーと囁かれる程だった。
かくして、PK女王カーヤ様復帰のニュースは、PK勢の独自ネットワークを駆け巡り、この日、PK勢による一斉乱入祭りが始まった。
そんな馬鹿騒ぎを横目に、カーヤ様と超新星「R.E.D」様は復帰戦に出撃。
彼女達に運悪く目をつけられたのは、先の「オメガブルース」と「雷電」だった…。
同時に「ウロボロス」はその日集まったメンバー100名以上が全員出撃!
「カーヤ様お帰りなさい祭り ~100人で狩りたいなレッツゴーPK~」なる、はた迷惑な自主イベントが開催されたのだった!
そして、この動きに便乗するように普段バラバラに活動していたPKギルドも一斉に活動を開始…そんな彼らの対抗勢たるPKKギルドもカウンター活動を開始する。
かくして、この日を境にガンフロ界隈を二分する大戦争が巻き起こる…これは、その序章とでも言うべき、出来事だった。
カオスの申し子、伽耶ちゃんギルド「ウロボロス」の皆様でした。
皆、頭おかしいです。(笑)
ちなみに、このゲームの運営はむしろPK勢の活動の方を支持してるので、通報とかクレームも相当来てるんですけど、基本ガン無視、仕様ですから悪しからずと言う態度…ひどい話です。




