かつての敵は今日の友
「うわぁ…広い。なんだこれ、今までの国で一番広いんじゃないか…!?」
「そうですか?総面積は水の国とあまり変わらないと聞きますけれど。」
青年カイルと姫エルナトは樹の国に到着し間もなく、空高く伸びる数々の木々に目を奪われた。
直径八メートル程の巨木が数十も先へ続く。
空高くまで枝を伸ばし、空を覆わんとするその姿に息を呑む。
木の内部を改装して、ツリーハウスが幾つも作られている。
「俺達はどこにいけばいいんだ?」
カイルが尋ねる。
「あそこにあるこの国唯一のビルです。」
木々の間から見える一番先、木より全高は低いが立派なガラス張りのビルがそこにはあった。
息を荒げて立ち止まる。
樹の国に着いたアトリアも唯一のビルへ辿り着く。
入り口の自動ドアが開き、アトリアが中に入ろうとする時。
向かいから出てくる魔法士に肩がぶつかる。
「あっ、ごめんなさい。」
アトリアが頭を下げる。
「あ?いいよいいよ。気にしないでくれ。」
青年がそういって通って行く。
カイルのやつどうしてっかなー。
そう聞こえた気がして顔を上げ青年を探すが、見当たらない。
青年が片手に持っていた物を必死で思い出す。
あれは ーーー
樹の国のビルのエレベーター。
「さて、少し長引いたけど、手続きも終わったね。エルナト、ミザールに手配してもらった宿はお互い部屋が違うから好きにしてくれ。俺少し外を見て回りたいんだ、君は?」
カイルはエルナトの方を見る。
「私もついて行きたいです…。カイル様の冒険談を聞きながら歩くこの国は、また一味違うでしょうし。」
下りのエレベーターに乗ってカイルとエルナトは話す。
「あ、そういえばミザールが一人助っ人を呼んでくれるとか言ってたなぁ。誰だと思う?」
「見当もつきませんね…。」
エルナトが微笑む。
ふと、ガコッという音がする。
エレベーターが止まる。
どこかの階だと案内板は示しているがドアは開かない。
「なんでしょう…?」
エルナトがカイルの方を見ようとした時、エレベーターの扉が凹む。
ベコッ。と、何度も繰り返し色々な場所が凹み、弾け飛ぶ。
「さぁて、お二人。この国の観光も、お仲間との合流もアンタらはできねぇよ。」
たれ目の柔らかい雰囲気の男が言う。
紺のローブは血で綺麗な赤に染まっていた。
雷光が走る。
めぐるめく出会いはまだ先で。
To be continued