夏とか恋とか
「俺と付き合ってみない?」
最近来た台風のおかげで、すっかり暑さが厳しくなった初夏。
制服も来週からは全員夏服着用を義務付けられていて、既に夏服に変えている生徒が私含めて数人いる。
授業も終わって、じりじりと暑さを伝えてくる太陽は沈もうとしていて、空はほのかにオレンジ色へ変わろうとしていた。
私は、この空気が堪らなく好きだ。
クラスメイトが帰った教室で、その堪らなく好きな時間を一人で楽しむのが好きだけど、今日は一人で楽しめていない。
クラスメイトの波賀 慎司君が、隣にいる。
二人きりになるチャンスを探していたのか、彼は窓から空を眺める私の隣にやってきた。
そして、急に告白をしてきたのだ。
「急にどうしたの?」
「いや、ずっと好きだったから......迷惑だったか?」
表情は、澄ました顔だけどほのかに赤い耳に私は目を逸らした。
「迷惑っていうか......」
どう答えていいのか分からない。
波賀君を好きとか、嫌いとか、そんな感情を抱いたこともなく。
ただ、こうやって空の色が変わっていくのが好きなだけで。
「分かんねーなら、付き合ってみねぇか?」
「……嫌だよ」
高校2年生の初夏、私は生まれて初めて告白をされた。
そして、初めての告白をあっさりと振ってしまった私はいつか罰が当たるのかもしれない。
私は、呆れて溜息を吐きながらまた夕焼けを見つめた。
鼻から息を吸い込むと、夏の匂いがする。
「俺のこと嫌い?」
波賀君は、意外にも粘着質なのかもしれない。
そっぽを向いてるフリをして、彼を横目で盗み見た。
彼は相変わらず、耳を赤くしながらこちらを見ている。
「嫌いっていうか、よくわかんない」
私は、窓の外を見るのもやめてうつ伏せた。
微妙な暑さのおがけなのか、じわりと体温が上がる。
微かに自分から日焼け止めの匂いがする。
「好きだ」
聞き慣れない言葉は、くすぐったくてイラつかせる。
「......だからさー!」
彼の方を見たら、少し驚いた表情をしていた。
「な、なに?」
「いや、お前も照れるんだなって」
「は?」
この人なに言ってんの?
私はしつこい貴方が鬱陶しくてイラついているのに、照れるって照れてんのはアンタでしょ!
「誰が照れてるって......」
言い返そうとする彼は私の頬を両手で挟んできた。
顔は少し潰れて、タコチューの表情になる。
彼の顔が近くて、その目に吸い込まれそうになる。
「顔、赤いぞ」
窓から入ってくる風がやけに涼しく感じてしまった。
私の好きな季節がやってきました。
暑さでいらいらしたり、すっきりしたり、たそがれたり出来るこの季節が大好きです。