煙突
「ぐうっ!…」
紺のローブの魔法士をカイルがタックルで突き飛ばす。
エルナトから距離を取るためにとった行動である。
しかし、それ故に敵の魔法士の攻撃を食らいながらである。ダメージは高めである。
(これは、かなり早めに決着つけないとヤバイな。生身でこの威力は、竜人化したら…。)
カイルは思った。
アプラとの戦闘の経験で、彼女と似ている雰囲気を持つこの男を竜人だと決めつけるのは警戒し過ぎではない。
「さっきの言葉、どういう意味だ…?その血は、誰の物だ。」
カイルは静かに聞く。
「答える訳がないだろ?甘えるな。」
「『【交竜龍依】!』」
カイルは凄まじいスピードで男に突っ込んだ。
「『私はアルニラムと言う。これがアプラの猛攻を耐えた力か?残念だよ。』」
男はカイルの手を受け止める。
アルニラムの体は既に竜へと変貌していた。
アプラのそれとは違い、青白く、頭には伸びた髪。所々の鱗が逆立っていて、電気を体が帯びている。
アプラが狂気と神々しさだとするなら、アルニラムは強者の覇気と静かなる闘志がある。
「『君の交竜龍依とやらの強さが分かってきた。風と雷の相乗効果は素晴らしい。が、私も雷を操る身でね。雷は相殺され、風が空しくそよぐだけだ。』」
そう言って、アルニラムはカイルを蹴り上げる。
「『がはッ!?』」
感じたことの無い衝撃にカイルは一瞬呼吸を封じられる。天井に叩きつけられたのだ。
そして、ゆっくりと重力により地に落ちる。
「『通用しないぞ。カイル・セイリオス、私とその状態でやり合うには些か不足している。』」
力なく伏したカイルの体の交竜龍依が解け、元の姿へと戻る。
「…!カイル様!」
涙を浮かべエルナトは叫ぶ。
「『残念だが、さよならだ。』」
アルニラムが脚を振り上げ、カイルに下ろそうとする。その時、
「【畏炎龍】…」
カイルは呟く。
同時に、爆炎。
アルニラムは少しだけ吹き飛ばされ、カイルと離される。
『おうおう、どうしたぁカイル。おいちゃんを呼び出すたぁ、随分サービスだな。ファフニールの奴じゃあダメな奴か?』
炎から赤い龍が出でる。
赤い鱗に銀の爪。
長めの髭が二本、先が燃えながら揺らいでいる。
ファフニールに並ぶ強力な龍である。
「あぁ…そうだ。アイツ、雷を相殺してるみたいでな。攻撃力が足りない。【継雷竜】!やるぞ。」
「『さ、三体目だと!?まさか…!』」
カイルの呼び掛けと同時にカイルから雷が、そして火の龍、ダイモスの姿が消える。
「『【交竜龍依】!!!』」
ファフニールとの龍依状態とは違う、赤と橙を基調とした体に、共通点のある爪やそこから延びる線。そして頭には爆炎がゆらゆらと燃え続ける。
「『驚いた、楽しめそうだなっ!』」
アルニラムは雷をカイルへ向け飛ばす。
目で追うのはかなり難しい速度で、威力も段違いであろう。
それでも、カイルは簡単に避け、砕き、燃してみせる。
「『ダイモスの力を借りた俺に壊せない物はない。ファフニールとは攻防速の三拍子が揃っているが、ダイモスは攻撃特化、なんでも燃して砕く。お前の体もな。』」
カイルはそう言って大きな火球を作りながらアルニラムへ向かう。
「『!?…食らうものかっ!』」
更に威力を増した雷がカイルへ向かう。しかし、カイルは雷を避け、目にも止まらぬ速さで距離を詰め、雷を纏わせた火球をぶつける。
「『吹っ飛びなぁっ!』」
轟音と共にフロアに爆炎が広がる。
「『ほう、やるな。今のはかなり効いた。』」
煙からアルニラムは顔を出して言う。
「『生きていたのか…!?』」
驚くカイルをよそに、アルニラムは言った。
「『そろそろタイムリミットだな、セイリオスよ。私の勝ちだ。』」
「あっ…!?」
気付くと、ダイモスとリーレイが離れ消える。
制限時間である。
「『さて、何倍にして返すか…?ここまで私を傷付けたのだ、高くつくぞ。』」
アルニラムが笑ったその時。
「残念だけどよ、その会計は今度で頼むわ。」
誰かの声と共に、煙の中を細長い物が駆け抜ける。
「『なんだ!?』」
アルニラムは雷でそれを打ち落とそうとするが、雷は弾かれる。
体を反らしそれを避けると、持ち主の元へ帰っていく。
メイス。片手で振るう事ができる鎚の一種。
昔よりは落ち着いたが、面影を残す跳ねた頭。服は赤い上着の袖を肘の所まで捲った物、中には黒いシャツ。かつて水の国のビーチで戦った、暗殺部隊、【詠唱破棄者】に属する、その青年の名前は、
「スハイル!」
「よう、カイル。思い出話は後だ。逃げるぞ。」
そういうとスハイルは声を上げる。
「【機械竜】、来い。地点遡行かけてくれ。」
『了解した。そこのお嬢さんと不出来な青年も一緒にだな。』
そう聞こえたかと思うと、一気に景色が歪み出す。
To be continued