Extra 2 パスト
俺が師匠を探す為の仕事に出る一年前、つまりはあの人と別れて一年後。
まだ悲しみや疑念が抜け切っていなかった一年目は正直、地獄その物だった気もする。
ドラゴンと言うのは呼び出す時、自身の持てる魔力によって変わるのだが、俺の場合は違った。
世界に数冊出回っているらしい魔法書を雷の王国の騎士であり王、ミザールの協力によって手に入れ無理矢理ドラゴンを呼び出し、体に焼き付けるように契約を交わした。俺の場合は二回。
一度目が雷のドラゴン、雷を継ぐという二つ名を持つリーレイ。二度目は畏れの炎の龍、ダイモス。
昔の回想で一度出てきたのはダイモスの方で、俺はかなり痛がっていた覚えがあるが、本当に大変だったのはリーレイの方だった。
俺だけの魔法、交竜龍依を完成させるための力を持つドラゴンはたった二体で、その内で俺に相応だったのはリーレイ。もう一体は俺では扱いきれないという理由で、出てくる時は陽気なドラゴンが仲間になったのだ。
その時の感想は、やっと手に入れた。に尽きる。
ダイモスを凌ぐ痛みに耐えるのは人格が崩壊する勢いだった。
その後、ミザールの部下のミアやミザール本人と稽古をして過ごす最中。
スハイルが現れたのである。
暗殺集団、詠唱破棄者。
殆どが高齢らしいが、彼とその兄ムーリフはとても若く、会い方さえ違えば良い話し相手になったのにとその時から考えていた。
今でも近辺の話ではなくその時に合った話、今は学園の話をする。
他愛もない話をしたのはいつだったか、もう覚えていない。
今回俺が話すのは本編の補完という奴で、なんで急に敵が味方のように絶体絶命の状況に現れたか、という理由を後付けのように語る。
ここにも伝わりにくいながら、ちゃんとした物語があるのだ。
少しだけ、聞いてほしい。
一年目。
俺はいつものように稽古をする部屋の床に仰向けで倒れていた。
「今日はこれくらいにしておこう。新しいドラゴンを慣らす練習をしておけ。」
ミザールが俺に言う。
しかしまぁこの頃は未熟で、二人には全く届かなかった。
一撃当たれば良い程度。
基本的には当たらない。
その一因として、ファイトスタイルの変更も挙げられる。
新しい魔法、交竜龍依は持てる武器が無い。
それに、今までのような風でなにかを作る戦法は持ち味のスピードを殺す事があった。
そのような変化も関係していた。
そんな理由でその日も負けて溜まった疲れのために少し休んでから買い物をして、アトリアのところへ帰る。そのあとは暫く自由。
俺は城下町が大好きだった。
人は明るく、町並みは申し分ない。
大通りのグラタン屋は病みつきで、料理が上手いアトリアと良い勝負だった。
俺が歩いていたのは噴水の辺り。
アトリアが師匠と話していたらしいその場所で唐突に声をかけられた。
「よう、クソ野郎。元気にしてたか?」
「お前は、水の国の…!」
「そうよ!スハイル様のお出ましだ!」
一番嫌だった再会だったのを憶えている。
なんでも、仕事の帰りで雷の王国に俺がいるのを小耳にはさんだらしい。
「お?カペラさんはどうしたんだ?」
「お前には関係ない…!」
俺は強くスハイルに噛みついていた。
日頃から押し殺していた感情を顕にしたんだ。
「ハッ!まぁ良いぜ、殺してやるよ…あン?…なんだそりゃ?籠手か…?」
上着からいつも稽古に使っている物を出し、両手にはめる。
「あぁ、少し戦い方を変えたんだ。」
そう言った瞬間、スハイルの体は俺に一気に近付いていた。
スハイルの武器、メイスが振るわれたのだ。
俺は籠手で得意のメイス攻撃を防いだ。
しかし、鋼が鉄塊で潰される、ベコォ!という音がして右籠手がへこみ、使い物にならなくなった。
「次に左で防いだら後がねぇなぁ!?」
そう言って突き出されるメイス。
俺は避けた。
正確に言うと少し頬を切った。
水の国で戦ったときと同じで、彼のメイスは変形する。収納されていた刃が出でて俺を攻撃した。
「フン、まだだぜ。」
俺の肩辺りにあった部分が伸びたのだ。
先からクリスタルのように刃が飛び出し、メイスを槍と変えた。
槍は俺の肩から血を奪った。
「ぐッ!」
痛みに悶える俺にスハイルは言った。
「お前の覚悟を見せてみな。倒して見せろよ、俺をこの場でな。」
「あぁ…」
立ち上がり、叫ぶ。
「『交竜龍依!』」
翠と金の鎧が展開した。
「おもしれェなぁ…?鎧みたいに纏いやがって。スタイルを変えたのはこの為かッ!」
スハイルの目の前まで駆け、踏み込む。
「『うぉぉおおおお!!』」
拳を連続で叩きつける。
「そんなんで!…負けるかよぉ!」
手練れなのもあり、スハイルは見事に槍で防いでみせた。
「ッ!…速い!?…」
しかし、少しずつ防ぎ溢しが増し、采配はこちらにあがった。
初めてであったからなのか、集中力だったのか、その時はかなりあの状態がもった。
十分やそこいらだったと思う。
その後、覚悟を見せた俺にスハイルは外の世界の事を話してくれた。
一度戦って満足して負けたら慕うというなんともおかしな流儀の奴で、それに合わせて俺の舌が自分の覚悟を彼に伝えた。
少し話し合った後彼は誰かからの連絡に顔をしかめると、どこかへ去った。
その後、旅立つ前にもう一度会い、その時も話をしている。アトリアの事を紹介して冷やかされたり、カペラさんを探すと話した彼は少し悲しい顔をしたが、この前聞いたところによると心配してくれていたらしい。
「あ?お前なぁ…カペラさんを探しに行くって言ったときの顔、覚えてねぇのか?…あんだけ良い顔をする奴は、一生世界を探し続けても他に見つけられねぇと思ったからよ?探しに行ってなんかに巻き込まれておっ死んで貰いたくなかったんだよ。」
そういって俺の肩を殴ると、スハイルはフラりと俺の部屋から出ていった。
数日前。
「ノア、ここから動かないで…!」
どうして?
「いいかい、あの男を追い払ったら直ぐにそっちに行く。だから先にそこへ。」
わ、わかった。
「くそ…!なんなんだお前は…!」
「良い顔だ…。さようなら。」
パパ!ママ!
白い光の後カペラの部屋が写った。
「こんなものを見せられて…どうしてこの程度なの…?」
カペラは寝ている少女にそう語りかけた。
「ママ…。」
少女は眠りの中、微笑みながらカペラ抱き締める。
To be continued




