第三話「僕と君の改めまして、初めまして」①
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第三話「僕と君の改めまして、初めまして」①
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11月20日。
その日、学校から帰って来て、ガンフロにログインするなり、いきなりウィスパーメッセが飛んできた。
赤マフ『やっと来たっ! モンドくん来るの待ってたんだ! ちょっち相談あるんだけど、いいかな?』
ウィスパーメッセとは、特定個人へ飛ばせるプライベートメッセージの事。
このモードでのメッセージは、その場の誰でも読めるオープンメッセやチーム内のみのチームメッセ等と違い、相手以外に読まれることはない…いわゆる「ささやき」とか「ウィス」とも呼ばれる奴だ。
モンド『なんだよ…4日ぶりに来てたと思ったら、唐突だね…それに改まってなんだい?』
赤マフ『ごめんね…ここんとこ…まぁ、色々あってさっ! ログイン出来なかった! タウンマップにいるから、今すぐ来やがれっ!www』
なんだろ? まぁ…こんな風にパタッと数日ほど来ないって事は今までもあったから、その事なら今更なんだけど。
とりあえず、取るものもとりあえず、タウンマップへ出発。
タウンマップ。
VRモードのオープンフィールド、戦闘行為は一切禁止の共有エリアだ。
装備類や弾薬の補充やら、アバターとか買える公式ショップとかがあったりするんだけど。
ログインロビーでも同じ事が出来るので、正直あんま意味はない。
VRモードで仲間とダベったり、くつろいだり…。
のんびり買い物でもするような感じの癒し系フィールドとでも言えばいいのかな。
殺伐としたこのゲームでも、こう言った生活感のある誰もが安心してのんびり出来るVRフィールドの需要があったみたいで、オープン当初はこんなのなかったのだけど…。
第二期の大型アップデートでめでたく実装された! なんでも、サーバーの大幅増強が必要になったらしいんだけど、予想以上の好調な滑り出しとプレイヤーからの要望が多かった為、運営も頑張ってくれたらしい。
…プレイヤーからも好評で運営GJとの賞賛が相次いだ。
滞在時間制限とかもないので、いつも結構な数のプレイヤーがいる。
ここで、野良の募集をしたり、仲間探しとかもしたりするし、仲間との交流を深めたりもする。
なにせVR戦場では、のんびりおしゃべりなんてしてらないからね。
テキストチャットでダベるのも悪くないけど、せっかくVRモードなんてのがあるんだから、仲間との交流だってVRでやりたい…そう思うのが人情ってもん。
それに料理やら銃器メンテ、チューニングのスキルを使って生産プレイをするプレイヤーも最近は増えてきた。
他にもガチャ回して出たアイテムを並べてる人がいたり…。
そんな彼らの露天なんかや自動販売機なんかも結構並んでて、普通に町中にいるような活気と生活感があった。
タウンマップの中心には、泉の広場って言う噴水があって、ベンチに囲まれた広場があるんだけど。
時々、自主イベントのコンサートやら漫才なんかやってたり、公式の告知会とかもあって、人で一杯で身動きできない…なんてこともある。
あとは射爆場エリアって言う銃器の試し撃ちとか出来るフィールドもあって、そっちはタウンマップと違って射撃とかが可能になってる。
射爆場というだけに、3km四方くらいあって、滅茶苦茶広くて、起伏に富んでて、池やら林やらもある。
自衛隊の演習場とか、そんなのを想像して欲しい。
ただし、プレイヤーは通称「無敵モード」と言って、うっかり間違って撃たれても着弾点に光るエフェクトが出るだけで、ダメージ受けない仕様になってる。
それをいいことに深夜とか早朝みたいな過疎ってる時間帯に、サバゲーやらケイドロ紛いの事をやってる連中もいるし、重兵器の試運転とかで戦車なんか走り回ってることもある。
一応、誰か来たら止めるとか自主ルールみたいなのはあるみたいなので、あまり問題にもなってないし、僕らも仲間内で模擬戦や練習試合とかやってたりするので、お互い様。
広いし、流れ弾で死人が出たりする訳でもないので、仲良くやればいいって話。
余談ながら、このゲーム、戦闘フィールドでは、フレンドリーファイアが当たり前のように起こる。
まぁ、この辺はお互い様なので、わざとでもない限り、笑って済ますのがマナーってもん。
フレンドリーファイアでの死亡は、自爆同様の扱いとなるのでポイント半減でデスペナタイムも半分になるってのは、きっと運営の優しさと言えなくもない。
けど赤マフさん…タウンマップにいるとか言ってた割にはなんかログアウト状態。
「はい? あの人、何してんの?」
よく解らんけど、とりあえず…プラプラしてみるしかないか。
「やぁやぁ、そこの暇そうなお兄さん! ちょっとこのわたしに付き合わないかい?」
しばらく歩くうちに、突然、声を掛けられて振り返ると見知らぬ女の子が背後にいた。
黒髪ボブのライトグリーンのワンピースの…中学くらいの女の子だった…背丈は140cm前後とちっちゃめ。
なんだっけ…NPCの一般女子Cだかなんかって、モブキャラだったような。
「…えっと、君…誰?」
キャラクター名は…カタカナで「カナ」って名前らしい。
ランクはF…つまり、ド初心者…兵種もルーキーと言う初期基本職。
こんな知り合いは、心当たりない。
「やっぱ、解らんよね? …よしよし! これなら大丈夫っ!
とりあえず…わたし、赤マフのサブキャラって言えば…解るかな? モンドくん!」
何とも聞き覚えのある口調と僕の名前を呼ばれ、ああ、そう言うことか…と事情を理解する。
「把握…って言うか、解るわけ無いじゃん…と言うか、その姿は何?」
「まぁまぁ…ここじゃなんだし、公園エリアでもいかない?
なんか食べ物とかでも買って、人気のないとこでゆっくりのんびりお話しようよ…ねっ!」
そう言いながら、なんか手を繋がれる。
まぁ、良く解らないけど…赤マフさんとは付き合い長いし、これでも相棒を自負してる。
事情はさっぱり解らないけど、付き合うことにする。
公園エリアのベンチに並んで腰掛ける…なんで実装されたのか、正直良く解らないエリア。
だだっ広い芝生とベンチがポツポツあって、池があるだけで、何もない…人なんて滅多に見ない…。
過去には、お祭りイベントとか花火大会なんてのが開催されたこともあるんで、イベント用のエリアって感じ。
けど、中にはリアル彼女とか誘ってプレイしてる奴も居るようで、そんなのがVRデートみたいな感じでイチャついてたりする事もある…つまり、リア充爆発しろ!
露天で売ってた山盛りポテトとチキンナゲット、コーラっぽいのを片手に二人でつまむ。
料理アイテム実装とか言って、誰得とか言われてた割には、味付き、バフ効果があると解ると、皆、手のひら返して飛び付いた!
今じゃ、伝之助さんみたいに楽しみの一つにしてるひともいる。
普通に公式ショップでも色々買えるけど、品質…つまり味がいまいちなので、プレイヤーが作成して露天で売ってる方が美味い…ただし、それなりに高かったりもするけど、それが資本主義というもの。
とは言っても、別にリアルの自分の腹は満たされないのだけど…要するに気分ってとこだよね…これ。
赤マフさんは…この手のジャンクフードって久々だとかなんとか騒いでて、美味しそうに食べてた。
で、ひとしきり食べて、飲んで、落ち着いたら…「カナ」は何やら神妙な顔をして、腰に手をあててふんぞり返る。
「まず、重大発表! このわたし…赤マフさん、むせる感じの大男は仮初めの姿…実はリアルで女の子だったのです! さすがに、ちょっとは驚いちゃったかな? 今更、こんな事言っちゃってごめんね!」
なんか、本当に今更な事をドヤ顔で言われた。
…どうしよう…。
「うわぁ、おどろいた! そうか、そうだったんだ。今まで全然気づかなかったよー。」
とりあえず、面白そうだったので、めっちゃ棒読みで感想を述べてみる。
「…なに、その棒読み? モンドくん…驚いてる感じしないんだけどさ。」
さすがに、棒読み過ぎた…なんかジト目で睨まれる。
「いや、ごめん…それ…実はとっくに気付いてた。けどまぁ、本人の口から聞けたのは、信用されてるって意味じゃ悪い気分じゃないね。
じゃあ、これからはちゃんと女の子扱いして構わないって事でいいのかな?」
「うぇっ! なにそれ! バレバレだったの?
まぁ…確かにおトイレとか長いとか、口調がおネェっぽいとか、たまに言われてたけど…なんでバレてたの?
全然バレるような心当たりないんだけどさっ! ねぇ、なんで? なんで? ひょっとして、わたしの個人情報だだ漏れてたとか?」
なんかやたら必死な様子で、上目遣いで迫られる…背が足りないからって、ぴょんぴょん飛び跳ねて、むしろ可愛い。
どうも本気でバレてないとか思ってたような様子だった。
いやいや、そう言う問題じゃないだろう…と思わなくもなかったけど…まぁ、ここは普通に説明しとくか。
「うーん、このゲームVRだから、本人の地がすっごい出るんだよね。さり気ない仕草とか言葉遣いとか…微妙に方言とか入ってたせいで、出身地なんかも解ったりするくらい。
例えば、こじろうとかは西の人…瀬戸内弁っぽいのが時々出るから広島とか香川とかその辺かな…とかさ。」
「ああ、言われてみるとそうだね…こじろうって、たまにヤクザみたいな喋りするけど、あれってやっぱ西の方の方言だったんだ。」
「そそ…アレ実は瀬戸内弁ってヤツ…知り合いにあの辺に住んでた奴がいてさ…あんな感じだった。
キサラギは…何か妙に男らしすぎるから、たまに男なんじゃないかって思うんだけど。
多分リアル女性だと思う…本人そう言ってるし、気の使い方が女性ならではって感じするんだよね。」
「わたし、あの人…普通に女の人だと思うよ…なんだかんだで優しいし、ガラ悪いのはこじろう限定っぽい。」
「言われてみりゃ、そうだな…ちなみに、赤マフさんは綺麗な標準語だし、割と丁寧な話し方するから関東住まいかなとか思ってた…あ、別に住まいとか詮索する訳じゃないからね。
ちなみに、僕の個人情報ちょっと漏らすけど、リアルで住んでるのは東京の端っこ…八王子って知ってる? そこの高尾山とかある山の方…ぶっちゃけド田舎。」
「おおうっ! 八王子ってめっちゃ近くね? わたしも東京都民だよっ! んっと、調布とか三鷹とかあのへん…滅多に外なんて、出歩かないんだけどね。
確か…JAXAの研究所とかが近くにあったよ! すんごく厳重な警備で物々しいとこ!
高尾山か…懐かしいねぇ…小学校の時、遠足で登ったよっ! また行ってみたいけど…きっと無理だなぁ…。
屋上とかからって、高尾山見えるかな…?」
わっ、関東どころかむちゃくちゃ近くだった…三つ隣の市じゃないか…中央線で一本じゃん。
しかも、小学校の高尾山遠足とか…西東京都民の共通体験…だなぁ。
…何とも言えぬ、このご近所感。
「新宿とかからでも見えるらしいから、高いビルとかからなら、見えるんじゃないかな? 僕の家は…さすがに無理だと思うけど…。
僕の場合はもう見慣れすぎてて、見えないほうが落ち着かない。ところで、そんな住んでる所なんて、ぶっちゃけっちゃって良かったの?」
「ふふん…この半年間、モンドくんとは相棒として、付き合ってきたんだからね…。
そこら辺のナンパ野郎とは違って信用出来る子って、もう言い切れるっ!
だからこそ、自分が女の子だって敢えてぶっちゃけてみた! ちなみに、今後はもうこっちメインでやろうかなって…そう思ってんの。」
「そっか、まぁ…そう言う事なら、僕もそっちの方がいいかな…リアルでも女の子なら、そっちの方が違和感ないし、可愛いじゃん。」
僕がそう言うと、彼女はすごく喜んだようで、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。
「やっぱこっちのが可愛いよね! だよねっ! 絶対そうだよねっ!
…と言うか、赤マフさんすっかり有名になっちゃったからね。
変なお誘いメールとか、知らないやつからのウィスとか毎日いっぱい来ちゃってさ…正直、もううんざりしてたんだ。
タウンマップなんて歩こうもんなら、いきなり喧嘩売られたり、変なのに付き纏われたり、声掛けされたりで、もうウザいのなんの…。」
ああ…それ、僕にも時々来るわ…大体、取り次ぎして欲しいとか、赤マフさん目当てっぽいギルド勧誘とか。
もうお断りテンプレとか用意してるから、それ貼っつけて返信しておしまいなんだけど。
けど、迷惑かけてるとか思わせたくないから、この事は黙っとこう。
「しかも、ハイランカー虐待としか思えないこの仕様…さすがにちょっと疲れちゃった。
さっきも4日イン出来なかったら、メールボックス未読が300通っ! もう全部デリったけど、もうやめてーって感じ!」
…そんな事になってたのか…どうりで、たまにメール送っても返事、帰ってこなかったわけだ。
「まぁ、そんな訳で、赤マフさんはそろそろ引退ってするつもりなの。
それに…実はわたしも色々訳ありでね…そんな遠くないうちにこのゲームも出来なくなっちゃうと思うんだ…。
けど、その前に色々お世話になったモンド君達とリアル通りの女の子として、のんびりと一緒に遊びたいなって思っちゃったの。
でも、この始めたてでほったらかしにしてたキャラじゃ、何かとキツイからさ…色々と手伝ってほしいなぁとか思ったりして…やっぱ迷惑かなぁ…。」
引退…彼女の口からそんな言葉を聞いて、正直ショックだった…。
けど…ネトゲやってるとこんな事珍しくもない…毎日楽しく一緒にやってた仲間が突然フェイドアウトとか。
引退宣言と共にそれっきりとか…仲間との別れの日ってのはいつも突然やってくる。
あの独特の喪失感が否が応でも思い起こされる。
けど、それもまたこの手のMMOの醍醐味だと思うようにしている。
出会いもあれば別れもある…それが人生だから。
そんな訳で、改めてヒロイン登場!
ネトゲあるあるってとこです。
ネトゲのお仲間はご近所様でした…ってオチ。
ちなみに、読者の方にも西東京在住って人いるかと思いますが。
小学校の高尾山遠足は、誰もが通る道なので、二人の会話にはうなずけるものがあるかと。




