紐解かれる過去達
用語解説
掩蔽団
アカルテイターとも読む。
かつて協会に意を唱えた星の一族の結成した派閥。今は様々な人種のメンバーで構成されている。
第一次、二次は星の一族と共に戦場を駆けたが、三次大戦前は殆どの構成員が逝去、出産等をしているだけでなく、カペラが現れて三日という異例の速さで終息した為全員が不参加である。
今の構成員は十数名。時を操る魔法で生き延びている初期メンバーと二世魔法士が入り雑じっている。
カペラは改竄された世界の中、掩蔽団を利用、隠れ蓑にしつつ構成員が情報を操作。自身の行方を眩ませている。
現在はカペラではなくカノープスが指揮を取っている。
いまだに無機質な部屋に響くのは剣と魔法の音。
協会の騎士であるが今回のシリウスに異を唱える、ミザール。
そして無邪気な少女の魔法士。
魔法士の攻撃は光。光の矢を遠隔で飛ばし、スカイブルーの光弾を手でぶつけてくる。
「キリがないな…君…何といったか…。」
「もーっ!ア 、ル、 ヘ、 ナ ー!協会の集会で何度も会ってるでしょー!」
(アルヘナ…。三次大戦の軍師がこんなにあどけないのか…?確か作戦通達の時に何かでチェスをしていた少女がいた気もするが…しかし、俺と競り合う程の戦闘技術。強い…。)
三次大戦で協会側、後にカペラ側との会合の中継役となるミザールは開戦前、指揮をアルヘナという者が取ることを聞かされていた。
カペラが来ること以外の戦術予報は全て予想通り、戦況は完全に協会側にあったのを覚えている。
彼女の攻撃は矢を魔法で、光弾を光で受けるものの防戦一方。かといって一気にに攻めてくるという物でもない。
「いつまで時間稼ぎをするつもりだ。そろそろ二時間は経つが…。」
「二時間かぁー。ならもういいかなぁ…。」
「どういうつもりなんだ。君はシリウスについてどこまで知っている。」
そう言ったミザールの問いにアルヘナは答えた。
「正直、シリウスが変わっちゃった時は驚いたし、ここどうなるのかなぁ。とか、私たち殺されないかなぁ。とか考えたけど大丈夫だったから適当に仕事をこなしたりしてるの。わかんない?」
「じゃあまさか…。」
「そ。私と騎士サマの二人が戦う必要なんて元々ないよ。」
そういってアルヘナは攻撃を止める。
「じゃあなぜ…。」
「騎士サマ、シリウスの偽物が何するのかわかんないけどさ?そろそろ新しい世代に任せてもいいと思うんだよねぇ。堅物で時代についていけないジジイが下したカペラの刑が執行されなかったのは嬉しかったじゃん。きっと根は良い奴なんだよ今のシリウス。」
「だからなんだと…」
「カイル君っていうの?シリウスによーく似てるんだよね。雰囲気とか?シリウスもカイル君に執着してるみたいだし?私、二人を戦わせてみたいの。」
「じゃあ、掩蔽団の奴等はどうする…!」
「あぁ、シリウスが大事にしてる何かを狙ってるみたいだね。でもシリウスもカイル君も負けることは無いと思うよ。」
アルヘナは自慢げに言った。
「先に言ってくれれば…」
「納得しないくせにィ。ゆーっくり、上に行かない?騎士サマ。私疲れちゃった、騎士サマの剣技すごいんだもの。」
ミザールはため息をつく。
「前大戦時の軍師に問題ないと言われては、仕方ないか…。」
剣を鞘に収める。
「あ!私の事やっぱり覚えてるんじゃない!」
「思い出したのだ、戦術の予報の正確さをな。」
「カペラが来なければね、百%合ってたんだよ?あれ。」
彼らもまた、階段を昇る。
赤いスーツを来た、カイルの元講師であり魔法士、サルガスと一度カイルの前に立ちはだかった暗殺者、ムーリフ。
真っ白な軍服を着て、昔手にしていた刀はどこにもない。
二人は互いに向かい合っていた。
「にしても不思議ですムーリフ君。君がここにいるとは。」
「掩蔽団がウチらの本拠地を潰しに来た時、昔からの幹部は全員殺された。でも俺は、カペラさんと知り合いだったから投降という形で入れられたのさ。」
「その様子だとあまり穏やかでは無さそうですね。目がすっかり別人ですよ。」
サルガスの言い方にムーリフは笑う。
「なぁに、数週間の拷問に嫌気が差しただけさ。それに加えて既存のメンバーとの手合わせで階級が決まる、クソッタレだ。お前の講義を嫌ったツケが来たのかもな。」
「そうかも知れませんね。私の講義はつまらないですから。」
「お前の講義がつまらなくなきゃカペラさんの弟子のカイルもこんな運命に巻き込まれなかっただろうにな。」
ムーリフはつまらなさそうに言った。
「それは違いますよ、カペラさんとカイル君は惹かれ合うだろうと、彼を最初の講義で一目見たときに気付きました。元から私を倒すため彼女と出会い外に出るべきだったのですよ。」
「俺の時とはずいぶん違うじゃないか。」
ムーリフはサルガスを睨み付ける。
「あなたにも、期待はしていましたよ。」
「もういい、話は終わりだ。」
ムーリフは手を前に出し、顔の右横に引く。
同時に右足を後ろに。
深く姿勢を落とす。
すると、ムーリフの手元に刃が薄く水で覆われている刀が現れる。
「愛刀はどうしたんですか?…」
「掩蔽団の男に手折られたよ。今は俺自身の魔力が相棒だ。」
「《魔力剣》ですか。よく切れそうだ。」
ムーリフはサルガスに問う。
「お前は特に進展無しか?」
「いいえ…。君と戦うとは思っていませんでしたが、仕方ありません。」
サルガスは息を吸う。
「《輝石竜》!」
サルガスの元に、竜が出でる。
「アマダンタイト…?クク、伝説の超硬宝石の名を持つ竜がそれ。だと…?アッハッハッハッ!笑わせてくれるな!そんなみすぼらしい岩の蜥蜴がアマダンタイトだと!?…ふざけているのか!?」
その名前に反してサルガスの近くに現れたのは、宝石とは言い難い岩を纏った蜥蜴型の生物。
しかしサルガスは表情一つ変えずに言う。
「《竜依》!」
サルガスの体の所々に、灰色の鱗が浮かび上がる。
「まぁいい。楽しませてみろ。」
ムーリフが息を吸おうとした瞬間。
異変に気付く。
「ッ!」
円を描くよう一振り。
三方向が爆発。
「ほう。何時の間に魔法薬を撒いた…?」
「輝石竜と一つになった私は瞬時に魔法薬を生成出来るんです。注視しなくては見えない程の粒子を笑ってる間に撒かせていただきました。」
「少しはやれそうだな…。」
師弟対決が始まる。
「カペラッ!」
「御姉様ッ!」
水の国の魔女、フォーマルハウトに火の国の魔女シャウラは星の魔女、そして掩蔽団の現統帥に会う。
「二人共…。」
カペラは力なく声をかける。
「おや、お二人が一番乗りですか。警備をうまく避けたのですね。」
カノープスは眼鏡を上げ、言った。
「貴ッ…様ぁ!」
「落ち着きなさいハウト。カノープスは掩蔽団のトップなのですよ…。」
「おや、警戒しなくて良いですよ。貴女方の目的はわかっています。」
そう言いながらカノープスは上を見上げる。
黒い時計が、ゆっくりとその針を動かしていた。
To be continued




