撃槍
用語解説。
星の一族。
カペラの血族の総称。
星の一族だけに伝わる高温、極低音に、魔法そのものを打ち消す能力で、魔法協会の圧政に抵抗した。
末裔も含めると総勢40人。
カイル達の大陸に生存している星の一族はカペラ一人である。
「さーって、上に上がるためにはこれからどうしたらいいんだ…?」
スハイルは辺りを見回す。
無機質で真っ白な部屋。
ずっとむこうで扉が開く。
「あん…?誰だお前。」
扉の奥に影が見える。
「君とは会った事がなかったな、スハイル。」
アウストレイルと同じ赤いローブに黒い鎖の模様が浮かぶ。
銀に所々黒が入った髪、美しく整った若い顔。
魔法協会のトップ、星の運命の頂点に立つ王。
昔カイルの前に現れたシリウス。
「異質な魔力にそのカッコ、テメェがシリウスか…。」
「そうだとも、俺がシリウス。協会のトップだ。」
フロアに響くまだ顔の見えぬ声の主をスハイルは睨む。
「テメェには聞きたい事がある。」
「答えてやるが…そのあとで、俺の要求も飲んでもらおうか。」
シリウスは笑いながらスハイルの前へ歩いてくる。
「カペラさんをどうするつもりだ。」
「知れた事。俺の物になってもらうのさ。」
「なッ!?…テメェそれは一体…!」
シリウスは立ち止まると言った。
「あの出来損ないとくっつく前に貰って行く。と言ったんだよ。」
「面白ェ事言うなぁテメェ。次の質問だ。本当は誰なんだ?」
少し驚くと、シリウスはおどけるように言う。
「はは…まさか、そんな事を聞くとは。俺はシリウス。それ以下でもなければそれ以上でも無い。」
「バカ言え。本物のシリウスとは面識あるんだよ。普通は初対面なんて言う訳ねぇんだよ。」
「ほう、シリウス・ユースティアと面識があったか…。まだ質問はあるか?」
「動揺しねぇのか…もうねぇよ。驚かないんじゃあもともと隠す気が無いんだろ?、お前が誰かなんてどうだって良くなったわ。大多数の記憶の改竄も、カペラさんを殺さなかったのも全部辻褄が合った。まさか、カペラさんにホの字だったとはなぁ…カイルの野郎がもし、こじらせるとこんな感じになるのかもしれねぇな…。」
「さて…もう良いかな?私の番だ。」
シリウスはスハイルを見ると言った。
「君はこのまま上に行こうとしているのだろうが、そうはいかない。少し都合が悪いのだ、ここで俺と戦ってもらう。」
「どうした王様。俺が上に行くのに都合が悪いなんて言うたァ、魔力で動いてるモンがあンだな?」
「そういうことだ。メインディッシュの前の前菜に俺を倒していけ。」
スハイルに笑みが浮かぶ。
「いいぜェ…随分と俺の事がわかってるようだしな。」
「おぉぉぉおぁ!!!!」
「…っ!!」
カイルの一撃が、
フードの魔法士のラッシュを止める。
最後の止めの一振りに、あの赤い竜が出でる。
カイルを飲み込み、また白の鎧を授ける。
「ぐぅッ!?…」
星の竜依をしたカイルに何かが込み上げる。
打ち合いで貯まったストレス、緊張感。
止めの一撃を待ち焦がれていた心が、暴走に拍車をかける。
「おぉぉぉおぁっ!!!!」
一撃、二撃。凍らせまた一撃。
炎で吹き飛ばし、そこに三撃。
力なく倒れた所に止めの一撃。
首 を 跳 ね る 。
「ぐっ…!ダメだ…。収まれ!…」
決着をつけた後、
自分の胸に拳を当て、気をしっかりと持つ。
少しずつ姿が元へ戻る。
「まだ…押さえきれてない…。」
床が何かが力強く刺さったように割れる。
シリウスの攻撃である。
「なんだその滅茶苦茶な魔法はッ…!」
風。
風が飛んできているのてある。
シリウスが掴み、投擲する。
そうすると風が集まり、元々そこに剣が、槍があったかのように形作られていく。
そして、それはとてつもない破壊力でスハイルへ向かう。
それだけではない。
シリウスは基本的に風を投げ攻撃している。だが、時たま掴まずに打ち出す。
どこから来るかは離れているので見えるが、
スハイルのメイスでは速度が速く撃ち落とすのが困難で、勝機を掴めずにいる。
「くっ!…ここだぁ!」
一気に踏み込み近づいて、メイスを打ち付ける。
「甘いな。」
「嘘だろ…!」
メイスを防いだのは、風でできた槍。
「余所見をしていていいのか…?」
スハイルは一気に距離を取る。
いた場所には虚空から現れた風の剣。
スハイルは隙を伺いながら走り回る。
(コイツにとっちゃ、周りの空気はどれも武器になるのか…?)
「こうなりゃ…《機械竜》!やるぞ!」
そう言って手をメイスの持ち手から芯へと移す。
メイスの刃の間から、新たに刃が傘の骨の様に出でる。
そして、メイスの先からクリスタル型の大きな刃が飛び出す。
槍。
魔法による攻撃、防御を無効化するスハイルのメイスの必殺の一撃を繰り出す最終形態。
「ほう…これで決める。と言わんばかりだな。」
「勿論そのつもりだ…偽りの王よ、受けるか…この絶対の一撃を…!」
スハイルの問いに、シリウスは笑う。
「その攻撃の弱点を、俺はとうに知っている…。」
「ほざけぇッ!コイツを止めることはできやしないッ!おおぉぉおおお!!!」
全筋力を使って、槍を投擲。
それだけでは避けられてしまう。
スハイルの持てるほぼ全ての魔力を使い、時を操る機械竜の能力を使う。
槍は魔法を無効化するが竜の力は無効にしない。
槍の時を加速させ、スハイル本人すら見る事の出来ない十五倍速で相手に放つ。
勿論魔法は消し飛ばされ、凄まじい速度の槍は盾など容易く貫き通す。
スハイル必殺の、《全貫槍》。
打ち出された槍は、王の体に向かう。
「まったく…相変わらず一直線なだけか…。」
To be continued.




