第一話「まずは、チュートリアルってみよう!」①
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第一話「まずは、チュートリアルってみよう!」①
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『ガン・フロントラインⅩ VRエディション』
それは、足掛け十数年にも及ぶ人気FPSタイトル「ガン・フロントライン」シリーズの一作品。
全感覚没入型のVRMMOガンシューティングのタイトルだ。
毎月安くないレンタル料金がかかる専用VRヘッドセットが必要となるのだが。
それとクライアント機、安定したネット環境さえあれば、割りと問題なくプレイ可能だった。
『もう一人の自分となって、幾多の戦場を戦友たちと共に駆け抜ける!』
と言うのがコンセプトで、実際に銃を撃つ疑似体験が出来る上に、様々な戦場が用意されており、撃って撃たれるそのリアリティは、軍用兵士育成シュミレーターの転用だとまことしやかに言われるほどだった。
古今東西の様々な歩兵用銃火器が実装されており、使い所は限られているものの、戦車やらヘリなんかもその気になれば使える…ガンマニア、ミリオタの間では絶賛されているタイトルだ。
ただその難易度もマニア向けで、実際の銃撃戦と同様にプレイヤーの命ははっきり言って物凄く軽い。
ヘッドショットなんか食らうと、ほぼ確実に即死。
腕に食らうと両手持ち武器はほぼ使用不可…足にもらうと、ほぼ移動不能になって、そうなるとメディックの救援頼み。
胴もボディーアーマー装備でも結構な確率でブチ抜かれて死ぬ、ヘルメットなんかも気休めにしかならない。
開始五秒で戦死なんてのもザラ…むしろ、一度も死なずに終われるのは一部の達人だけ。
仲間の盾になるとか、殿玉砕、特攻偵察なんかも当たり前。
死に花を咲かせるガンシューティング…それがガンフロ。
もっとも、このゲーム…いわゆるデスペナルティと言う物がものすごく軽い。
銃で撃たれた時も衝撃などはある程度再現されるものの、撃たれた所にダメージエフェクトと呼ばれる赤い銃痕みたいなマークが付くだけで別に痛くなんかもないし、生身になにかフィードバックがある訳でもない。
死んだところで、敵にキルポイントが入って、こっちはデスペナルティルームに数分ほど転送されて、ちょっとした暇を持て余す程度…その程度のペナルティしかない。
まぁ、臨死体験を繰り返すと言えばアレなんだけど、慣れるとどって事ない。
要するにガンガン死んで、ガンガン殺しまくる…そんな殺伐としたゲームだ。
もっとも、デスペナ戻りは自陣内のどこかへランダム転送って感じなるし、デスペナの間は何も出来ないので、攻めるにせよ守るにせよ味方にとっては戦力大幅ダウンとなるので、無駄に犬死するのはよろしくなかった。
死ぬ時は潔く、そしてカッコよく! 命の使い所がキモ!
とまぁ、こんな調子なので、基本ソロプレイとか無謀なので推奨はされていないし、誰もやらない。
仮にそんな事をやってもデスペナオンラインになるのが関の山。
その為、特定チームやギルドに所属して、固定メンバーでチームを組んだり、所謂野良チーム…ソロプレイヤー同士がメンバーを募集して、その場その場でインスタントパーティを組むととかそんな感じが多い。
ゲーム自体のルールはシンプル。
一定時間内でキルポイント…要は敵を倒す度に入るポイント…をより多く稼いだ側が勝ちというのが基本でベーシックルールと呼ばれてる。
他にサバゲーみたいなフラッグ争奪戦なんてのもあったり、フラッグマンを落とすフラッグ戦なんてのもあるんだけど。
その辺もフラッグ=高キルポイントって感じなんで、サバゲーとかとはちょっと違う感じなんだけど、大体一緒。
他には、イベントなんかで、ボスキャラ落とせは勝ちとか、お互いどちらかが全滅するまで戦う殲滅戦ルールなんてのもあるけど…その辺はあくまで特別とか例外って感じで、基本はベーシックルールに則る感じ。
フィールドは、平原、森林、市街戦、屋内戦など…様々なシチェーションが用意されていて、時間や天候なども自由に変更できる。
また季節や時事ネタに合わせた特設フィールドなんかも用意される事もある…夏のビーチとかスキー場だの…今はハロウィンイベントの名残でハロウィンフィールドなんてのが設営されている。
ただ、これがまた手抜きな代物で…10月のお月見イベントの使い回しでススキ野原に満月、夜固定…所々にハロウィンっぽいカボチャだのホウキと言ったオブジェが転がっていると言うシュールな光景だったりするのだけど。
まぁ、この運営だし…しょうがない。
基本はプレイヤー同士のチームマッチ戦。
シナリオモードと言う練習用ミッションとか、NPCのチームメイトと共にNPCチームを相手にするソロフィールドなんかもある。
…もっともNPCはPCほど強くも賢くもなく、事前に設定された条件に従って動く程度。
はっきり言って、慣れると作業になってしまうので、こっちは暇つぶしやポイント稼ぎとかソロプレイ用…練習にもならないと言うのがもっぱらの評判。
他に期間限定のイベント戦でNPC相手の特殊作戦イベントとか、特定の時代の戦場再現なんてのもある。
イベント戦は、ファンタジーな感じな敵が出て来るシナリオがあったり、尖閣諸島に上陸した某国軍と戦うなんて、刺激的なシチェーションのシナリオがあったり…。
SF的な宇宙人やらが攻めてきたり、学園ゾンビパニックだの最近はもはや何でもありの感が出てきた。
…なんとも運営のやんちゃっぷりが垣間見える…本当に何が出て来るか解らないある意味、ガンフロ名物お楽しみイベントとも言えるものだった。
一応、真面目なところだと、ベトナム戦争の再現とか、二次大戦ドイツ軍とソ連軍の戦い「東部戦線」シリーズとか…。
第二次大戦のフィンランドとソ連の戦いを描いた連作「冬戦争」シリーズなんてのもあった。
特に「冬戦争」シリーズは、32対4000とか無茶な戦力比のマップがあったり、色々と戦力比がおかしいガンフロ屈指の難易度を誇るイベントだった。
とは言ってもこれは一概に運営を責められない…単に史実通りってだけだったりすると言う…。
…この冬戦争イベントに参戦して皆、思ったこと…「フィンランド軍って、絶対おかしい」!!
「戦いは数だよ! 兄貴!」
このセリフを真っ向から否定する戦闘民族フィンスカ…彼らが300人も集まれば一個師団の足も止まる…と言うかこれも史実だったりするから色々とおかしい。
それはさておき、とにかくまぁ…そのイベントについてだけど。
今回、実施されているイベントは、『迎撃! ドローンコマンダーズ!』ってタイトルの期間限定イベント。
期間は本日11月16日から11月31日までの二週間ほどに渡る予定。
無人兵器を操る兵種ドローンコマンダーを敵に回してのチーム戦なのだが。
このドローンコマンダーって奴らがまたムカつく!
無人兵器…小型対人戦車、銃装備のマルチコプターとか、しょっぱい兵器を繰り出してきて、自分は後方待機してたり、装甲車に乗って出てこないとかそんな調子なのだ。
今回のイベントでは、敵はNPCがメインではあるのだけど、ドローンコマンダーの兵種持ちは敵として参戦が可能。
日頃から、僕らのようなガチバトル愛好家にとっては、連中はやるゲームを間違えている…全く相容れない人達で…おまけに無人兵器系には苦い思い出しかないんで、はっきり言って皆、殺る気満々だった。
なにせ例えれば、こっちが空手で剣道で勝負する中、いきなり乱入してきて将棋盤やらチェスボード片手に一勝負とかやらかすようなものなのだ。
そりゃあ、指し手をぶっとばしたくもなる。
そして、本日0時よりイベント実装と言うことで、僕らはチームメンバー全員で実装同時アタックを企画し、待機ロビーへ集合していた。
この待機ロビーってのは、要するに出撃準備画面ってとこ。
VRもオフなので、皆、適当にチャットとかしながら、装備を整えたり、リアルの用事を済ませたり、仲間との待ち合わせをする感じ。
VRは長時間の接続はあまり推奨されていないし、VRモードの間は、五感が完全にこっち側になってしまうので、リアルの身の回りの事も一切解らないようになってしまうのだ。
いずれにせよ、長時間のVR接続は色々と問題あるため、基本的にVRモードで動けるフィールドは戦闘フィールド以外だと、限定されている。
なので、ログインロビーとかマイルームと言ったVRである必要性がない部分については、基本非VR…要は普通のゲーム画面みたいな感じだったりする。
なにせ、今でこそVRMMOのタイトルは増えたものの、このゲームはVRMMOの国内初タイトルだったのだ…要は黎明期の作品なので、旧来のネットゲームと同じ部分も結構ある。
今は皆、ながらモードで、VRヘッドセットも脇においちゃって、PCのVRクライアントのビューモードを起動して、リアルでガサゴソやりながら、PCのキーボードでテキストチャットでくっちゃべりながら、のんびりと待ち合わせ中。
この辺は、非VR時代のネットゲームなんかと何一つ変わっちゃいないところだった。
これはこれで、皆でリアルタイムでアニメとか見ながらダベったり出来るので、待ち合わせのはずがアニメ観賞批評会になったり…なんてこともあったりする。
僕らは別にサーバートップを狙うようなチームって訳でもないので、寸暇を惜しんでマップ巡回とかは…たまにはやるけど、基本はまったりプレイって感じ。
まぁ、皆で楽しくやろうぜってのが第一ってとこかな。
すみません。
また背景や登場人物紹介長いです。
今回は一万文字程度に押さえましたんで…。
ちなみに、フィンランド軍云々は第二次大戦の冬戦争あたりのエピソードを調べてみてください。
史実は小説より奇なりを地で行ってますから。




