第八話「Dangerous School LIFE!」①
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第八話「Dangerous School LIFE!」①
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そして、お昼休み。
予想通りに篠崎襲来。
何人かが逃げるように教室を後にし、女子連中も露骨に道を空ける。
まぁ、毎度の光景だった。
ここで、BGMがかかるとすれば、ヤシマ作戦のテーマあたりが似合いそうだ。
「先輩…お弁当、お持ちしましたが…如何でしょうか? わたくしの手作りです。」
そう言いながら、空いていた眼の前の席の机と椅子の向きを変えると当たり前のように座る篠崎。
その席の主の安藤くんは…教室に入ってこようとして、チラ見しただけで、色々察したらしく手を振って撤退。
柿崎くんも撤収済み。
篠崎弁当…あの初日に僕を昏倒させたモノの正体は解らず仕舞い。
一応、二度とやらないと、本人も言っているし、信用する。
だって、下手に追い払うとまたバーサーカー化して、何するか解かんないんだものこの娘。
限りなくやってる事は猛獣調教…ほんの一瞬の油断が命取り…。
ガンフロじゃ、何度もこんな感じのギリギリの状況とか経験してるけど、向こうと違ってこっちはヘマ打ったらもうお終い。
リアルは命が重いのだよ…死んじゃったら、ゲームオーバー。
デスペナ部屋なんてないし、コンテニューもない。
「篠崎もマメだねぇ…わざわざ二年の教室まで来るなんて…上級生のクラスって来づらくない?」
「中室先輩の為なら、わたくし…地獄の底だって推して参ります。邪魔するものは粉砕します。」
…似たような会話をカナちゃんとしたばっかなんだけど。
コイツに言われると、何故かゾゾゾっと背筋が凍りつきそうになる。
推して参らないで結構です。
あと、見ての通り、誰も邪魔なんてしないから、粉砕しないでください。
頼みますから、お願いします。
地獄の鬼に、正中線三段突きを決めて沈黙させ、死屍累々の山の上に仁王立ちする彼女の勇姿が脳裏に浮かぶ。
黙って大人しーくしてくれれば、本当に美少女なのに…なに、この残念感。
「あはは…うん、そりゃ頼もしい…じゃあ、ご好意に甘えてご相伴させていただきます。」
なるべく、自然な笑顔で差し出された弁当の卵焼きを一口。
うん、痺れだしたりとかしないし、普通に出汁と甘さの好バランスで美味い。
この娘、意外と家庭的なところもあって、料理も上手で編み物なんかも上手。
成績も優秀らしく、運動神経も当然のように抜群…ある意味完璧超人。
実際、9月の僕の誕生日には、手編みのマフラーなんてのを持ってきてくれたしさ。
残暑の厳しい中、真っ黒なマフラー装備させられたのは、苦行でしたけどねっ!
「空也ッ! お弁当一緒に食べようぜっ! あら、篠崎さん…こんにちわっ!」
猛獣と互角に戦えるリアル猛者…杜若の参戦!
お弁当片手に如何にもさりげなくって感じで、見てる方が気持ちよくなるような爽やかな笑顔と共にやって来た!
まぁ、今朝一緒に食べようって、言ってたしね!
席もお隣なんで、椅子ちょっと持って来るだけのお気軽参戦。
向かい篠崎、その右に杜若…そして、僕だ。
もはや、この時点でデストライアングル!
修羅場始まる「ラウンドワンファイッ!」って感じにしか思えない。
ちなみに、僕の席の周囲にはすでに誰もおらず、皆隅っこに机を並べて退避中。
さりげなく、机と椅子を使ったバリケードを構築しており、皆、なかなか手慣れた対応である。
「杜若先輩…どうも…。」
ペコリとお辞儀をする篠崎。
けど、杜若を見返すその視線は鋭く怖い…二人の間でバチバチと見えない火花が交わされる。
「先輩…こちらもどうぞ。」
篠崎、杜若の姿をまるで見えなかったかのように、自ら箸を取って、アスパラガスの肉巻きを差し出す。
俗に言う「あーん」と言うラブラブシチェーション。
まぁ…普通は羨ましがられるとか、そんな感じなんだけど。
選択肢は「いただきます」一択っ!
…お断りとか、デッドエンド直行!
理不尽ッ! まさに理不尽ッ!
だが、それが篠崎クオリティッ!!
まぁ、味は抜群に美味いからまだ許せるし、曲がりなりにも美少女に食べさせてもらえるとか…。
ある意味男の夢…まさにギャルゲーの主人公って感じだよね…傍から見れば。
第三者的な立場だったら、リア充爆発しろと言って、手榴弾を投げ込みたくなるだろうさ。
だが、相手は篠崎…こいつの属性はずばりヤンデレ…である。
それも特殊部隊顔負けのスニーキングスキルと超人的な身体能力を併せ持つ、強大な武力を持ったヤンデレである。
つまり、手に負えない。
ヤンデレ怖いよぉ…ヤンデレ。
ほんと、言い方変えればチョロインだからって、ヤンデレ可愛いとか言うヤツいるけどさ。
実際、遭遇するとヤバすぎる…危険、まじ危険。
もうちょっと可憐なか弱いヒロインって感じなら、僕だってこんな苦悩しないさ。
ちなみに彼女に言ってやりたい言葉がある。
『キサマの愛は侵略行為ッ!』
まぁ、言ったら、きっと僕はデッドエンドなんだけどね。
「空也っ! じゃあ、あたしの卵焼きも食べてっ! はい、あーん!」
なんか、対抗心を燃やしちゃったっぽい杜若が同じく自分の弁当の卵焼きを箸で摘んで、こっちへ向けてくる。
こいつに関しちゃ別にいつもこんな調子なんだけどね…。
強いってのはいいよな…コイツくらいだろうな篠崎相手に、平然としてる奴って…。
とりあえず、ありがたくいただく。
「うん、美味い美味い…葵も随分料理マシになったよな…。」
杜若…ガサツっぽいけど、実際ガサツで、昔は料理とか壊滅的だったんだけど。
なんか知らんけど、一時期うちにやって来ては雛乃と一緒に料理作ったりとかしてるうちに、かなりマシになった。
ちなみに、雛乃は家を空けがちなお袋の代わりに、家事全般をやってくれてる…まさにロリおかん。
…杜若とも付き合い長いので、二人でお買い物とか行ったりする程度には仲がいい。
褒めろと言わんばかりに、頭を出してきてるので、ついいつも通りの感覚で撫でてしまう。
っと、しまった…杜若の相手をしてたら、篠崎ゲージが危険域へ突入!
…なんか、箸をヘシ折らんばかりに、手に力を入れて俯きながらブツブツ言ってる。
背景に「ゴゴゴゴゴッ」って擬音が見えんばかりだった。
『Caution! Caution! Unknown Enemy Approaching! DANGER! DANGER!』
ガンフロのレイドボス出現のアナウンスと、アラート音が聞こえてくるような気がした。
これは駄目な展開だった。
なんか、杜若さん…いつもお世話になってて、こう言うのもなんですけど。
今のどう見てもキラーパスだよね?
ついいつも通りな感じにしちゃったけど、何してくれてるの? 君は…?
平和なお昼休みを戦禍の渦に巻き込みたいの?
なんか、いきなり一触即発なんですけど、これ。
「葵…ちょっとこれもらうよ。」
そう言って、杜若の弁当箱から卵焼きを一個失敬する。
「篠崎も食ってみるか? 杜若のお手製卵焼き…結構美味いぞ。
うちの雛乃直伝だから、味は保証する。」
そう言って、杜若の卵焼きを差し出してみる。
怖くない…怖くなんか無いから。
「せ、先輩から、そ…そんな…。」
そんな事を言って、ポッと顔を赤くしながらも、横髪を支えながら、しずしずと顔を乗り出し、一口卵焼きを食べる篠崎。
上品なその仕草や本気で照れてるその表情は普通に可愛い。
けど、気分は猛獣に餌付けしてる気分なんだがね。
一歩間違えると、がぶりと手を齧られる。
杜若…何とも感心したような顔をしてるけど、なんか思いついたらしくハッとした顔になる。
「あ、空也っ! それなら、あたしにもお返しって事で…あーん。」
そんな事を言いながら、口を開けて、身を乗り出してくる。
「ああ、そうだな…その程度なら、お安い御用だし、篠崎お手製の卵焼きはどうだ?
こいつ、なかなか料理上手いよ。」
言いながら、弁当箱の卵焼きを摘もうとすると、横からサッと掻っ攫われる。
そのまま、卵焼きは篠崎の手によって、杜若のお口の中へ。
美少女二人、先輩と後輩の仲睦まじいあーんって奴だった。
…なんか違うような気もするけど。
「あら、美味しいじゃないのって…篠崎さん? あんたには頼んでないんですけど。」
「中室先輩のお手を煩わすまでも無いかと思いまして…杜若先輩、わたくしの手料理…如何でしたか?」
「美味しいのは認めるけど、なんであんたがしゃしゃり出てくるのよッ! あたしは空也に頼んだのよ?
そんな訳で空也っ! あたしのお弁当食べさせて! ハンバーグでいいわよ! はい、あーんっ!」
なんか杜若から箸を手渡されてしまったので、もはや待ったなし!
とりあえず、杜若の弁当箱に箸を伸ばそうとすると篠崎、めっちゃ睨んでる。
僕、どうすりゃいいの? 本当っに杜若…引っ掻き回しに来たとしか思えない。
ある意味ヒロイン同士のバトル回。
後編に続きます。
ちなみに、作者的には女の子とお弁当食べたとかそんな記憶って全然ありません…ぼっち飯の先駆けだったかも。
小1の頃は保護者みたいな感じの女の子達と一緒でしたねー。
何と言うハーレム。
東京への転校とかなかったら、どんな人生だったんだろってたまに思います。
篠崎さん、やっぱ可愛いデスよね?
横髪を支えるってのは、よく女の人がラーメン食べる時とかにやってる奴です。
甘えん坊袖とかでやられると破壊力抜群だ!




