4.悪役令嬢とのファーストコンタクト
選択授業決めるってんで、ギャーギャーワーワーと食堂で姦しくしてたら、当然ながら注目を浴びるわけですよ。
なにせ、将来の国王・宰相・騎士団長-しかも3人ともイケメン-が集まって話をしてるってだけで耳目を集めるってのに、そいつらがよってたかって一人の女の子にあーだこーだと言っていて、その女の子が明らかに貴族でない場合どうなる?
「ジェレマイア殿下、テレンス様、ザカライア様、ごきげんよう。よろしければ、そちらの方をご紹介いただけないかしら?
でたーーーーーーーー!
悪役令嬢きたーーーーーーー!!!
「メイスフィールド嬢、こちらは推薦入学でアカデミーに来た、アリスだ。アリス、こちらはメイスフィールド嬢、一応私の婚約者だ。」
おいおい、王太子よ、そこまで嫌そうな顔をしないでもいいだろうよ。
あと、一応を強調するな。
「メイスフィールド様、はじめまして、ご機嫌麗しゅう。ご紹介に預かりました、アリス=ウォルブライトと申します。」
うぎゃあああああ、めっちゃ睨まれてる!
待って待って、私はあなたの味方なのよ!
あなたが大好きな王太子様と私は無関係なのよ!!
よし、先手必勝だ。
「メイルフィールド様、お願いがあります。」
お願い、睨まないでー。
「こちらの方々に、私のような庶民に関わると評判に差し障りますし、私自身も男をはべらせて喜ぶような女に見える、とお伝え願えないでしょうか?」
これ、ゲームの中で悪役令嬢が言う台詞なんだよ。
「庶民とも分け隔てなく仲睦まじくすることは大変結構とは存じます。が、王太子様ともあろう方が、男をはべらせて喜ぶような女と一緒にいてなんとなさいますか!あなた様の評判に差し障ります!」
とかなんとか、この台詞のシーンに、ヒステリックに目をつりあがらせたイラストがついてたもんだから、彼女は悪役令嬢扱いなんだけど、まだ12歳だってのにできた子だと思わない?
王太子である婚約者をあるべき道に導き、間違いを正すそうとする女って、こんないい子いないよ?
実際乙女ゲーのヒロインって、男はべらせて喜んでるビッチだしね。
何度でもいうけど、あれはフィクションだから許されるのであって、現実にあんなことしてたら逆ハーの中の誰かか、その婚約者に殺されたって文句言えないよ?
そーれーなーのーにー!
「私が誰とどのような友誼を結ぼうと、私の自由だ。それにアカデミーでは身分の上下はないし、アリスは男をはべらせて喜ぶような女ではなかろう?」
って、私に聞くな!お前空気読めよ!
っていうか、ゲームの台詞と一言一句同じじゃねーか!
ほれみろ、悪役令嬢が泣きそうな顔してるじゃないか、かわいそうに……
さすがに女の子が泣きそうな顔してるってんで、男どもがひるんだところで、
「メイスフィールド様、そんな哀しそうなお顔をなさらないで、どうぞこちらに!」
うまいこといってこの場を離れ、悪役令嬢とのファーストコンタクトに持ち込む。
そう、私は彼女と仲良くなって、王太子との恋路を成就させるのだ!
彼女の名前は、カリスタ=メイスフィールド。
ちょっときつめの美人顔で、紫の瞳に豪奢な縦ロールの金髪という、悪役令嬢のテンプレみたいな外見をしている。
12歳にしてスタイル抜群、今からボンキュボンとなったボディラインは大人になったらどうなることやら!
ゲームでは嫉妬をこじらせてヒロインに数々の嫌がらせをして、王太子にバレたことで婚約破棄を言い渡されアカデミーを去る……という役どころ。
どこまでテンプレなんだ。
「先ほどは不快な思いをさせて、申し訳ございませんでした。」
誰もいない教室を見つけて、カリスタちゃんと向い合せに座って、開口一番謝罪です。
できるもんなら、スライディング土下座でも、ムーンサルト土下座でも、なんでもしたいところだけど、文化が違うのでそこは自重。
それ以前に、身体能力的に無理ですが。
「いえ、あなたのお蔭で王太子様の前で無様なところを見せずに済みました。」
そう、この子実は、貴族として、王太子の婚約者として、常に自分を律して、その地位に相応しくあるよう努力を続けている、とてもいい子なのである。
ゲーム内の台詞やら行動を見てたら、常に王太子のためになるように動いてたんだよ。
ただ、それはヒロインからすれば王太子との恋路を邪魔する行動=嫌がらせなわけだから、ゲームプレイヤーにはお邪魔虫として嫌われていたけど、実は私は結構好きなキャラだったんだよねー。
それもあって、ここがゲームの世界だって気づいたときに、彼女に出会ったら協力して王太子との仲を取り持とうと思ってたくらいだし。
「メイスフィールド様?誤解なさってはいけませんよ。王太子様は庶民が珍しくて、新しいおもちゃを見つけたようなものなのです。」
そう、あのゲームってそういうシチュエーションなんだよね。
王太子をはじめとしたお貴族様が、いままで自分の身の回りにいなかった庶民を目にとめて、色々とコミュニケーションをとってるうちに興味を持って、周囲から反発を受けるもんだから余計に執着しちゃうってやつ。
なにせ舞台は学校、しかも12~15歳の間の話なわけだから、言ってもお子様恋愛なわけで、その感情が一生続くと思う方が間違ってる。
「あなたは冷静なのですね。」
そりゃそうです、見た目は12歳でもメンタル的には30歳、しかもこの世界が乙女ゲーの世界と知ってるこっちからすりゃ、お子様のお相手なんざ面倒くさいことこの上ないのです。
お子様は私のかわいい弟が一人いれば、十分なのです。
「普通であれば、あれほどの殿方に囲まれていれば、それだけで浮き足立つでしょう。でもあなたは、本当に嫌そうなお顔をされてましたね。」
「そりゃまぁ、立場とか考えたら……ねぇ?」
あ、ついつい地がでちゃった。
でも、カリスタちゃん笑ってくれたよ。
「先ほどは失礼いたしました。お話に割って入るようなまねをしてしまいましたね。」
「いえ、ご自身の婚約者と見知らぬ女がなか睦まじげに話をしているのを喜べるような人を、私は信用できません。」
カリスタちゃん、とうとう声出して笑ってるよ!
「あなたは気持ちのいい方ですね。私はジェレマイア様の婚約者はといいながら、心を開いてもらえません。あなたが彼と仲良く話をしているのを目にして、とてもうらやましかったのです。」
うわー、なんか結構根が深い気がする。
カリスタちゃん、ゲームでも王太子超ラブだったもんなぁ。
「それでしたら、今度から私があの方たちに絡まれそうなときに、傍に来てくださいませんか?できれば、他のお二人の婚約者様も一緒に!」
「え?」
要は、本来の婚約者同士の親密度を上げればいいのである。
そこにきちんと気持ちがあれば、政略目的の婚約者であろうとも、信頼やら親愛といった感情は築いていける。
けど、ゲーム補正なのかなんなのか、攻略対象たちの興味は私の方へ向いている。
だったら、私が間に立ってこの人たちのキューピッドをすればいいじゃない!
うまくいけば、国王・宰相・騎士団長夫婦とのコネができて、表からも裏からも太いパイプラインができるんだから、官吏としてこれほど強いコネはないよ。
それに悪役令嬢を筆頭に、ライバル役たちとヒロインが仲良くなったら、フラグ立つこともなくなるんじゃない?
これは我ながらいいアイデア!
よし、明日からは婚約者たちのキューピッドになってやろうじゃないか!!