隠れた翼
詠唱破棄者
スペルクイット、と読む。
魔法にある程度才能のある者達の中でも、才の無い者達に加担する勢力がいた。
自らの魔法を強化する 魔具 を使い、天才も凡人も入り混じる彼らは協会の重要人物を暗殺し着々と平等な魔法社会という目標の達成を果たそうとしていたが、掩蔽団によってほぼ壊滅。主要人物達の行方は誰も知らない。
カイルの友、スハイルとその兄ムーリフも一員である。
「アッハッハッ!お姉ちゃんどうしたの?お父さん呼ばないのー?☆グズグズしてると死んじゃうよー!」
「ぐっ…!」
ミアとアプラ、二人の戦いは続いていた。
魔法靴により強化された炎を打ち出すミアのスタイルは、竜の姿になる前のアプラの氷に完封されていた。
あらゆる場所から氷が飛び出しミアの体を裂こうとし、それを止めるのに炎を出そうとする。
しかし、それもすぐに凍っていく。
ミアに残された唯一の手段は、実の父であるドラゴンを呼び出すこと。
「…忌父三竜!」
『ミア…。』
「竜依です…オウィディウス。」
『わかった。』
「やっとなの?ミアお姉ちゃん、手加減なしでいくからねェ…?」
竜依したミア、竜人と化したアプラ。
「彗炎竜!」
ミアの元に赤い炎の竜が現れる。
「これが私の全力…二体召喚をさせた私の前で立ち上がっていた者はいませんよ!」
「『お姉ちゃんと竜の力で殺し合えるなんて幸せぇ!』」
「くうッ!…隙が無い…!」
アルデバランは膝をつく。
「そりゃどうも…!」
アトリアは肩で息をしながら言う。
「止めを…刺さないのか?アウストレイルとやら。」
アルデバランはフードの魔法士に言う。
「アトリアが止めを刺す気では無いようならば、私は貴方を殺さない。」
「甘いな…弟子の意向で動く師匠なぞ、聞いたことが無い!」
アルデバランはアウストレイルを力なく睨んだ。
「私は一度助言を言っただけで、彼女に何もしてはいない。」
「嘘をつけッ!これ程までにそこの小娘の動きを一寸の狂いもなく認識してカバーができるかッ!師でないなら何だと言うのだ!」
「嘘でしょ…?アンタ私の動きを…!?」
「気づかなかったなら…そのままで良い。」
アトリア、アルデバラン、アウストレイルの会話はまだ続く。
「フン…どうしてか知らぬが貴様とそこのフードには何か深い繋がりが見える…。気を付けろ小娘。お前の勝ちだ。上へ上がれ。」
「どういうことなの、アウストレイル!」
「静かに。…上へ行くのが優先でしょう。」
二人の魔法士の前に階段が現れる。
アルデバランは、フードの魔法士に質問を続けるアトリアを見送った。
「い、行かなくちゃ…!」
カイルは階段を上がっていく。
この先にシリウスが、カノープスがいるかもしれない。そう信じて。
明かりが広がると、そこはエントランス。
さらに先に階段があった。
「まだ続くのか…。」
「そうだよ。この先も結構長い。」
独り言に懐かしい声が返ってきたので、カイルは辺りを見回す。
「やぁ!カイル君。久しぶりだねぇ。」
「キドさん!」
ミアやアプラと同じ竜の家系、三女のキド。
階段の裏から彼女が出でる。
「どうしてここに…?」
「秘密兵器を持ってきたんだ、君専用の奴。」
「俺専用…?」
彼女が近づいて手渡した物。それは…
「ブレスレット?」
「そう、この階段を上がったら決戦だ。それに勝つ為に、階段を上がってる間に決めてほしい。
星と風、どちらを選ぶのか…。」
長い通路を歩く一人の魔法士。
無機質な通路の先。広い部屋の少しずつ灯りがつき、目の前に立ちはだかる者。
「おや?…まだ残ってたのか。てっきり全員上に行ってるのかと思ってたが…。カイルとミザールの一派か?魔法士。」
「えぇ…。そうです。にしても不思議ですねぇ、どうして貴方がここに?ムーリフ君。」
「その声…サルガスか…。」
カイルの旅が始まった火の国。
そこで国を統治する魔女の次に優れた魔法士、サルガス。
「もう、先生 はつけてくれませんか。」
少し悲しく問い掛けたサルガスにムーリフは冷たく答える。
「勿論。」
To be continued




