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第三話「僕と君の改めまして、初めまして」②

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第三話「僕と君の改めまして、初めまして」②

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「引退かぁ…そっか、寂しくなるね…。

 ああ、もちろん理由は聞かないし、止める権利なんてないのは解ってる。皆、それぞれのリアルな生活ってのがあるからね…残念って言えば残念だけど。

 けどまぁ…突然居なくなるってのよりは、まだいい方かな。

 けど、事情は解った…そうなると、なんて呼べばいいのかな? 今まで通り、赤マフさんで?」


「んっと、赤マフさんは明日明後日には、引退宣言しちゃうんで、もうその名前で呼んじゃダメ。

 こっちのキャラ名の「カナ」でいいよ。モンドくんには特別に教えるけど、わたしの本名…下の名前「加奈子かなこ」って言うんだ…漢字だと加えるに奈良の奈に子供の子。

 この娘って…このゲーム始めた時に最初に作ったキャラなんだよね。

 実はリアルでも大体こんな感じ…わたし、背丈ちっちゃいんだよ…元々あんまおっきくなかった上に、中学の時から背が伸びなくなっちゃってさ…。」


 最後の方はなんともショボーンとした感じ…。

 確かに140cm台なんて言ったら小学生並の身長…確かに気の毒な話だった。

 

 改めて彼女を見つめてみる。

 背丈は…まぁ、気にしてるっぽいから、ちっちゃくて可愛いって事で。

 顔立ちは…タレ目で眉毛が妙に立派で、まつ毛とか長くて、色白…なんとも緩い雰囲気で、人懐っこそうな愛嬌があって悪くない…普通に可愛いと思う。


「加奈子…か、字面も綺麗でいい名前じゃないか…見た感じもなかなか可愛いじゃないの。」


 思わずそう呟くと何故か、ブワッて感じで赤くなって両手で顔を覆ってしゃがみ込まれてしまう。

 なんか「な、名前、呼び捨てにされちゃったぁ…」とかなんとかブツクサ言ってる。


「あ、あれ…慣れ慣れしかった? ごめん。」


「ん…そ、そうじゃなくてさ…あ、あのさ…。

 えっと…いちお、聞くけどモンドくんってリアル男の子だよね? 年はおいくつ? 顔、イケメンとかだったりする? って! あはは、なに言ってんだろね…わたし。」


「僕は男だよ…見た目はたぶん普通なんじゃないかな…? アバターの顔イジってないから、本人まんま。リアルじゃコレにメガネって感じを想像してもらえればいいかな。」


「おおうっ! イジってなくてその顔なんかっ!」


 加奈子さんが背伸びして、グイって顔を近づけてマジマジと見つめられる。

 なんかめっちゃ近いっ!


「…割と女顔だけど、十分イケメンじゃないですか…マジで?

 ヤバっ、コレは…か、かなこさん、ちょっとジュワッてなっちゃったよっ!

 うわぁ…しかも、こないだなんてお姫様だっこまで…あーっ! ダメダメっ!」


「な、なに…そのジュワッって?」


 加奈子さんの食いつきっぷりと、その謎の表現に思わず聞き返してしまう。


「うぇ? いや、あはは…気にしないでっ!

 と言うか…多分女性特有の感覚なんで、説明しづらい…じゃなくてっ! 今のは忘れてっ!

 とにかく、ちょっと待って、素数でも数えるから! 落ち着け…落ち着け…ガッツクなわたし!」


 それだけ言うと、しゃがみ込んで顔を赤らめながら、ブツブツと1、3、5、7、11…とか呟いてる。

 よく解らんけど、女性特有なら僕に解るはずもない…今度、妹にでも聞いてみよう。


「うん、復活…! ちょっと久しぶりの感覚に、我を忘れそうになったけど、もう大丈夫!」


 そんな事を言いながら、微妙に腰をもぞもぞさせながらも立ち上がる加奈子さん。

 あまり、ツッコまない方が良さそうだったから、スルーしよう。


「大丈夫なら、いいんだけど…それと加奈子さんの名前聞いちゃったから、僕も特別に教えるね。

 本名は中室空也って言うんだ。中に室町時代の室、也は池のサンズイとったヤツ。それと年は…17歳、高校二年だね。」


 ここは正直に言ってみる…相手が信用してくれてるなら、それに応えるのが誠意ってもんだ。

 まぁ、平日の真っ昼間からログインしてたりする時点で、サボり魔学生なのは悟られそうだけど。


 見た目については…妹によると、黙ってれば結構イケメンって評価…ただあいつはブラコンのケがあるから変な補正入ってる気がする。

 

 実際、妹の友達なんかに何人か告られた事もあるんだけど、相手小学生だもんな…さすがに、丁寧にお断りさせていただいた。


「おおっ! 17歳って事は…なんだ、モンドくんってば年下だったんだ!

 わたし、これでも18歳! 一応現役…になるのかな? とにかく、いわゆる華の女子高三年生っ!

 …ふふん、まいったか! 空也くんか…カッコいい名前じゃん!

 あ、わたしの事…別にさんとか付けないで「カナ」とか「かなこ」って呼び捨てでもいいかんねっ!

 なんなら、加奈子先輩なんて呼んでくれてもいいよ!」


 ちっこいアバターで腰に手を当てて、控えめな胸を張られる…。

 妙に落ち着いた所もあったから、年上ってのは納得出来なくもなかったけど…正直、一コ上なんて、大差ないような気がする。

 

 ただ、このちっちゃめの容姿…なんか年上って感じが全然しないし。

 「加奈子」なんて呼び捨てにするのもなぁ…。


「まいりましたよ…かなこお姉さん。でも、そのカッコじゃカナちゃんってとこかな。」


「カ、カナちゃん? まぁ…いいか、それでも。

 確かに中坊の時はそんな呼ばれ方だったよ…なんだか懐かしいね…あの頃は良かったなぁ…。

 このキャラ、ちっこいのは…最初、キャラ作る時って、キャラの年齢設定デフォだと10歳とかってなってるじゃない?

 あれ変えられるの知らなくて、良く解らないうちに、こんなチンチクリンになっちゃった…どうせなら、もっと綺麗なお姉さん風にしたかったのに…。」


 何の事はない…ガンフロあるあるだった…。

 なんで、デフォがそんなに設定になってるのかよく解らんけど、確かにそうだった。

 しかも、その年齢設定項目が画面スクロールさせないと見えないようになってる上に、次の画面でもあるのかなとうっかりOKボタンを押すと「これでいいですか?」的な確認無しで、問答無用でキャラメイク完了となってしまう鬼畜仕様…。

 

 さすがに、割と早い段階で改善された上に、お詫びと言うことで新規キャラチケットなんてのが配布されたらしいけど、真っ先に始めた連中は…相当数がその罠にかかってしまった。


 おかげで、最初の頃はチビッコな少年少女兵だらけで、チビッコ大戦争状態になってたと言う…。

 ガンフロオープン当初…第一期時代の光景…なんともはや。

 今もその名残で、ベテラン勢にちびっ子キャラが多数存在しているのが実情で…なんとも罪深い運営だった…。


「とりあえず、「ウォーキーガンナーズ」の皆には事情話していいかな? 実は皆、君がリアルで女の子ってのはとっくに気付いてて、周知の事実だったりするんだけど…だから、信用してくれていいと思う。」


「あう…やっぱ、バレバレだったんだ…そうだよね…皆、付き合い長いし。

 モンドくんにバレバレって事は皆も一緒か…そうなると、わたしに合わせてくれてたのかな…。

 なんだよぉ…皆、すっごいイイ奴じゃないの…。」


 そう言って、彼女は目尻に浮かんだ涙を拭く。

 どうも感動したらしい…なんだよ…この娘、めっちゃいい子じゃないか…。


 素直に笑って、泣いて…どこにでもいる普通の女の子。

 こんな娘がサーバートッププレイヤーとか言われて、持ち上げられて性別も偽って…そりゃあ、大変だったろう。


「イイ奴らだろ? 僕以外は皆、社会人ってのもあるだろうけどね…。とりあえず、他の知り合いとかと会った時は…僕の妹とでも言って紹介しとくよ。実はこれでもリアル妹持ち。」


「モンドくんの妹設定? しょ、正直複雑なんだけど…それ。

 けど、そっか…保護者同伴でチーム所属済みなら、さすがに変なのは寄って来ないのか。

 最初の頃…わたし、オープン当初からやってるんだけどさ。この女の子キャラで野良とか混ざって、一緒になった人達にリアルで女の子だって言ったら、どいつもこいつも目の色変えてさ…。

 やれスリーサイズがどうのとか、どこ住んでるとか、恋人は? とか、リアルで会おうよ! だの…もう色々最低だった。」


「うわっ…なんだそりゃ…そりゃ確かに最低だ…。」


 彼女の話を聞くに連れ改めて、初心者だった彼女にナンパ攻勢をしかけた下半身直結厨共に対して怒りが湧いてくる。

 良く始めて数日でやってられないって、投げなかったなぁ…。


「けど、ゲーム自体は結構面白かったから、絶対男がよって来なさそうなむせる感じの男アバターにして、ソロ専みたいになっちゃったんだよね…。

 このゲーム、いわゆる直結厨? 出くわすの皆、そんなんばっかだったんだよね…。もう、運が無かったとしか思えないんだけど…。」


 このゲームもたまに女子ゲーマーが手を出すこともあるみたいなんだけど、たいてい長続きしないらしい。

 内容がハードな上に、難易度もマニア向け、おまけに、下半身直結厨の巣窟…キサラギですら、しょっちゅうナンパされてるの見かけるくらいだもんな…。

 

 まぁ、最近は他のゲームやアニメとかのタイアップで、可愛い女の子アバターとかも大量に実装されたし、通称ヌルモードなんて呼ばれる、死ににくいマップも実装されたので、前よりはマシになった。

 タウンマップで日々VRな日常を送るってプレイスタイルの人もいるみたいだし…。

 僕みたいな支援専門っての少しは増えてきたらしい…。

 

 ちなみに、メディックの二次職で、ナースなんてのも最近実装された。

 女の子限定職で、魔法みたいなので遠隔治療とか出来て回復力も高い。

 ただし、戦闘力はほぼ皆無って感じで、完全にファンタジーもののプリースト。

 前に野良で一緒になったけど、僕の立場なしって感じだった。

 

 このゲームの運営…何かと色々やらかすけど、それなりにいい仕事はする。


「どうにも女の子受けがよろしくないゲームだからねぇ…めちゃ殺伐としてるし、内容もマニアックだし。

 それで女の子プレイヤーなんて言ったら、かなりレアなんだよね。

 それに、これにハマるようなミリオタ系の連中って、リアルではあんま女の子受けしないから、免疫ないんみたいなんだよね…。むしろ、カナちゃんはなんで、こんなの始めたんだい?」


「いやぁ…わたし、元々ミリタリー系とか全然興味なかったんだけど。ゲーム雑誌の抽選に応募したら、このゲームの基本利用料半年間無料チケットなんてのが当たっちゃってさ!

 何でもいいからVR系ゲームやりたかったから、やってみたらこれが超ハードでさ! 往年のゲーマーとしてはこいつは負けてらんねって、色々ミリタリーなのとかも調べまくっちゃってね。

 なんか、気がついたらすっかりミリオタ娘化しちゃってさ…それに銃を撃つ感覚もすっかり病み付きになっちゃって…。いやはや、なんとも、お恥ずかしい話です。」

 

 そう言って小首を傾げて、テヘへと照れ笑いするカナちゃん。

 …やっぱり可愛い。今のはちょっとぐっと来た。


 と言うか…彼女、普通に細かい仕草とか口調が色々可愛らしい上に、性格もわりと素直で人懐っこいから、ちょっと親しくなったら下心が湧いてくるってパターンだったんじゃないかな…って、そんな気もしないでもない…。

 そもそも…僕自身、そう言う気持ちはゼロだといい切れるほど、聖人君子でも朴念仁でもないんだけど。

 うん、お姫様抱っこして、顔赤らめられた時なんか、すっげードキドキしたよっ!

 

 けれど…要するに彼女は、引退する前に楽しい思い出を作りたいって所のようだから、変な色恋沙汰でその思い出を汚すような真似はしたくなかった。


 だからこそ、この胸の奥底にあるこの淡い恋心のようなものはそっと封印しよう…そう思った。

 それに…彼女の言葉通りなら、やがて訪れるだろう彼女との別れの日…その時、僕自身もそうだけど、彼女もきっと辛くなるから…。

 

 でも…その辺は後回し…今は、心機一転…彼女を受け入れよう…。


「んじゃ、改めてよろしくってことで!」


 そう言って右手を差し出す。

 ちょっとだけ躊躇いがちに、加奈子さんも手を握り返してくれる。


「な、なんかこうやって改まって男の子と手を繋ぐって、なんとも照れ臭いもんだね さっきはなんか、さらっと手、繋いじゃったけど…。」


「あはは…そうだね…そう言われると、僕もちょっと照れる…かな。」


 僕も思わず、照れくさくなってしまい彼女から目をそらす。


「手、暖かいし、おっきいね…そっか、誰かの温もりってこんなんだった…忘れてた。

 モンドくん…その…ありがと。」


 そう言って、彼女は照れくさそうに笑うと目を伏せる。

 

「いいよ…そんな改まってお礼なんて…。」


「良かった…君みたいなコと出会って、知り合えて…ほんとに…。

 わたしの残りの時間…そんなに長くないかもしれないけどさ、改めてヨロシクね!」


 最後に、そう言って、彼女はすこしだけ寂しそうに笑った。



 この時は…僕はまだ、彼女のその言葉の重みとその淋しげな笑顔の意味もまったく解っちゃいなかった。


 だから、この思い出は多分、終わりの始まりの思い出。

 僕にとっては、忘れられない彼女との思い出のひとつ。

 

ヒロインはくろがねの方でお馴染みの加奈子さんです。


あっちの方で、くろがねの前世の話がよく出てきたので…。

そんな彼女を間近にいた男の子の視点で見たらってのが、この話の原点です。


ただまぁ…そんな厳密に設定とか作ってないので、色々向こうと矛盾点とかあるかもしれません。


それに書いてて、この子らの明るさや前向きさに、何となくバッドエンドはないよなーとか思い始めてるので、少しだけエンディングは変わるかもしれませんネ。


本来、暗い話や鬱展開とかって好きじゃないんですよねー。


本作品のイメージとしては「うる星やつら」みたいな感じです。


異世界転生物もいいですけど、王道ラブコメもどうっすか?

今時の若い人は知らないかも知れんけど、ビューティフル・ドリーマーとか傑作ですよ?

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