第四話「英雄の旅立ち」②
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第四話「英雄の旅立ち」②
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「あれ? 誰かと思ったら、与一じゃん…お前も来てくれたんだ! お前とはさんざん遊んだよなぁ…あれはなかなか楽しかったよ!」
赤マフさんの楽しそうな声が聞こえてきたので、そっちに視線を向けてみる。
「赤マフさん! あんた、引退ってそりゃないよっ! くっそーっ! 結局勝ち逃げかよ! ちくしょーっ! ふざけんじゃねぇよっ!」
そこにいたのは、Sクラススナイパーの与一さんだった。
この人も有名人…赤マフさんとの一騎打ち「夜闇の対決! 赤マフVS与一のガチ決戦!」…この動画はガンフロ屈指のSランクプレイヤー同士の好カードを余すところなく撮影する事に成功した貴重な映像だった。
どっちも野良パーティ同士の対戦でたまたま遭遇し、お互いを認めるや否や1000m以上離れた中、壮絶なスナイプ合戦を開始!
神回避やスーパーショットの応酬、お互いアクロバティックな動きと、2手3手先を読み合う超ハイレベルな攻防で、その時の他のプレイヤー達も手を止めて見入ってしまい、二人だけの戦場状態になってしまった。
そして、動画はビルの上に立ったまま月をバックにバレットM82を構える赤マフさん、武器を失った与一さんが葉巻をくわえて火を付けて…額を指差し、さっさと撃てよのジェスチャーの後、ヘッドショットで撃ち倒されると言うカッコ良すぎるシーンで終わっている。
この映像はその時たまたま参戦していたドローンコマンダーが多数のマルチコプターを放ち、複数のカメラで撮影し、編集技術を駆使して作成したらしかった。
その編集技術も神がかっていたけど、二人の激闘はこのゲームのSクラスプレイヤーがどんな連中なのかをガンフロ界隈に知らしめた動画の一つとなった。
「最後にもう一勝負! とか言いたいとこだけどな…こんな場でそりゃ無粋ってもんだよな。
しゃあねぇ…ここは勝ち越しって事で譲ってやるっ!
そうだ…モンタナやアイリスも来てるから、挨拶くらいしてやってくれよ。
あんたは俺達スナイパー組のエースだったんだからな…ドラゴン落としも…ありゃ同業者として、シビレたし、憧れたぜっ!
ったく、水臭いぜ…引退するなら、そうひと声かけてくれりゃ良かったのに…。
危うく黙って行っちまう所だったなんて…ちくしょう! 寂しくなるとか、俺はそんなセリフ絶対言わねぇからなっ! くそっ! 今日はやけに硝煙が目に染みやがるぜっ!」
そう言って男泣きする与一さん。
彼ら高ランクプレイヤーにも彼ら同士の忘れられない戦いとか色んな思い出があったんだろうな。
あの動画の二人は終始笑いながら、楽しそうに戦ってた…他の二人も似たような関係だったのかもしれない。
「だって、お前らSランク専用ミッションの巡回漬けで、他に顔出さなくなっちまったからなぁ。
タウンマップに来たり、ギルド戦とかも最近ご無沙汰なんだろ? 接点ってもんがないんじゃあな…。」
「し、しかたねぇだろ…普通のミッションとか、ギルド戦とか…俺なんかが出てったら、空気読めって感じになるんだもんよ…俺達Sランって、バトルだと集中砲火食らうってのが常だしさ…。」
「エースとして、皆のために散るとか…皆に託されて、一撃に賭けるとか楽しいもんだぜ?
お前も初心に帰ってみろよ…俺が言えることはそれくらいだな。
…モンタナのじーさんもアイリスのねーちゃんもどっちも手ごわかったよ…。
正直、もうやりあうなんて二度とゴメンだから…ここは全員、俺の勝ち逃げって事でいいよな?
すまねぇけど、皆、せいぜい達者でやってくれや…。」
そう言って、与一さんと他の二人とがっちり握手を交わし、一言二言、言葉を交わす赤マフさん。
「んじゃ、名残惜しいけど…俺っちはこの辺で失礼するぜ…皆、またどこかで会えるといいな…元気でなっ!」
そう言い残して、僕を含めて大勢のプレイヤー達が手を振り別れを告げる中、赤マフさんは皆に背を向けて、一瞬その肩を震わせると、ログアウトする。
そして、祭りの主役が居なくなり…静まり返ってしんみりした雰囲気のまま、流れ解散となり、一人また一人とこの場を去っていく。
「行っちゃったか…こう言うのって、何回経験しても寂しいよねぇ…。
赤マフさん、いい人だったんだけど…しょうがないか。
モンドくん…赤マフさんに最後、挨拶しなくてよかったのかい? 君は彼の相棒だったんだし、色々とあったんじゃないかな?
それに他のチームメンバーも、結局挨拶もしなかったみたいだし…。」
「皆、お別れはもう済ませてましたから…。
この引退セレモニーでは、僕らは隅っこで最後に手を振るだけって決めてたんです。
どちらかと言うと、僕ら以外の赤マフさんを知る人達のお別れってとこかな…これは。
乱童さん、音頭を取ってくれてありがとうございました…こんな盛大な見送りになるなんて、思ってなかったですよ。」
「いやいや、赤マフさんには僕らも色々お世話になったしね。
むしろ、こんな程度の事しか出来なくて申し訳ないよ…。
やれやれ、伝説のエーススナイパーは本当に伝説になっちゃったか…。
けど、赤マフさん居なくなっちゃったら、君のとこのチーム…戦力的に厳しくなるんじゃないかな?
良ければうちのギルド来る? 君らもう准メンバーって感じだし、うちメンバー枠も余ってるから歓迎するよ。」
そう言えば、乱童氏からは前々からギルド勧誘を受けてたんだっけ。
ちょっと断りにくいし、魅力的な提案じゃあるんだけど…大手だからメンバーも多いから、加奈子さんの事を考えると、ギルド参加は止めといた方がいいのかなと思う。
「ありがたい話だけど、それはまたの機会って事でご遠慮させていただきます。
うちも今度、初心者の新メンバー迎えることになってて…その子の手伝いとか色々やんなきゃいけないんですよ。」
「おや? このタイミングで新メンバー、それも初心者のコを迎えるのかい?
あ、なんか…僕、色々解っちゃったぞぉ…。」
なんとも悪戯っぽい笑みを浮かべる乱童氏。
この人、伊達に大手ギルド長なんてやってない…勘もいいし、頭も切れる。
なんとなく今のやり取りだけで色々悟られたような気もするけど…まぁ、そのうち紹介するし、話せば解ってくれそうな気もする。
「ははは…ま、まぁ…そのうち、その子も紹介しますよ。
それに、チーム戦の練習相手とか、高難度マップの攻略で合同チームのお願いとかさせてもらいたいですね。
今やってるドロコマイベント、人数いないとちょっとキツイんで、是非協力をお願いしますね。
うちもギルド戦の助っ人なら、いつでも引き受けますんで、お互い持ちつ持たれつでやりましょう。」
「うん、要するに今まで通りって事だね…委細承知、仕った。なんだか、色々楽しそうだねぇ…君たちもさ。」
「そうですね…たぶん、楽しんでますよ。だから、いつまでもしんみりなんてしてらんないって訳ですよ。」
そう言って、僕はタウンマップをあとにして、チームハウスへと向かった。
この辺、三行で!
くらいでも良かった気もするんですが。
加奈子さんはこんな感じでむせる男演技してましたってのと。
一応、最強プレイヤーの引退ですからね。
どんなネトゲでもちょっとしたイベントにはなりますよねー。
私も某ネトゲで、引退プレイヤーの装備ばら撒きとか参加したことありますw
自分も含めて、仲間とかはフェイドアウトってのが多かったんですけどねー。




